第509話 まだ、終わらない
僕達は、誘拐実行犯の首魁であるエメシス・アリターと対峙する。
途中で元々はエメシスの仲間であったルビーの協力もあり、彼女を無力化することに成功した。
「レイくん、それでこの人どうするの?」
姉さんはエメシスの処遇について僕に尋ねてくる。
「そうだね……このまま王都に連行したいところだけど……」
僕はそう言いながら、血濡れの床に座り込んだエメシスを睨み付ける。
その視線が気に入らなかったのだろう。
エメシスは、まるで般若のような形相でこちらを睨んでくる。
「きぃさぁまぁああ!! よくもこの儂をこのような目に!! ただでは済まさないぞ!!」
「うわぁ、こっちは元気いっぱいだよレイくん」
「……みたいだね」
彼女に戦う力は残っていないはず。
だけど、それでも言う事を聞く気は無さそうだ。
「姉さん、とりあえず暴れないように縛っといて」
「おっけー、
姉さんは僕の指示を受け取って、エメシスに束縛の魔法を発動させる。
エメシスは鎖と植物の蔦に巻かれて身動きが取れなくなった。
「ぐ……お、おのれ……この程度の魔法で……」
エメシスは力を込めて束縛を解こうとするがビクともしない。
どうやら魔力を完全に失ったせいで先ほどまでの腕力も失ったようだ。
レベッカは、その様子を確認してから限定転移で槍を取り出し、
身動きが取れなくなったエメシスの所まで移動し槍の先端を突きつける。
「無駄な抵抗はおやめくださいまし。
もし何か変な動きをしようものならわたくしの槍があなたの喉を貫きますよ」
「ぐ……!!」
抵抗できないエメシスは、老婆の顔を歪ませてレベッカを睨み付ける。
エミリアは僕の隣に歩いてきて言った。
「……で、この後どうしましょうか、レイ」
「そうだね……」
どうしようかと悩んでいると役割を終えたルビーがこちらに戻ってきた。
「お疲れ、ルビー」
と、僕は彼女に労いの言葉を掛ける。
「ちゃんと言われた通りに動いたわよ」
ルビーは最初に僕に言って、その後、僕の隣に居たエミリアに視線を移す。
エミリアは彼女の視線を受けて不機嫌そうに言った。
「……なんですか?」
「別に……私の事を気に入らないように見えたから」
「……信用できない相手にはそれ相応の態度を取ってるだけですよ」
エミリアは、彼女から視線を逸らして言った。
僕はエミリアの頑なな態度が気になってエミリアに話しかける。
「まぁまぁエミリア。彼女は指示通りに動いてくれたんだからいいじゃん」
「……レイ、ルビーに対してやたら優しい対応じゃありません?」
「そ、そんな事無いと思うけど……?」
ジト目でこちらを見るエミリアに僕は気圧されながら答える。
「いいえ、普段のレイならもうちょっと警戒します。
なんですか、まさかルビーが可愛いから悪人でも甘い対応してるんですか?」
「ち、違うよ……ただ……」
ルビーの目的がお兄さんの為だと聞いて、少し同情しただけだし……。
僕はそう言おうとしたのだが、ルビーが呆れたようにエミリアを見て呟いた。
「……嫉妬か」
「違いますよっ!!」
ルビーの言葉にエミリアが即座に言い返した。
しかし、ルビーはその反応を見てクスクスと笑いながら言う。
「その反応、図星か……冷静ぶってる癖に、子供ね……」
「はぁ!? 何を偉そうに、あなただって同じくらいの年齢でしょう?」
レベッカは彼女の煽りに過敏に反応して怒り出す。
「私は少なくともあなたより長く生きてるわ」
「嘘ばっかり! どう見ても同い年ぐらいじゃないですか!」
「はぁ……これだから子供は……」
ルビーはため息をつくと、僕を見て呟く。
「……お前も大変だな」
「え、いや……普段はここまでエミリアは短気じゃないんだけど……」
よっぽどルビーの事が気に入らないのだろうか。
どうもこの二人は仲が悪いようで、ピリピリした雰囲気だ。
……と、僕はそこで思い付いた。
「……そうだ、ルビー」
「なに?」
彼女は頭を傾げて僕を見つめる。
「<黒檻>って魔法でエメシスを拘束したまま空間転移って出来る?うちの姉さんの転移だと、他の魔法を使いながら移動までは出来なくって……」
ルビーは姉さんの転移とは違うけど似た様な魔法を使用していた。なら、姉さんが使えないその魔法の使い方が出来るのではないかと僕は思ったのだ。
しかし、ルビーは首を横に振ってからこう答えた。
「……私の使う術式はさして便利な移動魔法じゃない。
人ひとり運ぶくらいは出来るけど、移動距離も短くて不便な魔法」
「え、そうなの?」
「お前の攻撃を回避した時もギリギリ当たらない死角に退避した。
咄嗟の場合だと距離も一気に短くなるし、あまり当てにしないでほしい」
「あー……そうだったんだ……」
確かに、ルビーは僕の聖剣技を回避した時、僕の真上に移動してた。
アレは僕の真上なら攻撃範囲じゃないと踏んで避けたんだろう。
「あれ、でもビレッドは全然違う場所から出てきたような……?」
「あいつは移動魔法に巻き込んでない。勝手に瓦礫を盾にしててしぶとく生き残っただけよ。むしろ、あれで生きてて私も驚いてたわ」
ルビーはそもそもビレッドが気に入らなくて見捨てるつもりだったらしい。
ビレッドが生き残っているのは、単に運が良かっただけなのか。
「……なるほど。じゃあさ、ルビーの魔力を使って、
拘束したままエメシスと一緒に転移させることは出来ないかな?」
僕の質問にルビーは即座に否定する。
「私では無理よ、魔法で王都に連絡して人を呼んだら?」
彼女の提案は最もだ。
だけど、実はそれは探索の最中で試して不可能だったのだ。
ここを拠点にしてた彼女なら知ってるはずなのだけど……。
僕はその事を彼女に質問すると、意外な答えが返ってきた。
「……そんな魔法、掛かっているはずが……」
ルビーは、信じられないと言わんばかりに目を大きく開けて驚く。
エミリアはそれを不審に思い、ルビーに問いかける。
「……あなたも知らなかったのですか?」
「少なくとも昨日までそんな魔法掛かっていなかった……一体、誰がそんな……」
ルビーは眉間にシワを寄せて考える。
「となると一人しか考えられないね……」
僕達は、拘束して動けないエメシスに視線を移す。
「……くくく」
すると、エメシスはこちらを見て不敵に笑っていた。
「……何が可笑しいのですか?」
レベッカは、エメシスに言いながら槍を突きつける。
だが、エメシスはそれをあざ笑いながら言った。
「愚かな奴らめ……元より子供たちなど貴様らを釣る餌だと気付かなかったか!!」
「……!」
「それは、どういう……?」
僕とエミリアは顔を見合わせる。
つまり、最初からエメシスの狙いは僕達だったという事か。
「!?」
レベッカが突然肩を揺らす。
何かと思い、僕はレベッカに声を掛けようとするが―――
突然、レベッカが叫んだ。
「皆様、この女からすぐに離れてくださいまし!!」
「え……?」
僕は一瞬意味が分からなかったが、次の瞬間には理解する。エメシスが拘束されていた鎖を力任せに引き千切り、拘束していた蔦を引きちぎったのだ。
「うおおぉっ!!!」
「な……っ!?」
僕達はエメシスからすぐに距離を取って再び彼女と対峙する。
しかし、様子がおかしい。
エメシスは力任せに鎖を引きちぎったかと思えば、突然苦しみだして自分の喉を掻き毟る。そして、口の中から血を吐いて地面に倒れ込んだ。
しかし、エメシスはそれでも不気味に笑いながら言った。
「……わ、儂を含めて、ここにいる全ての人間を生贄に捧ぐ……!!」
その言葉を聞いた直後、地下の中の血で塗りたくられた床と壁が怪しく光り出す。
「な、何か、嫌な予感が……」
エミリアは、戸惑った様子で後ずさりする。
すると、姉さんが焦りながらも僕達に大声で言った。
「み、皆、私に掴まって!!」
僕とレベッカすぐに応じて、姉さんに元に向かおうとする。
しかし、怖気づいたエミリアと困惑してるルビーは動きは鈍かった。
仕方なく、僕は彼女達の腕を掴んで、一旦抱き寄せる。
「え、ちょ……」
「おい、何をしている!」
二人の非難の言葉を無視して、僕は二人の身体を持ち上げる。
そして、彼女達を担いで姉さんに元に走っていく。
既にレベッカは姉さんと手を繋いでおり準備万端だ。
「姉さん!!!」
「ええ!!」
姉さんは手を伸ばして僕の肩を掴む。
そして、姉さんは周囲に結界を張り巡らせてから<空間転移>を使用する。
だが、転移の瞬間に僕達は見た。
血の海で這いつくばって呻き苦しんでいたエメシスの身体が、突然、まるで内部から爆発したように弾け飛んだのである。
「え……」
僕は思わず声を漏らした。
だがその直後、視界が歪んで僕達は、その場から消失した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます