第503話 協力を申し込む
【視点:桜井鈴】
僕は廃屋敷を出た後、三人を帰還する為にカエデの元へ向かう。
そして少女達を連れて、カエデの待つ場所に来ると、僕と手を繋いでいた三人の足並みが唐突に止まった。リリエルとコレットは、目の前の存在を目にして完全に怯えていた。
「……こ、怖い……」
「……ど、ドラゴン……」
「おっきい……」
少女達は、目の前の青い巨体の竜を見て恐怖で固まっていた。
「(……そういえば、カエデがドラゴンだって言うの忘れてた)」
冷静に考えて、ドラゴンって迫力あって怖い生き物だよね。僕は、カエデの元の姿が人間だと知ってたから普通に友達と紹介しちゃったけど、前もって言っておくべきだった。
「三人共、この子が僕がさっき言ったカエデだよ」
「え!?」
「こ、この巨大なドラゴンがお兄さんの仲間なんですか!?」
リリエルとコレットは、驚きの声を上げた。
「うん、そうだよ。ほら、挨拶して」
『カエデだよ、よろしくね』
カエデはドラゴンの大きな口を開けて彼女達に挨拶をする。
「あ、あれ、見た目よりも可愛い声……」
「というより、このドラゴンさん、普通に喋れるんですね……」
「すごい……お兄ちゃん、この子、撫でていい?」
メアリーは、目をキラキラさせながら僕に上目遣いで尋ねる。
「カエデ、良いかな?」
『うん』
カエデから返事を貰うとメアリーは喜んで、トテトテとカエデの傍に駆け寄っていく。そしてカエデは撫でやすいように、自分の頭を下げてメアリーはそこに手を置いてよしよしと撫で始めた。
「わ~、あったかいです……」
「……す、凄いです、こんな大きなドラゴンが懐いているなんて」
リリエルは、感動した様子で言う。
「(実はカエデは元人間の女の子だよ、と言うべきかどうか……)」
ややこしいことになるので言わないことにした。
「カエデ、この子達の気が済んだら王都に連れてってあげて」
『分かった』
「お願いね、それじゃあ僕は戻るよ。三人共、カエデと仲良くしてあげてね」
僕は最後に少女達にそうお願いする。
「はい、分かりました!」
「あの……色々ありがとうございました」
「また会おうね、お兄ちゃん」
少女達は、輝くような笑顔でそう答えてくれた。
僕は、三人の少女達と別れを告げた後、もう一度廃屋敷に戻った。
◆
僕が廃屋敷に戻ると、仲間である三人が待っていた。
「お待たせ」
「レイくん、お帰り」
「三人は無事に送り届けられたのですか?」
「うん、大丈夫だよ」
僕は返事をしながら三人の後ろを見ると、何故か白目を剥いて倒れているビレッドと、それを憐れそうに見ているルビーの姿があった。そしてルビーは手だけ鎖を嵌められていて、彼女の武器はエミリアが預かっていた。
「な、何があったの……?」
僕がそう三人に尋ねると、姉さんだけが僕から目を背けた。
「……姉さん、何やらかしたの?」
「酷い、まだ私、何も言ってないのに!?」
姉さんは僕の方を振り向いて、僕に抗議する。
「……いや、どう考えても、姉さんが怪しいよ」
僕の言葉を聞いて、他の二人は同意するようにコクコクと首を縦に振る。
そしてエミリアとレベッカが言った。
「まぁ……この男がベルフラウの癇に障ったんですよ」
「わたくし達も、突然だったもので止める暇もなく……。ですが、ベルフラウ様も悪気があったわけではございませんし、レイ様、あまり追及の方は……」
二人はそう言って、姉さんをフォローする。
「……まぁ、殺したりしてないならいいけどさ」
「大丈夫よ、心肺停止させてしまったけど、一応回復魔法でギリギリ踏み留めたから!」
「ギリギリ踏み留まってなかったら、本当に殺してたってことだよね!?」
本当に何があったのだろうか。
「……もう一人の方は?」
僕は、奥にいる手だけ鎖で拘束されてるルビーに視線を移す。
「彼女は説得に応じてくれたから、少し拘束を緩めたわ」
「信じていいの?」
「ええ……同じ女性として思う所もあるからね」
「? ……それならいいけど」
よく分からないが、姉さんがそういうのであれば問題ないだろう。
僕は、ルビーの近くまで歩いて彼女の目線の先に立つ。
すると、渋々と言った表情で、ルビーは僕の方を向いてくれた。
「……もう抵抗する気はない、何か用か?」
「キミはエメシスと一緒に行動してたんだよね。彼女が今、何処にいるか分かる?」
「……あいつは、私達に指示する時以外は、この屋敷の地下に引きこもっていた。今も多分、そこにいる」
「儀式の準備してるって事か」
エメシスは、あくまで指示をしているらしい。
準備を始めてから、この屋敷を出たことは一度もないと彼女は言った。
「もしよければ案内してくれないか?」
「……ここで拒否すれば、抵抗したのと同じか。……分かった、案内する」
「助かるよ」
僕はそう言って、彼女が動くのを待つ。
すると、彼女は僕達の前に出て「こっちよ」と一言告げてゆっくり歩き出す。
「皆、行こう」
と、僕は皆に声を掛けるのだが、
レベッカがビレッドの倒れてる場所に視線を落として言った。
「レイ様、この男はどうしますか?
今は意識を失っておりますが、もし目が醒めたら逃げ出すかもしれません」
「あ、そっか……どうしようかな」
「とりあえず縛っておきましょうか」
「そうですね、その方が良いでしょう。ベルフラウ様、お願いできますか」
「ええ、分かったわ」
ということで、ビレッドをロープでグルグル巻きにして動けないようにした。
それからルビーの後に続いて、地下に向かう。その途中、ルビーは僕達に逆らうような事はせず、真っすぐに地下への順路で進んでいく。
僕はその様子を見て、彼女に聴こえない様に小さな声で言った。
「……本当に説得出来たんだね」
正直、意外だ。
彼女は、説得など聞き入れるように思えなかった。
それくらい冷淡な態度に思えた。
すると、僕の隣にエミリアが歩いてきて、彼女は僕の耳元で言った。
「……実は」
エミリアは、僕がいない間、何があった掻い摘んで話してくれた。
「……そっか、彼女も色々あったんだね」
「事情があって全部は言えませんが、あのビレッドとかいう男と比べれば、いくらか同情の余地があると思います。とはいえ、二人が感化されてしまったのも、拘束を緩めた理由ですけどね」
「いや、三人が納得してるなら大丈夫だよ」
エミリアは、僕に一部を伏せて彼女の事情を説明してくれた。
彼女が言うには、村の人間に最愛の人が殺されてしまい、その最愛の人を生き返すために、エメシスの誘いに乗ってしまったという話だ。
「もし、レイが誰かに大切な人を殺されたら、どうします?」
「……」
エミリアのその質問に、僕は即答は出来なかった。
だけど、言えることはある。
「……それでも、少女達の命と天秤には掛けられないかな」
「例えば、ベルフラウが何かの病気で死に掛けたとします。あなたは一生懸命、彼女を救う方法を調べて、見つけた方法が、少女達の命を犠牲する方法だったら、どうします?」
そう聞かれて、僕は一瞬、背後を振り返る。
レベッカと並んで歩いていた姉さんの姿があった。
「……」
僕は、少し考えて視線を戻して答えた。
「誰の犠牲も必要じゃなかったら、僕は飛びつくと思う。
それが僕が代わりに死ぬ、とかなら迷いながらも選択したかもしれない。
……だけど、何の関係も無いあの子達を犠牲になんて……」
僕は目を瞑り、少し前に別れた三人の少女達の姿を思い浮かべる。
「……そうですか」
エミリアは、複雑そうな表情をしている。
「エミリアは違うの?」
「……分かりません、私も大事な両親を亡くしていますから。もし、悪人の命を500人差し出せば、生き返ると言われたら躊躇はしないでしょうね」
「……そっか」
僕は、それ以上何も言わなかった。
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