第518話 テンション違いの勇者に戸惑う魔王
「でっやあああああ!!!!」
「させるか、小娘っ!!」
サクラちゃんが魔王相手に斬り込み、魔王がそれを触手を盾のように壁にしてガードする。
「またそれぇ!? ……っと!」
魔王のワンパターンな攻撃にサクラちゃんは不満を言いながら、
そこから伸びてきた触手を高くジャンプして後方に躱す。
そこに、ルビーの攻撃魔法が魔王目掛けて放たれる。
「
ルビーの左手に魔法陣が浮かぶと、そこから稲妻のような光が走る。
「ふんっ!!」
魔王は目視して魔法を無効化しようとするが、それを見越したかのように彼女の魔法は魔王の目に映らない死角から稲妻が降り注ぐ。
「ぐぅ……猪口才な!!」
しかし、魔王はその攻撃を触手に巻かれた右手で防御。
だが、電撃によって腕が痺れたのか、その後の反撃が飛んでこなかった。
「そこだッ!!」
魔王が怯んだと判断したサクラちゃんは、周囲の瓦礫に飛び移りながら、魔王の背後に狙いを付ける。そして、サクラちゃんが技名を叫びながら、両手の短剣で魔王の背中に斬り掛かるが……。
「バックスタッブ!!」
「甘いわ!」
だが、魔王は瞬時に振り向くと、右手のひらで短剣の攻撃を受け止める。
そしてそのまま、短剣ごとサクラちゃん地面に叩きつける。
「きゃあっ!?」
「トドメだっ!!!」
そして、魔王がサクラちゃんを押しつぶそうとした瞬間、僕の身体が動いた。
「たああっ!!」
「む……!!」
ガキン――――っと、僕の剣と魔王の拳がぶつかる。
「貴様……!!」
「まだ……!!」
僕は力いっぱい剣を振るい、何とかその攻撃を僅かに押し留める。その隙にサクラちゃんが、地面を転がって魔王の攻撃範囲からどうにか逃れることが出来た。
「助かりましたっ!!!」
「……く……!」
サクラちゃんが僕にお礼を言ってくるが、魔力が殆ど残っていない僕ではとても防ぎきれない。案の定、そのまま魔王に力負けして、僕は吹き飛ばされて瓦礫に叩きつけられる。
「うぐ……!」
叩きつけられた衝撃で、意識が飛ぶ。
そして、意識を失った数秒後―――
「――レイさん!!」
「――おい、無事か!?」
二人の心配そうな声が聞こえて僕はどうにか意識を取り戻し、ふらつきながら立ち上がる。その様子を見て、二人はホッとした表情を見せて、すぐに魔王の方に意識を向ける。
「ごめん……僕じゃ足手まといにしかならないかも……」
今の状態では倒すどころか、まともに打ち合うことすら出来そうにない。
そんな様子の僕を見て、魔王は不敵に笑う。
「流石勇者……と言いたいところだが、今のお前は敵ではない。こやつら二人を始末してからじっくりと相手をしてやるから、それまで大人しく見ているが良い」
「(……くそ、言わせておけば……!!)」
さっきまで死に掛けてたとは思えないくらい尊大な態度だ。逆に言えば、奴は短時間の間に徐々に消耗を取り戻しているということでもある。
やはり、このままでは―――
「大丈夫です、レイさん」
すると、サクラちゃんは笑顔で僕に語り掛ける。
「後はわたし達に任せてください!」
「ああ、お前は休んでいろ」
二人が僕を庇うように前に出る。
「二人とも……」
「レイさんにはお世話になってますし、こういう時にお返ししませんとっ!!」
「わ、私は別にお前の為ではないが…………」
「……ありがとう」
僕は二人に感謝の言葉を告げると、その場に座り込む。サクラちゃんは、そんな僕に優しい表情で微笑んでから、キリッとした表情に戻って魔王と対峙する。
「さぁ魔王さん、そろそろ倒れちゃってもいいんですよ」
「笑わせるな、小娘。よく見れば貴様、聖剣すら持っていない未熟者ではないか。そんな半端者の勇者に我が倒せると思うたか?」
「それはこっちのセリフですよ。あなたの方こそ、さっきから大して魔法を使いませんし魔力切れなんじゃないですか?」
「ほざけ! 小娘如きが、我を愚弄するか!!」
魔王が怒りの声を上げる。
とはいえ、サクラちゃんの言葉も正しい。
実際、今の魔王は僕達と戦っていた時の黒いオーラを使っていない。あれのせいで近づこうとすると跳ね返されて、更にこっちは毒で麻痺して動けなくなってしまう。
そのお陰でサクラちゃんとルビーだけで対抗出来ている。
「(エミリアの薬が間に合えばいいんだけど……)」
今の魔王であれば、二人でも互角に戦って行けるだろう。だが、
完全回復には時間が掛かるようだが、今も僅かずつ回復しているはずだ。
このまま戦い続ければ、いずれこっちが不利になる。
「(それにしても……)」
サクラちゃんは何故、魔王相手にあんなにも強気に出られるのだろうか。彼女は元々色んな人にフレンドリーに接する性格ではあるけど、まさか魔王相手にも……。
「(いや、違うかな。彼女は最初から魔王に対して一歩たりとも引いてなかった。むしろ、こっちが引くぐらいに堂々としていた。何か根拠があるのだろうか?)」
僕はサクラちゃんの方を見る。
だが、彼女がどんな表情をしているのかは後ろ姿しか見えない。
「……ルビー、ちょっとこっちに来て」
「?」
僕はこっそりとルビーに声を掛けると、彼女はこちらに近づいて来る。
「なんだ?」
「サクラちゃん、凄く自信満々だけど、もしかして何か策があるの?」
「いや、特に聞いてはいないが……」
「そう……?」
サクラちゃんは相手が魔王だと分かってて来たわけだし、ルビーもそれを承知で戻ってきたから何かしらの策を用意してると思ったんだけど……。
「(もしかして、何も考えてない……?)」
いやいや……確かに、僕と比べると頭より先に身体が動くタイプに見えるし、今まで一緒に戦ってて頭を使うような戦い方をしている場面は見たことないけど……。
「(それとも……女神様に聞いて実は魔王の情報を知ってるとか? いや、だったら名乗りなんかせずに……)」
魔王との戦いの最中だというのに、考え事をしてしまう。
「レイさん!」
すると、そんなことを考えていたらサクラちゃんから突然呼ばれる。
「え、何!?」
「この人、見た目おばあちゃんの癖に口調が男らしいんだけど何か知りませんか?」
「そこ!? ……エメシスって人の肉体を乗っ取ってるんだよ。元が年老いたお婆ちゃんだったから……」
「なるほど、それは許せませんね! 老人虐待です!!」
「まぁ、そうかも……でも、あの人が元凶だからなぁ……」
虐待というか自ら生贄になった感じだし、
何なら彼女が居なければこういう事態にならなかった。
まぁ、でも説明している場合じゃないからいいか。
サクラちゃんは今のやり取りで感情が燃え上がったのか、魔王に剣を突きつけていった。
「いくら自分の肉体が無いからって人から奪うって最低ですね、許せません!!」
「ふん、だからなんだというのだ」
「貴方を倒して、そのエメシスって人を解放してあげます!!」
「残念ながらそれは不可能だ。奴は、我を呼び出した時に、身体の大部分を捧げて絶命した。我はその肉片を拾い集めて、我の力で再構成させたに過ぎぬ。エメシス・アリターという人物は既にこの世になく、魂も輪廻から外れて消滅した」
「そんな……」
「我を倒したところで、奴は戻らぬ」
魔王の言葉にサクラちゃんがショックを受けた表情をする。
僕は彼女を励ますように言った。
「……サクラちゃん。エメシスはこいつを呼び出すために、何度も殺戮を行っていた重罪人だ。仮に生きてたとしても王都で断罪されるか、抵抗するならこの場で僕達が倒すことになってた」
「……」
「だから、気に病む必要はないよ。サクラちゃんの優しさはとても尊いものだし、君のそういうところ、僕は気に入ってる」
「……はい! ありがとうございます!!」
サクラちゃんは元気を取り戻したようで、再び魔王に剣を向ける。
「……えっと、魔王、なになにさんでしたっけ?」
「…………ナイアーラ、だ……!」
魔王はサクラちゃんの言葉にイラッとしたのか、言葉が震えていた。
「そう、そのなんとかナイアーラさん!
あなたは絶対に倒さないといけない相手です。覚悟して下さいねっ!」
「舐めるな小娘……!
いいだろう、それだけ大層な口を利くのであれば――」
そう言って、魔王は威圧感を強めた。
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