第519話 語りたくて仕方ない魔王
魔王との戦いは続く。
戦えなくなったレイ達の代わりにサクラとルビーが戦線を引き継いでいた。
「生意気な小娘だ。ならば魔王の一撃を受けてみるが良い」
魔王は両手をかざすと、黒いオーラが小さく纏わり始めた。
「あ、あれは……!!」
見覚えがある。僕達が戦っていた時よりも範囲こそ狭いけど、同質のオーラだ。
僕は彼女達に伝えようと叫ぶ。
「二人とも、あのオーラに気を付けて!!
あれに触れてしまうと身体が猛毒に冒されてしまうから!!」
「はい!」
「奴から距離を取れ!」
サクラちゃんとルビーは返事をして警戒態勢に入る。
「(良かった、分かってくれたみたいだ)」
僕も、直撃を受けないように魔王から距離を取る。
「ふん、良いアドバイザーではないか、勇者レイよ」
「……」
魔王は僕のことを馬鹿にしたような表情で言う。
僕はそれに何も答えずに、今は二人の戦いを見守ることにした。
「だが、知っているだけでは我に勝てぬぞ!」
魔王はそう言いながら、両手の黒のオーラを解放する。
すると、前方扇状に闇の波動が広がった。
「くっ……!?」
「これは……」
二人が咄嵯に<飛翔>の魔法で回避行動を取って避けると、後ろにあった壁や地面が腐食していくのが見える。なんて威力の攻撃なんだ……。まともに喰らったら即死は免れない。
「ふははははっ!! 我の力はこの程度ではないぞ、魔力さえ戻ればこの一帯全てを死の大地に変えてしまうことも可能だ。貴様らを倒した後、この身体を新調し、今度は人間どもの国を滅ぼしてくれるわ!!」
魔王は勝ち誇るように笑う。
「る、ルビーさん、どうしよう」
サクラちゃんは今のでちょっと弱気になったのか、背後のルビーに声を掛ける。
「お前が怖気づいてどうする……。
今、奴は『魔力さえ戻れば』と言っただろう。つまり、魔力が足りていない。
その証拠に、今まで奴はオーラを使ってこなかった」
「そっか!」
ルビーの冷静な見解にサクラちゃんはホッとしたようで、元気に返事をする。
「……サクラちゃん、やっぱり何も考えてなかったんじゃ……」
僕はサクラちゃんを見て呟いた。
「レイさん! 何か言いました!?」
「何でもないよ……」
まぁ、策が無くても強い彼女ならどうにかなるだろう。
今はルビーも居ることだし……。
僕はそう思ってルビーの方も見る。
「……おい、何故こちらを見る」
「いや、サクラちゃんと会ったばかりなのに、上手く連携してるなーと思ってさ」
それ以上に、ルビーがここまで協力して戦ってくれるのが意外だったが。
「……今は、お前たちに恩義を感じて手を貸してるだけだ。だが、勝ち目がないと思ったら流石に逃げるぞ」
すると、サクラちゃんが言った。
「あれ、ルビーさん、あの人に馬鹿にされたから仕返ししたいって言ってたような?」
「……お前はいちいち一言多いな」
ルビーはそう言ってサクラの一言に返事をして彼女から視線を外す。
「(ルビー、やっぱり僕達を助けるために来てくれたんだね)」
魔王に馬鹿にされたから仕返しというのは、本音を隠す言い訳だろう。
その様子に魔王ナイアーラはルビーを値踏みするような目で言った。
「……ほう、ルビー、随分と溶け込んでいるではないか」
「……っ」
ルビーはその言葉に、魔王に対して嫌悪感を示す。
「貴様、エメシスの仲間として奴に協力していたのだろう?
例えば、貴様が皆殺しにした村の連中を我の供物として捧げたり――」
「……黙れ」
「そして、今回の召喚の生贄にも加担したのであろう。
罪もない幼い少女達を浚い、この屋敷に閉じ込めて―――」
「黙れと言ってるだろう!!!」
ルビーは怒りの表情で叫んで、魔王に特大の魔力弾を放つ。
しかし、魔王は涼し気な表情でその魔法を一瞬で停止させる。
「おお、怖い……。今は上手く立ち回って勇者の仲間であるかのように振る舞っているが、本質は、自分にとって都合の良い者しか信用しない、己のことだけを考える自己中心的な存在だ。本音としては一緒に戦うのは苦痛では無いのか?」
「……ルビーさん、それって……」
「殺す!!」
サクラちゃんの疑問に答えず、ルビーは、魔王の言葉を聞いて頭に血が上ったのか、攻撃魔法を連続で撃ち始めた。魔王はその攻撃をのらりくらりと躱しながら、不敵な笑みを浮かべている。
「(ダメだ、ルビーは冷静さを失っている!)」
魔王は僕達を仲違いさせるつもりだ。特に、知り合って間もないサクラちゃんはルビーの事情を知らずに一緒に戦っていたようで、先程の自信満々な表情が困惑の表情に変わっている。
「サクラちゃん、ルビーを止めて!」
「でもレイさん……さっき、ルビーさんが村の人間を皆殺しにしたって……」
「それは……事実だけど、理由があるんだ」
「……そうなんですか?」
「うん!」
僕は力強く答える。
詳しい事情を知らないサクラちゃんにそれを伝えるわけにはいかない。
サクラちゃんはしばらく考えた後、ルビーに向かって叫んだ。
「ルビーさん!! わたしはあなたのことを信じる!!」
「―――っ!」
大きな声で言われて、ルビーは動きが硬直する。
「だから、魔王なんかの言葉に惑わされちゃダメ!!」
「……サクラ、私は……」
サクラちゃんの説得で、ルビーは攻撃をやめて彼女の方を振り向く。
魔王はその様子を愉快そうに見ながら、奴は――
「――っ!」
魔王が何をするか察した僕は、重い身体を強引に動かして彼女に叫ぶ。
「危ない!!」
「っ!?」
ルビーが振り返ると、魔王はルビーに向かって触手を伸ばしていた。その触手がルビーの身体に触れようとした瞬間、僕の身体が勝手に動き、手に持っていた聖剣を魔王に投擲する。
「何っ!?」
魔王は驚きながら、防御せずに全力で身体を動かして回避する。投擲した聖剣は空を切り、魔王の背後に音を立てて転がっていったが、そのお陰でルビーに届くはずだった触手が解除され、彼女は無事だ。
「大丈夫、ルビー!?」
「あ、ああ……。助かった」
僕はほっとして胸を撫で下ろす。
そして、僕は二人に言った。
「ルビー、感情がごちゃごちゃになってて辛いかもだけど今は抑えて。サクラちゃんも、後で事情は話す。だけど、ルビーはもう僕達の『仲間』なんだから信じて欲しい」
「……分かった」
「はいっ!」
二人は返事をして、改めて戦闘態勢に入る。
「ふん、余計なことをする」
魔王はそう言いながら、こちらを睨む。
「余計なのはそっちだよ。彼女が思い悩んでる事を知ってて、わざと彼女を怒らせるようなことを言ってたんだろ?」
「ふん、知っているとも。だからこそ、そいつはエメシスに協力したのだろう。人間とは自身の欲望の為に他者を犠牲にできる愚かな生き物である。故に、愛しいという感情もなくはないが」
「意味の分からない事を言う。
彼女の境遇を知っててなお、人間が愛おしいというつもりなのか?
憎しみで蘇った魔王のお前が?」
ルビーは村の人間に兄を殺されたことを聞いている。
彼女自身が村の人間に酷い目に遭わされたこともエミリアから聞いた。
詳しく詮索はしなかったけど、推測通りなら僕でも憤るほどだ。
なのに、魔王はそんな醜い人間達を含めて「愛おしい」と言っているのだ。
「……ふ、誤解するなよ、勇者レイ。
我は別に、人間が憎くて滅ぼしたくて魔王になったわけではない」
「……?」
「我は元々は人間でも魔物でもない。この世界の神だった存在だ」
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