第500話 幼女に見守られながら戦うレイくん

 誘拐された少女達を無事に保護した僕達は、一旦、少女達を逃がすために屋敷の入り口へ向かった。しかし、僕達が屋敷から逃げるのを妨害する様に、敵の一人が入り口に待ち構えていた。


 そして、僕達はどう突破するか考えていると、

 背後から敵の一人であるビレッドが襲い掛かってきた。

 

 僕は、少女達を守るために、ビレッドの凶刃を受け止めて言った。


「残念だったね……ビレッド!!」

「……ちっ!!」

 僕は目の前の敵、ビレッドを強く睨み付ける。


 舌打ちをしながら男は剣を引いて、後ろに下がる。またしても、不意打ちしてきたのはこの男だった。僕を罠に嵌めて死角から襲い掛かってきたように、今度は少女達に狙いを定めたのだ。相変わらずの卑怯者だ。


「不意打ちの次はこれか……子供を狙うなんて、最低だね」


「ハハハッ、よく分かったな。俺の攻撃が!! お前らが仲良しこよししてる間に、後ろから一人ずつ子供殺して絶望する顔を見たかったのによぉぉぉ!!」


 ビレッドはそう言いながら狂気的に笑う。

 奴は、僕に炎魔法で焼かれたせいか、顔と上半身が包帯だらけになっていた。

 しかし、その包帯の隙間から爛れた火傷の跡が見え隠れしていた。


「ば、化け物……!!」

 リリエルちゃんは、恐怖の声を上げる。

 彼女は目に涙を浮かべながら、姉さんの背中に隠れていた。


「(この状況、不味いな……)」


 前門の虎、後門の狼だ。

 正面にはビレッド、後ろには出口を見張ってるルビーが待ち構えている。


 目の前のビレッドを戦おうとするとルビーが攻撃を仕掛けてくる。仮に僕達が生き延びたとしても、三人の少女達を殺されるか捕らえられてしまえばその時点でアウトだ。


 かといって、目の前のビレッドを放置すれば、僕達より先に少女達を殺そうとするのはさっきの発言を考えれば目に見えている。

 少女達を守りながらこの二人に挟み撃ちされるのは危険過ぎる。


「(さっきのこの男の声で、ルビーは僕達の存在を感知しただろう。なら……!!)」


 僕は即座に状況を整理して仲間に指示を飛ばす。


「レベッカとエミリアは、ルビーを抑えて!!!

 姉さんは戦いに巻き込まれないように子供達を守って!!

 僕は、コイツをこの場で倒す!!」


 僕はそう叫ぶと、聖剣の力の一端を開放し、勢いでビレッドを吹き飛ばす。


「ぐあっ!!!」

 ビレッドは、僕の一撃を何とか受け止めるが、距離を離すことが出来た。


「了解です!!」

「レイ様、ご武運を!!」

 エミリアとレベッカはすぐに動いて、

 入り口の方から僕達の方に向かってきたルビーに向かっていく。


 僕はその背中を見送って、姉さんに叫ぶ。


「姉さん、逃げられる状況ならすぐにその子達を連れて逃げてね!

 もう一人の敵のルビーも、エミリア達と戦えば必ず隙が出来るはずだよ!」


「分かってる……だけど、私達が、今下手に動くと、エミリアちゃん達の戦いに巻き込まれてしまうわ……。今はまだ動けない……」


「く……!!」

 すぐにでも少女達を逃がしたいというのに、

 この状況だと下手に動くと味方同士で邪魔をし合ってしまう。


「(……そうだ、空間転移なら)」

 僕は思い付いて、姉さんに視線を向けるが、姉さんは無言で首を横に振る。


「……駄目、何らかの結界が張られてて、移動系の魔法が使えないの」

「くそ、対策済みか……!」


 僕が焦っていると、ビレッドは奇声を上げながら大声で叫ぶ。


「ひゃっひゃっひゃっひゃっ!!もうお前らは終わりだよ!!

 大人しくガキ共を俺の前に並べれば命だけは勘弁してやってもいいぜぇ!!!」


 ビレッドの狂った笑いを目にして、少女達は姉さんの背中に隠れて震えている。


「断るよ。どうせ、僕達より先にこの子達を殺す気だろ?」

「ちぃぃぃ!! ばれちまったかぁぁぁぁ!!」

 ビレッドは狂った笑みを浮かべながら、

 手の平から直径50センチ程度の丸い形の爆発魔法を連発して放つ。


 爆発魔法の狙いは僕だ。

 だけど、剣で弾き飛ばすと、姉さん達に被弾してしまう可能性がある。


 なら、ここは……。


 僕は一気に近付いて、同時に聖剣の力を再び発動させる。そして、蒼い光を伴った斬撃を繰り出し、爆発魔法が被弾する前に全て吹き飛ばし誘爆させる。


「な、なにぃ!?」

 ビレッドは流石に驚いたのか、表情が強張る。


「今度はこっちの番だ!」

 僕はそう言うと、剣を構えてビレッドに向かって駆け出す。


「舐めるんじゃねぇ!!」

 ビレッドも負けじと剣を振るうが、僕はそれを難なく防ぐ。

 そして、接近戦での剣の打ち合いにシフトしていく。


 僕は奴の攻撃を防ぎつつ時々反撃を試みる。

 しかし、奴も簡単に切り込ませてくれず、結果、接近戦では互角だ。


 ビレッドは、気持ち悪く涎を垂らしながら叫ぶ。


「ひゃははははっ、クソ雑魚がよぉぉぉ!!

 てめぇのその得物、ルビーに聞いたぜ、聖剣って言うんだってなぁ!!

 だけどよぉ、斬り合ってるだけならただの武器でしかないようだぜぇ!!」


「……っ!!」

 僕は奴の挑発に乗らないように、冷静に剣を交える。


「聖剣以外何の取り柄もないクソ雑魚が! オラァァ、死ねぇぇ!!」


 奴は叫びながら、剣を横薙ぎにして僕を切り裂こうとする。しかし、その攻撃はフェイントだった。ビレッドは、本命である上段からの振り下ろしを繰り出す。


「チェックメイトだぁ、雑魚がよぉぉ!!」

「――っ!!」


 僕は、咄嵯にバックステップでビレッドの攻撃回避するが、

 完全に回避しきれずに、僕は胸から腹の辺りを浅く縦に斬られてしまう。


「……っ!!」

 僕は、その痛みに耐えて、次の瞬間―――


「―――ふっ!!!」

 奴に向かってカウンター気味に一文字に剣を薙ぐ。


「……あ?」

 一瞬、呆気に取られたビレッドだったが、一秒後、奴の腹と両腕の包帯がビリッと破けて、そこから一文字に切り裂かれる。


 僕の一撃は、見事に決まった。

 ビレッドの腹と腕から血が噴き出て、奴の足元を血濡れにしていく。男は放心したように、手から剣を床に滑り落として、腹を抑えて崩れ落ちる。


「……っ!! お、お前……何で……?」


「アンタの一撃は僕に傷を負わせるには浅すぎた。逆に、僕の一撃はアンタに深く入ったってだけだよ。……聖剣だけが取り柄の僕に、剣技で負けて残念だったね、ビレッド」


 僕はそう言い捨てると、ビレッドの眼前に剣を突きつける。


「……抵抗はやめた方が良い。

 アンタみたいに何の美点も無い卑劣な相手には、もう容赦しない。

 もし、抵抗したら人間であっても……殺す」

 僕は奴に睨みを利かせながら、殺気を込めて言葉にする。


「……く、クソガキが……!!」

 ビレッドは、僕に張り合おうと睨み付けてくるが、身体に力が全く入らないのか、出血が止まらない腹を手で押さえて立ち上がろうともしない。その両腕も、出血していて、まともに動かせない様子だ。


「……さっきの言葉、そのまま返すよ。……これで、チェックメイトだ」

 僕は冷たく言い放つと、姉さん達の方に視線を向ける。


 少女達が姉さんの前に出てきて、僕達の様子を伺っていた。

 そして、少女達は目を輝かせながら僕の方を向いて、言葉を漏らした。


「お兄さん、強い……いえ、レイお兄様……♪」

「……すごい剣技だった、レイお兄さん……」

「お兄ちゃん………かっこいい………」


「……え?」

 予想外の反応に僕は思わず声が出てしまう。

 僕は、ビレッドを睨み付けてから、剣を納めて姉さん達の所へ戻っていった。

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