第557話 休日4

 前回のあらすじ。

 久しぶりの休日、人気の衣装専門店にて、僕は女の子達に言われるがまま女装しました(要約)。

 そして、学校の可愛い教え子たちに見つかってしまいました(絶望)。


「はぁ……」

 僕は公園のベンチで深いため息をついて、先程のことを思い出していた。


『今度はいっしょ遊ぼうね、ばいばーい』

 そう言って手を振り、走り去る少女の姿を。


「………………死のう」

「いや落ち込み過ぎよっ!!!」

 僕の呟きに、同じくベンチに座っていたカレンさんがキャラを忘れて突っ込んできた。


「……だって、子供に見られたんだよ? 僕の事を尊敬してくれている貴重な子達だったのにそんな……」


 思わず、顔を赤くして手で伏せる。

 すると、隣にちょこんと座ったレベッカが僕の肩にポンと手を当てて言った。


「レイ様、わたくしがおりますから安心してくださいまし」

「レベッカ……」

「その励まし方はどうなの、レベッカちゃん」


 カレンさんは苦笑いを浮かべて言った。


「冗談はさておき、あの子達があの程度の事でレイ様を遠ざける事は考えにくいですし、そこまで悲観することはないでしょう」


「……いや、それは僕も思ってるけど……いくらなんでも恥ずかしすぎるよ……」


 万一、クラス内で噂されようものなら、もう学校に行けない……。


「でも、本当に可愛らしかったですよ、レイ様」

「それは同感」

「本当もうやめて」

 僕は頭を抱えながら言う。


「……ところで、姉さんとエミリアとサクラちゃんは何処行ったの?」

 僕は公園の周囲を見渡す。ここに居るのは僕とレベッカとカレンさんの三人だけだ。


「エミリアは魔法具店に行って調合材料の調達。ベルフラウさんとサクラは一緒に食べ歩きしてくるって言ってたわよ」


「せっかくの休日ですし、皆さま伸び伸びとしていらしておりますね。レイ様も、明日の事をなど些細な問題と考えてお過ごしくださいませ」


「まぁ、確かにそうかもね」


 大きく深呼吸して気持ちを整える。

 彼女の言う通り、このくらいの事で落ち込んでいられないだろう。

 僕は立ち上がり、些細な不安を払拭するように言った。


「―――よし、それなら三人が戻ったらギルドにでも行ってみようか」

 ここ最近、仕事ばっかりで冒険者としての本分を忘れていた。たまには魔物でも倒して、ストレス解消……じゃない、腕を鈍らせないようにしないと。


「ストレス解消……まぁいいけどね」


「では、わたくし達も歩きましょうか。ベルフラウ様とサクラ様ならきっとフード店の近くにいるはずです」


「うん、なら僕達から行って皆と合流しよう」


 僕達はそう言って、馬車を動かしながら街へと繰り出した。公園を出て先程の衣類専門店を横切って商業区に向かって行くといくつかの露店が立ち並ぶ。


 この辺りは色々な店が混在し、それを横目で見ながら通り過ぎると、僕達が向かう正面から二人の女性の姿が見えた。姉さんとサクラちゃんだ。


「あ、レイくんー」

「せんぱーい、レベッカちゃん」


 あちらもこちらに気付いたようで、二人とも笑顔で手を振っている。その手には、食べ物や飲み物が握られている。言葉通り、食べ歩きしながら巡っていたようだ。僕達は手を振り返しながら、二人の元へ向かった。


「ごめんね、ちょっと遅くなって」


「んーん、全然大丈夫だよ」


「えへへ、先輩、これ美味しいんですよ。食べてみて下さい」


「ん、ありがとうサクラ」


 カレンさんはサクラちゃんから串焼きを受け取り、口に運ぶ。


「おお、美味いわね、たまにはこういう味の濃いものも悪くないわ」

「先輩、普段は甘党ですもんね」


 サクラちゃんとカレンさんは楽しそうに話し始める。


「そだ、姉さん。エミリア見なかった?」

「エミリアちゃんなら、魔法具屋じゃないかしら。私達も行きましょうか」


 僕達は二人と合流してから、エミリアを探しに行くことした。姉さんに御者を任せて馬車と一緒に街を歩いていると、丁度買い物を終えたエミリアと遭遇した。彼女の背中には、魔法具屋店に売ってあったであろう荷物を背負っており、結構な量があった。


「あ、皆、全員揃ってますね」

 こちらに気付いたエミリアは、二持ちを落とさないようにゆっくりこちらに歩いてくる。


「そんな荷物抱えて何を買ったの?」

「調合材料とか、珍しい魔法が施された布地とか、あと希少価値のある魔道具ですかね。二束三文で売られてたボロボロの魔導書とかもあるので、それらを纏めて買ってたらこんな荷物に……」


 エミリアはそう言って苦笑する。


「エミリア、そんな魔導書何に使うの?」


 カレンさんは呆れて言った。


「多分、一生使う事は無いと思いますが、一応骨董品なので」


「ええ……お金の無駄じゃない?」


「失礼な、趣味に投資するお金に無駄なんてありませんよ」


「そういうものかしら……」


「カレンも何か趣味を持った方がいいですよ。最近は冒険者業も騎士団にも顔出す機会が少ないんですから、時間もあるでしょうに」


「まぁ、それはそうなんだけど……」


「例えば、……えーと……婚活をするとか」


 長い思考の末に言ったエミリアの言葉にカレンさんは呆れる。


「……あなた失礼ね。私まだ19歳だし、そもそも婚活なんて必要ないわよ。お父様から縁談の話はウンザリするくらい持ち掛けられてるもの」


「まぁ私もですけど……って、レイ。どうしたんですか、そんな顔をして?」


 僕が二人の様子を見ているとエミリアに声を掛けられた。


「いや、カレンさんに縁談の話が来てたってのが意外で……」


「あはは……レイ君達が魔王を討伐したって事で、お父様が『もうお前は冒険者なんてやらなくてもいいだろう。これからは私の跡を継いでくれ』って言ってるのよ。イヤになっちゃうわよね」


 カレンさんはため息交じりに笑いながら言う。


「カレンさんって伯爵家の令嬢だったよね。じゃあ、将来はお婿さんを取るの?」

「……そうなるのかしら、考えたことも無かったわね」


 遠い目をして語るカレンさん。

 そこに、サクラちゃんがカレンさんの傍によって彼女に耳元で何かを囁いた。


「―――っ!?」


 カレンさんは真っ赤にして、チラリとこちらを見た。


「……???」

 よく分からず、僕はカレンさんに笑顔で返す。

 サクラちゃんはカレンさんに何を言ったんだろう?


「むむむ……やはりカレン様は……」

 僕の隣で、レベッカが何か唸りながら言っている。


「レイくんも大変ねぇ……」

「モテますねー、レイ」

 姉さんとエミリアまで呟いている。本当になんなんだよ、もう。


「サクラ、そう言う話は彼の前では言わないで……」


「えー、でも先輩ってレイさんの事が―――」


「お、お願いだから今は―――」


「むぅ……分かりましたよ。ではレイさん、よろしく~」

 カレンさんとの会話を終えるとサクラちゃんはこちらを見てニッコリ笑顔を浮かべた。


「(……なんか、凄い期待されてる気がする)」

 今は、とりあえず追及しないでおこう。


 ◆◆◆


 合流した僕達は、6人で冒険者ギルドに向かい、クエストボードを確認していた。


「なんかここに来るの久しぶり……」


「レイは最近は騎士団とか先生とかやってて冒険者活動休止してましたもんね」


「うん。それで今日久しぶりに来たわけだけど……」


「レイ、どの依頼受ける?」


「んー、そうだね……」


 僕達は一枚ずつ、依頼書を剥ぎ取って確認していく。


「………山に住み着いた青い竜の討伐……」

 これ、カエデの事じゃん。しかも、報酬は金貨二百枚って……。しかし、この依頼書が発行されたのは4ヶ月近く前のようだ。討伐されてないようで安心した。


「最近、カエデとも会ってないなぁ」

「人の姿じゃないから、王都に住めませんしね……ちょっと不憫かもしれません」


 変身魔法か何かで彼女を人の姿に戻せると良いんだけど……。

 僕が考えていると、同じくクエストボードを確認していたレベッカから声が掛かる。


「レイ様、丁度良さそうな依頼がありましたよ」

「ん? どれどれ……」


 僕はレベッカから手渡された二枚の紙を見る。そこには、【薬草採取】と書かれていた。更にもう一枚の紙を確認すると、【上級ゴブリンの群れの討伐】と書かれている。


「これはまた、定番の依頼だね」

「レイ、定番のゴブリン討伐は『上級』でもないし『群れ』でも無いですよ」


 エミリアは依頼書の一部の文字ををトントンと指で叩く。確かに、言われてみるとその通りだ。報酬額も定額の金貨2枚ではなく、金貨15枚となっている。


 これは、新人冒険者に用意された依頼ではなく、

 普通にベテラン冒険者を対象に発行されたもののようだ。


「この二つで丁度いいんじゃないかしら? レイ君達なら余裕だろうし」


「そうでございますね。ピクニックの寄り道ついでにゴブリン達を殲滅しておけば、王都と近隣の街を行き来する民間の方も安心なさるでしょう」


「(ピクニックついでに討伐される魔物たち……)」

 僕は苦笑いしながら考える。まぁ、冒険者ってダンジョン探索ついでに魔物討伐するから、そうおかしい話では無いのだけど……。


「じゃあ、これで決定ね」

「私も異論ありません」


 僕達は依頼書を二枚持ってクエストを受注してからギルドを出た。

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