第565話 休日12

 ――サクラちゃんの朝活に付き合わされること20分後。


「はぁ……はぁ……も、もう無理……」


「ふぅ……なかなか良いトレーニングになりそうですね。サクラ様」


「はい、レベッカさん♪」


「……」


 レベッカとサクラちゃんは満足そうな顔で額の汗を拭う。


 この二人、滅茶苦茶だ。

 この森を一度も休むことなく全力疾走で駆けて行った。


 距離にしておよそ直線距離5キロだが、平地と違って視界も悪く足元も不安定なこの場所を、二人は息切れ一つせずに走り抜けたのだ。


 特にサクラちゃんは凄まじかった。僕達は、三人で一列になって走っていたのだけど、彼女の走るスピードは韋駄天のレベッカ以上の速さで、結局最後まで追い付けなかった。


「(僕も同じ勇者だっていうのに……)」

 以前なら僕ももう少し頑張れたと思うのだけど、やっぱりしばらく実戦から離れていたのが理由だろう。既に息切れしていて、今は息を整えるために二人の話に参加するだけの余裕が無い。


「じゃあ次は剣術のトレーニングですよぉ♪」

「わたくしの場合は槍術でございますね、ふふふ」


 そうしてまた元気よく森の出口に歩き出す二人を見て思う。

 二人の体力は底無しですか。何なのこの子達……。


 ――更に20分後


「ぜぇ……はぁ……」


「うんうん、良い感じに仕上がりましたね♪」


「はい、お見事ですサクラ様」


「いえいえ、レベッカさんの槍術も凄かったですよー。針を孔を正確に突くほどの正確さと動きの無駄の無さは尊敬しますって♪」


「そんな……サクラ様の二刀流の流麗な動きも素晴らしいものでした。お名前通り、まるでサクラの花びらが風で舞い散るかのような美しい剣捌きでございます♪」


「そんな、褒め過ぎですよー」


「いえ、本当に……」


「……」

 そうして、今度は二人で互いの健闘を称え合う二人。

 この二人、どういうわけか本当に仲が良い。お互いを尊敬しているのがよく分かるし、見ているだけでも微笑ましい気分になる。


「(そして、僕は特に褒められるようなものではないと……)」

 一応、形にはなっているはずなのだけど、二人のような絶技や見るものを魅了するような華美な美しさは無い。疲労で多少粗が出来ているとはいえ、万全でも彼女達のような動きはとても無理だっただろう。


「はぁ……」

 僕は小さくため息を吐く。どうせ僕なんて、達人に少しに教わっただけの我流剣技だし、魔法剣や聖剣技だって勇者の力のお陰だし……。


 少し実戦から離れたらもう体力切れ起こして、勘も鈍ってるし、とてもじゃないけど二人には敵わないよなぁ……。


「ところでレイさーん」


「えっ、どうしたのサクラちゃん? 僕ちょっと今自分の存在意義を考えてる最中なんだけど」


「? ……いえ、疲れたので休憩しませんかって言おうとしたんですが……」


「あ、そういうこと……うん、僕も疲れてるから助かるよ」

「??」


 僕は木の木陰に腰掛ける。

 サクラちゃんとレベッカも隣に座ってきた。


「それにしても、サクラ様はやはりお強いですね。これほどの腕前とは……」


「えへへー、まぁまだまだ未熟者ですけどねぇ。結局、魔王さんを倒したのはレイさんだったし、わたしも魔王軍相手にそこまで活躍出来たわけじゃないですしぃ」


 サクラちゃんはそう言いながら頬を少し膨らませる。


「ふふ、それは仕方ありませんよサクラ様。レイ様はとてもお強いですから……」


「むー分かってますけどぉ、わたしも勇者なのにぃ……」


 サクラちゃんは不満げに言う。


「(あの時は、サクラちゃんのお陰で命拾いしたんだけどなぁ……)」


 僕は当時の事を想い出しながら考える。魔王と戦ってた時、僕達はあと一歩の所まで追い詰めはしたが、結局力及ばなかった。


 だけど、サクラちゃんと、もう一人……今はここに居ないけど、頼もしい二人がピンチに駆けつけてくれたお陰で、僕達は無事に魔王を討伐することが出来た。


 サクラちゃんは自分が活躍してないと言ってるけど、彼女の存在は僕達にとって大きな助けとなった。


「あー、わたしもレイさんみたいにカッコよく敵を倒したかったなぁ……」


「サクラ様もわたくしもまだまだ成長途中でございますし、いつかはレイ様に追いつくように頑張りましょう」


「(……なんか、僕、実力過大評価されてるような……)」


 二人の会話を聞いて、僕はそう思った。少なくとも、今戦えば僕は彼女達に勝てないだろう。それなのに、何故二人はここまで僕を認めてくれているのか。


 今までの戦いで得た信頼? 

 僕の今までの立ち振る舞いからの憧れ?

 それとも、単純に今の僕の力が分かっていない?


「(……うーん)」

 どれも合ってそうな、違うような……。


「あ、そうだ。二人とも、ちょっと手合わせしません?」


「……え?」

「ふむ?」


 突然の提案に驚く僕とレベッカ。


「(いやいやいや、無理だよ!!)」


 今戦えば僕は絶対に戦えないと思うし、大体、理由もなく女の子達と戦うなんて……。


 あ、いや……でも、手合わせか……。


「(……結局、魔物退治ではまともに戦うことなく終わっちゃったし、身体を動かすべきかな……?)」


 正直、この二人と正面から勝てるとは思えない。

 だけど、このまま追い抜かれたまま放っておいたら、いざという時にみんなの力になれない。


「(これでも、僕は男の子だからね……)」

 女の子に勝てないままは恥ずかしいし、二人の信頼に少しでも応えないと……。


「わたくしは構いませんが……レイ様はどうされます……」

「……うん、構わないよ」

 僕はそう言って立ち上がる。


「やった、それじゃあ順番に戦いましょう♪」

 サクラちゃんは楽しそうに言う。


 結果、最初はサクラVSレベッカ、二戦目はレイVSレベッカ、三戦目にレイVSサクラというそれぞれ総当たりで手合わせを行う事になった。

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