第507話 エミリアちゃん、頑張れ

<上級雷撃魔法>ギガスパーク!!」

<重圧>グラビティ!!」

<魔法の大砲>マジックキャノン!!」

<降り注ぐ火球>スターダストフレイム!!」

<闇の炎>ダークフレイム!!」


 僕達はそれぞれ得意の魔法を放ち、エメシスを攻撃する。

 しかし、エメシスは自身の正面に暗闇のオーラを集め盾のようにして、それら全てを受け止める。


「くそっ、全然効いてない」

 僕は攻撃が防がれた後、すぐにエメシスの背後へ回り込み斬りかかる。


「はあっ!!」

 しかし、エメシスの背中からは黒い触手が伸びてきて、襲い掛かってくる。それらをどうにか掻い潜って懐に潜り込んだとしても、エメシスは瞬間移動して僕達から距離を取ってくる。


「ああ、もうっ!!」

 僕は何度目か分からないエメシスへの接近を試みるがまたも失敗に終わる。


「強敵ね……」

「強敵っていうかウザいだけだよ、こんなの!」


「フハハッハハハハハハハッ!!!!」

 エメシスは高笑いしながら、魔力を開放して黒い霧のようなものを発生させていく。


「なんだこれっ!?」

 黒い霧は、まるで生き物の様に形を変え、様々な魔物へと変貌していく。その数は十体程度。複数の首を生やした魔獣や食虫植物を模った魔物など一癖あるものばかりだ。


 新たに出現した魔物を警戒しながら、エメシスの猛攻を凌ぐ僕達。

 しかし、数に押されて僕達は徐々にスタミナを切らして追い込まれていく。


「皆、一旦集まって! 結界を張るわ!!」

 姉さんが僕達を集めて、結界を構築し始める。


「む……そうは、させんぞ」

 しかし、それを見たエメシスは手を翳して、

 黒い霧のような魔力を集め、槍のように尖らせて姉さんへと飛ばす。


「させませんっ!!」

「ベルフラウ様をお守りします!!」

 エメシスの行動を察知したエミリアとレベッカは、それぞれ魔法と矢をエメシスの槍にぶつけて相殺させる。二人の活躍もあって、姉さんは無事に結界を張り巡らせることに成功する。


 僕達5人の周囲に光の結界が形成される。魔物たちは、結界内の僕達に向かって突撃や攻撃を繰り返すが、すべて光の結界に防がれ弾き飛ばされる。


「……なんだ、あの結界は……!? 儂とは正反対の魔力ではないか……!」


 エメシスは姉さんの張った結界を見て、驚愕している。


「この中ならあいつらの攻撃は一時的にシャットアウト出来るわ。

 だけど、私の元女神の力を使ってるから、そんなに長い時間は持たないと思う」


 そういう姉さんは両手を横に広げて結界の維持に努めている。

 表情をよく伺ってみると、かなり辛そうだ。


「……ならば、ベルフラウ様の力が限界を迎える前に作戦を考えねばなりませんね」

 レベッカは、冷静に自身の考えを述べる。


「といっても、特別何か出来ることは無いような……」

 正面からの魔法攻撃はあの闇のバリアで防がれ、接近戦に持ち込もうとすると瞬間移動で逃げられる。エメシス自身の攻撃魔法は、今の所上手く凌げているけど多数の魔物を呼び寄せられて物量で攻めてきた。


 魔物達の個々の戦闘力はさほどではないけど、エメシスと同時に相手取るのは困難。しかし、それらを一つ一つ解決するか、一気に巻き込むかくらいの選択肢しか思いつかない。


 すると、エミリアが挙手して言った。


「……なら、今度は私の意見を言っても良いですか?」

「うん」


「……推測なのですが、今エメシスが振るってる力は本人の能力では無いと思います」

「どういうこと?」


「私達と戦う前に、エメシスは何かに祈り始めましたよね。それに呼応するように、エメシスに何者かの魔力が入り込み、そこから魔力が爆発的に上昇したように思えました」

「確かに、そうだったわね」

 姉さんはその言葉に同意する。


 エミリアの言葉を聞いたルビーは、

 思い当たる節があったのか、少し思考して言った。


「……もしや、私達に言っていた【旧神】とやらの力か?」


「……恐らく。そして、私には設置されている邪神像が怪しいと思っています」

 エミリアはそう言いながら、祭壇にある血だらけの邪神像を指差す。


「あの邪神像から得体の知れない力を感じます。

 私の勘ですが、あれを破壊すればエメシスが弱体化するかもしれません」


「なるほど……」


 僕はそう呟きながらも、内心では焦り始めていた。


「(……どうするこのままじゃ、じり貧だ)」

 この場にいる全員が疲労し始めているのを感じる。


 エメシスを倒すにしても、まずはあの厄介な闇バリアを突破しないといけない。

 しかし、それは姉さんが維持してる結界もそう長くは持たない。


 エミリアの言った通り邪神像が力を与えているとするなら、それを壊せばエメシスは弱まるかもしれない。だけど、その邪神像はエメシスの傍にあり、近づくことすらままならないのだ。


「レイくん……」

 姉さんが心配そうな目線を向けてくる。


「大丈夫だよ、姉さん。まだ諦めない」

 必ずこの事件の元凶を捕まえると三人の少女達と約束を交わしている。

 だからこそ、今の僕に撤退は許されない。


 僕は、皆に語り掛けるように言う。


「……エミリアの案に乗ろう。

 邪神像を破壊すれば、エメシスが弱体化することを前提で作戦を立てるよ」


 僕はそう言って彼女達の了承を待つ。

 四人はそれしかないと思ったのか、全員が僕の案に乗ってくれた。

 そこで僕が作戦の内容を伝え始める。


「まず、エミリアとレベッカは周囲の邪魔な魔物達を散らしてほしい。

 タイミングは姉さんが結界を解いたと同時だ。それと同時に、僕達も動き出す」

「了解」

「承知しました」


 二人はそう言ってくれる。


「そして、姉さんと僕がエメシスの気を引く。

 二人だけであいつと戦うことになるけど、なんとか持ちこたえよう」


 僕は姉さんの方を見て、姉さんが頷くのを確認する。

 しかし、エミリアはそれに待ったを掛ける。


「待ってください、なら邪神像を破壊する役目は誰が?」

「それは勿論……」


 僕は、エミリアの質問に答えながら、

 背後で焦燥した表情をしているルビーに振り向く。


「……私?」

 ルビーは自分を指差して不安そうに言った。


「うん、頼めるかな……?」

 僕は彼女にそうお願いする。が、エミリアはルビーを睨んで言った。


「レイ、彼女を信用するつもりですか?」

「当然だよ」


 エミリアは僕を咎めようとするが、それに対して即答する。

 彼女は敵だったけど、今は一時的でもこうして共に戦ってくれている。


 だが、エミリアは僕ほどは彼女を信用してないようで、


「……レイ、それなら邪神像を破壊する役目を彼女と代わってください。もし彼女の気が代わって私達を裏切るような事があれば、私達は完全に詰んでしまいますよ」

 エミリアはそう僕に忠告する。

 それを聞いたルビーは、何も言い返せず顔を伏せる。


 確かに、彼女は直前までエメシスの仲間だったから、エミリアが信用しきれない理由もわかる。

 レベッカと姉さんはルビーを擁護しようするのだが、何も言葉が出ないようだ。


「……それでも、僕は彼女を信じるよ」


「何故ですか、レイ。さっきまで彼女は敵だったのですよ?

 確かに今のところ協力して戦ってくれていますし、彼女自身もあなたに助けられたことに少なからず恩義を感じてるようには見えますが、それだって形勢が傾けばどうなるか分かりません、私達を置いて逃げる可能性だってあるのですよ」


 エミリアは言った後に、ルビーの方をチラリと見て、すぐに僕に視線を戻す。


「……」

 ルビーは、エミリアに言われて黙り込む。

 だけど、それは違うと思い僕は言った。


「……確かに、ルビーは敵だったよ。

 子供達に怖い思いをさせたし僕達を殺そうともした。だけどね、……ルビー」


 僕は言葉の途中でルビーに向き合う。


「……?」

「さっき、キミの言葉を聞いてたよ。キミは死んでしまったお兄さんを生き返してあげたいから、エメシスの誘いに乗ったんだよね」


「……それは」

 彼女は口ごもりながら答える。


「あの時、キミは僕達を助けてくれた。

 もし僕達を見捨てて、エメシスに協力すればキミの願いも叶ったはずなのに。

 それをしなかったキミは、信頼できると思ったんだ」


「……」

 エミリアは、僕がそう言った後、しばらく無言だったがやがて諦めたように言った。


「はぁ……、もう良いです。勝手にして下さい」

 そう言って、エミリアはため息をつく。


「ありがとう、エミリア」

 僕は折れてくれたエミリアに礼を言ってから、ルビーに問いかける。


「僕達がエメシスの注意を引いている間に邪神像を破壊してほしい。……出来る?」

「……私を信じてくれるの?」

「信じるよ」

「……馬鹿ね、少し前まで殺し合いしてた仲だというのに……」


 ルビーは呆れたようにそう言うが、

 その表情にはどこか嬉しさが見え隠れしているように見えた。


「……分かったわ。お前のその頼みを引き受ける」

「ありがとう」

 僕はそう言って微笑む。


「じゃあ、姉さん……結界を解除してくれる?」

「うん……それじゃあ、まずはエミリアちゃん、レベッカちゃん、よろしくね」


 姉さんは、二人に視線を向ける。


「任せてください」

「この作戦、必ず成功させましょうね」


 二人はそれぞれ返事をする。

 そして、姉さんが結界を解除すると同時に僕達は行動を開始した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る