第512話 魔王ナイアーラ
僕達は一斉にナイアーラに飛び掛かった。
まず最初に、レベッカが槍を構えて突進攻撃を行う。
「ふんッ!」
レベッカの攻撃に対してナイアーラは手を払うように動かし、
彼女の槍の軌道を変化させ横にズラす。
「―――っ!!」
レベッカはそのままナイアーラの腕に掴まれて、ホールの壁に叩きつけられる。
「ぐはっ!」
「レベッカ!!」
壁に打ち付けられた衝撃で、肺の中の空気を全て吐き出してしまったのか、彼女は苦しそうな声を上げて、そのまま倒れてしまう。
「次は誰が相手だ!?」
ナイアーラは余裕の表情で、姉さん達にそう叫んだ。
「なら、次は私です!!」
エミリアはそう叫んでホール内の壁や天井から多数の赤い魔法陣を展開させる。
「……ほう、これは中々の魔力量ではないか」
ナイアーラは、エミリアの展開する魔法陣の数に感心してそう呟く。
「いつまで余裕ぶってるつもりですか!!
エメリアがそう魔法名を宣言すると、展開した魔法陣から1メートル強の大きさの火球の飛礫が一斉にナイアーラ目掛けて飛来していく。
しかし、ナイアーラはそれを一瞥すると、ピタッと火球の動きが止まる。
「なっ……!?」
「魔眼というものをご存知かな?
我の瞳に映る限り、汝が放つ全ての魔法の軌道を変える事が出来る。
故に、我に並大抵の魔法は通じぬよ」
「そんな……!」
「<止まれ>」
ナイアーラはまるで命令するかのように言葉を下し、
言葉と共に、宙に浮かんでいた無数の火球が一斉に地面に落下する。
「人間の術式に合わせるなら<停止の魔眼>……と名付けておこうか。力衰えたとはいえ、元神である我にそのような粗雑な魔法を使おうなどとは……片腹痛いわ」
ナイアーラはそうエミリアを威圧する。すると奴の目がキラリと光り、エミリアの放ったはずの火球の一つがエミリア目掛けて飛んでいく。
「きゃあああっ!」
エミリアは絶叫し、その直後、彼女に火球がぶつかり爆発を起こす。
「エミリア!!」
僕はエミリアの元へ走って、エミリアを抱き起こす。
「大丈夫!?」
「な、なんとか………」
エミリアは火傷を負ったものの、無事だったようだ。
「ふん、その程度では話にならないな」
「くそっ……! ……姉さん、エミリアを回復してあげて」
「分かったわ」
僕は歯噛みしながら姉さんに指示を出してから、ナイアーラを睨む。
ナイアーラは、涼し気な表情を浮かべて淡々と言った。
「人間にしてはなかなかのスピードと魔力だ。だが、双方ともに人間の限界を超えるほどの域に達しておらぬ、それでは我に届かない」
そう言ってから、ナイアーラは僕に視線を向ける。
「せめて、お前は我を失望させてくれるなよ? 折角、仮初とはいえ肉体を得て、久しぶりの運動なのだ。楽しませて貰わないとな……」
「……運動だと?」
「ああ、言ってなかったか?
我にとってこの戦いは肉体を馴染ませるためのリハビリのようなものだ。
せいぜい我に適度な運動をさせてくれよ?」
「ふざけるなよ!」
僕は怒りに任せて剣を振り上げようとするが、
「レイくん待って!!」
姉さんの叫び声を聞いて、ハッとする。
「感情的に戦っちゃダメ、あいつはわざと挑発してるのよ。
今、レイくんがやられたらどうしようもない、だから落ち着いて……!」
「っ……!」
僕は一度深呼吸をして気持ちを整える。
「……ゴメン、レベッカとエミリアがやられて感情的になってた」
僕はそう呟いて彼女達に目線を移す。レベッカは、壁に吹き飛ばされていたが、命に別状はない。エミリアも先程の攻撃で負傷していたが、姉さんの治療のお陰で目立った外傷は消えていた。
二人はまだ無事だ。
そのお陰で、姉さんの言葉でいくらか冷静さを取り戻せた。
「ふふ、それでいい。勇者とは冷静沈着でいなければならない。
それに、リーダーに意見を出せる者が居るのは、一団として纏まってる証拠だ。
中々良いパートナーを持っているじゃないか」
ナイアーラの感心したような発言に、姉さんは冷たい声で言った。
「あら、それはどうも魔王さん。貴方に褒められても何も嬉しくないけどね」
姉さんの言葉に、ナイアーラは顔に皺を寄せて言った。
「……妙な雰囲気だな、貴様……本当にただの人間か?
まぁ良い……続きを始めよう。……ところで、そこの女は戦闘に参加しないのか? まるで弱者のように、武器を構えながら肩を震わせているが……」
ナイアーラは、僕達から視線を外して、僕達の後ろを指差す。僕達は警戒しながら、後ろを振り返ると、そこには杖を構えたまま身体を震わせているルビーの姿があった。
「ルビーさん……」
「……っ」
僕が声を掛けると、彼女はビクンと肩を震わせる。
「……ふん、どうやら勇者パーティの一員でもなく、何の覚悟もないまま我と対峙した凡人のようだな。目障りだ、消えろ」
ナイアーラは吐き捨てるように言うと、彼女の前に魔法陣を展開させる。
「
直後、炎が勢いよく噴き出し、ルビーを飲み込もうとする。
「―――ッ!」
ルビーは目を瞑って、苦痛に耐えるかのように歯を食い縛る。
しかし、その炎がルビーに完全に届く前に、僕が割り込んで剣で炎を薙ぐ。
「―――ぐっ!!」
しかし、魔王の攻撃を相殺するには至らず、僕は代わりにその攻撃の大半を受けてしまう。全身が焼かれるような熱さと痛みに襲われながらも、僕はなんとか踏ん張った。
「れ、レイ……!」
「大丈夫だよ、このくらい」
心配そうな顔を浮かべるルビーを見て、僕は彼女に微笑みかける。
「我の攻撃を受けて耐えるか……流石、勇者よ。
お前の仲間も実力不足ではあるが、我に歯向かうだけの気概を持っている。
そこの庇われるだけの凡人とはレベルが違うな」
「……っ」
ナイアーラの言葉を聞いたルビーは、悔しそうに唇を噛む。
「レイくん、今回復を―――!」
姉さんはそう言いながら僕の方に走ってきて僕に回復魔法を使用する。
その間、ナイアーラは僕達に攻撃を仕掛けてこなかった。
僕は奴の動きが読めずに、睨み付ける。
その様子に、魔王ナイアーラはニヤニヤした表情を浮かべて言った。
「……ふ、安心したまえ。
弱者を庇って死なれても興醒めだからな。
せいぜい死力を尽くして戦ってくれ、そうしないと面白くない」
ナイアーラはそんなふざけたことを語る。
「……か、完全に舐められてますね」
エミリアは、奴の言葉に怒りで肩を震わせる。
そこに、ダメージがある程度回復したレベッカが歩いてきて、口を開いた。
「……ですが、それだけの力を有しているのは感じ取れます」
「レベッカ、怪我は大丈夫なのですか?」
「ええ……いきなり醜態を晒して申し訳ありませんでした、皆さま」
レベッカは、そう言いながら再び槍を構える。
「いいぞ、その意気だ。
勇者の仲間たるもの、力が通じぬとも立ち向かっていく気概がなければな」
「言われなくても……!」
僕は剣を構えて、皆も僕に並ぶように前に出る。
そしてナイアーラ目掛けて、僕は真っ先に走り出す。
僕単独で向かっても、こいつ相手には簡単に返り討ちにされるのは自明の理だ。
だけど、僕が動けば仲間達はそれに合わせて動いてくれる。
僕の想いに応えるように、まず姉さんが動いた。
「
姉さんは両手を前に突き出して、ナイアーラを標的にして束縛の魔法を発動させる。ナイアーラの足元を植物の蔦が絡み付いて動きを阻害する。
「
次にレベッカが重力を操る魔法をナイアーラに対して発動させる。
ナイアーラの周囲の床が軋みだし、中心にいたナイアーラは膝を付く。
「……ほう、中々面白い技を使う」
ナイアーラは感心したような声を出す。
そして、僕がナイアーラに肉薄し、剣を振り下ろす。
「――っ!?」
しかし、ナイアーラは僕の剣を片手で簡単に受け止める。
「……な」
「何故、重圧の魔法の中で動ける?……と、言いたいのだろう?
簡単な話だ。今、そこの少女が使った【重圧】は本来、神に属する存在のみが使用できる術。故に元は神であった我にはさほど通用しない」
そう言ってナイアーラは僕にニヤリと笑い、自身の身体の至る所から無数の蠢く触手を出現させる。
「く……っ!」
「残念だったな、勇者よ。では―――」
ナイアーラは自身の触手に指示を下そうとする。
しかし、唐突にナイアーラの背中にドカンと爆発を受けたような衝撃が走る。
「なに……っ!」
突然のことに驚愕するナイアーラ。
その瞬間、奴は隙を見せた。
「――もらった!!」
僕は、その瞬間に僕は剣に魔力を込める。隙を見せたナイアーラは背後に気を取られていて剣を受け止めていた腕の力が弱まっている。
その為、グンと力が高まった僕の剣の一撃にナイアーラは対処出来ない。
結果、僕の剣は奴の掌に食い込み、そのまま奴の手首を切り落とした。
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