第526話 この世界で掴む平穏
「――――初めまして、皆さん。僕は
僕がそう言うと、群衆は一斉にざわついた。
「え、サクライ・レイって確か……」
「ああ、闘技大会で準決勝までいってた強豪の名前だったよな……?」
「でもあの子、確か女の子だったような……」
「も、もしかして、あいつ女装してたのか……?」
普通に自己紹介したらとんでもない誤解が生まれてる。間違ってると否定したいところだけど、説明すると更に困惑されそうだから、ここは……。
「えっと……別人ですよ?」
「いや、嘘だろ!!」
「よく見たら顔立ち似てるし!!」
群衆からツッコミが入る。
「あ、いや、ええと……」
どう説明しようか悩んでいると、隣に立つ陛下が前に出る。
「陛下?」
「レイ君、ここまは私に任せたまえ」
陛下はそう言って、群衆に向けて言った。
「彼はサクライ・レイ……紛れもなく男性だ。しかし、今年の闘技大会に魔王軍のスパイが紛れ込んでいたのを諸君は覚えているだろう。そのせいで、途中で魔王軍の襲撃に遭い大会は中断せざるおえなくなった。
だが、彼はそれを事前に予見して見破り、魔王軍に自身の存在がバレないように変装していたのだ。そして、見事に魔王軍を欺き、彼は攻め込んできた魔王軍の将の首を討ちとった!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「すげぇぇぇぇぇぇ!!!」
陛下の言葉を聞いて、歓声を上げる民衆達。
陛下は彼らの反応に満足そうな顔をしている。
しかし、当の僕は……。
「(なんか話が盛られてない!?)」
確かに事実も混じってるんだけど、僕が敵の狙いを看破したわけじゃない。魔王軍を蹴散らして敵の幹部クラスを撃破したのは合ってるけど、先行部隊を撃破しただけだ。魔王軍全体を指揮していたロドクは取り逃してしまっている。
が、そんな詳細なんて一般の人達に判別が付くはずもなく……。
「強いとは思ってたけど、そこまでなんて……!!」
「あの方、最近カレン・ルミナリア様の後釜として自由騎士団の副団長になった方よね、素敵……!!」
「キャー、騎士様ーーーー!!!」
なんだか僕の知らないところでやたら持ち上げられてる気がする……。
「更に、聞いて驚くがいい、諸君!!
なんと彼は先日、人類の宿敵にして諸悪の根源である魔王ナイアーラを戦った!!!
そして彼は頼もしき仲間達と共に、魔王ナイアーラを打ち倒したのだ!!
正に真の勇者にして、国を救った大英雄と言えるであろう!!」
「うおおおっっ!!!」
陛下の言葉に、民衆達は歓喜の声を上げて沸いた。
「勇者レイ、万歳!!」
「英雄、勇者レイ!!」
「勇者レイ!勇者レイ!勇者レイ!勇者レイ!」
民衆は僕の名を呼びながら、両手を振っている。
「あはは、僕だけで倒したんじゃないんだけど……」
僕は少し気恥ずかしい気持ちになりながらも、笑顔で手を振り返した。
すると、歓声はさらに大きくなった。
「ありがとうございます、皆さん。
僕は『英雄』とか『勇者』とかそういうのはよく分かりませんが、
この世界の皆が好きです。だから、今後とも付き合いをよろしくお願いします!」
僕はそう言って頭を下げる。
すると、大勢の人の拍手が飛び交い温かい言葉を貰えた。
「さぁ、勇者レイ。キミの仲間達にも挨拶をしてもらいたいのだが、構わないかな?」
「僕は構いませんが……」
陛下に頷いてから、僕は後ろを振り返る。
すると、仲間達は困った笑みを浮かべていた。
「お姉ちゃんはちょっと……」
「わたくしも、まだまだ修行の身でございますので……」
「実力を世に知らしめるという点では悪くないんですけどねぇ……」
と、気恥ずかしいようで中々踏ん切りが付いていない。
だけど一人だけ様子が違っていた。
「はい、はーい!!」
元気に手を挙げたのはサクラちゃんだった。
「サクラ君か、確かにキミも紹介しなければな」
グラン陛下は楽しそうに笑い、サクラちゃんを手招きする。
するとサクラちゃんは喜んで前に出る。
そして、開幕一番で言った。
「みっなさ~ん、サクラでーす!!!」
相変わらずのテンションに民衆は一瞬呆気に取られたが、すぐに拍手を返す。
「サクラちゃ~ん、可愛いぞ~!」
「こっち向いて、サクラ姫さま~!」
「今度また一緒に冒険しようなー!!!」
サクラちゃんは僕よりもずっと知名度が高くて、人々からの評判も良かった。
元々彼女は活発な性格で、王都に来る前から人との交流が多くて、王都に来てもずっと慕われていたらしい。少し前にも、王都でたむろしてた冒険者と腕試ししてたっけ……。
「(色んな意味で僕と真逆だなー……まるでアイドルみたい……)」
僕なんて転生する前はずっと引き籠りで他人と交流することを避けていた。
異世界に来てからも信頼できる仲間とならともかく、全く縁のない他人と積極的に交流しようとは思わなかった。
「(でも、今は……)」
ちらりと後ろにいる三人を見る。彼女達がいてくれたおかげで、僕はこの世界で生きていく勇気を持てたと言っても良い。こうやって、名ばかりでも騎士団に所属して人の為に働けるようになったのも彼女達のお陰だ。
「(色々あったけど、少しは成長できたのかな……?)」
僕は人々の顔を眺めながらそう思った。僕が
もし、お母さんとお父さんが傍に居てくれたら、褒めてくれるだろうか……?
「――っと」
そんなことを考えているうちに、いつの間にかサクラちゃんが話を終えていた。随分と盛り上がっていたみたいだけど、今回の話と全く関係ない雑談と自分の好みの話ばかりしてたような……?
「それで、皆はどうする?」
僕は後ろでイマイチその気になれない三人に声を掛ける。
が、やっぱり恥ずかしいようで相変わらずモジモジしている。
「恥ずかしがることは無い、キミ達も彼と同じくこの国の英雄なのだから」
陛下は三人を激励して励ます。
「ですが陛下……」
「私達にはちょっと荷が重いといいますか……」
「姉という立場的に考えると、レイ君が目立ってるだけで満足なんですけどね」
と、三人はそれでも動かない。
なら……。
「三人共、情けないよ。もうここまで来たんだから、覚悟を決めよう、ほら!」
僕は三人を引っ張って、強引に前に立たせる。
「ちょっ、強引すぎますよっ!!」
「レイ様、大胆でございます……」
「や、やめて、お姉ちゃんは傍観者的な立場で居たいの……!」
姉さんが変な事を言ってるが、とりあえず無視する。
しかし、出てきた三人を見るなり、映像魔法を通して群衆から歓声が上がった。
「あれが噂の勇者様の仲間か!!」
「可愛い女の子ばっかりじゃねぇか!!」
「あの娘達も勇者様の仲間なのか!?」
「羨ましいぞ、勇者様!!」
なんだか誤解されてるような。
……いや、全然誤解では無いのだけど、その通りだし。
だけど、そのお陰で人々は一気に盛り上がり、三人にも声援を送る。
「なんか照れ臭いですね……」
「うぅ、顔が熱い……まだ、未熟者なのでございますが……」
「あ、あの……皆、応援よろしくお願いね!」
恥ずかしがりながらも、三人とも笑顔で手を振っていた。
こうして、僕達は民衆からの歓迎を受けたのだった。
失踪事件を解決して少女達を救出し、遂に現れた魔王を撃退した僕達。これで僕の『勇者』としての使命を終えることが出来たのだろうか。
だが、まだまだ謎が残されている。
魔王軍の幹部である魔軍将は今だ健在、魔王軍が瓦解したいう話もまだ聞いていない。魔王ナイアーラも恐ろしく強かったけど、あれで実力が殆ど出せなかった状態で万全の状態だったら勝てなかっただろう。それに、魔王を本当の意味で仕留めきれたのか、僕は未だに確信を持てていない。
だとしても、僕はこの平和が続くことを望む。
人々の明るい未来を願う。
それが『勇者』として戦うことを決めた僕の責務だと思うから。
そして、僕の望む平穏の為に、僕はまだ戦い続ける。
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