第555話 休日2

 僕達は王都の街に繰り出した。


「とりあえず、カレンさん達に声を掛けに行かないとね」

 僕達はまずカレンさんの家に向かう。


「カレンさんいるー?」

 僕はカレンさんの家の扉をトントンと叩く。

 しばらくすると、ダダダッと家の中から足音が聞こえて、扉が空いた。


「はーい、郵便ですかー? ……って、レイさんじゃないですか、おひさですー」

「や、久しぶり、サクラちゃん」


 僕は出てきたサクラちゃんに挨拶する。


「元気そうね、サクラちゃん」

「ご無沙汰しております、サクラ様」


 皆は口々に挨拶をする。いつの間にかレベッカの口調が戻っていた。


「カレンは居ますか?」

 エミリアはそう質問すると、「ちょっと待っててくださいねー」と言い残して、サクラちゃんはまた家の奥に引っ込んでいった。


 そして数十秒後、カレンさんを連れてサクラちゃんが戻ってきた。


「皆、レイ君とエミリア以外は久しぶりねー」

 カレンさんは嬉しそうな顔をして笑顔で言った。家の中という事で私服のようだ。

 以前の貴族的な衣装に身を包んだカレンさんも綺麗だったけど、普通のお洋服を着ているカレンさんも綺麗だ。


「お久しぶりですカレン様、体調の方はいかかでしょうか?」


「辛くなったら言ってね、同じお姉ちゃんとして私が癒しの魔法で治すから!」


「ありがとね二人とも。もう大丈夫よ、元気一杯だから……同じお姉さんとして……?」


「レイのお姉ちゃん仲間よ!」

「そ、そうね……」


 姉さんの謎の発言に圧されて首を縦に振るカレンさんだった。


「ところで、今日はどうしたの?」

「お仕事ですか?」


 二人にそう質問されてエミリア達が答える。


「いえ、今日は遊びのお誘いですよ」


「王都をブラブラしながら買い物と食べ歩き、それにピクニックも考えてるのよ」


「あと、途中でギルドに寄って簡単そうな依頼を受けに行く予定です。ピクニックのおまけとして」


「なるほど、たまにはいいかもね」


「なら6人で遊びに行くって事でいいんですか、レイさん?」


 サクラちゃんに聞かれて僕は頷く。


「そういう事になるかな?」

「レイさん以外全員女の子じゃないですかー、えっち」

「突然の罵倒……何故……」


 確かに僕以外全員女の子ではあるけど。


「あはは、冗談です。唯一の男の子ですから荷物持ち頑張ってくださいね」

「えー、しんどそう……」


 一応、休みを満喫するための遊びなのだけど、逆に疲れてしまわないだろうか。


「あら、レイ君、それならいいアイデアあるわよ?」

「え?」


 カレンさんは良い手が浮かんだとばかりに目を輝かせていた。



 ◆◆◆


 それから十数分後、僕達は王都内を歩き回っていた。


「なるほど、運び疲れるなら馬車で運んでもらえばいいんだったね」


「最近、馬車にあんまり乗らないから忘れてました」


「お姉ちゃんはすっかり忘れてたわ」


 僕は馬車を運んでくれている馬二頭の頭を撫でる。この子達の名前は、白馬の方はシロウサギ、黒い方はクロキツネという。命名はレベッカだ。

 王都に来る前に僕達が街や村の人と交渉して買い取ったお馬さんで、僕達を支えてくれていた仲間だ。しかし王都に定住するようになってから、カレンさんのお付きのメイドさんのリーサさんにずっと管理してもらっていたせいで、最近はあまり出番が無かった。


「ごめんね、最近ずっとほったらかしで」


「ぶるるるる」

「きゅぃ」


「よしよし、寂しかったよね。これからはもっと遊んであげるからね」


「……なんか動物と会話してませんか?」


 エミリアが変な事を言い始めた。

 別に会話出来てるわけじゃなくて、そんな気がしてるだけなのだけど。


「エミリア様、わたくしも何となくわかりますよ」


「え、本当ですか、レベッカ」


「はい、クロキツネの方は『干し草ばかりじゃなくて新鮮な野菜食べさせろ』、シロキツネの方は『好みのタイプの子居ないかなぁ』……と考えておりますね」


「……レベッカちゃんは動物と話せるの? 凄いわね」

 カレンさんが感心したように言った。


「あ、今シロキツネは『そこの青いたてがみの人間が同じウマだったらなぁ……』と考えてますね」


「それってもしかして私!?」


 カレンさんは自分を指差してギョッとした顔をする。


「私……そんなウマみたいな顔してるかしら……」


「そんな事ないですよ。先輩はちゃんと人の顔してますから」


 サクラちゃんはカレンさんの背中をポンポンと叩いて慰める。


「きっとカレンさんの優しい心がクロキツネの目に止まったんだよ」


 僕は冗談めかして言う。


「そ、そうね、そういう事にしておくわ」

 僕達はホッとしたカレンさんを見て笑いあった。


「ところで、どこに向かっているんですか?」

 レベッカがそう質問してきたので、僕は目的地の場所を告げる。


「姉さんが食べ歩きしたいって言ってたから中央商店の大通りだよ。他にも買い物もしたいんだよね、皆は何が欲しいの?」


「調合用の素材を少々、あと衣服を数着ですね」


 エミリアはそう答えた。


「んー、そうね……じゃあお姉ちゃんは食べ歩きと……あ、じゃあ新鮮なお野菜を」


「姉さん、買い物と食べ歩き終わったらそのまま外に行くからね。宿に戻らないから生モノはちょっと……」


「うう……じゃあ、アクセサリーとかにしとこうかしら」


「それなら僕は久しぶりに武器屋でも行こうかな……」


 と、僕が呟くと、僕の腰に下げていた剣を僅かに光り始めた。

 僕は鞘から剣を取り出す。


「なに、蒼い星」


『私がいるのに、新しい剣が欲しいの? 私に飽きたの?』


 ……おっと、愛剣が面倒な彼女みたいなこと言い始めたぞ。


「いや、そう言う事じゃないんだよ。僕これでも結構剣とか好きだから、見た目の良い剣が合ったら部屋に飾ろうかと……」


『……私より綺麗な剣があるっていうの?』


「な、無いよ、もちろん」


『じゃあ要らないよね?』


「うぅ……」


 何故、僕は自分の聖剣に論破されてしまうのだろう。



「レイ君、一体誰と話してるの?」

「え、この子だけど」


 僕は自分の愛剣を皆に見せる。


「話に聞いてましたけど、本当に聖剣と会話できるんですね……ほえー」


「サクラちゃんも勇者だから出来るんじゃないの?」


 僕はサクラちゃんに質問する。しかし、彼女は首を横に振って言った。


「全然、というかわたしは聖剣持ってないですしー」


「そもそもね、聖剣ってそう簡単に入手できるものじゃないのよ、レイ君。私の所持してる聖剣……えっと、……アロン……名前忘れたけど、これだって王宮に昔から伝わってた伝説級の装備だしね」


 カレンさんはそう言って、腰に帯びている一本の聖剣を見せる。その剣には、まるで宝石のように七色の光が渦巻いている。ただ、今のカレンさんは魔力が低すぎて扱えないようだ。


 カレンさんはすぐにその聖剣を鞘に納める。


「カレンさんは会話出来たりしないの?」


「声すら聞こえたことないわ。この剣だって無理矢理使えるように調整したから本当の意味で使い手じゃないのよ、私は」


 カレンさんはちょっと残念そうな顔をする。


「本当の使い手なら声が聞こえるんですかね、レイみたいに」

「さぁ?」


 カレンさんは肩をすくめた。


あの女ウィンドはそんな事言ってたけど、レイ君以外の実例を見たことないもの。グラン国王陛下すら<声>を聴いたことが無いって話よ。眉唾モノだわ」


「それは、レイ様が特別と言う事ですか、カレン様?」


「そうねレベッカちゃん、多分その通りだと思うわ」

「へぇ~」


 レベッカとエミリアは興味深そうに僕を見つめてくる。


「(いや、特別と言われても……)」

 僕自身、今でこそ勇者だの英雄だの呼ばれたりするけど、普通の人間だ。


 仮に何かが特別とするなら――――


「レイくん、お姉ちゃんを見てどうしたの?」

「……」

 仮に特別な事があったとするなら、姉さん女神ベルフラウ様に選ばれたことだろう。


「いや、何でもないよ。元女神なのに随分と普通の人になったなって思ってさ」

「むー、お姉ちゃんを馬鹿にしてるぅ!?」


 姉さんは頬を膨らませて、僕の頬をつねった。


「い、いひゃいいひゃい! ほっへひっはらはい!」

「あははっ、レイさんとベルフラウさんは仲良しさんですね♪」


 サクラちゃんは楽しげに笑っていた。


「ところでレイ様、さっきその聖剣と何の話をされていたのですか?」

「え?」

「……えーっと、何というべきか……」

 僕の頬をつねって遊んでいた姉さんの手を軽く振り払い、レベッカの質問に返事をしようとする。しかし、その前に僕は自分の愛剣を見ながら言った。


「……言ってもいい?」

『他の剣に浮気しないなら』

「……」


 僕は無言で剣を鞘に戻す。

「……ま、まぁ、そんな感じの話だよ」

「?」


 レベッカは不思議そうに僕を見ていた。その伝説の聖剣との会話が、まさかの聖剣が他の剣に嫉妬してただけと知ったらどう思うだろうか。


「(ホント、この子は一体何なんだろうね)」

 僕は鞘に納めた剣を見つめる。

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