第495話 切り札
僕達は、王都の失踪事件解決の為に、古びた屋敷へと訪れた。
そこで、僕達は少女達を誘拐したと思われる冒険者の一人と遭遇する。
事情を聞くために同行を求めたが、その人物は拒否し、戦闘になった。
途中、同じく誘拐容疑の掛けられた冒険者の魔法で、仲間達三人の動きを拘束されてしまう。仲間を拘束されてしまったレイは、仲間を置いて逃げることも出来ずピンチに陥ってしまった。
「………くっ」
僕は目の前の元冒険者、『ビレッド』と『ルビー』に剣を向けて、彼らから視線を外さない様に後ろに下がる。僕はその状態で後方で拘束されてしまっている彼女達に大声で呼びかける。
「三人共、状況はっ!?」
しかし、三人の返事は芳しくないものだった。
「駄目、
「物理的な攻撃を試しているのですが、この狭い檻の中では……!!」
「ごめんなさい、レイ。すぐに脱出は難しそうです……!!」
彼女達は、答えながら内側から槍や魔法で檻に攻撃を繰り返す。
しかし黒檻は傷付く様子がない。
僕達が焦っていると、黒檻を維持しているルビーは無表情で言った。
「無駄、<黒檻>はあの程度の攻撃ではビクともしない。あの女達が出来るのは、お前がなぶり殺しにされているところを見ているだけだ」
彼女は、淡々とそう言う。
まるで感情の無い人形の様に、無慈悲な言葉を僕に投げかける。
僕はそんな彼女に対して苛立ちを覚える。
同時に、この状況を打破する方法を考える。
僕が聖剣の力で、あの黒檻を攻撃すれば破壊出来るだろうか?
無理だ。
僕が攻撃しようとすれば、目の前の二人が黙っていない。
「(……なら、術者を攻撃すれば?)」
黒檻の魔法を使用しているのは、あのルビーという少女だ。彼女を攻撃して、魔法を中断させれば魔法は解除されるはず。あのビレッドという男が少女の前にいて邪魔だが、初速の技能で男の後ろに一気に回り込んで、一撃で昏倒させてしまえば……。
剣を握る手に力が入る。幸い、二人は僕を侮っている。
特に男の方は剣を構えて、ニヤニヤしながらこちらを見ている。
情報によればこの二人は、冒険者適正は
しかし、情報通りなら奴らは大した技能も習得していないはず。
「(なら、行ける……っ!!)」
そう思い、僕は一気に床を蹴り上げる。
ドンッ!!っと、まるで弾丸のように僕の身体は一気に加速する。
そのまま、彼らが反応しきれないうちに、一瞬にして僕はビレッドの背後へ回り、僕はルビーに斬りかかろうとするが、突如として僕の真横から衝撃が襲った。
「ぐっ!?」
衝撃を受けた僕は、勢いのまま壁に激突してしまい、
脆くなっていた周囲の壁と床が崩れて僕は瓦礫に埋もれてしまう。
「一体、何が……」
僕は、瓦礫から身を乗り出して立ちあがると、ビレッドの手から煙が上がっていた。衝撃を受けた部分を見ると、僕の鎧が黒く焦げている。どうやら僕は、あの男に爆発魔法を放たれて吹き飛ばされてしまったようだ。
「残念、不意打ち失敗しちゃったねぇ!!」
ビレッドは、相変わらず薄ら笑いを浮かべながら言った。
「魔法、情報と違う……」
昨日確認した資料だと、ビレッドは剣術以外の技能は書かれていなかった。この男は魔法の適性こそ高いが、習得している魔法は無いはずなのに……。
「情報……? ははーん、もしかして俺たちの資料でも読んだのか?
でも残念だったな、馬鹿正直にギルドに自分の能力を晒すわけないじゃんか。それに俺だっていつまでも遊んでるわけにはいかないんだよね~。だからさ、早く死んでよ」
ビレッドの足元が光り輝く。
「!?」
次の瞬間、彼の足元が爆発した。
「ぐあっ!!」
僕はその爆発の余波を受けて、今度は黒檻に囚われている仲間の近くに吹き飛ばされてしまう。
「レイくんっ!!!!!」
「ご無事ですか、レイ様っ!!!」
仲間の必死な声で、どうにか意識を保って僕は立ち上がる。
「大丈夫……」
とは言ったものの、状況は最悪だ。
仲間を拘束している黒檻はビクともせず、ビレッドは無傷。
ルビーはビレッドに守られているせいで近づくことも出来ない。
「お前って確か、自由騎士団の副団長……だっけ? 騎士団ってよく知らないけど、そんだけクソ雑魚なら、俺でも余裕で出来ちゃいそうだよねぇぇ!! どう思う、ルビー?」
「……知らない、興味もない」
「ははっ、つれない返事だねぇ」
ビレッドの言葉に、ルビーはそっけない返事をする。
「……」
「あははははははははっ!!!!」
「……炎よ」
僕はこっそり掌から150センチ程度の大きさの火球を放つ。
「ははははははっはは…………は?」
そこで、男の不快な笑い声が止まる。
彼は、自分に向かってくる大きな火球を見てポカンとした表情をしていた。
「ちょ、ちょっと待て!?」
男は慌てる様にして、その場から横に跳んで僕の火球の魔法を回避する。しかし、火球の勢いは落ちることなく、男の後ろにいたルビーに向かって飛んでいく。
「……!!」
ルビーは油断していたのか、一瞬目を見開いてから、空いている手を翳して、僕の火球魔法を相殺する。タイミング的にギリギリだったのか、彼女の掌は熱に焼かれて黒焦げになっていた。
「……ち、失敗か」
僕は、舌打ちをしてそう呟く。
「……おい、どういうつもりだテメェ?
まさかとは思うけど、本気で俺達に勝てるとか思ってんのか、あぁ!?」
ビレッドは、笑みを忘れたかのように威圧的な表情をする。
その様子を見て、少し冷静さを取り戻した僕は、負けずに言い返す。
「さっきまで気持ち悪く薄笑ってたのに、今度は不機嫌そうだね。あんな不意打ち程度で余裕無くすなんて、やっぱり冒険者のランクが高いだけで、大したことなさそうだ」
僕は、そんなビレッドに対してわざと挑発的な言葉を言う。
「このガキ……」
ビレッドは、僕の安い挑発に乗ってきたのか、額に青筋を立てていた。
「……おい、お前、ぶっ殺すぞ。
さっき言っただろ、あの検査なんざ適当に済ませただけなんだよ!!
そんな程度の事もわかんねぇのかよ、クソガキがぁぁぁ!!!」
ビレッドは絶叫しながら、僕に先程の爆発魔法を放ってくる。
しかし不意打ちならともかく、正面からの爆発魔法なんて大したものじゃない。
僕は剣を構えて、一歩踏み込み、その爆発魔法の中心を切り裂く。切り裂かれた爆発魔法は、二つに分かれてあらぬ方向へ飛んでいき、壁にぶつかって小爆発を起こしてから消滅する。
「……嘘だろ」
ビレッドは、目の前で起こったことが信じられないという風に、
笑みも忘れて唖然とした顔で立ち尽くしていた。
「やっぱり、こんなものか。
魔法の威力も出力が低いし、そっちの女の子も突っ立ってるだけだ。
もしかして、この<黒檻>って魔法を維持するだけで手一杯?」
「……」
「うぜぇ……マジでうざい。なんだ? 何が言いたいんだ、てめぇは?」
「ただの事実確認だよ。ギルドの情報が間違ってるのも、アンタ達が予想よりは強いのも分かった。この魔法も厄介だ……だけど、それももう解決策に気付いたよ」
「は?」
ビレッドの怒気が更に増した気がするけど、それを無視して僕は剣に語り掛ける。
「
『了解、私も聞いててイライラしてた』
「なんだ、こいつ? 恐怖で気が狂ったか?」
「……違う、もしかして……あれは……」
無表情で立っていたルビーが、少し驚いたように僕の剣を見て言った。
だけど、関係ない。
「思えば、簡単な話だった。
まとめて、一気に吹き飛ばせば、それで終わるよね……!!」
僕は剣に膨大な魔力を注ぎ込み、聖剣はそれに応え蒼い光を解き放つ。
そして、僕は剣を両手持ちして、思いっきり振り下ろす。
「――聖剣技、
「なっ!?」
「!!」
解き放たれた蒼い光は、高速で彼ら二人の方に飛んでいき、その光が一気に膨れ上がると、彼らの周囲もろとも一気に消し飛ばす。聖剣による攻撃は彼らはおろか、屋敷の一部も破壊しつくし、僕の前方は瓦礫の山と化した。
それから数秒後、後方で魔力が消える気配を感じ取った。
振り向くと、黒檻が消えて自由になった三人が僕の元へ走ってくる。
「レイ!!」
「レイくん、凄いわ!」
「ご無事で何よりでございます!!」
三人が慌てて僕の所に駆け寄ってきて、それぞれ心配の言葉を掛けてくれる。
それを見て、僕はほっと一息つく。
「レイ、すみません。私達、何の役にも立てなくて……」
エミリアが帽子を脱いで、僕に頭を下げる。
「ううん、気にしないで。
僕も下手すれば黒檻に囚われてただろうし、三人は運が悪かっただけだよ」
「うう、面目ない……」
「レイ様のお陰で無事、あの魔法から逃れることが出来ました」
「……助かったわ、ありがとう」
「どういたしまして」
三人の礼に、笑顔で答える。
「それで、あの二人は……」
皆は、目の前の瓦礫の山に視線を移す。
「……これは、さっきの二人、死んでるかもしれませんね……」
「……」
エミリアの言葉に、僕は何も言えなくなる。
全員を助けようとするならあれしか手段が思い付かなかった。
でも、いくら悪人とはいえ、殺してしまうことになるとは……。
「……」
「……」
「……」
「……」
誰も何も言わず、重い沈黙が続く。
すると、瓦礫の山から男の声が聞こえてくる。
「――ふーん、まぁそう簡単に死ぬ気はないんだけどなぁぁ!!」
「「「「!!」」」」
僕達は、再び武器を構えて目の前の瓦礫の山を睨み付ける。
すると、瓦礫の一か所からビレッドが飛び出してきた。
「いや~、危なかった!! まさか、こんな隠し玉があったなんてねぇ」
ビレッドは笑いながら、自分の体に付いた土埃を払っている。
そして、僕達の頭上から、
「……やはり、即座に仕留めるべきだった」と少女の声が聞こえた。
見上げると、そこには空中に浮かぶルビーの姿があった。
ルビーは瓦礫の上の方に着地し、無表情でこちらを見下ろしてくる。
彼女は、巻き込まれなかったのか、服を殆ど汚していなかった。
「嘘でしょ? あの状況で無傷だなんて……」
「一体、如何なる手段で防いだというのですか……!?」
姉さんとレベッカが驚愕の表情を浮かべている。
だが、僕は何となく予想が出来ていた。
「……多分、防いだでも避けたのでもないと思う」
「え?」
「聖剣技は、前方広範囲に高威力の攻撃を放つ技。普通はあんな狭い場所で使う技じゃないし、僕は、防御も回避も出来ない様に仕向けて撃った。それを無傷で凌ぐなら、その場から一瞬離脱した以外考えられない」
僕がそこまで言うと、エミリアがハッとした表情で言った。
「……まさか、空間転移!?」
「……うん、多分ね」
僕の言葉に、皆が驚いて固まってしまう。
「……!!」
ルビーは、無表情であったが、僅かに眉が釣り上がった。
どうやら正解だったらしい。
「へぇ、まさか看破されるとはなぁ、ルビー」
「……」
「おい、何とか言ったらどうなんだ? つまんねぇじゃねえかよ?」
「……別に、貴方のつまらなさなど興味がない」
「ああ?」
ルビーは、軽薄なビレッドを相手にせず、こちらを睨み付ける。
睨み付けられたエミリア達は、挑発する様に言った。
「まだ、やる気ですか?」
「さっきは異質な魔法で不覚を取りましたが、次はそうは参りませんよ」
レベッカは、限定転移で槍を出現させ、ルビーの方に穂先を突きつける。
しかしルビーは言い返さず、少し間を置いてからビレッドに言った。
「ビレッド、撤退する」
「ああ!?」
ビレッドは軽薄な笑みから、怒りの表情に変えて言った。
「おい、嘘だろ。こんな奴ら、もう一回、お前の<黒檻>で――!!」
「二度通じる相手じゃない。それに、さっきのその男の技、危険。少なくとも固まって受けてしまえば、私達でもただでは済まない。だから――」
「ちっ!……分かったよ、しゃあねぇなぁ」
ビレッドは不機嫌そうに返事を返して、こっちを見た。
「おい、てめぇ、次にその顔を見たら殺してやるからな」
「……」
僕は、彼の威圧にも表情を変えず、涼しい顔で無視を決め込む。
「けっ……!! おい、ルビー、俺も連れていけ!!」
「……」
ビレッドの言葉に、ルビーは無言で応じて、指で何かを描くように動かした。
すると、一瞬で彼らの姿が消える。
「……行ったわね」
「うん」
僕は、鞘に剣を納める。
「……どうやら油断してたのはこっちのようでしたね」
「ええ、あれほどの強敵だとは思いもしませんでした……レイ様、どうなさいますか?」
レベッカに、そう問われる。
一度、この場から離脱し、態勢を立て直すべきか……。
いや、そんな事をすれば向こうも警戒を強めるだろう。
何より、奴らに囚われている少女達の身が危ない。
奴らの目的が誘拐じゃないのなら、余計に彼女達の命の危機だ。
しかし、僕がそれを言う前に、姉さんは言った。
「……追いましょう。このまま放っておく訳にはいかない」
「……だね、僕も姉さんに同意だよ」
僕と姉さんの意見が合ったことで、エミリアとレベッカは頷き合う。
そして、僕達は、再びこの屋敷の探索を続けることした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます