第548話 学校19
午後の授業が終わり、その日の学校生活が終わった。
子供達はそのまま馬車に乗って帰宅だけど、僕達はそうはいかない。それぞれの授業態度や内容について報告したり、使った道具の後片付けなどもあるからだ。
そして僕達先生三人は職員室で机を挟んで子供達の事について話し合う。
「エミリア、リリエルちゃんが途中でそっちに参加したけど、どうだった?」
「あの子ですか? 座学でも優秀な子でしたし、杖の扱いも慣れてきて見どころがありますね。どうみても魔法使い向きの子だと思うんですが、何故レイの方の授業受けてたんですか……?」
「僕に構ってほしいからって……」
「相変わらずで安心しました……。では、コレットの方は?」
「彼女は真面目で覚えも早くて教え甲斐あったよ。
元々剣術を習ってたみたいだから、他の子達と比較して上達も早いね」
普段から運動もしているようで男の子達と比べても体力があった。
まだ実際の試合は行っていないけど、今試合を行えば彼女が圧勝するだろう。
「なるほど、レイのお気に入りって感じですか」
「いや、言い方……いい子だから間違いじゃないけどさ」
僕達が話し合っていると、書類を纏めていたハイネリア先生がこちらに歩いてきた。
「二人の意見を参考にして子供達の情報を纏めてみました。間違いが無いか、確認してもらえますか?」
ハイネリア先生はそう言いながら僕達に数枚の紙を手渡してきた。
「いいですよ、ハイネリア先生」
「どれどれ」
エミリアと僕は渡された資料に目を通す。
「生活態度、学習態度、身体能力、魔力量……。
それぞれE~Aの範囲で評価されてて、Aに近いほど優秀って感じですか」
「このデータを元に、これからの授業を方針を決めるって事かな」
「ええ、もうすぐ国王陛下が選定した正式な講師の方々も参加されます。お二人は臨時の講師として働いていただきましたが、引き継ぎの際に間違いがないように二人の考えも聞きたくて」
「分かりました」
「了解です」
◆◆◆
・リリエル・エルデ(9)
生活態度A 学習態度B 身体能力E 魔力量B 入学試験結果(74/100点)
補足:可愛らしい子なのですが、少し我儘な所があって周りを困らせる事も……レイ先生の事がお気に入りなようで休憩時間もレイ先生の事ばかり話しているようです。幸せ者ですね、レイ先生?
・コレット・ルフト(10)
生活態度A 学習態度A 身体能力A 魔力量D 入学試験結果(80/100点)
補足:年齢の割に落ち着いた印象の子です。クラスメイトからの評判もよく、品行方正・文武両道の優等生ですね。しかし、真面目過ぎる気がします。彼女が根をつめすぎないよう見守ってあげましょう。
・メアリー・フランメ(7)
生活態度C 学習態度B 身体能力D 魔力量A 入学試験結果(72/100点)
補足:マイペースでおっとりとした口調と、不思議な雰囲気を持つ少女です。魔力量が飛び抜けていて、将来的には魔法使いとして大成しそうです。また、その雰囲気とその可愛らしさで、クラスメイトの男の子に人気があるようです。
・セラ・シルフィリア(9)
生活態度B 学習態度A 身体能力C 魔力量C 入学試験結果(84/100点)
補足:年齢の割に大人びた容姿を持つ子です。テストの成績がクラスで一番良くて記憶力もある賢い子ですね。少しだけお調子者な面もありますが、それも彼女の魅力です。
・ティオ・リーゼロッテ(8)
生活態度B 学習態度B 身体能力C 魔力量B 入学試験結果(65/100点)
補足:少しオドオドした印象のある気弱な女の子です。料理が趣味のようですが、よく指に絆創膏を巻いてることが多いです。大怪我しないか少し心配ですね。成績に関しては、可もなく不可もなくと言ったところでしょうか。
・フゥリ・オーガスター・マーン(10)
生活態度C 学習態度C 身体能力B 魔力量C 入学試験結果(55/100点)
補足:問題児でしたが、レイ先生のお陰で素直になりましたね。喧嘩っ早い性格のせいか運動能力はありますが、その他の能力は未成熟と言ったところでしょうか。今後に期待です。
・ネィル・オーガスター・マーン(8)
生活態度E 学習態度E 身体能力D 魔力量C 入学試験結果(45/100点)
補足:以前と比べると、いくらか大人しくなりましたが、まだクラスの子達と溶け込めていないようです。勉強にも身が入っていないようですし、どう教育すべきか悩ましいですね……。
・ルウ・ブランデル(8)
生活態度A 学習態度B 身体能力C 魔力量E 入学試験結果(70/100点)
補足:唯一の一般枠の生徒です。出自のせいか魔力がやや乏しいですが、生活態度は文句なしです。この学校で学んだことを活かして、お父さんの力になりたいというのが本人の希望です。
・ライル・フレイル(9)
生活態度B 学習態度C 身体能力C 魔力量B 入学試験結果(58/100点)
補足:エミリア先生にちょっかい掛けようとして追い払われた子です。しかし、他の女の子が傍に来ると顔を赤らめてたりなど、可愛らしい一面も、青春ですね……。
・グラット・パルパレオス(9)
生活態度C 学習態度B 身体能力A 魔力量D 入学試験結果(68/100点)
補足:騎士の家系に生まれた子です。彼自身も騎士を目指していて、いずれ夢を叶えられるだけの器を感じます。彼の手助けをしてあげたいですね。
◆◆◆
「ふむふむ……」
「まぁ、納得の採点ですね……」
僕とエミリアは手元にある紙を見ながら呟く。
「レイ、人気者ですねぇ……」
エミリアは、リリエルちゃんの項目を指でトントンと叩く。
「あはは……リリエルちゃんに懐いてもらえて嬉しいよ。
それにしても、コレットちゃん、最初に会った時から落ち着いた子だと思ってたけど、こうして結果が出ると本当に優秀だね……」
他の子はA評価の項目は一つかBが限界なのが大半だというのに、彼女だけはA評価の項目が三つあり、その評価は他の子と比較しても頭二つ分は抜けている。
「唯一の欠点は、魔力量が低いことですが……。
ここまで優秀だと、ご家族の教育が良かったんですかね?」
「うん、話を聞いてみたんだけど、お父さんが元々剣術の道場主で、剣術の達人だったらしくてね。厳しい鍛錬と一緒に心身を鍛えてもらったんだって」
「なるほど、剣を扱うのも上手かったのはそのおかげですか。剣と魔法を逆にすれば、私みたいに優秀な子だったのに……本当に惜しい」
…………。
「……ん?」
「私みたいに、優秀……?」
僕とハイネリア先生は、エミリアの意味不明な言葉に首を傾げる。
「冗談ですよ、二人とも……。
そんな、『この子、大丈夫?』的な心配そうな目で見つめないでください」
「いや、まぁエミリアはすごいと思うよ……?」
「そうですね、学生時代はともかく、今『は』優秀ですね」
「今『は』って何ですか! 今って!」
ハイネリア先生の言い様にエミリアは憤慨する。
「……まぁ、それは良いとして」
「良くない!」
「……エミリア先生、ちょっと落ち着いて」
「……うぅ、ハイネリア先生、いつも私に厳しい……」
ハイネリア先生に窘められ、エミリアはしゅんとなる。
学生の頃からこんな感じらしい。
「メアリーちゃんの魔力量Aは流石だね」
「特別新生学部の子供達の中で一人飛び抜けていますね。
この中で、初歩魔法全て問題なく使用できるのは、彼女だけです」
「一応、リリエルも結構な伸びしろがありますよ。メアリー程ではありませんが、この中では二番目に魔力が高くて優秀です。
……それ以外の他の子で見どころありそうなのは、ティオとライルですね。これから鍛えないと埋もれてしまいそうなので油断は禁物ですが」
エミリアが言うには、リリエルちゃんはB評価の中でも上位の実力らしい。
それから多少離れて、ティオちゃんとライル君という順番のようだ。
「魔力面の上位メンバーは、大体そんな感じですが……運動能力の方に関して補足はありますか、レイ?」
エミリアにそう質問されて、僕は少し考えて言った。
「……そうだね、今はコレットちゃんが目立ってるけど、グラット君も才能があると思う。鍛え方次第だけど、将来は立派な騎士になれるんじゃないかな」
他にも、フゥリ君は技術は伴ってないけど、物事に取り組む姿勢は中々だ。上の二人とはまだまだ差があるけど、なんとか追いつくよう頑張ってほしい。
ハイネリア先生は僕とエミリアの話を「ふむ、ふむ」と頷くながら聞いている。
「ふむ……お二人の意見、参考にさせていただきます」
ハイネリア先生は手に持ったメモに文字を走らせる。
僕達の意見を参考にして、これからの授業内容を参考にするようだ。
「……それでは逆に、この子は要注意……という子は居ますか?」
ハイネリア先生は僕達にそう質問する。
「……うーん」
「……まぁ、言うまでもないですよね」
エミリアは、机に書類を置いて、一人の人物の名前を指差す。
「……ネィル・オーガスター・マーン」「あー……」
僕もその答えに同意するように苦笑した。
「彼は、どうしようもなく問題児ですからね」
「うーん、これでも前よりは全然いい子なんだけどなぁ……」
「まぁ、ルウをイジメたり、親が男爵だからって偉そうな態度をしていた頃に比べれば、いくらかマシではありますけどね……」
今思うと、かなりの問題児だったな、ネィル君……。
「言い過ぎだよ、エミリア……。確かにフゥリ君は今でも、授業中寝てたり、休憩時間も机でうつ伏せになっていたり、フゥリ君とルウ君が仲良くお昼ご飯食べてるとこっそり教室を出て外のベンチでお弁当食べてるし、僕が話しかけようとすると逃げていくし、放課後真っ先に教室から出て馬車に乗って帰るし、女の子からの評判もあんまり良くないけど……それでも最初に比べたら全然……」
「いや、それ本当に改善されてます?」
「クラスで完全に孤立してるじゃないですか……」
エミリアとハイネリア先生のツッコミに僕は「……えへ」と笑って誤魔化す。
「レイ」ジト目
「レイ先生?」ジト目
「誤魔化そうとしてごめんなさい」
エミリアとハイネリア先生の二人の視線に耐え切れず、僕は素直に謝った。
「あの子は時間を掛けて更生させるしかないですね……」
「いっそ魔法の薬を使って洗脳してしまえば……」
「や・め・な・さ・い」
「あう……」
エミリアのトンデモ発言に、ハイネリア先生は彼女の脳天に手刀を落とす。
「……いいですか、二人とも。
子供達の教育に魔法に頼るような発言は控えてください。私達教師は、子供達を正しい道へと導くことが仕事です。子供達の自然な成長を妨げるようなことを言ってはいけませんよ?」
「……はい、申し訳ありませんでした」
エミリアはハイネリア先生に叱られてしゅんとなる。
「……ま、慌てることはありません。
あの子達はまだ学生生活の一歩を歩み出したばかりなのです。
ネィル君のこれからの成長に期待しましょう」
「はい」
「まずはゆっくりと、彼の良さを見つけていきましょう」
「わかりました」
「……ふぅ、とりあえず今日はこれくらいにしておきます」
ハイネリア先生は手元の書類をまとめる。
「レイ先生、エミリア先生。本日はありがとうございます」
「いえ、お疲れ様でした」
「それじゃあ、私達はこの辺で」
「ええ、御機嫌よう」
僕達は一礼すると、職員室を出てそのまま帰宅することにした。
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