第515話 激戦

【視点:レイ】


 サクラとルビーが鉢合わせしている頃―――

 レイ、ベルフラウ、レベッカ、エミリアの四人は、

 魔王ナイアーラ相手に必死に戦っていた。


「剣よ、炎を纏え―――!!」

 僕は聖剣に上級獄炎魔法インフェルノを付与して、目の前の魔王に向かって行く。


「来るがよい、勇者よ!!

 貴様の今の本気、我が容易に打ち砕いてやろう!!」


「言われなくとも!!」

 僕は奴の偉そうな言葉に反発しながら剣を振りかぶる。同時に、剣に付与された炎の魔法の力が開放され、魔王目掛けて炎の嵐が降り注ぐ。


「喰らえっ!!」

「甘いわっ!!」


 だが、魔王は僕の炎の斬撃を正面から受け止める。剣を素手で受け止めた魔王だが、次の瞬間には解放された炎の魔力が僕達を包み込む。僕と魔王は剣と拳で競り合いながら睨み合う。


「ははははっ!! やるではないか、勇者よ!!」

「ふざけるなっ!!」

「まだ口答え出来る元気があるか! ならばもっと楽しませてもらうぞ、勇者よ!!」

「くそっ!!」


 魔王は嬉々として叫び、そのまま力で押し込んでくる。

 奴の圧倒的な力の前に、僕は後退りしながら歯噛みする。


 そこに、真横からレベッカが槍を構えながら、

 目にも映らないスピードで魔王の頭を串刺しにしようと飛び掛かる。


「はああぁーーッ!!!」

 気合い一閃、レベッカの光速の一突きが魔王の頭蓋を貫こうと放たれる。


 しかし、魔王はレベッカのその動きを目で追いながら――


「ふむ、良い動きだっ!!」

 自身の眼前に迫ったレベッカの槍を、たった指二本で受け止めてしまう。


「―――っ!!」

 驚愕の表情を浮かべるレベッカ。


「中々のスピードだが、パワーが足りぬ!!」

 魔王ナイアーラはそう言いながらもう片手で、レベッカに殴りかかろうとする。レベッカは咄嗟に背後に跳躍しながら躱し、空中で一回転しながら見事に着地する。


「見事な回避よ、だがこれを受けきれるか!!」

 魔王は手から黒い魔力を放出させ、レベッカが着地した地点に放つ。


「くっ!!!」

 着地に入ったばかりのレベッカは、その攻撃の回避に間に合わない。

 そこに、姉さんが割って入り、自身とレベッカの前方に透明な防御魔法を展開する。


「面白い、勝負!!」

「……っ!!」

 そして、魔王の黒い魔力が二人に襲い掛かる。

 姉さんの防御魔法が魔王の魔力を防ぐが、あまりの威力に次第に押され始める。


「姉さん!!」

「だ、大丈夫……!!!」


 姉さんがそう叫ぶと、姉さんの身体が発光し始める。

 そして、姉さんの周囲に光り輝くオーラが放たれ、魔王の魔力を徐々に押し返していく。

 僕は、姉さんに加勢するために、再び魔王に斬り掛かる。


「この力は……っ!!」

 魔王は姉さんの力に気を取られて、僕の接近に勘付くのが遅かった。

 しかし、それでも魔王は即座に攻撃を中断し、僕の斬撃を紙一重で回避する。


 が、僕の攻撃はそこで終わらない。魔王の体勢が崩れたところを見計らって、僕は一歩踏み込みながら返しの刃で魔王に斬り掛かる。


「ぬおっ……っ!!」

 しかし、魔王は身体を大きく仰け反らせながらも僕の返しの刃をギリギリで回避する。

 魔王はバク転をしながら後方に下がり、僕の間合いから離れると同時に、


「今度はこちらからだっ!!」

 と、叫びながら、まるで弾丸のように突進してくる。

 僕は、防御に回らず剣を槍のように構えて、奴の突進攻撃に備える。


 そして、魔王の拳と僕の突き技がぶつかり合う。

 衝撃でお互い吹き飛ばされそうになるが、何とか堪える。


 更にそこに―――


<極大吹雪魔法>フィンブル!!」

 上空で詠唱を行っていたエミリアの極大魔法が発動する。

 僕はその攻撃範囲が逃れるために、<飛翔>の魔法で緊急回避しながら後ろに高速移動する。


 直後、魔王の中心から極寒の吹雪が巻き上がり、魔王の周囲一帯を氷の世界に変えていく。


「今ですよ、レイ、レベッカ!!!」

 エミリアがここで決めろと僕達に叫ぶ。僕とレベッカは、氷漬けになった魔王目掛けて剣と槍を構えて一斉に飛び込み、渾身の一撃を放つ。


「これで終わりだっ!!」

「はあぁーーッ!!!」


 二人の必殺の攻撃が、氷漬けの魔王に放たれる。しかし、その一撃が届くと同時に、魔王の肉体から全方位に黒いオーラが迸る。そのオーラの直撃を受けた僕とレベッカは、勢いを完全に殺されてしまいそのまま吹っ飛んでしまう。


「うわっ!?」

「くぅ……っ!!」

 僕とレベッカはそのまま地面に叩きつけられる。

 即座に、起き上がろうとするが、身体がすぐに動かない。


「こ、これは……」

「麻痺毒……ですか……!!」

 そう、魔王の放ったオーラには強力な毒が含まれており、それが僕達の身体の自由を奪っていたのだ。


「待って、すぐに回復させるわ!!」

 姉さんは僕達の異変に即座に気付いて、僕達二人に駆け寄って回復の魔法を唱える。僕達は、姉さんの魔法によって少しずつ体の自由を取り戻し、再び立ち上がる。


 そこに、エミリアが飛行魔法を解除して降りてくる。


「二人とも、無事ですか!!」

「オッケー!!」

「まだまだ!!」

 エミリアの焦った声に、僕達は反射的に返事をする。


 そして、武器を構えながら魔王の方を睨む。

 魔王は黒いオーラを全身に迸らせながら周囲の氷を一瞬で溶解させる。


 そして魔王ナイアーラは、瞳孔を開いて僕達を睨みつける。


「……良いぞ、良いぞ!! これだ、この感覚だ!!

 我をここまで楽しませるとは……貴様らは実に面白いぞ!!」


 魔王は興奮したように叫ぶ。


「あ、あれだけ攻撃を仕掛けたのにピンピンしてますね……」

「流石、魔王って感じか……!!」

 エミリアの呟きに、僕は同意する。


 魔王は僕達に壮絶な表情で笑いながら言った。


「素晴らしいぞ、勇者一行よ!!

 個々では我の足元にも及ばんが、貴様たち四人が絶え間なく連携することで、我と対等に渡り合える程の強さを手に入れることが出来るようだな! ……人間という種はやはり侮りがたし!!」


 魔王は僕達の戦いを称賛しながらも闘志を燃やす。

 一方、僕達は気力こそ負けていないが、魔王の強さとその勢いに圧倒されていた。

 しかし、ここで魔王に屈するわけにはいかない.


「さて、次はどんな趣向を凝らしてくれるのか?もっと見せてくれ、お前たちの全力を!!」

「……全く、ノリノリね。こっちは必死だってのに……」


 姉さんは全身に汗を掻きながら悪態を付く。


「……姉さん、まだいける?」

「えぇ、問題ないわ……!!」

 姉さんは力強く頷きながら答えてくれた。


「よし……なら、次はまず僕が仕掛ける。

 魔王は多分、全力で防御に入ると思うから、隙を突いて仕掛けてほしい」


「うん」

「了解です」

「いつでもどうぞ!」


 僕の提案に三人はそれぞれ肯定してくれた。


「じゃあ、いくよ!!」

 僕はそう言いながら、魔王に向かって走り出す。

 魔王は僕を見据えて悠然と構える。


「蒼い星、大剣モード!!」

『――了解』


 僕は剣に語り掛けて、蒼い星は僕の声に応える。

 剣は刀身の光り輝かせながら、その形を通常の剣から大剣へと変化させていく。


「ほう!? 次は一体何を見せてくれる?」

 魔王は僕の行動を見て、愉快そうな笑みを浮かべる。


 僕はそのまま大剣を両手で握りしめたまま、魔王に肉薄する。

 そして、魔王の間合いに入った瞬間に、大剣を振り下ろす。


「喰らえっ!!」

「ふっ!!」


 魔王は余裕の表情で、その攻撃を素手で受け止めるが―――


「……ぐっ!!」

 その大剣の攻撃を正面から受けた拳から血が噴き出て、たまらず魔王は後ろに下がる。


「……我の、魔力を込めた拳を貫いただと!?」

「まだまだっ!!」

 僕は困惑している魔王に隙を与えないように更に攻め込む。先程までの剣と違い、重い一撃のため攻撃の速度は落ちるが、魔王も僕の剣の一撃を脅威と看做したのか、今までと比べて回避に専念し出した。


 そこに上空から三人の魔法攻撃が降り注いでくる。


<上空雷撃魔法>ギガスパーク!!」

<礫岩の雨>ストーンレイン!!」

<中級火炎魔法>ファイアストーム!!」


 魔王はその三つの魔法を<停止の魔眼>で同時に防ぎにかかる。しかし、その行為は目の前の僕に隙を晒すこととなり、僕はその隙を逃すことなく魔王に連撃を叩きこむ。


「はああぁーーッ!!!」

「ぬぅッ!?」

 魔王は何とか反応するが、それでも完全には間に合わず、数発の攻撃が魔王に直撃する。


「……ぐっ、小賢しい!! もう一度これを喰らうがいい!!」


 魔王は再び自身に黒い魔力のオーラを纏い始める。


「レイ、こっちへ!!」

「!!」

 僕は仲間の声を聞いて魔王から距離を取る。


「ならば見せよう、我の力の一端を!!

 我が魔力の波動にひれ伏すがよい、勇者レイよ!!!」

 魔王は黒いオーラを両腕に集めて、徐々に集束させていく。


「な、なんかヤバい攻撃っぽいわね」

「ベルフラウ様、防御魔法で凌げませんか!?」


 レベッカはエミリアに訊ねる。


「私の魔法でもこの威力は抑えきれないわ!

 いえ、この魔力量を考えると、例え結界を展開したとしても……」

 姉さんは焦った表情で答える。


「……なら、聖剣の能力を使えば」

 僕は蒼い星に話しかけて、彼女の言葉を待つ。

 すると、僕の聖剣が蒼い光を放ちながら、僕に語り掛けてくる。


『分からない、でも聖剣は対魔物に対して絶大な威力を発揮する。その効果は、魔物の王である魔王にも適用されるはず。なら、あなたの聖剣技と私の力があれば凌ぎきれるかもしれない』


「……そっか、ならキミの言葉に賭けるよ」

 僕は目を瞑って、聖剣に自身の魔力を一気に注ぎ込む。

 それと同時に、蒼い星の光が輝きを増して眩くなっていく。


「(頼むよ、僕の身体……!)」

 自身の魔力を限界近くまで注ぎ込む反動で僕の意識が遠のき始める。それでも、今この瞬間に倒れるわけにはいかない。そして、僕は目を開くと同時に、蒼い星を空高く掲げる。


「……カレンさん、力を貸して……!!」

 僕は、今も王都で僕達の帰りを待ってくれているカレンさんを思い浮かべる。


「聖剣技―――」

 僕は技の構えに入る。


 その間、魔王のオーラはどんどん肥大化していく。


「……どうやら、貴様も大技を放つつもりのようだな。

 良いだろう、少々早いが、これでフィナーレとしようか……!!!」


 魔王は両手を合わせて、巨大な漆黒の球体を生み出す。


「これで終わりだ、勇者よ!!」

「終わらない……終わるのはお前だ、魔王!!」


 そして、勇者と魔王の戦いは――――

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