第516話 精神的戦力外勇者
「征け、我が魔力の胎動を……!!
「……
僕の掲げた剣から青い光の奔流が放たれる。
それは魔王の放った黒き闇の炎と衝突して激しい轟音を立てる。
「うおおぉーーーッ!!」
「はあぁーーーッ!!」
僕達はお互いの全力をぶつけ合う。
拮抗する力と力。その余波だけで周囲の建物が軋み始め、大地は震え出す。
屋敷の中はその衝撃に耐えきれず、内部が徐々に崩壊していき崩れ始めた。
「く……!!」
「……まだだ、もっと……!!」
僕は更に魔力を込めて、蒼い光の放出量を少しでも加速させる。しかし、僕単独の力ではやはり足りない。最初拮抗していた蒼い輝きと黒い波動は、徐々に黒い波動に侵食されていく。
「くく……くくくく……はははっ!!
……勇者レイよ、どうやら貴様の力はそこまでのようだなぁ!?」
「ぐっ……くうぅ~~!!」
僕は歯を食いしばりながら、必死に抵抗を試みる。しかし、その勢いを止めることが出来ず、魔王の黒い波動は蒼い光を飲み込み、僕の眼前に迫っていた。
「……もう無理よ、レイくん! このままじゃあなたが!!」
姉さんが僕の身を案じて声を上げるが、止めることは出来ない。
僕がもし止めてしまえば、僕の背後にいる三人まで巻き込まれてしまう……。
「……ふ、仲間の為に、己の命を賭すか?
実に美しい心意気だが、無駄な足掻きに過ぎんぞ!!」
魔王は勝利を確信したのか、愉快そうに笑っている。
「……っ!」
その時だった。
「諦めちゃダメです、レイ様!!」
後ろからレベッカの勇ましい声が響く。
そして彼女は言った。
「……エミリア様、ベルフラウ様、わたくしに考えがございます!!」
「……!!」
「……レベッカ、それは一体……?」
二人は戸惑っていたが、レベッカは二人に何かを話し始めた。
そして、彼女達は強い口調で言った。
「分かりました。私も覚悟を決めます」
「えぇ、レイ君を信じましょう」
二人の了承を得た後、レベッカは僕に向かって叫ぶ。
「レイ様、わたくし達の力、全てお使いください!!!」
その言葉と同時に、レベッカの身体から神々しいほどの光が迸る。
「……なっ!? 何故、あの小娘が、あの力を……!?」
魔王は驚愕して目を見開いている。
「さぁ、受け取って下さいまし! わたくし達三人の想いを!!」
その言葉と共に、彼女の手からは眩いばかりの黄金の光が溢れていく。そして、レベッカの後に続くかのように、姉さんとエミリアにも黄金の光に包まれ始めた。
三人の黄金の輝きは、まるで僕を包み込むように優しく輝いていた。
「これは……」
僕はその優しい輝きに触れて、思わず呟いた。
「……レイ様、ご武運を」
「……頑張ってね、レイくん」
「……レイ、貴方に託します」
三人の優しい思いが、言葉にせずとも僕の心の中に伝わってくる。
「……ありがとう、みんな……!」
僕は聖剣を握る手に更なる力を込めた。
すると、聖剣の蒼い光が更に輝きを増して眩いばかりに周囲を照らし出す。
「我が暗黒の波動を凌駕する輝き……だと!?」
「……魔王、僕はもう、お前に負けない!!!!」
三人の想いを乗せたその光は、僕の勇者としての力を極限まで増大させていく。魔王の迸る闇のオーラは、三人の黄金の輝きに抑え込まれ、その勢いを減退させていった。
「馬鹿な、こんなことが! 我の力が押し返されるなど、あり得ぬッ!!」
「うおおおおぉーーーーッ!!!」
僕は叫びながら、彼女達に貰った力を全て開放させる。
そして、周囲から闇が消え去り、僕の視界は全て黄金の光によって包まれた―――。
◆
―――そして……。
「………ば、馬鹿な……この、魔王………ナイアーラが……」
黄金の輝きが収まった時、魔王ナイアーラの半身は吹き飛んでいた。奴の右半身は再生すら出来ないほど、完全に消失しており、先程までの感じていた異常なまでの魔力は1/10以下まで激減していた。
今、奴に攻撃が出来れば、きっと奴は消滅するだろう。
……だが、
「……ぐ………ち、力が……」
僕は、まともに立っていられないほど酷く消耗していた。
「……はぁ……はぁ……レイくん……」
「ここまで……消耗してしまうとは……」
「……申し訳ございません……レイ様……」
三人も同様に、酷い疲労感でその場に倒れ込んでしまう。
レベッカが使用した魔法は、<女神の大奇跡>
その魔法は、詠唱者とその周囲の人間の魔力を消費することで発動する。
効果はあらゆる邪悪を打ち払う権能を勇者に付与させるというものだ。
レイはその力を得て眠っていた勇者の力を完全覚醒させ、
魔王の
だが、<女神の大奇跡>は本来なら正当な神にしか使用できない。
レベッカは、大地の女神ミリクの力の継承者ゆえに、その能力を発現出来たものの、あまりにも早い覚醒故に、本人の能力がまだ追いついていなかった。
その為、レイ達全員に負荷が掛かり過ぎてしまったのだ。
「……ま、まさか……我が、人間如きに……敗北するなど……」
魔王ナイアーラは消滅寸前の状態にも関わらず、まだ生き残っていた。
「く、くくくく……! いや、敗北では無い……!!
我も力の大半を失ってしまったが……残った力で貴様たちを葬れば……!!」
そう言って、魔王は凄まじい形相で残った手をこちらに動かそうとする。
「……レイ様!!」
レベッカは僕を守ろうと立ち上がろうとするが、動ける状態ではない。
他の二人も同様だ。
「(ぼ、僕が三人を守らないと……!!)」
でも、足腰が立たず魔力もほぼゼロの状態。
せいぜい這って魔王の元へ近付くくらいしか出来ない。
この状態で、どうやってあいつを倒せば……?
……そうだ!
僕は手直にあった瓦礫の破片を掴み、魔王に向かって投げ飛ばす。
すると、魔王の身体にそれが当たり、僅かに動きを止めることに成功した。
「……っ!! ……ははっ、何をする気か知らんが……そんなもので我は死なんぞ……!」
魔王は余裕の表情を浮かべているが、それでも構わない。
僕は必死になって、魔王に向かって石を投げ続ける。
「えいっ! えいっ!!」
「……ははっ! はははははは!!」
僕が投げる小石を手で払い除けながらも、魔王は高笑いを続ける。
「無駄なことを! 貴様の攻撃など、痛痒にも感じぬわ!!」
「じゃあこれはどうだ!!」
僕は近くにあった一番大きな石を両手に掴んで、全力で振り上げる。
「馬鹿め、そんなもの効くわけが―――!!」
と、魔王が高笑いして口を開けたところに、僕は最後の力を振り絞って叫ぶ。
「喰らえ、これが僕の力を込めた、とっておきの一発だぁーーーーッ!!!」
そして、僕は全力で魔王の顔面目掛けて投擲する。
僕の投げた岩石の塊が奴の口の中へと吸い込まれるように入っていく。
「……んぐぅッ!?」
魔王の口からは、ゴキッっと鈍い音が響き渡る。
「……が、はぁッ!?」
魔王はそのまま後ろに倒れ込んだ。
……………。
「た、倒した……?」
まさか、こんなしょっぱい一撃で魔王を倒せたというのだろうか。
「―――そんなわけなかろう!!」
「!?」
と思ったら、魔王はまだ生きており、グワッと起き上がる。そして、消失した半身を補うかのように、身体の中から無数の触手が蠢きだして、その身体を包んでいく。
「こ、この我が……人間などにぃッ!!」
魔王は怒りの形相のまま、更に巨大化していく。その姿はもう既に人型ですら無くなっていた。まるで巨大な芋虫のような姿になった魔王は、更に肥大化を続けていく。
「……これは、もう………」
僕は、フラフラと後ろに下がりながら、その場に座り込む。
「……レイ様……」
「レイくん……」
「……レイ……」
三人もその光景を見て、僕の後ろで悲しそうな声で僕の名前を呼んでいた。
……三人に合わせる顔が無いや。
「……皆……僕じゃ勝てないみたいだ……」
『……レイ』
僕がポツリと漏らすと、近くに転がっていた聖剣の
僕は、
「情けない使い手でごめんね、最後まで付き合ってくれてありがとう」
『……気にしないで、貴方は頑張った』
「うん、僕なりに精一杯やったよ……」
そう言いつつも、僕は少しだけ後悔していた。もっと早く勇者として目覚めていれば、違った結末もあったかもしれない。それか勇者なんて使命なんて無視して、最初から目標の平穏な生活だけを目指せば良かったんだろうか。
「(……なら、せめて皆だけも……)」
僕は、最後に後ろを振り返る。三人も辛そうな表情をしていたけど、それでもまだ諦めていないようだった。
だからせめて、彼女達だけでも守ろうと僕は決意する。
「(でも、もう……限界かも……)」
全身から力が抜けていき、目の前が霞む。
そして―――
「ヒィィィロォォォォォーーーはーーーーーー!!!」
突然、僕達の頭上から気の抜けた女の子の大きな声が響いてきた。
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