第510話 呼び出してはいけなかったモノ
姉さんの空間転移によって屋敷の地下から退避した僕達は、
そのまま走ってコレットとメアリーが監禁されてた部屋に身を隠していた。
そこで、僕達は一旦床に腰を下ろしてから、
さっき突然起こったショッキングな出来事の話をしていた。
「さっきのは一体……?」
「エメシスの身体……肉がはじけ飛んでた……」
僕の呟きにルビーが答える。
確かに、エメシスの肉体は内側から破裂して死んだように見えた。
エミリアはその時の光景を思い出したのだろう。
顔を顰めて苦々しい表情を浮かべるが、続けてこう言った。
「……あいつ、最期に生贄がどうのとか言ってた気がしますね」
その言葉に、レベッカは頷く。
「ええ、わたくしも聞いておりました。【旧神】とやらを召喚する為に、自らを犠牲にしようとしたと推測できますが……」
レベッカは、顎に手を当てて自分なりに考察する。
「だけど、まさか自分を犠牲にしてまで……」
「いや……あいつの物言いから察すると、全員を生贄にしようとしてたみたい。僕達は姉さんのお陰で生贄にならなくて済んだけどね」
「なら、あいつの目論見は失敗したと考えていいのかしら?」
姉さんは、エメシスが死んだかどうか分からないからか、不安そうに言う。
「恐らくね。あの状況じゃ、生きているとは考えにくいし……」
僕達がそう話し合っていると、ルビーは下を向いて無言になっていた。
「ルビー様……?」
レベッカがそれを気にして彼女に声を掛ける。
「……私は兄さんを生き返らせるため……ビレッドは、利己的な理由で協力してたって話は聞いてた。でも、あいつは何の為にあんな事を……」
「……」
僕も、エメシスの行動の意味はよく理解出来なかった。
「死んでまで叶えたい目的があったということ……? だけど、それは一体……」
と、僕達が考えていると、突然屋敷の地下辺りから轟音が響く。
そして、屋敷の何処かが倒壊するような激しい衝撃と爆音が聞こえてきた。
「……!?」
「この音は……?」
僕達は慌てて立ち上がり、部屋の扉を開いて廊下に出る。
◆
廊下に出ると、僕達が逃げてきた方角。
つまり屋敷の中央の広間から火の手が上がっていることに気付いた。
「あの方向は……!!」
僕達は急いで中央の広間に走っていく。
すると、そこには死んだはずのエメシスらしき姿があった。
「うそ……なんで……?」
「あれで生きてるなんてありえません……」
エメシスは全身血塗れになりながらも、何事もなくその場に立っていた。
しかし、彼女は少し前とは雰囲気が異なっており、晴れやかな表情をしている。
……否、果たしてそれは本当にエメシスなのだろうか?
目の前にいる女は、間違いなく死んだはずなのに……。
彼女?は僕達に気付いて、こちらに歩いてくる。
そして、意外な事を言った。
「やあ、諸君……今日は良い日だね」
「……へ?」
「……は?」
「……んん?」
僕達は思わず素っ頓狂な声を上げる。
少し前まで鬼のような形相で襲い掛かってきたというのに何があったというのか。
まるで生まれ変わったかのようだ。
それに今の口調、まるで男の人のような……?
エメシス?は僕達が驚いているのを見て「ああ、すまない」と言って言葉を続ける。
「久しぶりに肉体が手に入ったから今は気分が良くてね。
まずは君達に自己紹介でもしてやろうか……では、準備は良いかね?」
エメシス?はそう言って、僕達の表情を伺う。
「自己紹介……どういうことだ?」
「それに、エメシス、あなたは死んだはずでは……」
エメシスは動揺する僕達を笑いながら言った。
「では諸君、改めて挨拶を―――」
そして、次の瞬間、信じられない光景が広がった。
「我の名前は、【ナイアーラ】……以後、お見知りおきを」
彼女が名乗った直後、彼女の身体が膨れ上がり、服を引き裂いて巨大な触手が現れたのだ。その姿はまるで神話に出てくる怪物そのもので、僕は思わず呟いた。
「……化け物……!」
「あらら……これはまた随分と醜悪なものが出てしまったか」
その怪物は、自分の身体を見下ろして苦笑する。
「まさか、エメシスが降臨させようとしては【旧神】ってのはお前か!?」
「ああなるほど、今の我は人間にとってそういう扱いになっているのか」
彼女?は納得したように手を叩くと、続けて言った。
「奴が呼び出そうとした【旧神】というのは間違いなく我の事だ。
しかし、今は現世に転生済みでね。肉体こそ初めて得たが、今の我は神じゃない」
「そ、それは、どういう……」
僕がそう質問すると、ナイアーラと名乗った奴は笑いながら言った。
「ははは、初対面な反応をするなよ、レイ。
お前は既に何回も我と会ったことがあるだろう?」
「え……」
僕はナイアーラの言葉を聞いて戸惑ったが、全く覚えがない。
「やれやれ……なら、思い出させてやろう」
ナイアーラはそう言いながら、手を掲げる。
そして言った。
――その呪いの言葉を。
「我に恐怖せよ――――――
次の瞬間、僕の意識は闇に飲まれた。
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