第502話 子供に見せられないシーン
【視点:エミリア】
レイは、子供達を帰還させるために屋敷を出ていきました。
ひとまず、これで一番不安視していた子供達の安全の確保は出来そうですね。
さて、問題はこの後どうするかですね……。
「……まずは、こいつらですか」
私は、ベルフラウによって身動きが取れなくなった敵二人に視線を向けます。
「……んだよ、こっち見てんじゃねえよガキが」
「……」
私と視線が合うと、ビレッドは瀕死にも関わらず悪態をつく。隣にいるルビーは、レイが出ていってから間もなくつ意識を取り戻したが、私と目が合うと何も言わずに私から視線を逸らす。
私は「はぁ~」とわざとらしくため息を付いて言った。
「やれやれ……状況が分かってないようですね。
あなた達は既に満身創痍、身体も縛られ武器も奪われて抵抗も出来ません。
下手に私達に逆らうより大人しくしていた方が身のためですよ」
「エミリア様、女の方はともかく、この男にまともな会話が通用すると思えませんが……」
「……まぁ、それはレイくんとのやり取りで分かるわよね」
私の背後では、レベッカが呆れたように呟き、それに同調するように姉さんが答える。
ビレッドは私達をあざ笑うかのように挑発して言った。
「テメェらに捕まるくらいなら舌を噛んで死んだほうがマシだぜ」
「……ほう言いましたね」
私は軽く脅すように、杖の先に火を灯す。
「ははっ、そんな脅し通用すると思ってんのか!? あのレイってガキが言ってたぜ。お前ら国王の命令で俺達を捕まえに来たんだろ。なら、情報を吐かせる為に殺すなんて出来ねぇよなぁ!?」
「……身体が焼かれて酷い目に遭ったいうのに、大した度胸ですね」
このビレッドという男。
レイに受けた火傷の傷は完全に治癒されておらず、更に両腕と腹を剣で裂かれたというのに、その状態でまだ強気なのは大したものだ。ある意味、壊れてるのかもしれない。
私は魔法を止めて杖を仕舞い、女の方を向く。
「……ふむ、では女性の方……ええと、ルビーと言いましたか」
「……」
私が話しかけると、ルビーは僅かにこちらに視線を向ける。
まだ、こっちの方が話が出来そうですね。
「質問です。あなた達の目的は、【旧神】を降臨させる儀式をするためだと聞きました。それは事実ですか?」
「……ああ、合ってる」
彼女は、小さく肯定する。
「何故、【旧神】など召喚しようとするのですか?」
「……目的など知らない。私は、その【旧神】とやらを復活させる手伝いをすれば、願いを叶えるとエメシスに言われた。その為に、協力してるだけ」
彼女の言動を注意深く観察して思考する。
私がそう考えていると、
「……おい、ルビー。……てめぇ、なにベラベラと喋ってやがる……!」
隣の男が、血走った眼でルビーを睨みつける。
「……命が掛かった状態よ。ここに来てしらばっくれる理由は無い」
「はぁ!? てめぇ、こんな甘い奴らが俺達をやれると思ってんのか!? 何考えてるか分かんねえ女だと思ってたが、どうやら頭までイカレちまったらしいな!!」
「……お前に言われる筋合いはない」
「ああ、殺すぞ!?」
「……その状態で、やれるならやってみれば?」
「……ぐぅ……クソッ……!」
男は悔しそうに歯噛みする。
自分が縛られてロクに身動きが出来ない状態な事を自覚したのか。
どっちにしろ、もう少し静かにしてほしいものです。
「……随分と仲が悪いみたいね」
「ふむ、共通の目的というよりも、願いに釣られたと言ったところでしょうか? そもそも協力意識などが乏しいのでしょう」
レベッカはこの二人をそう評する。
ベルフラウは、何か思い付いたのか、こちらに歩いてくる。
そして、ルビーの前に立って彼女に問いかける。
「ルビーと言ったかしら、あなたはもう抵抗する気はないのね」
「抵抗が無駄な事は理解してる。私は、隣の狂った男と違って冷静だから」
「あぁ!?」
ルビーの煽りにいちいち男が反応する。
五月蠅いですね、こいつ。
任務とか忘れてこいつだけ理由を付けてサクッとやれないでしょうか。
……多分レイに怒られちゃいますね。我慢しましょう。
「そう……それじゃあ一つ聞かせて」
「なんだ」
「願いってどういうこと? 旧神とやらの儀式を成功させたら、あなた達はなにかしてもらえるということ?」
「エメシスからそう聞いている。家畜や人間の子供の臓物と血を捧げ、供物として祭壇に捧げることで、 旧神の力をこの世界に顕現させることが出来る……と言っていた。そして、その力で願いを叶えてもらえると」
「……なんですって」
ベルフラウは、その言葉を聞いて眉を潜める。私も彼女と同じ気持ちだ。
「随分と、神にしては血生臭いものが必要なのですね」
「……一応、聞くけど、他の子供を殺したりなんてしてないわよね。もし、そんなことをしてたら……」
ベルフラウは、声のトーンを落として表情を変える。
その様子にルビーは、焦ったのか、言葉を震わせて小さく答える。
「か……家畜だけだ、今のところは……。だけど、あのエメシスという女は、私達二人に協力を持ちかける前から何かやっていた。それに関しては分からない……」
ベルフラウは、彼女の言葉を聞いて考える素振りを見せる。
すると、レベッカが前に出て、ルビーに質問する。
「……次はわたくしから質問よろしいでしょうか?」
「……もう隠すつもりはない。命を保証してくれるのであれば答える」
そのルビーの返答に、レベッカは真顔で言葉を返す。
「命の保証は、何とも言えません。
お二人の命を握るのは、わたくし達ではありませんから」
「……そう」
ルビーも分かっていたのでしょう。
諦めたように、目を瞑る。レベッカは、構わず言葉を続ける。
「それを理解してくれた上で質問します。
あなた方二人は、【旧神】に何を願うつもりだったのですか?」
レベッカの質問にルビーは、少し躊躇して答える。
「……私の、兄を生き返してもらうつもりだった」
「あなたのお兄さんを……?」
彼女の回答に、姉さんが驚いたように聞き返す。
「ああ、そうだ……兄は、数年前に死んだ。病気だった私の為に、兄は村の外に薬を取りに行った。
……だけど、数日経っても帰ってこなかった。……しかし、ある日、兄は、首が無くなって死んでいたという話を村の人間から聞かされた」
「……」
「私は重い身体を引きずって、何故兄が殺されたのかを調べていた。……そして、村の人間にしつこく話を聞くと、突然、男達が襲い掛かってきて、散々殴られて、乱暴された後、真相を教えてくれたよ」
「……っ!」
私は、それを聞いて顔を顰めた。
この話の流れ、まさか……。
「ああ、予想通りだよ。……村の連中が兄を殺したのだ。
目的は、村の男共は、
「……!!」
「ひ、酷い……」
「……」
彼女の言葉に、レベッカとベルフラウが小さく声を上げる。
「怒り狂った私は、その場の男達を全員殺し、次に村中の人間を全員殺して回った。稀有な魔法の才能があった私は、それをきっかけに並外れた魔力を引き出せるようになった。
悩まされていた病魔もその時に完治し、お陰で人間を殺すなんて赤子の手を捻るより簡単になってしまったよ」
彼女は人形のような美しい顔を酷く歪ませて、恐ろし気な笑みを見せる。
「……だが、村の人間を皆殺しにしても私の心は晴れなかった。当然だ、何をしても私の最愛の兄は帰ってこないのだから」
「……その時に、エメシスに出会ったと」
「……ああ、奴は言った。『儂に力を貸せ、古き神を蘇らせれば、その報酬として貴様の願いを叶えて頂けるだろう』……と。……どうせ、肉親ももう居ない、帰る場所も無い。なら、例え悪魔に魂を売ろうとも、最愛の兄に一目会いたいと思っただけのこと」
「……」
レベッカとベルフラウは、ルビーの話を聞いて黙り込んでしまった。
「(……悪人の事情なんて聞くものではありませんね)」
優しい彼女達は、この女の境遇に同情してしまっている。
私は、二人ほど同情するつもりはない。
しかしそれでも、彼女にこれ以上言葉を掛けることが出来なかった。
「(ここにレイが居なくて良かった……)」
元々この二人に尋問するつもりで、その場面を見せないために子供達を連れていってもらったのですが、彼がこの場に居合わせなかったのも幸いでした。
「質問は終わりか……? なら、私をいい加減解放してくれ。
身体に蔦がきつく締まって息苦しい、胸も痛い……」
ルビーは息苦しそうに言った。
それを聞いたベルフラウは、彼女に掛けた束縛を僅かに緩める。
甘い気もしますが……まぁ、仕方ないですね。
レベッカは、悲痛な表情をしながら彼女に言った。
「……貴女の境遇には同じ女性の身として同情します。ですがそれでも、あなた達はこのまま王都に引き渡さなければなりません。そこで国王陛下の前で全てを告白してくださいまし。そうすればいくらか罪は軽くなるでしょう」
「……村の事を話せば、殺人鬼として処刑されることになるかもしれない」
ルビーの全てを諦めた様な発言に、レベッカは首を横に振って言った。
「……その時は、わたくし達が弁護します。貴女の話が嘘でないのなら、国王陛下は真摯に耳を傾けて下さるでしょう。殿方の前で話したくないと仰るなら、私どもが配慮いたしますよ」
「……頼もしいことだ」
ルビーはそう言って、話を終えた。
「(……彼女の方はもういいでしょう。問題は……)」
私はもう一人の敵、ビレッドに視線を移す。
「……あ、俺にも白状しろってか?」
「ええ、まあ」
「へっ! 誰が言うかよ!!」
まぁ、コイツの事情なんて正直聞きたくないですけどね。
すると、ルビーがポツリと言った。
「……そいつはろくなもんじゃない、聞いて不快になるだけだ」
「……」
「テメェ、余計なことを……!」
「事実だろ。それにお前は、私と違って兄を生き返らせるとかそういう目的じゃなく、もっと薄汚い欲望の為に動いているんだろう?」
「この世は弱肉強食、弱い奴が死んで強い奴が生き残る世界だ!!
なら、強い俺様は、何をやっても許されるはずだっっ! ……大体、てめぇだって強いから村の人間を皆殺しにして生き延びたんだろうが、それと何が違う!?」
「……っ」
ルビーは反論できなかったのか、それっきり何も話さなくなってしまった。
が、その男に反論したのはベルフラウだった。
「……なるほど、『強い俺様は、何をやっても許されるはずだ』……と」
「……あ?」
「なら、私は、弱いあなたに何をしても良いって事よね」
と、言いながらベルフラウは男に近付く。
「……な、何をするつもりだ」
「……」
男は怯えた表情で後ずさろうとするが、
拘束されて芋虫のように這うことしか出来ない。
「や、やめろ……やめてくr」「えい」
ベルフラウは、男の頭の上に手を置くと、突然、バチィッ!!と、電撃が流れた様な音が流れ、次の瞬間、「ぎゃああああああ」と男は苦しみ出す。そして、男はそのまま意識を失って倒れた。
「な……」
「べ、ベルフラウ様、一体、何を!?」
「ま、まさか殺したんじゃ……?」
ルビーを含めて、私達はベルフラウの突然の行動に戸惑う。
「大丈夫、気絶させただけよ。
かなり強い衝撃を与えたからしばらく目覚めないでしょうけど……」
「ほ、本当ですか?」
「本当よ、そんなことしたらレイくんに怒られちゃうわ。
ちょっと加減には苦労したけどね、まぁやり過ぎてたらゴメンって事で」
ベルフラウは「てへっ」といって可愛く自分の頭を手でコツンと叩く。
「(笑ってますが、内心ブチギレ寸前ですね、ベルフラウ)」
「(ええ、お美しい顔なのに、額に青筋が浮かんでおります)」
エミリアとレベッカはアイコンタクトで会話をする。
多分、寸前まで殺そうとしてたが、ギリギリで踏みとどまったのだと思う。
……本当に踏みとどまったのか、怪しいところではありますが。
「……ひとまず、レイが戻るまで待ちましょう」
「ええ」
「ルビーと言ったかしら、悪いけどしばらく大人しくしててね」
ベルフラウがルビーに警告する。
ルビーは白目を剥いて倒れているビレッドを憐れむように眺めてから言った。
「……そいつのようにされても困る。大人しくしていよう」
「助かるわ」
ベルフラウは安心したように言った。
……が、その次に放ったルビーの言葉に、私達は間抜けな反応をすることになる。
「……いや、ちょっと待て」
「?」
「おい、ビレッドの心臓が止まってるぞ!!」
………。
「え」
「おや?」
「……ベルフラウ、やり過ぎです」
この後、レイが帰ってくるまで、私達は一仕事する羽目になりました。
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