第568話 休日15
「レベッカ、勝負!」
「レイ様、あなた様の本気を見せてくださいまし!」
僕達は、お互いに声を上げながらぶつかり合う。
「はっ!」
「はああああっ!」
ガキンッと、重い武器同士がぶつかり合った金属音が何度も何度も響き渡る。
先程まで僕が感じていた劣等感も重圧も感じない。
身体もまるで束縛から解き放たれたかのように軽い。
後は僕の気持ちを込めて彼女に打ち込む。
彼女も僕の剣を受け止めながらも、その表情は穏やかで嬉々としている。
今は、僕達に言葉は要らない。
僕とレベッカは言葉を介さずとも互いの気持ちが伝わってくる。
「ふふっ」「あはは」
お互い一歩でも間違えれば、大怪我必至の戦いを繰り広げているというのに自然と笑みがこぼれる。でも、これは僕達にとって戦いでは無い。もはや一つのスキンシップだ。
「ふ、二人とも笑いながら戦ってる……!?」
サクラちゃんは僕達の戦いを困惑した目で見ている。
傍から見れば、笑顔で全力で武器を振るうのは異常としか見えないだろう。
だけど、それでも構わない。
こうして武器を交えているだけで僕は
そうだ、僕は彼女の事が好きだ。
一人の女の子として、家族として、妹として。
そして、その想い姉さんやエミリアとはまた違う特別なものだ。
だけど、この想いを胸に閉まっては置けない。
そしてそれはレベッカの同じように思えた。
だからこそ、僕達は互いにその気持ちをこの場で打ち明けることにした。
「はあああああああ!!!」
「たあああああああ!!!」
お互い、全力で最後の一撃を放つ。
互いの武器は激しくぶつかり合い、互いの手から離れて弾き飛ばされる。
「レイ様、お慕いしております!」
「僕だって! 大好きだよ、レベッカ!」
そして、お互いの気持ちを伝え合い、その場で僕達は抱き合う。
「え、ええっーーー!? 突然の戦闘放棄、そして突然の告白!!!!????」
僕達の戦いを観戦していたサクラちゃんが突然大声を出す。
しかし、そんなことはどうでもいい。
僕は彼女の両肩を掴んで、彼女の目を真っすぐ見る。
そして、自身の心に従うように言葉を紡ぐ。
「レベッカ……僕と本当の家族にならない?」
「……レイ様」
僕のその一言にレベッカは目を見開き、そしてその目から一筋の涙を流す。
「え、え? ほ、本当に、本当に、愛の告白……? わぁー…………!」
「――――僕の、本当の妹として」「――――はい!!」
「い や 、 い も う と し て な ん か ー い ! ! ! 」
「「え……?」」
僕達はいきなりのサクラちゃんの大声で正気に戻って、彼女の方を見る。
「どうしたの、サクラちゃん?」
「サクラ様、如何なされましたか?」
僕とレベッカは一旦離れてサクラちゃんに問いかけた。
「いやだって、愛の告白だと思ったら内容おかしいですし!!
というか、二人はなんで急に素に戻ってるんですか、さっきと温度差がものすごいんですけどっ!?」
サクラちゃんは僕達の顔を交互の見ながら、
頭いっぱいにクエスチョンとビックリマークを浮かべる。
「レイ様、サクラ様は一体どうしたのでしょう?」
「うーん、分かんない」
「いや、それはわたしが言いたいですよ!!!
ドキドキするような二人の戦いに魅入ってたのに、いきなりシリアス会話パートに入って、今度は急に笑いながら戦い始めて、最後は戦いを投げ出して告白って……。
わたし、今、突拍子の無い夢でも見てたりします!? これ、夢???」
サクラちゃんは頭を抱えて大混乱中だ。
「………」「………」
僕とレベッカは無言になって互いを顔を見る。
「(……今、思うと……)」
「(……ええ、レイ様……)」
「(……なんであんな恥ずかしい事言ったんだろう……?)」
「(……何故、わたくしは人前であのような恥ずかしい行いを……?)」
互いに無言で頬を赤く染めて俯いてしまう。
完全に熱に浮かされてしまって勢いで言ってしまったようだ。
その後、完全に冷静さを取り戻した僕とレベッカは、手合わせを続ける気にもなれず、お互いに剣を収めた。
◆◆◆
手合わせを終えて、再び木陰で休憩をする僕達。
しかし、サクラちゃんは僕達のさっきの謎の会話が気になっていたようで、
「……あの、レイさん、レベッカさん、本当にお付き合いとかしてませんよね……?」と、しきりに何度も尋ねてきた。
「うん、付き合ってるわけではないよ」
「はい、わたくし達はもう本物の家族でございますから」
「……色々納得いかない……」
サクラちゃんは不満そうに言う。
「大体、なんで『妹』なんですか?
そんなにラブラブならいっそ付き合っちゃえばいいじゃないですか」
「いやあ……そう言われても……」
僕は頬を掻きながらレベッカと目を合わせて、軽く笑い合う。
「サクラ様、愛の形は人それぞれでございますよ」
「むぅ~、それじゃあ分からないです」
レベッカは微笑みながらサクラちゃんに語りかけるが、彼女は口を尖らせて拗ねた様子を見せる。
「気付いたんだよ。僕達は、ずっと前からこうやって寄り添うだけで良かったんだって」
そう言いながら僕はレベッカの小さな手を握る。すると、レベッカは頬を赤らめながら手を握り返し天使のような笑顔を返してくれた。
「わたくしも、少し前までレイ様と添い遂げることを考えておりました。ですが、わたくしとレイ様は『恋』という感情だけで収まる小さなものではないのだと確信したのです」
「それはどういうことです?」
サクラちゃんはわけが分からず、レベッカに質問する。
レベッカは、優し気な笑みを浮かべて彼女の質問に答える。
「本当に求めていた関係は、恋の成就ではなく、真の意味で寄り添う事。
つまり、『家族ごっこ』ではなく『家族』として居たいという事に気付いたのです。そしてわたくしたちは、ここで『真の家族』としての契りを交わしました」
「……うん、つまりそういう事なんだよ。サクラちゃん」
「そ、そういうことなの?」
僕達の話を聞いて、サクラちゃんは少し興味深そうな表情をする。
「うん、僕達にはこういう関係が一番合っていると思うんだ」
「ふふっ、レイ様のおっしゃる通りですね……。今思えば、わたくしはずっとレイ様に本当のお兄様になってほしかったのかもしれません」
「僕もだよ、レベッカ。僕もキミを本当の妹のように感じてた。僕は一人っ子だったけど、もし妹がいたらこんな風になるのかなぁ……なんて」
「ふふ……やはり、わたくし達は出会った時から両想いだったのですね」
「うん……」
「(……この二人、実はかなり変わってるんじゃ……?)」
僕達がそんな会話をしている横で、サクラちゃんは何故か呆れた目をしながら僕達の様子を見ていた。
そんなサクラちゃんを見て、僕とレベッカは再び笑い合うのであった。
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