第562話 休日9
それから小時間が経過し、キャンプの準備が全て整った。
テントで待機していたエミリア達と、単独で行動していた僕は、姉さん達の指示で外に出て、串に刺した肉や野菜などを次々と焼いていく。
そして、皆で囲んで楽しい食事の時間を過ごすことになった。
「レイ様、何処に行かれてたのですか?」「ん?」
串焼きのお肉を頬張りながらレベッカが訊いてくる。
「んー、ちょっとした散歩かな?」
僕がそう答えると、隣のエミリアが前に出て虚ろな表情で僕に言った。
「……レイ、ごめんなさい」
「え、何その突然の謝罪」
心当たりのない謝罪をされると戸惑ってしまう。
「……さっきは言い過ぎました。あなたの反応が面白くてつい調子に乗ってしまいました」
エミリアは申し訳なさそうに話す。
「(僕が機嫌を損ねたからテントから出ていったと思われたのかな?)」
追及を避けて逃げたのは事実ではあるけど、特に怒ったりはしてない。
「レイ、私も学んだのです。言いたくない事を追及されることの苦痛と、屈辱、私はこの1時間の間にそれを身に染みて実感しました……!」
エミリアは拳をぎゅっと握りしめて、何かを悟った顔をする。
「そ、そう……理解してくれて助かるけど」
僕はそう答えるが、短時間で心変わりした彼女にちょっと驚いた。
何かあったのだろうか。エミリアの後ろでレベッカとサクラちゃんが笑顔になってるのも気になるし、彼女達に怒られたとか?
「私、決めました。これからはレイがロリコンだろうとシスコンだろうとマザコンだろうと、何ならドMでもドSでも笑顔で受け入れます!」
「待った、最後の二つだけおかしいよね!?」
「何もおかしくありません。人の性癖というものは千差万別だとレベッカに教わりましたし」
「レベッカ!?」
僕はレベッカの方に視線を向ける。
彼女は何も言わず、天使のような笑顔で親指を立てた。
「いや、だからそれ絶対違うからね!!」
「大丈夫ですよ、私達はあなたを否定しません。
仮にレイが本当は私達に対して、赤ん坊のように、『ママー、おっぱいー』と甘えたい衝動を持っていたとしても!! 今の私はそれを受け入れるだけの覚悟があります!!」
「そんな衝動無いし、そんな覚悟捨てていいよ!」
エミリアの覚悟がガン決まり過ぎてて怖い。
「大体、エミリアは僕より年下じゃないか。
何回言ったか覚えてないけど、どうして僕の事をずっと子供扱いしてるのさ?」
「それは私の方が大人だからですよ、精神面で」
「いや、多分そんなに変わらないんじゃないかな……」
確かに最初の頃は、エミリア(15)の方が冷静で大人だったけど、付き合いが長くなるほど彼女の方が感情的になりやすくなった気がする。
今なら精神年齢は多分、僕(16)と同じくらいだろう。何なら後ろで
「とりあえず、僕はドMではないよ。これだけははっきりと否定しておきたい」
「え、じゃあ後はオール肯定ということで?」
イラッ……。
「……だ・ま・れ♪」
僕はエミリアの両手でエミリアの左右のほっぺたを軽くつねって伸ばす。
「
「レイ様、ひとまずその辺りで」
「あ、ごめん」
レベッカに注意され、僕は手を離して彼女のほっぺたに回復魔法を使用する。
「ぷは……このぉ、やりましたねぇ!!!!」
エミリアは僕から解放されると、今度は逆に僕のほっぺたを片手で掴んで引っ張ってくる。
「痛い、エミリア痛い」
「お返しです!えいっ」
エミリアはそう言って、僕の両頬をグニグニと動かして弄ぶ。
「ふふ、二人は仲良しでございます♪」
「……結局、どっちも全然子供って感じですよねー」
レベッカは楽しそうに二人の様子を眺め、サクラちゃんは呆れた様子でその様子を見ていた。
その後、カレンさんと姉さんが僕達の喧嘩(じゃれ合い)を止めに入り、二人まとめてお姉さんズに説教されたのでしたとさ。
◆◆◆
その日の夕方。キャンプで食事を楽しんだ僕達は、野営の準備をしていた。馬車で戻れば王都はすぐなのだけど、今日一日くらいは街を離れて自然の中で過ごそうという僕の提案だ。
「姉さん達、焚き木を集めるのはこんなものでいいかな?」
「ええ、十分よ。ありがとうレイくん」
「いや、これぐらいどうってことないよ。それで、何を燃やすの?」
「お昼にレイくん達が獲ってきてくれたお魚さんを焼くのよ。お昼はバーべキューだけで十分だったし、お魚さんは氷魔法で保存してあるから、夜の食事に使おうと思って」
「成程」
バーベキュー用の串焼き肉と野菜は昼間に食べてしまったので、今夜の夕食用に魚の塩焼きを作るらしい。
「姉さん、料理上手くなったよね」
「えっへん♪ 最近だとレイくんやエミリアちゃんのお弁当を作る機会も増えたし、私は家でのんびりしているお陰で随分と上達しちゃったわ」
「最近は冒険者として活動しなくても安定して収入が入るようになったもんね」
「うんうん、お陰で私は幸せお腹いっぱいだよー」
姉さんは嬉しそうに微笑む。
「このまま平和に過ごせるといいねぇ。そうすればもう戦わなくても済むし、レイくんもこれからはずっと穏やかに過ごせるよね」
「そうだね……」
異世界転生して、冒険者になって、魔王軍と戦って、魔王と戦って……。
この世界に来てから、以前の暮らしとは無縁だった戦いの日々だったけど、それももうすぐ無くなるのかもしれない。
思い通りには上手くいかないだろうけど、僕が望む平穏は間近にある。
この、僕の戦いの物語の終幕は、きっと近い―――
「―――レイくん、考え事?」
「ん、いや何でもない。姉さんも良い人見つけないとねって思っただけだよ」
ガシャアアアアアン!!
「!?」
姉さんが手に持った焚き木を盛大に地面に落としてしまった。
「だ、大丈夫? 怪我はない?」
僕は慌てて姉さんの手を握る。特に怪我をした様子は無さそうだけど……。
「……ねぇ、レイくん。もしかして、私が誰かと結婚するとでも思ってたりするの……?」
「あ、いや……その……」
「私はね、仮に結婚するとしたらレイくん以外あり得ないし、レイくんが他の女の子と結婚したとしたらずっと一緒に着いて行くつもりだよ……ふふ」
姉さんの瞳の奥に妖しい光が宿る。
「ねぇ、レイくん? もし私とレイくんが結婚したら……ずーっと一緒だよ?」
今度は姉さんが僕の手を握り返す。
「(……に、逃げたい……)」
姉さんと一緒に居るのは全然嫌じゃないけど、この状況はちょっと怖い。
「そ、それより、早く焚き火を作らないと! 」
「うふふ、そうだったね」
何とかごまかせたようだ。
「お互いの将来の話は、後でね?」
全然ごまかせてなかった。誰かたすけて。
「知らなかったの?
僕にとってのラスボスは女神様だったのかもしれない……。
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