第501話 幼女をエスコートするレイくん
少女達を救い出した僕達は、敵の捕縛を後回しにして屋敷の出口へ戻ることにした。しかし、そこで僕達は敵襲を受けてしまい、僕達は少女達を守るために交戦することに。無事、敵の一人であるビレッドを打ち破った僕は、奴を負傷させてから少女達の元へ一旦戻った。
「
戦いが終わった僕は、上着を脱いで姉さんに傷を癒してもらう。姉さんの光り輝く手が僕の胸元に触れると、温かい感覚が身体を包み、傷が癒されていく。
「……うん、もう大丈夫よ」
姉さんは僕の胸から手を離す。僕は傷があった場所を撫でて完治してる事を確認すると、上着を羽織り直して、鎧を付け治す。
「ありがと、姉さん。この子達に怪我はない?」
「それは大丈夫よ。飛んできた瓦礫の飛礫も、アイツが使った爆発魔法の余波も全部、お姉ちゃんが防御魔法で防いでたからね」
「派手な戦いになったから心配だったんだ、助かる」
僕は姉さんと話しながら、少女達の頭に手を乗せて頭を撫でる。
すると、リリエルちゃんが僕を上目遣いで見て言った。
「レイお兄様!!」
「……いや、お兄様って」
僕に対する呼称が変わってるし、少女達の目線が何故か僕に向いたままだ。
戦っている間に、僕、何かしただろうか?
しかし、リリエルちゃんは僕の心情など知らずに、続けて話す。
「リリエル、決めました! 将来はレイお兄様に嫁ぎます!!」
「…………」
僕は彼女の言葉を理解できず、一瞬固まる。
そして、一秒間気絶した後に、姉さんに視線を戻す。
「姉さん、ど、どういうこと……?」
「あー、この子達ね。レイくんの戦いぶりに感銘を受けたんだと思う。
それで、思春期によくある大人のカッコいい異性に憧れて勢いで言ってるかしらね。若気の至りって奴よ、一時的なものだと思うわ」
「……そっか、なら仕方ないね」
「えぇ、仕方がないのよ」
「リリエルは本気で言ってます!!」
彼女は、サラッと流されそうになってプンプンと怒り出す。
するとその様子を眺めてたコレットちゃんとメアリーちゃんが言った。
「まぁまぁ、リリエル。今はそんな事言ってる場合じゃないよ」
「うん……コレットちゃんの言う通り、まずは交際から始めないと……」
「いや、メアリー。そういう意味じゃなくてね」
「むぅ~!! 二人ともバカにして!!」
リリエルちゃんは顔を真っ赤にして怒っている。
すると、出口の方から大声でエミリアの声が飛んできた。
「こらーっ!! なに私達が必死で戦ってる時に和んでるですかぁぁぁぁ!!」
「あ、そうだった……!」
僕とビレッドの戦いは決着が付いただけど、
エミリアとレベッカは、まだもう一人の敵と戦っていた。
二人が戦ってる敵は、魔法使いルビー・スーリア。
<黒檻>という、相手を拘束する特殊な魔法を使用する厄介な相手だ。
今の所、2:1で戦っているため、エミリア達の優勢だが、ルビーは<黒檻>の魔法を小型化したような魔法を繰り出して片方の動きを止めながら、魔法で距離を取っては逃げ回っている。
攻撃魔法も達者なようで、エミリアの魔法を相殺しつつ立ち回っている。レベッカは、ルビーの魔法を掻い潜りながら距離を詰めようとするが、ルビーはそれを察して自身の前に黒檻を応用したような壁を作り出しては、接近を妨害し距離を離している。
「(これじゃあ姉さん達も動けないわけだ……)」
三人の攻防が激し過ぎて、いつ攻撃魔法が飛んでくるかわからない。
僕でさえ、あの戦いに割って入ろうとすると誤射を受けてしまうだろう。
「どうするレイくん、加勢する?」
姉さんにそう問われるが、僕はすぐに返事せずに、奥で這いつくばっている血だらけのビレッドに視線を移す。そして、奴を横目で観察しながら言った。
「……いや、あいつが逃げ出さないように見張ってないと」
「なら、私の魔法で縛り上げておきましょうか……
姉さんが魔法の言葉を呟くと、床から黒い鎖と植物の蔦が現れてビレッドを縛るように巻き付いていく。
「うぐっ……!?」
縛り上げられたビレッドは、深手を負って抵抗も出来ずに、その場から宙に浮かされて身動きも取れなくなる。どうやら隙を見て逃げ出そうとしていたようだが、それも不可能になった。
「あの、レイお兄様、あいつにトドメを刺さないんですか?」
「一応、陛下の命令は『捕縛』だからね。許せないやつではあるけど、殺すのはまずいんだよ」
「なるほど……情報を洗いざらい吐かせてから、斬首ですね!!」
「……いや、場合によってはそうかもしれないけどさ」
リリエルちゃんは、無邪気に物騒なことを言い出してるし。まぁ、あいつに酷い目に遭わされたこの子達からすれば、温情で済ますのは納得いかないよね。
とはいえ、あのまま放置すると死にかねないな……。
「姉さん、あいつ出血多量で死にかねないから、最低限治癒してあげて」
「わかったわ」
姉さんは、ビレッドの方向に手をかざして回復魔法を発動させる。
すると、ビレッドは顔を狂気的に歪ませて笑い出す。
「……くくく、クソアマちゃんがよぉ!!! 俺の傷が治ったらこんな束縛すぐに破って、お前らを殺してやるからなぁ!!!!」
ビレッドはそんなことを言って僕達を威圧する。
そのせいで少女達が怖がってしまった……なら、止めとくか。
「姉さん、回復中止して。元気そうだからしばらく血抜きさせておこう」
「了解よ」
即座に回復魔法を中断する姉さん。
「お、おい!! 何故やめる!!」
「今、自分が言ったこと忘れたの? ……もし子供達に手を出そうとしたら、たとえ陛下の命令だろうが、アンタを生かすつもりはないから覚悟しておいてね」
「ひぃっ……!?」
僕の威圧感に怯えた表情を見せるビレッド。
自分はあれだけ威圧しておいて、この程度の脅しで怯えるのか……。
「……レイくんにしては言うわねぇ」
「軽い脅しだよ。反骨心折っとかないと何するか分からない奴だし」
と、そこに出口の辺りから爆音がした。僕がそちらに視線を移すとエミリアが魔法を解き放ち、ルビーにそれが直撃して壁に激突した瞬間が見えた。ルビーは、そのまま床に落下し、気絶したのか動かなくなった。
それを見た僕は、すぐに彼女の元へ駆け寄る。
「二人とも、大丈夫?」
「えぇ……思ったより時間が掛かってしまいましたね」
「予想よりも強敵でございました」
二人は肩で息をしていたが、大した怪我はないようだ。
僕達は、ルビーが気を失っていることを確認してからルビーを捕らえているビレッドの近くまで運び、同じように姉さんの束縛の魔法で拘束する。
「さて、こいつらをどうしようか……」
僕は顎に手を当てて考える。まだリーダー格のエメシスが残っているし、こいつらを引き渡すために帰還してしまうと、状況を察したエメシスがこの屋敷から逃亡するだろう。
その場合、失踪事件が完全に解決したとは言えない。
かといってこいつらを放置するわけにはいかない。
今は良いが、自力で傷を癒して逃亡する可能性もゼロじゃないのだ。
「うーん……」
「レイ、ひとまず子供達だけ王都に先に帰してあげるのはどうです?」
「そうでございますね……この者たちの処遇は後回しで良いでしょう」
エミリアの提案にレベッカは同意する。
「そうね、レイくんは一旦外に出て、カエデちゃんの所までこの子達を連れてってあげて」
姉さんは、そう言いながら、幼い少女達に微笑んで彼女達の背中を押す。
「分かった、じゃあこの子達を連れていくよ」
「ええ、外にまだ厄介な魔物がいるかもしれないので気を付けて」
「うん……。それじゃあ、リリエル、コレット、メアリー。僕の友達の所に連れてってあげるよ。一緒に行こう」
そう言いながら、彼女達の前に自分の手を差し出す。
「はい、よろしくお願いします。レイお兄様!」
「レイお兄さんの手、温かいね」
「エスコート、お願いです……レイお兄ちゃん」
そして少女達は、僕の腕や手を小さな手で掴んで、僕と一緒に外へ歩き出した。
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