第514話 一方その頃……

【視点:サクラ】


 一方その頃、もう一人の勇者ことサクラ・リゼットは、自由騎士団と共に王都から離れて、グラン国王陛下の命により魔物の襲撃のあった街の救援に赴いていた。


「これで、さいごっ!!」

 わたしは、襲い掛かってきた魔獣を双剣一振りで斬り伏せる。


「ふー、終わりっと……さてさて、もう魔物はいないみたいだねえ……」

 わたしは、街の全容を確認する為に、丈夫そうな家の屋根の上に跳んで上がる。


「ここなら良いかなーっ……ええと、魔物は……うん、大丈夫そう。

 けど街の被害が出てるし復興作業とかも必要になるよね。とりあえず今は――」


 わたしは視線を遠くに向ける。


 戦いが終わったとしても、街の人達の安否も確認も必要だ。殆どの人達は自由騎士団の皆に保護されてるはずだけど、もしかしたら家族とはぐれちゃった人もいるだろうし……。


「……よし、じゃああっちの方に行ってみよう!」

 わたしはそう決めて、足に魔力を込めて跳躍する。


<飛翔>まいあがれ

 風の魔法を発動させて、私は一気に加速して空を走る。

 そうして、一歩を踏み出したところで――――


『サクラよ、聴こえておるか!?』

「えっ」


 突然、何処からともなく女性の声が響いてきた。

 わたしは空を飛びながら周囲を見回す。しかし、周囲には誰もいない。


「誰? どこにいるの?」

『妾の姿が見えぬのは当然のこと。直接余が下界に降りるわけにもいかぬゆえに、こうして声だけで話している』


 ……あれ、もしかして、この声……。


「もしかして、女神様?」

『うむ、女神イリスティリアであるぞ』


 ああ、やっぱり、聞いたことのある声だった。


「どうしたんですか?」

『ちと、面倒な事が起きての、早急にお主と連絡取らねば不味い事になりそうと判断し、今は独断でお主の頭の中に直接話しかけておる』


「何ですかその便利そうな能力? ええと、面倒な事ってなんです?」


 わたしは街の様子を空から伺いながら、軽い感じで聞いてみた。


『うむ、魔王が現れた』

「へー、魔王がー……………んん?」


 一瞬、理解が追い付かなかった。


「今、魔王が現れたって言いました?」

『うむ、言ったぞ。今現在、魔王ナイアーラと名乗る者が、受肉してこの世界を破滅に導こうとしておる。どうやらまだ完全体ではないようだがの……』


「一大事じゃないですか!?」


『いや、だからお主にこうして連絡を取っておるのだ!』


 女神様は少しイライラした声で叫ぶ。

 わたしの心の中で響いてるお陰ですっごい大音量なんですけど!!


「え、ちょっと待ってください、今、その魔王は何処に?」


『王都の近くの古びた屋敷であるな。

 レイ達が必死に戦って抵抗しているようだが、いつまで凌げるか分からんぞ。

 勝てる可能性も無くはないが……』

 

 ええー、レイさん達が!?わたしが王都から離れている間に、そんな世界の命運を掛けたバトルが始まってるなんて!!


「分かりました! すぐに行きますよっ!!」

 わたしはそう返事をしてから、飛行魔法を解除して地上に降下する。すると、丁度降りた時に、自由騎士団の団長であるアルフォンスさんがこちらを下から眺めていた。


「あ、団長」

「おー、サクラ。その位置だと良い眺めだぞー」

「良い眺め?」


 団長さんは、何故か目を細めて口元をだらしなく緩めている。


「ああ、具体的にはお前のスカートから見える白い布地が―――」

「てやあっ!!!」

「ぶほぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 わたしは手を伸ばして風魔法を発現させ、団長さんの顔面に叩きつける。

 そのまま団長さんは地面に倒れ伏す。


「ふぅ……全く、油断も隙もあったものじゃないんだから……」


 私はため息を吐いて、下からスカートの中が見えないように気を付けて着地する。

 すると、風魔法でぶっ倒れた団長さんが起き上がる。


「いててて……おい、サクラ!!

 いきなり上官に向けて攻撃魔法放つとかどういう了見だ!!」


「なんですかー、女の子の絶対領域の先を見ようとした団長が悪いんですよ。っていうか魔法で感謝してくださいよ。最初、そのまま急降下して蹴り飛ばそうかと思ってたんですからね」


「お前に蹴られたら首が吹き飛ぶわっ!!!」


「ひっどーい、こんな非力な女の子になんてことを言うんですかっ!」


「霊長類最強の間違いだろ!?」


「違います、カレン先輩の方が最強に近いですから!!」


「自覚あんじゃねーかよ!!」


「というわけで、わたしはもう行くんで失礼しますね!」


 そう言いながら私は団長の横を通り過ぎて街の出口へ向かって行く。


「っておい待て!! 魔物は全部討伐したといっても仕事がまだ残ってんだろ!!」


「でも、魔王がついに現れたんです!」


「は……!? いやいや、そんな話聞いてねえぞ、王宮魔道士ウィンドの奴から連絡でもあったのか?」


「いえ、神様からです」


「……お前、遂に頭がおかしくなったか?」


「失敬なっ、正常ですよっ!!」


「常時バーサーカーみてぇなお前に正常時なんてあんのか?」


「団長、あんまり言葉が過ぎると魔王の前に団長を討伐しますよ♪」


 わたしは拳を鳴らしながら言った。


「よし分かった落ち着け。お前が落ち着かないと俺が死ぬ」

「そういうわけでお先に失礼しますー」


 わたしはそう言い残し<速度強化>の魔法を使用してから、一気に猛ダッシュして街の出口を越えていく。


「って、ちょ、待て、速すぎる、止まれ!!」


 後ろで団長が何か叫んでいる気がするが、無視することにした。

 だって、今は一刻を争う状況だし、止まる理由がないもん!


 ◆


『―――時に、サクラよ』

「なんですかっ、イリスティリア様!!」


 わたしは街道を猛ダッシュしながら、頭の中に直接語り掛けてくる女神様に返事をする。


『お主、このまま走って向かうつもりか?』

「ですけどっ!?」


『お主、魔王がいる場所を知っておるのか? 王都の近くにある屋敷なのだが』

「あ、そっか……ええっと……あっ」


『どうした? 心当たりでもあるのか』


「えーっと、数ヶ月前に騎士団の調査の際に見つけたお屋敷だと思うですけど……」


『知っておったか……それで、どれくらい時間が掛かるか分かっておるのか?』


「三時間くらいかな」

『遅いわっっ!!!』


 頭の中でイリスティリア様の大声が響く。

 そんな事言われても、一体どうしろっていうの!?


「じゃあもっと早い手段教えてくださいよっ!! 大体、イリスティリア様、いつも口ばっかで大したことしてくれないじゃないですか!!」


『な……お主、神に向かってなんという罰当たりな……!!』


「とにかく急いで向かいたいんですからさっさと教えてください!!」


『まったく、仕方ない勇者であるな……』


 女神様は呆れたような声を出す。


 そして次の瞬間―――。


 ◆


「……あれ?」

 わたしは周りの景色が変わったため立ち止まる。


「イリスティリア様、ここ何処です?」


『目的地の近くであるぞ。だが、魔王の放つ瘴気のせいで余の力が及ばなくなっておるから、目的地の直接行けんかったがのぅ』


「へー……それで、目的地はどっちの方角です?」


『南、距離はあと5キロ程度といったところかの』


「よーし、こうなったら全力で……」

 と、わたしは再び猛ダッシュの準備を使用するが……。


『む、待つがよい、サクラよ。

 南の方から飛行魔法で何者かが飛んでくるぞ……かなりの速度だ』


「え、まさか、魔王!?」


 レイさん達が足止めしてくれるはずだけど、まさか負けちゃったの……!?

 わたしは、緊張で唾を飲み込む。


 すると――。


『ん……この魔力反応………』


「あの、イリスティリア様?」


『どうやら魔王ではなさそうであるが……何者だ? あれほどの速度で飛行するとなると、お主やエミリア並の錬度が無いと出せぬぞ』


 わたしは、南の方を目視する。


 すると、確かに南の方か何者かが飛んでくる。

 そして、目を凝らしてみると女の人だった……エミリアさんじゃない。

 髪色違うし……でも年齢は大体、私と同い年くらいかな?


『……様子がおかしいの、相当焦っているように見える』


「方角的に今から向かう場所に関係あるのかな……わたし、ちょっと彼女の方に行ってみます!!」


 そう言って、わたしは飛行魔法を使用して、

 風魔法で加速を掛けて一気に最高速度で彼女に近付く。


「すみませーーーん!!!!!」

「……!?」


 わたしが声を掛けると、彼女はこちらを見てギョッとした表情を浮かべた。

 金髪の長い髪を後ろで括ってる女の子だ。

 衣装は、エミリアさんに似た感じの魔法使い風の衣装だった。


「わたし、サクラっていいます!! あなたは一体……!?」

「く……!?」

「え……!?」

 彼女が急停止しようとしたのか、バランスを崩してそのまま地面に落下していく。


「ちょっ、危ない!?」


 わたしは慌てて、地上に高速降下して彼女を地上で受け止める。

 かなりの衝撃だったけど、彼女の身体は軽くてわたしの足は何とも無かった。


「と、と、と………ふう、セーフ……」

 わたしは安心して、彼女を地上に降ろして立たせる。


「大丈夫だった?」

「……あぁ………」


 と、彼女は小さな声で言う……見た目より大人の女性の声だなぁ。

 もしかして、結構年上だったりするのかな?


「随分急いでたみたいだけど、どうしたの? 

 南の方角から来たみたいだけど、何かあった?」


「………そ、そうだ……は、やく王都に急がないと……っ!!」

 と、彼女は再び飛行魔法を使おうとする。しかし、酷く疲れていたのか身体に上手く力が入らないようで、彼女はその場でよろけそうになる。


 わたしは、再び彼女の身体を支えて語り掛けた。


「わたし、こんな見た目だけど、王宮の騎士なの。

 グラン陛下に伝えたい事があるなら、わたしが伝えてあげるよ」


「……な、なら……」

 彼女は、深呼吸を2,3回繰り返したところで、

 落ち着きを取り戻したのかようやく言葉を発する。


「……魔王が現れた!!!」


「!!」

「……それで、今はレイっていう強い戦士と彼の仲間達が必死に戦ってくれてる。

 わたしは……怖くて……何も出来なくて……彼らに言われて、自分だけ逃げてしまった。

 だから、早く助けを呼ばないとあいつらが殺されてしまう……!!」


「……分かった、わたしに任せて!!」


「あ、ありがとう……!!」


「いいよ、気にしないで。それよりも、魔王の現れた場所を教えてくれるかな?」


「それは、構わないが………まさか、お前、行くつもりか!?」


「そのつもりだよ?」


 わたしは、身体の柔軟をしながら戦いの準備を進める。

 きっと今から激戦になるだろうから。


「無茶だ、いくらなんでも……相手は魔王なんだぞ!!

 あんな奴に勝てるわけが……それに、レイの命が危ないんだ。

 だから助けを呼ばないと―――」


「うん、だから、私が行くの」

 わたしはそう言いながら、柔軟を終えて飛行魔法を使って空に浮かび上がる。


「わたしは勇者だから」


「……勇者?」


「そう、勇者。世界に平和を導くヒーローだよ。

 だから教えて、わたしが、レイさんたちを助けてみせるから!!」


「……お前、馬鹿なのか?」


「あはは、普通にそう思っちゃうよね……でも本気だよ。

 わたしは『勇者』……女神様によって選定された、勇者の力を与えられた人間。

 ……だから、魔王が現れたなら倒さないといけない。それがわたしの使命」


「……分かった……なら、私も一緒に行く」

 彼女は何かを決意したのか、そう言った。


 さっきの飛行魔法の速度といい、この人の実力は肌で感じてる。

 少しでも戦力が増えるのは心強い。


「なら、一緒に行こう!

 ……あ、そうだ、あなたの名前教えて?」


「……ルビーだ。

 すまないが、消耗で力が出しきれない状態にある。

 体力と魔力が回復するような道具を持ってないか?」


「あ、それならありますよ!

 <ハーフポーション>っていう体力と魔力を半分ずつ回復するアイテムです。

 ちょっと高額でしたが、どうぞ!!」

 わたしは、ルビーさんにその薬を手渡す。


「すまない……」

 ルビーさんは、その薬を受け取ると迷うことなく飲み干す。

 そして、彼女が全て飲み干すとわたしに空き瓶を手渡して、


「……はあっ!」

 と、彼女は気合いを入れるような掛け声を出す。

 すると、彼女の周囲に膨大な魔力がオーラとなって出現する。


「……す、すごい魔力……」

『この魔力量、尋常では無い。恐ろしく稀有な才能の魔法使いと見た……』

 イリスティリア様の考えがわたしの頭の中に響いてくる。


 ルビーさんは身体に魔力を纏わせながら言った。


「……薬、感謝する。


 それにお前の馬鹿さ加減に呆れて私も吹っ切れることが出来た。

 これで何とかアイツの力になれそうだ。……おい、何してる、行くぞ!」


「え、あっ、はい!!」


 先程の弱気な態度と違って、彼女はすごく気合いが入っていた。

 思わず、わたしは返事をする声が大きくなってしまった。


「この先の屋敷だ……時間が無い、行くぞ」


 ルビーさんはそう言って、南の方角を睨む。

 そして、わたし達二人は飛行魔法で南の方角にある屋敷に飛んでいった。

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