第496話 顔見せ
屋敷に踏み入れた僕達は、ここをアジトにしていた元冒険者達に遭遇する。
王都の失踪事件の容疑者として彼らに同行を求めたところ、彼らと戦闘になった。
しかし、彼らを捕らえることは出来ず、僕達は再び捜索を開始した。
戦闘で屋敷の一部が倒壊してしまったため、僕達は回り道をすることにした。
屋敷の中は、さっきの戦いのせいで脆くなっており、所々床が抜けてしまっている。
「あの冒険者達を追うのも大変だけど、誘拐された子達が心配ね……」
「ええ、この広い屋敷の何処に監禁されてるのか……」
「急がなければなりませんが、足場があまりよろしくありません。慎重に参りましょう」
三人が焦燥感に駆られる中、僕は考えていた。
……あの冒険者達に浚われた女の子達は果たして無事なのだろうか?
「………」
もし……もしもの話だけど、あの冒険者の目的が、30年前にあった儀式だったとして、女の子達はその生贄として捧げられたとしたら?
もしそうなら、今頃……もう……。
嫌な想像をしてしまい、背筋に寒気が走る。
僕は、それを振り払うように首を横に振った。
「大丈夫ですか、レイ?」
エミリアに尋ねられ、我に返る。
「……何でもない、早く行こう」
「しかしこれだけの屋敷、何処を探せばいいのか見当が付きません。レイ様とカレン様が閲覧したという書物に、何か目星の付くような場所はありませんでしたか?」
「目星……か……」
この屋敷は老朽化が酷く、上へ向かう階段は崩れ落ちていた。
もし、あいつらが子供を何処かに監禁していたとして、おそらく何処かの部屋の中か、地下のどっちかだと予想が付く。
……ただし、後者の場合、既に手遅れの可能性がある。
だけど、手遅れとは限らないし、今のままだと手がかりが少ない。
もう少し、何か情報があれば……。
場所の判別はかなり難しい。
だけど、儀式を行う場所については心当たりがある。
「書物で調べた内容によれば、儀式を行っていた地下への入り口は、屋敷の中央のホールの何処かの壁の中に地下階段が隠されてたと書かれてたはず。あの冒険者達も、誘拐された子供達も、そこにいる可能性が一番高いと僕は思う」
……子供達が無事かどうかは分からない。
そう言い掛けたが、その台詞は、自分の心の中に押し止める。
「……成程、手がかりもありませんし、それしかないですね」
「そうね……捜索が遅れるとそれこそ手遅れになるかもしれないし、あいつらを捕まえて吐かせた方が早いかも」
二人はは納得して、僕の案に乗ってくれた。
レベッカは、無言で僕の横に並ぶ。
方針が決まった僕達は、中央の広間へと進むことになった。
……だが、そう上手くは行かなかった。
先を急ぐ僕達を邪魔するかのように、行く手を阻む存在が現れたからだ。
「……!!」
突然、寒気を感じた僕は、その場で足を止める。
僕の後ろを歩いていた姉さんが、疑問を感じたようで僕に質問する。
「レイくん、突然止まってどうしたの?」
僕はその質問に、目線を正面に向けたまま小さい声で答える。
「……何か、いる」
「……ええ」
隣を歩いていたレベッカも、僕と同じく何者かの気配を感じ取ったようだ。
「……もしかして、性懲りもなくさっきの二人が?」
「……いや、違う」
僕は否定しながら、腰に差した剣の柄に手をかける。
すると、前方から声が聞こえた。
「……お前達が、侵入者たちか」
声の主は、年老いた女性の声だった。
さっきの二人ではない。だが、姿が見えない。
「声はするのに姿が見えない……」
「という事は、……
エミリアは、姿を隠しているであろう相手に警戒しつつ、小声で尋ねる。
<消失>は相手から姿を誤魔化す魔法だ。
動き回ると残像が残って看破されてしまうが、立ち止まると看破が難しくなる。
下手に近付こうとして、後ろから刺されでもしたら事だ。
「察しが良いな……なら、儂がここに来た理由は分かるだろう。これ以上、儀式の準備を邪魔されるわけにはいかん。ここで死んでもらおう」
「!!」
その言葉と同時に、レベッカが動いた。
彼女は、声がする方向から既に敵の位置を看破していたのだろう。
槍を構えながら一気に前へ飛び出す。
「レベッカ!?」
「……馬鹿め」
レベッカが攻撃を仕掛けようとした瞬間、彼女の足元に赤い魔法陣が現れる。
おそらく攻撃魔法だ。
「――っ!!」
レベッカはすぐにその場から後退する。次の瞬間、魔法陣のから黒い炎が吹き上がり、彼女を襲う。レベッカは槍を構えてその攻撃を防御しようとするが、姉さんの防御魔法によって黒い炎を弾いて霧散する。
「助かりました、ベルフラウ様」
「気にしないで……それより、ようやく正体を現したようね」
姉さんは、前方を指差す。彼女が指し示す方向に、帽子を深く被って目元を口元を黒い布で覆っている魔法使い風の人物が立っていた。
魔法を発動させたため、姿を消す魔法が解除されたのだろう。そして、彼女の服装。僕は事前情報の知識を持っていたため、すぐに正体を看破出来た。
「この特徴……エメシス・アリターか」
僕は、資料で見た目の前の人物の名を呟く。
「……よく調べているものだ。
冒険者ギルドは、簡単に他人の情報を漏らさない組織だと聞いていたのだが。
何故、儂たちがここを根城にしてると知った?」
「王宮の兵士達を舐め過ぎだよ。王都で何か事件が起これば、陛下の命令で彼らが事件の解決に向けて動き出す。
それに、少し前に、僕は女の子が誘拐されそうな現場に鉢合わせてた。あれもアンタ達の仕業だろ?」
僕はそう言い返す。
隣に居たレベッカは、怒りの表情でエメシスに槍を向ける。
「か弱き子供達を浚って幽閉するなど、人の風上にも置けません。覚悟しなさい、悪党!!」
「待って、レベッカちゃん。……あなた達の目的は一体何なの? 子供を浚って何をするつもり?」
「……あなた達は魔王軍の手先なのですか?」
姉さんとエミリアは目の前の人物を睨み付けながら問う。
レベッカに至っては今にも飛び出しそうな勢いだ。
もっとも、それは僕も同じだけど……。
「……違う。儂らは、魔王軍などとは関係ない。儂らは、過去にこの屋敷で執り行われていた【旧神】を復活させる儀式を再開しようとしていただけだ」
「儀式……それは、もしや……」
レベッカは、相手の言葉に眉をひそめて、僕に視線を向ける。
嫌な予感が的中してしまった。
「……やっぱりか、つまりお前たちは子供達を生贄にするつもりだな!」
「然り、しかしそれは大事を行うための犠牲よ。旧神さえご降臨なされば、魔王などいとも簡単に一掃してくれようぞ。そして、非力な今の二柱の神には舞台から降りてもらい、我らの理想の世界とするのだ」
「ふざけるなっ!!」
レベッカは激昂して叫ぶ。
「……ふ、所詮子供には理解出来ぬ話よ。
分かり合えぬと分かった以上、貴様らはここで死ぬしかないな!!」
エメシスはそう言いながら、後ろに下がり、「行け」と何者かに命令する。すると、次の瞬間、エメシスの横を黒い影が通り過ぎて、僕達の前に、首が三つある犬の化け物が立ちはだかった。
「な、魔物!?」
「貴様らにはしばらくその獣と遊んでいてもらおう、ではな」
エメシスはそう言って、その場から立ち去って行った。
「待て、卑怯者!!」
僕は激高して奴を追いかけようとするが、
「お待ちください!今は目の前の事に集中しましょう!!」
追いかけようとする僕の腕を掴み、レベッカが止める。
「くっ……!! なら、こいつをさっさと倒そう!!」
僕達は武器を構えて、目の前の魔物を先に倒すことに決めた。
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