第553話 学校24
【視点:レベッカ】
「さて……レイ様はいずこへ……」
職員室を後にしたわたくしは、レイ様を探しに校舎内を捜索します。
一階の殆どの教室は倉庫として使われているようで、子供達は二階の教室で授業を受けているようでした。となればレイ様もそこにいる可能性が高いと判断し、わたくしは階段を登っていきます。
予想通り、二階に登ると廊下には子供達の何人かが一つの教室に入っていく姿を捉えました。
そしてタイミングよく授業の始まりを知らせる金の音が鳴り響きます。
「(ふむ、ここで間違いなさそうですね)」
わたくしは子供達が全員教室に入ったのを見計らい、教室の扉の前に張り付いて窓からこっそり中の様子を伺います。すると、そこには教卓の前で子供達に笑顔を浮かべているレイ様の姿がありました。
「(居ました、レイ様です!)」
その姿を見た瞬間、わたくしの心の中に歓喜が生まれました。
レイ様に会えたことの喜びと、彼が元気そうな姿を確認できた安心感からです。
「(それにしてもレイ様、なんと凛々しい立ち振る舞いでしょう♪)」
勿論わたくし達と一緒にいるレイ様もそれはそれは凛々しいのですが、今のレイ様は子供達に教鞭を振るう教師としての顔でした。
「(ああ、やっぱりレイ様は素敵でございます♪ わたくしの知らないレイ様のお顔を知ることができてとても嬉しいでございます♪)」
レイ様が子供達に勉強を教えている姿を見て頬が緩んでしまいます。
しかし、同時にわたくしは欲が出てしまいました。
「(失礼なのは承知の上ですが……出来ればレイ様の先生としての姿をもう少し拝見したいです……)」
お弁当は後でこっそり職員室に届けておけばいいでしょう。今は、レイ様が子供達に教鞭を振るうそのお姿を、わたくしの脳内に焼き付けたい。そして帰ってベルフラウ様にこの事を聞かせて差し上げるのです。そう思い、わたくしは息を殺して耳を澄ませます。
「じゃあこの問題を解く人は居るかな?」
「はいっ、お兄様♪」
「おお、良い返事だね、リリエルちゃん。なら、答えを教えてくれるかな」
「はい!」
手を挙げたツインテールの金髪少女は、はきはきとした声で答えます。
「(ふむ、あの子はもしや……?)」
わたくしも覚えがございます。以前レイ様が悪漢から守った少女です。
「―――正解だよ、よく覚えてたねリリエルちゃん」
「えへへ、レイお兄様ー、もっと褒めて―♪」
「はいはい……」
レイ様は困った笑みを浮かべながらその少女の頭を撫でます。
「(むむむ……あの幼子……中々のやり手でございますね……)」
レイ様が好むような愛嬌のある表情と仕草でレイ様の気を引く手段を完璧に把握しております。中々に手強いライバルが現れてしまいました。
「(ふふふ、ですがまだまだ甘いでございますよ。わたくしならば、もっとレイ様の気を引くような方法で甘えますゆえ)」
わたくしはその光景を見て、負けじと対抗心を燃やします。
……多分、今のわたくしは自身を客観視できておりませんね。今の姿を人に見られようものなら、変態のように思われても仕方ないやもしれません。
「さぁ、次の問題に取り掛かろうか」
「は~い」
それから10分後―――
「(レイ様、お顔が、お顔が近こうございますぅ~!!)」
子供達はスキンシップがお好きなようでレイ様の傍に寄ると吐息が掛かりそうな距離で話をしたり、レイ様も子供達に対して嫌な顔をせずに対応しているため、距離感がどんどん近くなっていきます。
「(く、くぅぅぅ……悔しい……って、わたくしは何を考えているのでしょうか!?)」
まさか子供達に嫉妬をしてしまうとは……。よくよく考えると、レイ様は最近お仕事で忙しくてスキンシップが足りてない気がいたします。
以前なら、わたくしの方からレイ様のお布団に潜り込んで添い寝することが多かったというのに、最近はそれも無くなってしまいました。わたくしとしては、夜遅くまで起きて仕事をなさるレイ様を労っての事だったのですが、それがわたくしの不満になってこのような凶行に……。
「……今日は、久しぶりにレイ様に甘えてみましょうか」
こっそり決意表明をします。
最近、レイ様はエミリア様とばかり行動を共にしているので、この辺で少しでも追いつかねば。
「(まぁ、それはそれとして……)」
わたくしは再び、教室の中を窓から覗き込みます。
今はレイ様の凛々しいお姿を堪能せねば……♪
「……はっ!?」
わたくしが教室の中を見た時でした。偶然にも視線があった生徒の一人と目が合ってしまいました。
即座にわたくしは、腰を下ろして窓の下に身を潜めます。
「(しまったでございます……! わたくしとした事が……)」
ここで見つかってしまえば、せっかくのお楽しみタイムが台無しになってしまいます。しかし、そんなわたくしの胸中の不満を吹き飛ばす様な一言が教室の中から聴こえてしまいました。
「せんせー、廊下に知らない人が居たんですけどー」
「え、不審者!?」
レイ様は生徒の話を聞いて、驚いたような声色に変わってしまいました。
「(あわわ、このままでは見つかってしまいます……!!)」
もう少しだけレイ様の先生としてのお姿を見たかったですが、ここは一旦退散する事にしましょう。
そう思った瞬間、わたくしの隠れている扉の方に向かって歩いてくる足音が聞こえてきます。
「こ、こうなれば—――!!」
迷う暇など無い。わたくしは、即座に回れ右をして教室とは反対側の窓に駆け寄ります。そして、窓をガラッと開き、そのまま外に飛び降ります。
「とおっ!」
ちなみに、レイ様達の教室は二階でございます。自然落下すれば当然危険なので、わたくしの真似をなさらないようくれぐれもお気を付けくださいまし。
わたくしはといえば、空中で一回転してつつ、着地時の衝撃を少しずつ緩和させ無傷で降りることが出来ました。
「ふぅ……」
危なかった。もう少しでレイ様に見付かるところでございました。
「ですが、これで終わりと思うなでございますよ……」
と、わたくしは言いながら再び校舎の中に入ろうとするのですが―――
「そこの貴女、今、何処から現れたのですか?」
「ひえっ!?」
突然背後から声を掛けられ、驚いて振り返ると金髪の女性が立っておりました。
この方は、エミリア様とお話されていた方でございますね。
「怪しいですね、私の可愛い教え子を狙う不埒者では……」
「ち、違います。わたくしはお二人にお弁当を渡そうとここに来ただけで―――」
と、わたくしは慌てながら、その女性に、お弁当の入った鞄を手渡します。
「では、わたくしはこれで!!」
「え、ちょっ……?」
女性は何かを言いかけたようでしたが、わたくしはその場から逃げ去りました。こうして、わたくしは不審者として魔法学校から逃亡することになってしまいました。
―――余談、
【視点:エミリア】
「……い、一体何者だったのかしら……あの子」
先生が校舎の外で困惑している姿を見て、私は彼女に声を掛けます。
「ハイネリア先生、どうしたんですか?」
「あぁ、エミリア先生。いえ、さっき見慣れない少女がいまして、怪しいと思い事情を聴こうとしたところ逃げてしまって……」
「そうだったんですか……ハイネリア先生、その鞄は?」
ハイネリア先生は私の質問で不審者に何かを手渡されたことを思い出す。
「ああ、これですか……なんでしょうね?」
「……その鞄、見覚えありますね……中身見せてもらいます?」
「いいのでしょうか? 一応、これは持ち主の許可なく開けるのはいけない事だと思いますが……」
「大丈夫ですよ、きっと。ほら、やっぱりそうだ。これ、私達のお弁当です。間違いありません」
「まぁ、そうなのですか。じゃあ、あの方は……」
「(……多分、レベッカなんだろうなぁ……)」
職員室で先生と話している時、僅かに気配を感じていました。私は戦士職ではありませんが、それでも並の冒険者よりも気配は敏感ですし察知は出来ます。
「(やれやれ、恥ずかしいところを見せてしまいました……)」
エミリアは苦笑しながら呟きました。
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