第522話 劣勢
薬によって回復したレイはサクラとルビーと共に魔王に立ち向かう。
魔王ナイアーラは肉体を魔物と化して勇者たちを迎え撃つが、レイは信頼できる仲間と共に魔王とも互角に渡り合っていた。
本来の魔王は今よりも更に強大な力を持つが、今回はエメシスによって生贄が足りない状態の不完全な復活だったためか通常よりも弱体化していた。しかし、それでもなお、魔王は強大だった。
「いくぞ、勇者達よ!!
魔王はそう高らかに叫びながら、魔法を発動させる。
使用した魔法<焔の嵐>極大魔法と言われる最高峰の炎属性攻撃魔法。
魔王は上空に飛んで、その周囲から膨大な熱量を放出させる火柱を発生させる。
まともに食らえば、勇者であるレイ達ですら致命傷は避けられない。
この魔法は何度か見たことがある。
しかし、以前見た魔法と比較しても威力が段違いだった。
だが、今の自分達なら立ち向かえる。
レイはそう確信し、共に戦う仲間達に指示を送る。
「皆、氷魔法で防御するよ!!」
「了解」
「魔王さんなんかの魔法に負けちゃダメですよっ!!」
レイ達はタイミングを合わせながら詠唱を開始させる。
「魔王の攻撃を正面から受け止める気か、面白い!!」
そして魔王の極大魔法がレイ達三人目掛けて降り注ぐ。
「せーの!!」
サクラの掛け声で、レイ達は同時に魔法を発動させる。
「「「
三つの同系統の上級魔法が魔王の極大魔法を迎え撃たんと上空に解き放たれる。魔王の放つ圧倒的な攻撃魔法に対して、レイ達は反属性の氷魔法での相殺という手段を取った。
本来であれば、極大魔法と上級魔法の威力差は覆ることは難しい。
だが、信頼できる仲間達と共に協力して放つことで、彼女達の潜在能力が開花され、その威力が通常の数倍まで昇華されていく。
一方、魔王はというと……。
「(我という圧倒的な存在に対してこれほど怯まぬとは……!!)」
魔王ナイアーラは自らと互角に戦う三人の人間達に対して驚愕していた。
勇者二人は勿論の事、凡人と侮ったルビーが自身に立ち向かうとは露とも思わず先程まで侮っていた。だからこそ、魔王は自身の慢心を自覚する。
「ぐ………!!」
自身の消耗と、そして人間の想像を超えた強さに圧倒され魔王は次第に押されていく。そして三人の氷魔法は
魔王の放った炎魔法は完全に消え去ってしまった。
「やった!!」
「油断は禁物だ、次はこっちから攻めるぞ!!」
ルビーはサクラを窘めながら得意の魔法を放つ。
「
ルビーの得意とする黒檻の派生魔法。それは対象を黒檻と同じく黒い檻に閉じ込め、更にその上で圧縮するという血も涙もない残酷な魔法だった。
しかし、本来の彼女はそこまで残酷な性格では無い。故にエミリア達にこの魔法までは使用せず<黒檻>だけに留めていた。だが、目の前の魔王にそんな手加減は必要ない。
「圧縮されて死んでしまえ、魔王!!」
ルビーは魔王に対して一切の遠慮をせずに魔法を解き放つ。魔王の周囲に黒檻が出現し、魔王はそれを涼し気な表情で見ていたが、次の瞬間にはその表情が歪む。
自身を囲む黒檻が肥大化した魔王の身体を万力のように締め付け、その冷たい檻がその身に食い込んでいった。
「ぐ、おおおおお!!!!」
いくら魔王とはいえ、今の肉体は人間と魔物のスペックでしかない。
肉体を潰されてしまえば、その身に受ける激痛は人間と差が無く、魔王は絶叫する。
――だが、魔物の王たる魔王はこの程度で屈しない。
「――この程度、我には通じぬわぁぁぁぁ!!!」
「……っ!!」
もはや意地であるが、魔王は如何なる手段かそのルビーの魔法を跳ね除ける。
ルビーは魔法に更に自身の魔力を注ぎ込んで負けじと対抗するが、魔王の勢いは留まることは無く黒檻は完全に砕け散って魔法を破られてしまった。
「……っ!!」
自身の魔法を破られたルビーは少なからずダメージを受けてしまう。
胸を抑えて苦しむルビーを庇うようにレイとサクラは前に出る。
「侮ったわ……!!
貴様も勇者達と同じく、我にとって倒すべき強敵よ!!」
魔王は目の前の相手を強者と認める。
そして、地上に降りて再び三人と同じ目線で対峙する。
「……我の魔力ももはや心もとない。
ならば、ここからは我も貴様らと同じく命を賭けようぞ。
……まずはお前だ、勇者レイよ!!!」
魔王はそう叫ぶと、レイに向かって凄まじい速度で突進してくる。
レイは魔王のその覚悟を目にして構える。
「精霊さん、力を貸してね……更なる真価を与えたもう……
そこに、サクラがレイを援護し強化魔法を付与させる。
レイの集中力を飛躍的に増し、薬との相乗効果でレイは一気に強化される。
「たあああああ!!」
「むぅぅうぅん!!!」
レイと魔王ナイアーラの剣と拳がぶつかり合い、衝撃で周囲に突風を発生させる。
集中力を増したレイは魔王の素早い動きに対応し、その攻撃を受け流しながら魔王に確実にダメージを与える。だが、魔王も負けておらず拳こそ直撃しないものの、レイもダメージを確実にダメージを蓄積させていく。
「――ぐっ!!」
「――っ!!」
お互い、接近戦での戦いに限界が来たのか、ほぼ同時に距離を取る。
その瞬間に、後方に控えていたサクラとルビーは魔王に攻撃魔法で追撃する。
「はああっ!!」
魔王は、その魔法二つを視界に入れて<停止の魔眼>を使用。彼女達の魔法を掌握し、それを跳ね返そうと試みるが、二人は即座に魔法を解除することで反射された魔法の被弾をやり過ごす。
魔王は考える。
「(我の動きに対応しつつある……ならば!!)」
魔王は自身の身体から更に複数の触手を生成する。
そして、触手を一気に伸ばしてレイを拘束しようと一気に伸ばす。
「レイ、来るぞ!」
ルビーは叫ぶ。レイは、魔王の動きを予測しながら剣を振るう。魔物の触手がレイに飛んできた数は全部で10本、それをレイに近い順番から片っ端から斬り落とす。そして、全部切り落としたところで魔王に向かって走る。
「むっ!?」
「食らえっ!!」
レイが魔王に斬り掛かるために一気に接近しようとすると、今度は別の触手が生物のように口を開けて、レイに向かって火を噴き始める。
「―――っ、そんな技が!」
レイは魔王の元へ向かうのを一旦諦めて、
焼き尽くそうとする触手の攻撃を、レイは空中に跳んで回避する。
「逃がすか!!」
魔王はレイを追いかけて、今度は魔王から特大級の
レイは空中で体勢を整え、剣に指示を出す。
「
蒼い星はレイの指示通り、剣の魔力によってレイの周囲に聖剣のエネルギーを使用したバリアを放出する。魔王の火球を2,3秒の間、魔王の魔法攻撃を防ぎきる。
そして、すぐに地上に降り立つ。
「――今だ!!」
レイは着地と同時に再び走り出す。
「ぬぅうう!?」
魔王の動揺した声を聞きながら、魔王の元にたどり着く。
そして、そのまま魔王の胴体を横薙ぎに両断しようと剣を振り抜く。
「甘いわッ!!」
魔王は叫んで、レイの横なぎの攻撃を素手で防御する。しかし、仮にも聖剣の一撃、魔王にとって致命傷となるその一撃は、防御行動を起こした魔王の左腕に深く食い込む。
「ぐうっっっ!!!」
魔王の顔が酷く歪む。
しかし確実にダメージを与えてはいるが、
そこまででレイの一撃は魔王の左腕を両断するまでには至らない。
どころか――――
「くっ……剣が、抜けない……!!」
レイは距離を取ろうとするが、奴の腕から離そうとしても剣が動かない。よく見ると奴の腕の断面にあるのは骨ではなく得体の知れない肉のような何かだ。どうやら、あの肉が剣の刃先を捕えているらしい。
魔王は、苦痛で顔を歪ませながら言った。
「ふ……ふふ……これが魔王というものだ。
貴様達は、一個人ではなく魔王という概念そのものに戦いを挑んでいるのだ。
それが如何に無謀なことなのか、思い知るがいい!!!」
魔王がそう言いながら、剣を引っ張ってレイを懐に入れようとする。
レイはそれに抗って、踏ん張るが……。
「無駄だ、さぁこのまま貴様を取り込んで――」
魔王はそう言いながら、レイを無数の触手で取り込もうとするが、その前に――
「たああああっ!!!」
「なに……ぐぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
真横から突然飛び込んできたサクラに、頭を強く蹴り飛ばされる。魔王はそのまま吹き飛び、危うくレイも一緒に吹き飛ばされそうになったところで、剣の拘束が緩んでレイは剣を引き戻して巻き添えにならずに済んだ。
「……くっ、小娘……いや、サクラ……!」
魔王は、蹴られた頭部を押さえながら着地しもサクラを睨みつける。
「隙ありです、レイさんに気を取られ過ぎですよ!! ね、ルビーさん?」
サクラは、すぐに構え直しながら油断なく話す。そして一瞬だけ上を見てルビーの名前を呼ぶ。彼女の頭上には、魔法の準備を整えたルビーの姿があった。
「
次の瞬間、空に浮かんでいた巨大な炎の塊が魔王目掛けて重力落下する。魔王は咄嵯に防御しようと構えるが、この魔法に防御は悪手だった。
「ぬおおおっ!?」
直撃を受けた魔王ナイアーラは無事では済まず、
その圧力に肥大した身体を押し潰され、更に全身を焼かれ続ける。
「く……おのれ……!
魔王ナイアーラは自身を対象に氷魔法を発動させて、その炎を消火する。
そして、拳を振り上げて自身の身体を押しつぶす圧力を砕く。
その周囲は焼け焦げて煙を上げていた。
魔王は息を切らしながら、強敵達三人を睨み付ける。
魔王は間違いなく強い。
しかし、その均衡は確実に崩れつつあった。
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