第564話 休日11
……それからしばらくして、僕はレベッカを連れて自分のテントに戻った。
そして、寝袋で横になりながら考える。
『僕達は、もう家族なんだから』
僕は、ついさっき自分が口走った言葉を心の中で反すうしていた。
「……家族、か」
僕は隣ですぅすぅと寝息を立てているレベッカを横目で見る。
「……」
たとえ、人間で無くなったとしても。
たとえ、彼女が神様になったとしても。
彼女が、僕の大切な存在である事に変わりはない。
彼女が僕にとっての大事な『家族』であることには変わりがないのだ。
「……お休み、レベッカ」
そう呟いて、僕も目を閉じた。
―――次の日の早朝。
「……んん、ふぅ……」
僕は少し早く目を醒ましたため、軽く伸びをして、そのまま上半身を起こす。
まだ外は薄暗いが、そろそろ夜明けの頃合いだろう。
「……あれ?」
隣の寝袋を見ると、既にレベッカの姿は無かった。
外に出ると、レベッカは馬車の箱の中に用意されていた水の中にタオルを浸して顔を拭いていた。どうやら、僕より先に起きていたようだ。
僕はレベッカに声を掛ける。
「おはよ、レベッカ。昨日はよく眠れていたみたいだね」
「おや、レイ様。おはようございます」
レベッカは僕に気付いて振り返り、穏やかな笑みで返事を返してくれた。
「昨日はお恥ずかしいところをお見せして申し訳ありません。あんな風に皆さまと楽しく騒いだのは初めてだったので、つい羽目を外してしまいまして……」
レベッカは恥ずかしそうに頬を赤く染める。
「いいんだよ。僕も楽しかったし」
「ありがとうございます。あの、もしやレイ様がテントに運んでくださったのですか?」
「うん、レベッカは完全に寝ちゃってたからねぇ」
昨日は結局眠ったままのレベッカを僕の背に乗せてテントに運んだ。
本当はレベッカは別のテントで寝泊まりする予定だったのだけど、レベッカ自身無意識に僕から離れようとしなかったため、結局あきらめて僕の隣に寝かせたのだ。
「……! 重ねて失礼しました。わたくしとした事が、はしたない真似を……。今度からは、もう少し自重します」
そう言うと、レベッカは両手を合わせて僕に謝罪する。
「気にしなくていいのに……」
レベッカは、幼いのに本当に思慮深くて優しい良い子だ。
それに、可愛くて、綺麗で、良い匂いで、一緒に居るだけで凄く安心する……。
「……」
「……レイ様、わたくしの顔をじっと見てどうかされたのですか?
―――はっ!? もしや、わたくしの顔に何か付いているでしょうか!?」
「いや……レベッカは、最初に会った時から変わらないなって思ってさ」
「んなっ!?」
僕がレベッカにそう答えると、彼女は更に顔を赤らめて、両手を僕の前に小さく出してパタパタと横に振る。
「揶揄わないでくださいまし……もう、レイ様も意地悪なお方です。レイ様だって、心はいつまでもお変わりないですよ」
「あはは、そうだね……。僕も昔から何も変わってないよ」
そう、僕もレベッカも何も変わらない。
出会った時からずっと、お互いにお互いの事を大切に想っている。
これからも、僕達はきっと何も変わらない。
たとえ、勇者になっても、神様になったとしても。
「ですが、レイ様達と二年近くこうして過ごして、色々知れたこともございます」
「ん、どんなこと?」
僕がそう訊くと、レベッカはフフッと小さく笑う。
「レイ様の事、エミリア様の事、ベルフラウ様の事。それにわたくしが真に信仰すべきミリク様の事、カレン様やサクラ様の事……。
他にも、色々な事を知れば知るほど、わたくしの胸の中には温かい気持ちが生まれます。それは、きっとわたくしが巫女として、人として着実に成長している証なのでしょう」
「……うん、そうだね」
「それと、レイ様が思いの外、女の子の衣装がお似合いということも」
「って、今の流れでなんでそっちの話に振るかな!?」
今の感傷的になってた気持ちが台無しである。
「いえ、ですが本当にお似合いで」
「お願いだからその話題は本当に勘弁して……。
僕の
僕は胸を抑えてため息を吐く。
「???」
レベッカは不思議そうに首を傾げる。
「そういえばレイ様、今日からまた学校でお仕事とのことですが、このようにゆっくりしててよろしいのですか?」
「ああ、うん大丈夫。今日は半休って扱いだから、僕とエミリアが学校に行くのはお昼からなんだ。ハイネリア先生が気を遣ってくれてて、本当は今日も休んで良いって言われてはいるんだけど、子供達の事が気になるし……」
僕は頬を指で掻きながら笑う。
昨日、リリエルちゃん達にとんでもない場面を見られた事が気になる。
学校で変な噂にならないと良いんだけど……。
「そうでございましたか。では、今はゆっくりしていて問題ないということでございますね?」
「うん、だから時間の事はそんなに気にしなくてもいいよ。まだ朝早いし、皆が起きて朝食摂ってから王都に戻っても全然時間に余裕あるからね」
「では、しばらくはこうして一緒にいられますね……♪」
「うん」
レベッカは嬉しそうに僕の手を握る。僕もその手を握り返す。
そうして、僕とレベッカが触れ合っていると―――
「おっはようございますーー!!」
と、静かな早朝には似つかわしくない、まるで鶏の鳴き声のような元気な声と共に、テントの入口の布を勢いよく捲り上げて、一人の少女が飛び出してきた。
「おはようございます、レイさん、そしてレベッカさん!」
「お、おはよう……」
「おはようございます、サクラ様」
テントの中から出てきたのは、朝から超元気なサクラちゃんだった。
「は、早いねサクラちゃん」
「それはもう! わたし、これでも早起きが得意でして!!
でも、二人もすごく早いですねー、もしかしてわたしと同じように朝活ですか!?」
「ん?」
「あさかつ……とは?」
レベッカが聞き慣れない単語に首を傾げていると、サクラちゃんは言った。
「それはもう、朝から元気に身体を動かすことですよ!!
冒険者はどんな時でも動けるように、毎朝の日課で運動するんです。
そだ、一緒にどうですか? 一緒に青春の汗を流しましょう♪」
「(この子、見た目の可愛さに反して熱血過ぎる)」
流石にお仕事の時間まではゆっくり過ごしたいし、ここは断らせてもらおう。
そう僕は決めて、サクラちゃんに言うのだが……。
「いや、僕はちょっと――」
「――素晴らしいです、サクラ様!! わたくし達もお供させて頂きますっ!!」
「えぇ!?」
僕の言葉を遮って、レベッカがサクラちゃんの提案に乗った。しかも「わたくし達」と言って完全に僕を巻き込んでる形だ。
「おおっ嬉しいです♪ そう言ってくれると思っていました!
さぁ、行きましょう。今からこの森の出口まで全力ダッシュして、その後に剣術のお稽古ですよー。レイさんも一緒にどうぞ♪」
そう言いながら、サクラちゃんは素敵な笑顔で僕に手を差し出してくる。
―――この手を掴めば、僕は朝から疲労困憊確定である。
『サクラちゃんの手を取りますか?』
『はい』
→『いいえ』
「い、いやぁ気持ちだけ受け取っておく―――」ガシッ
逆に僕の手がサクラちゃんに握られてしまった。
「それじゃあ出発しますよ~!!」
「ちょ、まっ、拒否権!!!」
こうして、二人に強制的に引き摺られて連れていかれるのであった。
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