第497話 熱い男
エメシスが呼び出したケルベロスという魔物だったが、見た目の割に大したことなく、一分程度で倒すことが出来た。戦闘後、僕達は辺りを見回すと、エメシスとかいう女の姿は消えていた。
「完全に見掛け倒しだったわね……あの三つ首のワンちゃん」
「犬扱いはどうかと……時間稼ぎだったんでしょうねぇ」
「ふむ、どうやら倒しきれたようでございますね……」
レベッカは、倒れたの魔物を槍で突き、動かないか確認する。
「……しかし、魔物を使役しているとは」
あのエメシスと女が魔物を使役しているということは、外でうろついていた熊の魔物も奴の仕業だろう。旧神とやらを降臨しようとしているらしいが、子供達を生贄にする神様なんてきっとロクなもんじゃない。
「急ごう」
「ええ、子供達が心配だものね」
僕達は再び、奥へと進む。
しばらく歩いて僕達は中央のホールの手前付近まで差掛かったところ……。
「……ぐすん………ぐすん………」
「誰か泣いている?」
微かに聞こえてくる子供の泣き声に、姉さんが反応する。
「あっちから聞こえるわね」
姉さんは声がする方向に向かって歩き出す。
「姉さん、待って。一人で行動しない方がいい」
僕は慌てて姉さんを引き留める。
「でも……」
「皆はここに居て、もし子供がいたらすぐに皆を呼ぶよ」
僕はそう言って仲間達を通路に残したまま部屋に入る。
僕は、子供の泣き声が聞こえた部屋の扉を開けて中に入る。
部屋の中は真っ暗だが、光魔法のお陰で僅かながら部屋の様子が分かる。
長らく放置された部屋のようで、周囲は埃だらけだった。
想像よりは広い部屋で、大体畳十六畳ほどの広さであることが分かる。
端に樽や棚が置かれているところを見ると、この部屋は倉庫だったのだろうか。
奥にはシートを被った何かがある。僕は足場がちゃんとあることを確認しながらそれに近付いていくと、微かにシートに被った何かが動くのが見えた。
「……いた!」
僕は、それが浚われた少女達の一人だと確信し、近づく。
「助けに来たよ、さぁ僕と一緒に外に出よう」
僕は姿勢を屈んで、優しく声を掛けて手を差し伸べる。しかし、子供は腰が抜けてしまってるのか、それとも僕の声が聴こえないのか中々動こうとしない。
「……どうしたの? 一緒に行こうよ、立てる?」
再び、子供に声を掛ける。
すると、部屋の外から僕を心配する仲間の声が聞こえてきた。
「レイ様、如何なさいました?」
「子供は見つかったんですか?」
レベッカとエミリアの声だ。
僕は、「見つかったよ」と扉の方を向いて叫ぼうとした。
その瞬間―――
僕の首元鋭い痛みが走った。一瞬何が起こったか分からなかったが、反射的に身体が動いて僕は咄嗟に後ろに下がる。
自分の首を手で触ると液体が零れていた。
暗くて分かり難いけど、それが自分の血であることに気付く。
そして同時に、これが罠であることを察知した。
「皆、これは罠だ!!」
僕は皆に聴こえるように大きな声で叫ぶ。
しかし同時に、扉が勝手にバタンと閉まり、施錠が掛かった音が聞こえた。
そして、何事かと思い、僕達の仲間が扉の前にバタバタと走ってくる。しかし鍵が掛かっているのか、彼女達はドアノブを回しているのだが開く様子が無い。
「レイくん、どうしたのっ!?」
「今、扉が勝手に閉まって……!!!」
「と、扉が開きません……!!!」
扉の向こうから仲間の困惑する声が聞こえる。
「くそっ!!」
僕は剣を抜いて構える。
そして、闇の中から、一人の男が現れた。
「まさか、こんなガキ一匹の為にここまでするとは思わなかったぜ」
現れた男は、あのゲス男のビレッドだった。ビレッドは相変わらず薄ら笑いを浮かべて、手に持ったナイフを手で弄りまわす。
そのナイフは、血がベッタリ付いていた。
僕の血だろうか、その割には随分と血の量が多い気がする。
「……く、騙したのか!!!!」
僕は剣を握りしめながら、一歩下がる。
「はははははっ!! 騙される方が悪いんだろうが!!!
いい加減そのムカつく顔も見飽きてきたんでな、ここで死んでくれやぁぁ!!」
そう叫びながら、ビレッドを僕にナイフを振り上げる。
僕は下がりながらそれを剣で受け止めて、扉の向こうの皆に助けを求める。
……しかし、何故か返事がない。
「はははぁ、無駄、無駄!! お前のお仲間達はルビーの奴が相手してっからよぉ。つまり、お前はここから出ることも出来ず、助けも呼べずに俺に殺されるってわけさ!!」
「み、皆が……くっ!!」
僕はビレッドの素早いナイフ捌きに押されて、壁に追い込まれてしまう。
「さぁ、トドメだ!!!」
勝ち誇った笑みを浮かべながら、ビレッドはナイフを突き刺そうとする。
「ぐぅ……」
僕は、何とか避けようと身を捩るが間に合わない……。
同時に僕の胸元に、鋭い痛みが走る。
「………っっっ!!」
深く抉れた僕の胸元から大量に血が迸り、痛みで意識が飛びそうになる。
僕は自分の舌を噛んで必死にその痛みに耐える。
そして、僕は自身の左腕を必死に動かし、奴の顔面を掴む。
「あ?」
ビレッドは突然弱々しい力で僕が顔を掴んだことに困惑している。だが、火事場の馬鹿力というべきか、僕はそこで奴の顔面を潰さんという勢いで力を込める。
そしてそのまま左手から魔法を発動させる。
「……ふ……
僕が唱えた直後、掴んでいる左手から炎が噴き出し、奴の顔面を焼いていく。
「ぎゃあああああああああっ!!」
零距離で放たれた炎魔法の威力は凄まじく、ビレッドの顔面の肉が焼け焦げ、鼻が折れ曲がった。ビレッドは身体をくねらせて僕の左腕から逃れようとするが、逃れられない。
「ああぁぁぁぁぁっ!!!!」
ビレッドは絶叫しながら僕の手を引き剥がそうと僕の腕を両手で掴む。しかし、僕は左腕に魔力を込め続けてた結果、強化魔法に似た状態となっており僕の握力が通常よりも遥かに増大している。その間、ずっと炎魔法を浴びせられたビレッドは全身が魔法の炎で燃え続ける。
「お、おおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「……ぐ……あ……」
しかし痛みで雄たけびを上げながも、
ビレッドは僕の身体を何度も何度も斬りつける。
斬りつけられるたびに身体に力が入らなくなり、
ついに呼吸もまともに出来なくなった僕は、そこで意識を手放してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます