第540話 学校11
前回のあらすじ。
ロリコンなのを否定してたら別の疑いを掛けられた。
「あ、先生、おそーい」
「遅刻ですー♪」
「おっせーな、先生、なにやってたんだよ」
僕が遅れてグラウンドに向かうと、子供達が騒ぎ出す。
「ゴメンね、ちょっとハイネリア先生に捕まってたんだ」
ホモ疑惑を解くために二人に説教してたとは言えまい。
「ところでレイ先生、その棒はなんですか?」
コレットちゃんは僕が左手に持ってる杖を指差す。
「教室で話したと思うけど魔道具の一種だよ。
今回の練習に丁度良いと思ってエミリア先生から借りてきたんだ」
僕は皆の前にエミリアの杖を見せてから、地面に先端を突き刺す。
「よぉく見ててね、【
僕は突き刺した杖に
すると、杖に嵌め込まれた魔石が輝いて地面に僕の魔力が流れ込んでいく。
そして、杖を中心に半径50メートルに数秒だけ青の光が発生する。
「おー」
「なんか、凄そう(小並感)」
「綺麗、オーロラみたい……」
子供達は口々に感想を漏らしている。
「先生―」
そして、赤髪の男の子が挙手する。えっと……この子の名前は……。
「レイ先生、俺の名前忘れてるでしょ」
「あはは……ゴメン」
「グラット・パルパレオスだよ、よろしくね」
「うん、よろしくね」
それにしても、強そうな名前の子だ。
「それで、レイ先生。今のは何をしたの?」
「魔力発動を杖に流して魔法の規模を拡大してみたんだ。
実は
「へぇ~、よくわかんねぇや」
「今、キミ達は僕の魔法の効果範囲に入ってたから、若干僕の魔力が付与されてるよ。今までよりも魔法の成功率が上がってるはず、試してごらん」
「え、本当? じゃあ……
グラット君が掌に小さな火の球を作り出す魔法を発動させる。すると、グラットくんの通常時と比較して、約二倍程度の大きさに膨れ上がった。
「おー!! やったぜ、先生!」
「良かったね、これで少しだけ威力が上がったはずだよ」
ちなみに、この現象は一定以上の魔力がある人に使っても効果が無い。子供達の魔法に不慣れなため、僕が後押ししただけで通常通りの効果に引き上がったのだ。
「さて、じゃあ使い方を教えるね。
ある意味ではこれまでで一番簡単で、そして一番難しい事だ。
ただ『手の平に魔力を集める』、それだけだよ」
僕は右手を前に出して、もう一度軽く実演してみせる。
しかし、子供達は肩透かしを食らったような表情をする。
「それだけ?」
「そう、これだけ。でも、この動作が難しい。
今まで教えてきた
ただ魔力を集めるっていう簡単な工程で、言い換えると『自身に内包されるマナを自在にコントロールする』という意味でもある。大人なら出来て当然のことなんだけど、魔法に不慣れなキミ達にとっては高難易度の魔法だと思う」
だからこそ、この子達に一時的に僕の魔力を付与させた。若干名の子はおそらく僕のサポート無しでも成功させるだろうけど他はまだ難しい。
僕が異世界に来た時、エミリアにとある指輪を貰った。
その指輪は装備すると自動的に
「うーん、難しそうだ……」
「ど、どうやって魔力を集めるの……全然分かんない……」
「なるほど、レイ先生の言う通りだね……」
子供達は、個人個人で練習を始めるが、やはり上手くいかない。
イメージが掴めないと子供達には他の魔法よりも難易度が高いのだろう。
「大丈夫、すぐに出来るようになるさ。サポートするから、頑張ろうね」
――そして、練習を始めてから数十分の時間が経った頃。
「せんせー……こっちきて」
「ん?」
僕はメアリーちゃんに呼ばれて、彼女の方に歩いていく。
「どうしたんだい、メアリーちゃん」
僕がそう質問すると、メアリーちゃんはちょっと眠そうな目で、自身の左手を正面に突き出す。
「みててね、せんせい……
メアリーちゃんは魔法を唱えると、左手の先に淡い光が灯る。
「おおっ、凄いじゃないか! こんなに早く成功するなんて!!」
「えへへ、がんばったよ」
「よしよし、凄いよメアリーちゃん」
僕は褒めながら、頭を撫でる。
「メアリー、もう出来たの!?」
「すごい……ボクなんて、まるで出来る気配しなかったのに……」
リリエルちゃんとコレットちゃんの二人は、メアリーちゃんに駆け寄って彼女の魔法を確認する。
「え、マジ?」
「うそ、こんな早く出来た子がいるの?」
「さ、才能の差を感じる……」
他の子供達はメアリーちゃんが成功させたことに愕然としていた。ちなみに、皆が出来ない理由は単純明快。魔力操作の基礎が出来ていないからだ。
魔力とは生成されたマナの塊である。
魔法を使うには、この魔力を体外へ放出する必要があり、この際に必要となるのが魔力を操作する技術だ。この技術に関してはセンスが大きく作用されるため、同じだけの訓練をしても習得の速度にどうしても差が付いてしまう。
今は基礎だけど、これが上位魔法となるとその差は更に広まっていく。
「(やっぱり、最初はこの子だったか……)」
子供達10人を見た時に感じてはいたのだけど、この子だけ他の子達と比較して、内包するマナの量が明らかに飛び抜けていた。
「メアリーちゃんって、確かまだ七歳だよね?」
「うん……三か月前に『はっぴーばーすでー』……だったよ?」
「…………誕生日おめでとう」
「ありがとう、せんせい」
なんだこの子、かわいい。
ロリコンじゃないけど、この子の将来が楽しみすぎる。
いや、楽しみってそういう意味じゃないけどね?
七歳のメアリーちゃんは、このクラスで最年少だ。
それなのにここまでの才能を有している彼女は期待の星と言える。
魔法使いの道を進めばきっと大成するだろう。
……このまま育てば、相当な美少女になるという期待もある。
「レイお兄様、リリエルも負けたくないですっ!」
「うん、ボクも」
リリエルちゃんとコレットちゃんは、一足早く成功したメアリーを見てやる気を出したようだ。二人とも、まだまだ魔力の扱いに慣れていないため、メアリーよりは時間がかかるだろう。しかし、それでもこの二人も十分優秀な部類に入る。
「お、俺も早く覚えたい」
「せんせいー、オレにも教えてくれ」
他の子供達も触発されたようだ。良い傾向だ。
これだけやる気があれば、彼らもきっと使えるようになるだろう。
「よぉし、じゃあ僕も張り切っちゃおうかな」
子供達がやる気になってくれて何よりだ。
問題は、僕が一人で何処までこの子達の期待に応えられるかだけど……。
「ふふ、子供達も気合十分ですね」
「私はやる気半減しましたが……」
「ん?」
振り返ると、ハイネリア先生とエミリアが立っていた。
「二人とも」
「良い感じじゃないですか、子供達も切磋琢磨してて良い雰囲気ですね」
「頑張っているみたいでちょっと安心しました……はぁ」
ハイネリア先生は温和に笑うが、エミリアは疲れ果てていた。
「エミリア、大丈夫?」
「学生時代を思い出しました……。
ハイネリア先生の説教の長さは全然変わってませんね……」
「それはお互いさまですよ。エミリア・カトレット。
座学は優秀だというのに、堪え性がなくて素直じゃないのですから」
「むぅ……」
そんなエミリアの不満げな声を無視して、ハイネリア先生は言った。
「まぁ、この子は良いとして、ここからは私達も手伝います。
三人で力合わせてこの可愛らしい子供達をサポートしていきましょう」
「助かります、僕だけじゃ限界があったので……」
正直、二人が来てくれてホッとしている。
僕が教えた内容は、エミリアに教わった話と僕自身の経験に基づくものだ。座学で教わるような話は分からなくて子供達の相談に乗ることが出来ない。
ここからは二人に主導してもらう事にしよう。
そして、今日一日、子供達は魔法の練習に励むのだった。
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