第525話 凱旋
それから数時間後―――
王都に帰還した僕達を待ち受けていたのは、僕達を迎え入れる街の人達の大歓声だった。どうやら、先に帰った少女達三人が僕達の事を街のみんなに語ってくれたようだ。
今回の事件解決の立役者である僕達は、王都中の人達から祝福を受けた。特に、魔王ナイアーラ討伐をしたことを知る騎士達からは既に英雄扱いを受けてしまった。
「いやぁ、照れますね……」
「うふふ、人に感謝されるのも悪くないわ……♪」
「皆々様、ご声援ありがとうございます」
エミリア、姉さん、レベッカは口々にそう言うと、手を振りながら街を歩いていく。疲労が溜まってそれどころじゃないけど僕も何とか笑顔を保って彼らに挨拶をしながら王宮へと向かう。
そして王宮に向かう最中、見知った人物を見つけた。
「レイ君、エミリア、それにみんなっ!!」
美しい青髪を靡かせる、僕達よりも少し年上のお姉さん。
カレンさんだった。
カレンさんは普段の騎士の装備ではなくお嬢様のような青を基調としたドレス姿をしていた。彼女は、笑顔でこちらに手を振りながら走ってくる。
「カレンさん、出歩いて大丈夫?」
「だ、大丈夫よ……少し疲れたけど……」
カレンさんは、張り切って走ってきたためか少々息切れしている。
以前ならこんなことは無かったのだけど……。
「それより、サクラに聞いたわよ!
失踪事件を解決したばかりか、まさかの魔王まで倒したって話じゃない!?」
「あ、カレンさんも知ってたんだね」
「今の所、かん口令を出されてて、魔王の件は一般人には伏せられてるけどね。
当然、陛下や騎士団や王宮の方々には伝わってるわ。……ところで、兵士たちに護送されて王宮に連れていかれた二人……ええっと、粗暴そうな男と、あと大人しそうな女の子の……」
「……ルビーのこと?」
僕が名前を言うと、「ああ、そんな名前だったわね」とカレンさんは言った。
「私も一緒に調べたから見覚えがあったけど、あの二人が今回の事件の首謀者だったの?」
「いや、実は……」
僕達は手短にカレンさんに説明をした。最初は笑顔だったカレンさんだったが、僕達の説明を聞くとカレンさんはみるみると表情を曇らせていく。
「……そっか、本来の首謀者は死んでいて、あの二人は共犯者って事ね」
「ええ、そういう事になりますね」
「カレンさんは護送されてた二人を見たのよね、様子はどうだったのかしら?」
姉さんはそうカレンさんに質問する。
「んーと、そうねぇ……男の方は反抗的で兵士達にギャーギャー喚いていたけど、すぐに鎮圧されてたわ。女の方は、覚悟が決まっているというか……もう諦めているような感じね」
「……そっか」
「子供達誘拐しただけじゃなくて、魔王の生贄に捧げようとしたわけだし……これから自分がどうなるのか、既に分かっているんでしょうね」
「……」
「レイ君?」
カレンさんは不思議そうに僕を見つめていた。
「どうしたの? 事件解決して、魔王まで倒したっていうのに元気無さそうだけど……疲れちゃった?」
「……ん、そんな事ないよ」
僕は無理矢理、笑顔を作る。すると、隣にいたエミリアが僕の腕を掴む。
「レイ、少し休んだ方が良いですよ。私達が代わりに報告してきますから……」
「……大丈夫、それに僕が陛下に直々に依頼されたんだから、責任もって報告に行かないとね」
「レイ様、立派でございます……」
レベッカは尊敬の眼差しを向けてくる。
そこまで感心されることなのだろうか……レベッカの反応は大げさなような?
「カレンさん、今から報告だけ済ませてくるよ」
「ええ、分かったわ。疲れてるでしょうし、それじゃあまた明日ね」
「うん」
僕達はそう言って、カレンさんと別れた。
◆
その後、僕達はグラン陛下に謁見するために王宮に向かった。そして、玉座の間に通されるとそこには既に多くの人達が集まっていた。
その中には、先に帰還していた自由騎士団の面々、それに王宮騎士団の面々も揃っている。前に出ているのはそれぞれの騎士団の団長、アルフォンス団長とガダール団長が陛下の傍に立っている。
そして、僕達の姿を見るとそれぞれ騎士団の団員達を率いて整列し始めた。
ちなみにサクラちゃんも並んでて、目が合うと手を振ってくれた。
彼らは陛下を守護する様に、綺麗に横一列に並ぶ。彼らが並び終わると陛下が玉座から立ちあがり、マントを羽織ってこちらに歩いてきた。普段フランクな態度で接してくれるグラン陛下だが、今日に限っては表情も硬く、威厳たっぷりだ。
そして、立ち止まり、軽く深呼吸をしてから厳かに言った。
「………よくぞ戻った、勇者レイ、そしてその頼もしき仲間達よ。
報告は既にサクラ・リゼットより受けているぞ。失踪事件の犯人の確保、そしてついに現れた魔王を見事討伐したこと、国王として礼を言わせて貰おう」
「……勿体なきお言葉です、陛下」
僕はそう言うと、膝をついて頭を下げた。他の皆も同様に頭を下げる。普段の態度で接すると、この状況では不敬になりかねないので礼儀作法を思い出しながら対応する。
「此度の件、キミ達の働きによって救われた少女達、それに今後魔王軍との戦いで起こり得た多数の被害を未然に防ぐことが出来た事になる。そこで、国王としてキミ達に心からの礼として褒美を取らせようと思う」
「ありがとうございます」
「まず、魔王ナイアーラ討伐の報酬についてだ。キミ達の望むものを用意するように手配しよう。キミ達が望むものを可能な限り用意しよう、何か希望は?」
陛下にそう問われたのだが、頭の中がごちゃごちゃですぐに思い付かない。
「……いえ、今は特に……」
「ふむ、ならば金品か? ……いや、今決めなくても良い、それは後々決めることとしよう」
陛下は僕の煮え切らない態度に気を遣ったのか、そう言ってきた。
「では次に、キミ達が救出した三人の少女達についてだ。少女達は既に親元へ帰している。両親との再会を涙を流しながら喜んでいたぞ。もし、キミ達にその気があるなら後日で良いから会ってやると良い」
「……良かった」
その朗報に、僕と仲間は少し緊張が解けて顔が緩む。すると、グラン陛下は一瞬だけ表情が変わり、厳かな雰囲気が消えた気がした。が、次の瞬間には再び威厳たっぷりな声で僕達に、いや、ここに居る全員に聴こえるような響く声で言った。
「諸君、覚えておくといい、女神がどうとかなど関係ない。
彼らの正義の為に、我らが宿敵の魔王を討伐した彼らこそ『真の勇者』なのだ!!
その功績は、歴史に刻まれるほどの偉業であり、素晴らしき英雄だ!!!」
陛下の言葉に、周囲から称賛の声が響き渡る。
「おおおおおおおっ!!!」
「真の勇者……英雄!!!!!」
「勇者レイ様、勇者サクラ様、バンザーイ!!!!」
そして、陛下は後ろに下がり玉座の前まで歩いてこちらに振り向く。
「勇者レイ、並びにその仲間のエミリア、ベルフラウ、レベッカよ。ここに」
「は、はい!」
僕達は返事をして立ち上がると、前に歩き出す。
「そして、勇者サクラよ……キミもこちらへ」
「はいっ!!!!!」
陛下に呼ばれたサクラちゃんは大声で返事をして、こちらへやってくる。
そして、僕達は陛下の前に並ぶ。
「……勇者レイ」
「はい」
僕は前に出て跪く。
「……此度の活躍、誠に大義であった。そして、此度の魔王軍との戦いにおいて、キミの活躍は私の想像を遥かに超えていた。……こんなにも早く、魔王を倒し、世界を救った事。驚くべきことだが、これは紛れもない事実であり、その功績を讃えよう」
「ありがたき幸せ」
僕はそう言って頭を下げる。
「……その剣の、元の持ち主も浮かばれよう」
その言葉を聞いて、僕は頭を上げて視線を陛下に向ける。
「剣……もしかして、
「……うむ、形こそ少し違うが、こうして間近で見て確信したよ。私の友人……彼が所持していた武器だ。戦死したと聞いていたが、まさかキミが所持しているとは……」
「陛下は、この剣の元の使い手を知っているのですか?」
「まぁね……この後、色々語り合おう。私の大切な友人……そして、キミの先輩勇者の話でもあるからな」
「先輩?」
「ふふふ……」
僕の疑問の言葉に、陛下が小さく笑う。だが、すぐに「コホン」と咳払いをして玉座の横に置かれていた鞘を手に取って儀礼用の剣を抜く。そして、跪く僕の肩を剣で叩いて言った。
「勇者レイよ。ここに今この時を持って、再び宣言しよう。今、ここに新たなる英雄が誕生したことを! 今、ここに新たなる勇者が生まれた事を!!」
そして、陛下はその剣を高らかに掲げた。
「おおおぉーっ!!!」
謁見の間に並ぶ騎士達と、そして僕達の後ろにいる兵士達から歓声が上がる。
「勇者レイよ、立て。そして、今一度、国民にその姿を示せ」
「は、はい!」
僕は立ち上がり、そしてグラン陛下は剣を鞘に納める。
そして、陛下は歩き出す。
「さぁ、来るといい。キミ達の勇姿を王都に暮らす民衆たちに見せつけるのだ」
陛下はそう言って扉を開け放つと、僕達に外に出るように促す。
立ちあがってから僕は後ろに振り返り、仲間達に言った。
「さぁ、皆、行こう!」
そして、僕達は王城の外に出てから王都を一望できる階段を登る。頂上に登ると陛下に促されて高台に上がって王都を一望できる場所まで歩いてそこで景色を見下ろす。すると、そこには王都内の大広場の光景が映し出されていた。
「これは……!!」
映像魔法で映し出されていた王都の広場には、1,000人以上の王都で暮らす人々が集められていた。中には子供達や老人なども家族に連れられて並んでいる。
また、その中に僕達が救出した三人の少女の姿もあった。
その傍には片時も離れまいと彼女達を抱きかかえている両親の姿もあった。
その群衆の姿を見て、僕はここでようやく実感できた。
ああ、これで本当に平和になったんだ……と。
そして、僕の肩に陛下の手がポンと置かれる。
陛下は言った。
「さぁ、勇者レイ、民衆に声を掛けてあげてくれ。
難しい事を考える必要は無い。キミが思ったことを、言ってあげるといい」
「―――はい!」
そして、僕は出来るだけ大きな声で返事をする。この王城と王都の広場からは距離が離れているが、魔法により僕の姿と声は直通していると説明を受けた。
僕はそれを了承し、王都の人達の顔を眺めながら考える。
……さて、何を言おうか。
声を掛けてあげてくれと言われたけど、僕は何も決めずにここに立っている。
……だから、僕はまず自己紹介をすることにした。
「――――初めまして、皆さん。僕は
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