第569話 休日16
【視点:レイ】
「それじゃ次はわたしとレイさんの番ですよ!!」
僕とレベッカが手合わせして10分程度経過した頃。サクラちゃんは一人立ちあがって、未だに座り込んでいる僕達を見下ろしながら言った。
「え?」「???」
僕とレベッカはサクラちゃんの謎の言葉に頭を傾げる。
「サクラちゃん、どゆこと?」
「いや、だから手合わせですよ、て・あ・わ・せ!!
二人は兄妹の契りを交わして満足かもしれませんが、わたしは不完全燃焼なんです!! ……って、レイさん、『空気読んでよ、サクラちゃん』みたいな顔を向けるの止めてくださいっ!」
「サクラちゃん、僕達の戦いに結構興奮していたように見えたんだけど?」
「それはもう凄かったです!! 特に最後の告白のところとか!
あんな戦いをした後なのに、いきなり笑いながら告白するんですもん。わたしもビックリしました。でも、正直言って若干ドン引きしました!!」
若干ドン引きって、思いっきりなのか軽くなのかどっちだよ。
「でも僕達、今そんな気にはならなくて—――」
「最初にやるって決めたじゃないですか!!
さぁさぁ、立ってください。レベッカさんは審判お願いします!」
サクラちゃんの勢いに押されて、僕とレベッカは顔を見合わせて立ち上がる。確かに、最初に対戦することは決めていたし、このまま満足して帰ってしまうとサクラちゃんにちょっと申し訳ない。
「んー、良いけど……」
僕は歩いてサクラちゃんと距離を取りながら鞘から剣を抜く。正直な気持ちを言うと、今は手合わせなんかよりレベッカと二人で色々話をしたい気分だ。
しかし、ここまでやる気になっているサクラちゃんを見ると断れない。
【三戦目】レイ VS サクラ
「では、これよりレイ様とサクラ様の手合わせを始めます。勝負はどちらかが降参するか、戦闘不能になるまでとします。よろしいでしょうか?」
「うん」
「オッケーです♪」
僕達は向き合ってレベッカに返事をする。
「……では、お二人とも準備は宜しいでしょうか?」
レベッカが問いかけると、僕とサクラちゃんは同時に剣を構える。
「……」
「……」
「始め!!!」
レベッカの声が響き渡る。
僕は、まず彼女の動きを見極めるために最初は動かず待ちに徹する。しかし、さっきまで戦う気満々の様子だった彼女も、こちらと同じ考えだったのかすぐには攻めてこなかった。
「(意外だな、レベッカの時は真っすぐに向かって行ったのに……)」
剣を構えながらサクラちゃんの様子を窺う。
「……」
「……」
サクラちゃんは僕を見つめたまま動かない。
「……どうしたの? 来ないならこっちから行くよ」
「……この時を待っていました。レイさん」
「え?」
僕はサクラちゃんの言葉の意味が分からず、聞き返す。
彼女は目を瞑りながら呟くように語り出した。
「……わたしもレイさんも女神様に選ばれた勇者同士です。
でもそれ以上に中々接点が無くて、戦いの日々ばっかりで互いの事をゆっくり知る機会もありませんでした。……だから、わたしは今日この時を待ってたんです」
「……何を?」
サクラちゃんの今まで感じたことのない雰囲気に呑まれながらも、僕は彼女に問いかける。
そして、サクラちゃんは目を見開いて言った。
「―――どちらが強いのか、その時を決める瞬間を!!」「!!」
その瞬間、彼女から爆発的な魔力が迸る。
いや、魔力だけでは無い。彼女からは先程のレベッカのような……否、それを大きく凌ぐほどの圧倒的な強者のオーラと威圧感を肌で感じて僕の全身が感電したかのようにビリビリと震える。
「(……こ、これは……!!)」
今の彼女から感じ取れる魔力は、レベッカと手合わせしていた時よりも上回る。あの時感じた魔力も凄まじいものだったのに、彼女は、僕と戦うために力を温存していたのか……!!
僕の全身に凄まじい圧迫感と、鳥肌が立ち冷や汗が流れる。
「こ、これがサクラちゃんの本気……!!」
今の彼女から感じ取れる魔力はエミリアや姉さんの魔力すら大きく凌ぐ。僕が勇者としての覚醒を済ませていたように、これがサクラちゃんの勇者として覚醒した能力なのだろう。
そして、その能力の方向性は僕とは全く違う。
「―――行きます!!」
次の瞬間、彼女の姿が消える。
「!?」
「はああああっ!!」
「くっ!!」
背後からの気配を感じ取り、僕は咄嵯に振り向く。
すると、既にサクラちゃんが右手の剣を振り下ろしているところであった。ギリギリのところで受け止めるが、恐ろしく力が強く、僕はそのまま力負けして地面に叩きつけられる。
「ぐっ!!」
「まだまだ!!」
サクラちゃんはすぐさま追撃を仕掛ける。接近戦は無理だ。僕はその場からすぐに後退して彼女の攻撃を回避することに専念する。
「(なんて速さ!)」
僕はサクラちゃんの双剣の連撃を必死で受け流しながら頭を働かせる。
今の攻撃と速度、<強化魔法>を使っているのは間違いないだろう。
だが、その強化度合いが尋常では無い。通常の強化魔法は一転集中してもどれかの能力3倍程度が限界だというのに、彼女は全ての能力が跳ね上がっている。
今の彼女は、聖剣を手にしたカレンさんを遥かに上回る。
「――――っ!!」
ここまで力差が離れてしまうと、あっという間に倒されてしまう。僕は対人戦ではタブーとして封印していた聖剣の能力をフルに発動させて、その能力を全て自身の強化に回す。
「はああぁぁ!!!」「!」
僕はサクラちゃんの攻撃を何とか弾き飛ばし、隙を突いて彼女に一撃を加える。
「っ!」
サクラちゃんはその攻撃を左の剣でガードするが、僕の追撃を恐れたのか後方に跳躍して僕と距離を取る。
そして、サクラちゃんは僕の聖剣をまじまじを見ながら言った。
「……すごい、それがレイさんの聖剣の力ですか」
「……うん。本当は聖剣の力を借りずに戦いたかったんだけど、僕自身の力では勝てそうになかったからさ」
そう言いながら僕は自身の愛剣である<蒼い星>を構える。
「……ううん、それはレイさんの能力だと思います。わたし、王都に来てから何度も地下の図書館に足を運んで、聖剣にまつわる書物を読んだんです。
でも聖剣の力は未だに解明されてなくて、誰も聖剣の力を最大限に引き出せた事は無いと書かれていました。でも、レイさんはその聖剣の力を間違いなく引き出せています。だから、わたしと同じです」
「……ありがとう。サクラちゃん」
サクラちゃんは僕の一言を受けて、いつものように花咲く笑顔を向けてくれた。
と、そこに審判を務めていたレベッカの声がサクラちゃんに掛かる。
「サクラ様、それほどの力を秘めていたというのに、何故魔王ナイアーラとの決戦に使わなかったのでございますか?」
「うっ……それは……!」
サクラちゃんは痛いところを突かれたような顔をして頬を掻いた。確かに、もし彼女が今のような力で戦える状態であったなら、僕達の勝利はより確実だったかもしれない。
「えと……あの時は準備不足で色々と足りてなくて……」
「つまり、魔王との決戦の時は、まだこの力を扱えていなかったと?」
「うぅ……」
サクラちゃんは俯きながら小さくなった。
「まぁ、無事に帰ってこれたわけだし、気にしなくても大丈夫だよ」
僕はフォローするように言うが、サクラちゃんは申し訳なさそうな顔をしながら言った。
「いえ、良くないです! 肝心な時に力になれないんじゃヒーロー失格です!!
でもでも、折角の力なのに、お披露目もせずにこのまま力を返却したんじゃもったいないですよね!!」
サクラちゃんはえへへと笑いながら言った。普段の彼女の態度に戻ったことで、先程まで彼女から感じた威圧感も随分と緩和されていた。
「なるほど……急に手合わせしようと言ってたから変だと思ってたけど、そういう事か……」
「ふふ……サクラ様は自慢をしたかったのでございますね」
レベッカが困ったような表情で笑って言うと、
サクラちゃんは少し恥ずかしそうにしながらも言った。
「うう、お恥ずかしいですぅ……あ、でも魔王さんを倒したレイさんに勝てば、実質わたしが魔王に勝ったのと同じじゃないですか?」
「いえ、そうはならないかと」
「えー!? どうしてですか~??」
レベッカの言葉に、サクラちゃんは不満げに唇を尖らせる。
そんな彼女にレベッカは、クスッと笑いながら、僕の方を向いて話す。
「だって……わたくしのお兄様……レイ様はとてもお強いですから、如何にサクラ様でも勝つのは困難必至かと存じます」
「うっ、そう来たか……」
僕はレベッカの期待の視線と言葉を受けて苦笑する。
「むむむ……レベッカさんはレイさんが勝つと思ってるんですねっ!!」
「はい、当然でございます」
「じゃあ、その勝負、わたしが勝ちますよっ!!」
「ふふふ、頑張ってください。レイ様、サクラ様は気合十分でございますよ、優しくエスコートして差し上げてくださいまし」
「……善処します」
僕は苦笑しながらそう答え、改めてサクラちゃんの方を見る。
「(サクラちゃんはやる気みたいだけど……)」
レベッカには悪いけど、正面から戦えば僕の方が不利だ。単純な技量では分からないけど、聖剣のブースト込みでも彼女の方が身体能力が勝っている。勝とうとするなら彼女の弱点を探って、対抗しなければならない。
「では、レイさん!!」
「う、うん。続きをやろうか」
「はいっ!」
サクラちゃんは元気よく加速して飛び出してくる。
そのスピードはレベッカの初速と同等、いやそれをも上回る。
「くっ―――」
だが、彼女の動きはさっき見た。一度目は影すら瞳に映すことが出来なかったが、今回はギリギリ彼女の姿を確認して正面から攻撃をガードする。
ガキンッと剣がぶつかり合い火花が飛び散る。
「まだまだっ!」「―――っ!!」
そこから彼女の得意の双剣による乱舞攻撃。
速度を増しているとはいえ、彼女の乱舞攻撃の動作はパターンがある。そのパターンを見極めて、残りの攻撃を全て凌いでいけば必ず彼女に隙が生まれる。
そう思っていた。しかし―――
「―――なっ!?」
彼女の10連撃目の攻撃を防いだと思った瞬間に彼女の姿を見失う。また背後かと思い、僕は後ろを振り向くがそこに彼女の姿は無かった。
「一体、どこに―――」
僕は困惑していると、急に上空から魔力を感じ取る。
僕はハッとして空を見上げると、彼女が空に浮かんでいて――――
「――――精霊さん、力を貸してね!!
わたしが望むのは一陣の風、顕現するは、敵を打ち払う激風!!
目の前に立ち塞がる敵目掛けて、風神の力を顕現し、制裁を与えよ!!」
「ちょっ……!?」
「な、なんと……!!」
僕とレベッカは驚愕する。上空にはサクラちゃんを中心に、膨大な魔力を伴う竜巻が渦巻いていたからだ。
しかも、それはただの風魔法ではい。
<極大魔法>と呼ばれる人間が生み出した最強の攻撃魔法の一つ。
「レイさん、これで終わりですっ!
「っ……!!」
数秒後、僕達が立っていた場所を中心に半径200メートルに大嵐が吹き荒れる。そして、その周囲と一部の森の木々が根元から吹き飛ばされて宙に舞い上がった。
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