第521話 絶好調の勇者レイくん
エミリア達の活躍により、僕は戦線に復帰することになった。
彼女から貰った薬【飲んだら疲労が抜けて魔力が爆上がりする超安全な薬】により魔力と体力を取り戻した僕は、サクラちゃんとルビーと肩を並べて前に出る。
「おい、大丈夫なのか……」
ルビーが僕の方に歩いてきて言った。
表情の硬い彼女にしては心なしか心配そうな顔を浮かべている。
「ええと……多分………」
一瞬、心臓が飛び跳ねた気がするけど今は落ち着いてる。
そして、僕の中の魔力がどんどん膨らんでいくのを感じる……。
僕が自身の力を確認していると……。
「ふん……どうせ大した力は出ぬだろうが、少し試してやろうか」
と、言いながら、魔王ナイアーラは掌に小さな黒いオーラを出現させこちらに高速で放ってきた。
「!!」
僕は咄嗟に、左手を突き出し
そして、魔王のオーラが僕の突きだした手の平に直撃する瞬間、それを風の盾で逸らして後方に弾き飛ばした。
「ほう……」
「今のを防いだんですか!」
「あんな基礎的な魔法で……」
魔王は感嘆の声を漏らし、サクラちゃんとルビーは驚愕の声を上げる。
「おお、やりました! 薬の調合は成功のようですね!!」
「流石です、レイ様」
「頑張って……ここで魔王を倒せば、後はもうずっとスローライフしてお姉ちゃんたちと過ごせるわよ……!」
後ろの瓦礫の山の隅に隠れていた三人は、嬉しそうな声を上げている。
「人気だな、レイ……」
「あはは……でも期待されてるなら頑張らないとね……」
僕はルビーの呆れた声に返事をして、状況を見る。
「(魔力は問題ない、スタミナも十分回復してる……。だけど、さっきルビーを助ける為に聖剣を投擲してしまった)」
僕は魔王の後方を睨む。
魔王のおよそ20メートル程度背後に、投擲した聖剣が転がっていた。
「(まずは剣を拾わないと……その為には―――)」
僕は魔王の方を見て、右手を前方に突き出す。
「む?」
「今度はこっちの番だ」
僕は魔力を集中させる。
「全てを巻き込む風よ、目の前の敵を薙ぎ払え……
僕の周囲に突風が巻き起こり、それが徐々に一つの塊へと収束していく。
「喰らえっ!!!」
「……ほう」
その一言と共に、巨大な竜巻は魔王目掛けて襲い掛かった。
「くっ!」
「きゃあっ!?」
僕達はその威力の余波に巻き込まれないように、その場を離れる。
だが、その魔法を以ってしても魔王の余裕は揺るがない。
「大した魔力よ……しかし、我が前では全て魔法は停止する―――!!」
ナイアーラは目の前の巨大な竜巻を睨み付ける。
すると、魔王の目が怪しく光り、竜巻は完全に動きを止めてしまう。
そして魔王は笑うが……。
「如何に強力な魔法であろうとも我の前では―――」
と、魔王は言い掛けた瞬間、
「……今だ、動け!」
僕は、このタイミングで
完全に意表を突かれた魔王ナイアーラは、慌てて触手を操り、身体に巻きつけて防御しようとするが、風の刃を防ぐことが出来ず全身を切り刻まれていく。
「ぐぁああ!?」
「よし、効いてる……!! サクラちゃん、今のうちに!!」
僕は通用したことにガッツポーズを取り、すぐにサクラちゃんに声を掛ける。
「え?」
「ルーンブレイドを貸して!」
そういうと、サクラちゃんは慌てて短剣の一振りを僕に投げ渡す。僕はそれをキャッチし、ルーンブレイドの刃に僕の手を軽く押し当ててそこから魔力を流し込む。
刃に手を押し当てた為、手が切れて血が流れてしまうが許容範囲だ。
「レイさん、何を?」
「怯んでるうちに追撃する!!」
僕はそう言いながら、出来るだけ早く剣に魔力を流し込んで一つの魔法をルーンブレイドに付与させる。サクラちゃんの使用してる剣、【ルーンブレイド】は自身の身体を剣に押し当てて血を馴染ませることで一つ目の効果を使用できる。
効果は、魔力を注ぐことで魔法を一つだけ剣に付与できるというもの。
例えば回復魔法でも可能だし、攻撃魔法でも可能だ。それがどれだけ高位で詠唱時間が長い魔法であっても魔力さえあれば封じ込めることが可能。
そして、もう一つの効果は―――
「よし、完成!!」
僕は押し当てていたルーンブレイドを地面に突き刺す。そして二つ目の効果を発動させる。効果は、封じ込めた魔法をいつでも即時発動という超便利な能力だ。
「ルーンブレイド、起動!!
その瞬間、魔王の上空から雷鳴が轟いた。そして次の瞬間には、巨大な稲妻が魔王の頭上から降り注いだ。
「ぬぅうああっ!!!!」
魔王は咄嵯に、両手で頭を庇いながら悲痛な叫び声を上げた。この魔法は上級魔法すら凌ぐ極大魔法で威力も比較にならないが、とても長い詠唱を行わないと使用できない。
だけど、この剣の力さえあれば瞬時に発動出来る。
魔法剣士である僕やサクラちゃんからすれば聖剣並に強力な武器だ。
「やった、効いてる!!」
「
「うん、凄いでしょ」
僕は得意げに答える。が、目的はダメージを与えることだけじゃない。
さっきまでの攻防は、本命の剣を拾いに行くための時間稼ぎだ。
「よし、今のうちに」
僕は今も雷に撃たれて苦しんでいる魔王の横を通り過ぎて剣を拾う。
そして、手に取った剣に話しかける。
「お待たせ、突然投げてごめん」
『……女の子を突然投げた上に、長々と待たせるとか最低ね、レイ』
まさかの愛剣に罵倒されてしまった。
「ご、ごめんって……ていうか、
『……貴方は私を女の子だと思ってたでしょ?』
「いや、まぁ口調的に……」
僕は聖剣の質問に答えつつ、聖剣を鞘に納めて腰に装着する。
聖剣は僕の腰に収まると、淡く光り輝き始める。どうやら機嫌は直ったようだ。
「よし、これで……」
僕は聖剣を再び手に取り、サクラちゃんとルビーの元へ戻る。
「ふむ……面白い……! しかし、この程度で我を倒せると思うでないぞ……!!」
すると、魔王ナイアーラは全身を黒焦げにしながらも
その目は怒っていたが、同時に闘志にも満ち溢れていた。
「魔王……やっぱりこの程度では死なないか」
「当然、……しかし、貴様の仲間の薬とやらも大したものよ。まさか本当に力を取り戻してしまうとはな」
そう言って、魔王はエミリア達が隠れている瓦礫の方を見る。
「ふはは、私の力を思い知ったか、魔王!!」
「……」
魔王と目が合ったエミリアは、何故か勝ち誇っている。エミリアはもう体力も魔力も使い果たしているはずだが、姉さんとレベッカと比べるとやたら元気そうだ。
「我に傷を負わせたことは褒めてやる。……だが、我はもう油断はせんぞ!」
魔王はそう言いながら僕達三人を見据えていた。
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