第542話 学校13

 男達を縛り上げたあと、僕達は職員室に戻った。そこには、明日の授業の準備を進めているエミリアとハイネリア先生の姿があった。


「レイ先生おかえりなさい、遅かったですね」

「なにしてたんですか……って、あれ、その子……」


 職員室に戻ると、二人とも心配そうな顔で迎えてくれた。

 しかし、すぐにフゥリ君の存在に気付いたらしく、二人は意外そうな顔をする。


「フゥリ君……? 他の子を一緒に帰宅したのでは……」

「実はちょっと色々問題があって……」

「……」


 僕は、先程までの事を二人に説明した。


 ◆


「―――って事があったんだよ」

 僕が男たちに襲われたことを説明すると、

 エミリアは苦虫を噛み潰したような表情をして、ハイネリア先生は驚いていた。


「……イヤ予感が当たりましたね……」

 エミリアは頭を抱えて呟く。


「な、なんという事が……レイ先生、お怪我は!?」

「僕は大丈夫ですが、フゥリ君が怪我させられて……フゥリ君、大丈夫?」


 僕はフゥリ君に視線を向ける。


「先生の回復魔法のおかげでオレは平気だよ。それよりもハイネリア先生、レイ先生凄いんだよっ! 男達が武器を持って襲い掛かったのに、素手で簡単に倒しちゃった!!」


 フゥリ君は目を輝かせて言う。


「まぁ……流石ですね、レイ先生」

「恐縮です……」


 僕はちょっと照れながら返事をする。


「え、流石ってどういうこと?」


 フゥリ君はキョトンとして訊ねる。


 すると、エミリアが意地悪な顔をして僕に言った。


「演説までしたというのに相変わらずですねぇ……勇者の名が泣きますよ?」

「う、うるさいよっ!」


 目立つのは好きじゃないから良いんだけど、流石にここまで知られていないとは思わなかった。どおりで最初自己紹介した時に子供達の反応が薄かったわけだ。


「ねぇ、先生、勇者って?」

「あー……えっとね」


 どういうべきか迷っていると、ハイネリア先生が助け舟を出してくれた。


「フゥリ君、レイ先生の顔を覚えていない?

 二ヶ月ほど前に、凱旋パレードまでしてたと思うのだけど……」


「ええ、大陸全土で映像魔法を使って各地で中継までされて、数週間はお祭り騒ぎだったはずですよ」


 エミリアは、ハイネリア先生の言葉に補足を加える。


「……そういえば、そんな事もあったような」


 フゥリ君はエミリアの言葉に思い当たることがあったようだ。


「でもあれって確か『魔王ナイアーラ』とかいうすげえ悪い奴を倒した勇者がどうのって話で……」


 フゥリ君はそう言いながら僕の顔を見る。


「……………え、まさか、レイ先生………」

 フゥリ君は何かに気づいたように目を見開く。


「うん、そう。僕がその……勇者なんだよね……あはは‥…」

 僕は苦笑しながら答える。


「マジかよ!?」

 フゥリ君は僕に詰め寄って叫ぶ。


「うわぁ! 勇者だ、勇者!! ……でも、なんで先生やってるの?」


「国王陛下の推薦で、他の講師の人が王都に来るまでの代理を頼まれてるんだ」


「あ、私もその魔王討伐に関わったメンバーですからね」


 若干空気になってたエミリアは、自身の存在をフゥリ君にアピールする。


「そっかー、エミリア先生も英雄の一人なのかぁ……。

 ……でも、先生、代理なの? いつか、ここからいなくなっちゃうんだ……」


「……うん」

 フゥリ君の寂しさの感情の籠った呟きに僕は頷く。


「レイは、自由騎士団の副団長でもありますからね。

 今は色々と免除されてますが、実は結構多忙な立場なんですよ」


 エミリアが補足してくれる。


「ふーん、そうなのか……」

 フゥリ君はあまり納得していない様子だった。

 ハイネリア先生は、それを苦笑していたが、キリッと表情を改める。


「レイ先生の事は良いとして……。

 まさか、マーン男爵がレイ先生を亡き者にしようだなんて……」


「あ……」


 ハイネリア先生の言葉に、フゥリ君は暗い表情をする。


「フゥリ君のせいじゃありませんよ」

「でも……オレの父上だし……」

「フゥリ君……」


 フゥリ君は俯いて、悔しそうな顔をしていた。


「レイ先生、あなたを襲った男達はどうしたんですか?」


「今は縄で縛って体育倉庫に入れて鍵を掛けています。後で騎士団に引き渡す予定ですけど……」


 このまま引き渡せば、マーン男爵の悪事が明るみに出るだろう。

 ただ、もしマーン男爵が失脚して、追放などされた場合、その子供達は……。


「……」


 少なくともフゥリ君だけでも保護してあげたい。

 事の発端であるネィル君はある意味自業自得ではあるけど、彼の弟だ。

 フゥリ君の事を考えるなら何とか和解で済ませたいところだが……。


 僕が悩んでいるとエミリアが僕をジッと見つめてきた。


「……なに?」

「いえ、フゥリとネィルの事を考えているんだろうなーと思いまして」

「……正解だよ」


 付き合いが長いせいで一発でバレてしまった。


「レイ先生、オレのことなら大丈夫だからさ。

 ネィルには悪いけど、父上のやった事の責任は取ってもらうよ。

 それに、あいつはあんなヤツだけど、一応は弟だから……」


 フゥリ君はまだ幼いのに、覚悟を決めた表情をしていた。


「(……子供に、こんな辛い覚悟をさせるなんて……)」


 僕はフゥリ君に同情した。

 だけど、同情だけで終わらせるつもりはない。


「……いや、フゥリ君には悪いけど、僕はそれでは納得できない」


「……先生?」


「マーン男爵にはちゃんと責任を取ってもらうけど、それはこの学校に二度と手出しさせないようにすることだ。そのために僕は動くよ」


「でも、どうやって……?」


「……うん、実は一つアテがあってね」


 マーン男爵は貴族だ。

 平民である僕からすると陛下に頼る以外他無いと思っていた。

 だけどたった一人、陛下以外にも頼れる知人がいるのだ。


「レイ先生、それは一体……?」

 ハイネリア先生は僕にそう質問する。


「それは―――」


 僕は、その頼れる人物の名前を口にする。


「……え!?」

「……あー、なるほど、確かに彼女も貴族でしたね……」


 僕の提案に二人は驚く。


「ダメかな?」

「いえ、ダメではないんですが……」

「まぁ彼女であればレイの力になってくれるでしょう」


 二人は、僕の提案に同意する。


「ありがとう。なら、早速行ってみるよ」


 こうして、僕の次の行動が決まった。



 ◆



 そして、その日の深夜―――


 僕達は、マーン家の大きな屋敷に馬車で訪れていた。マーン男爵は一介の商人から金で成り上がった貴族らしく、屋敷もかなり大きい。何気にヤバいのは、屋敷の庭に純金で作られた噴水が建てられていることだ。


 それ以外にもマーン男爵自身を模した黄金像が建てられていたりと、自己顕示欲の凄まじさを感じてしまう。


 フゥリ君が言うには、屋敷の中は沢山の用心棒とメイドが居るらしく、男爵が客人と交渉する時は、彼らを同伴させて威圧して交渉を有利に進めるらしい。


 そして、屋敷の付近まで馬車を進めたところで門番がこちらに歩いてきた。


「止まれ、何用だ!!」


 マーン家の門番の男は、僕達が乗っている馬車に槍を突き立てる。

 僕達は、その声を馬車の中で聞いていた。


「いきなり外で何か言ってますよ、随分高圧的な態度ですね」


 エミリアが呆れたように呟く。

 御者席で馬車を動かしていたリーサさんはこちらを振り向く。


「ごめんなさいリーサさん、こんな無茶な事に付き合わせてしまって」


 僕は彼女に謝罪するが、リーサさんは微笑みながら話す。


「いいえレイ様、お気になさらないでください。それで――」


 リーさんさんは視線を僕の横に動かす。


「―――カレンお嬢様、どうなさいますか?」

「……そうね」


 そこには、貴族のドレス衣装を身に纏ったカレンさんが座っていた。


 そう、僕が今回力を借りたのはカレンさんだ。カレンさんのご両親はサイドという街の領主であり、マーン男爵はそんなサイドの街に何度も取引をしに行っているとの情報がある。


 また、マーン男爵が王都で暮らせるようになったのも、

 カレンさんのご両親が国王陛下に口添えをしたとの噂もあった。

 なので、こうしてカレンさんに力を借りたというわけだ。


 カレンさんは美しい長い青髪を整えて立ち上がる。

 そしてリーサさんに一言。


「馬車を停めてちょうだい、リーサ」

「畏まりました」


 リーサさんは御者に指示を出す。

 馬車はゆっくりと速度を落としていき、やがて完全に停車する。

 そして、カレンさんを先頭にして僕とエミリアは馬車から出る。


「おい! 貴様ら、ここが何処だかわかっているのか!」

「もちろんわかっていますわ」

「なんだその喋り方は!?」


 門番の男性は目の前の女性が誰か分からず槍を突きつける。


「私はカレン・フレイド・ルミナリア……フレイド伯爵の娘です。マーン男爵にお会いしたいのですけど、取り次いでくださるかしら?」


「……なっ!?」

 門番は驚きのあまり固まってしまった。それはそうだ、相手は自分の主と同じ貴族、しかも伯爵ということは主人よりも上位の爵位という事になる。


「き、貴族様とは知らず大変失礼いたしました!! 今すぐ旦那様に確認して参りますので少々お待ちを!!」


「よろしくお願いしますわ」

 門番は慌てて屋敷へと駆け込んでいった。


「……ふぅ、緊張したわ」

 カレンさんは振り向いて、汗を拭う。


「ごめんね、カレンさんこんなことを頼んで」


「気にしないで、レイくんの頼みだもの。これくらいならいくらでも協力するわ」


「ありがとう」


「しかし、カレンがまさかの伯爵の娘とは思いませんでしたよ。最初に会った時、随分謙遜してたんですね」


 エミリアはカレンさんに少し意地悪な言い方をする。


「そういう言い方しないでよ、エミリア。

 いきなり『私は、伯爵の娘よ』なんて言ったら来てくれなかったでしょ?」


「まぁそうかもしれませんが……」


「う、うん……貴族の事を知らない僕でも『伯爵』なんて言葉が出たら驚くと思う」


 僕は苦笑いしながら話す。


「でも、これで無事に中に入れるかな?」


「えぇ、多分大丈夫だと思うわ」


 僕達が話していると、先ほどの門番が戻ってきた。


「お、お待たせしました。すぐに当主であるマーン様がお会いになるそうです。ご案内致しますのでこちらへ……」


「わかりました。では行きましょうか」


 こうして、僕達は屋敷の中に入って行った。

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