第491話 お願い

 僕達は受付のお姉さんに案内してもらい、

 この王都のギルドマスターの部屋に通してもらった。


「それでは、改めまして、

 私がこの王都支部の冒険者ギルドの管理・運営を任されております<ラバン>と申します。先程は部下の者が大変失礼致しました」


 ラバンさんは改めて自己紹介してくれた。

 僕達もそれに習って、軽く会釈をして挨拶をする。


「いえ、こちらこそ、ご迷惑をお掛けしてすみませんでした。自由騎士団の副団長代理のレイです、お世話になります」


「カレン・ルミナリアです。さっきは失礼しましたわ」


 僕とカレンさんも名前を名乗りながら、さっきの事を謝罪する。


 ラバンさんは、僕達の謝罪を笑顔で聞き入れてくれて、部屋のソファーに案内される。僕達は二人で並んで座り、机を挟んでラバンさんが正面のソファーに座る。


「まずは要件の確認をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

 ラバンさんにそう質問され、カレンさんは真面目な顔をして答える。


「ええ、この冒険者ギルドに在籍する冒険者のうち、ここ最近、顔を出さなくなった、冒険者達の情報開示をお願いしたいのです」


 しかし、カレンさんのその要望にラバンさんは渋い顔をして答える。


「……申し訳ございません。冒険者様の個人情報は、機密情報とされており、他人に教える事は出来ない決まりとなっております」


「それは知っています。

 ですが、今回は事件が絡んでいて、どうしてもその情報が必要なのです」

「……と、言われましても……」


 カレンさんは、引き下がるつもりは無いようだ。だけど、カレンさんの要求に対して、ラバンさんが困っている様子だ。僕はカレンさんに助力する為に、ラバンさんに言った。


「あのラバンさん。今、王都で起きている事件に、ここの冒険者が関与してる可能性が非常に高いんです。ですから、事件解決の為にもお願いできませんか?」


「……残念ですが、あなたが騎士団の方と知っていても情報をお出しするわけにはいきません」


「……で、でも、これは国王陛下直々の依頼なんですよ?」

 僕は半ば必死に説得を試みた。


「仮にそうであっても、私達、冒険者ギルドは、あらゆる組織から中立の立場でいなければならない存在なのです。

 仮に王宮の勅命であったとしても、ギルドは独自の組織で動いており、国王様に忠誠を誓った覚えはありません。これ以上の情報開示を望むなら、私どもではなく、冒険者ギルド本部の者にお問い合わせください」


 しかし、ラバンさんは頑なだった。

 ……なるほど、王宮がギルドから情報を引き出せないわけだ。

 彼らは、国とは別の組織で動いている。故に、陛下の威光が通じない。


 でも……どうしよう、これ以上何を言えば……。

 自身の身分を名乗っても、事件性があると説得しても応じてくれない。

 これじゃ、手詰まりだ……。


 僕がそう悩んでいると、カレンさんは普段より声を低くして語り始めた。


「……では、『私』のお願いであればどうでしょうか?」

「え、カレンさん?」


「……それは、いったいどういう意味でしょうか?」

 ラバンさんはカレンさんの言葉に、嫌な予感を覚えたのか、表情を曇らせる。


「ラバンさん、私の事をご存知ですか?」

「ええ、それは勿論……」


 名前の話じゃないだろう。

 カレンさんは、冒険者の間では英雄と呼ばれるほどの有名人だ。

 当然、冒険者ギルドのギルドマスターの彼も知っているだろう。


「なら話が早いですね。私は冒険者ギルドにおいて、今まで多数の功績を残してきました。その中には、冒険者ギルドから直々に指名されたS級の最重要特別任務は勿論の事、A級高難易度任務も数多くあります。そして、それらの任務で、達成率99%という実績を残していますわ」


「そ、それは……」


「ここまで言えばお判りでしょうが、私は冒険者ギルドに相当な『貸し』を作っています。他にも、新人冒険者の育成、冒険者学校での講演、魔獣討伐や遺跡調査等、様々な貢献をしてきております。場合によっては支部ギルドに対して資金援助を行ったこともありますね」


「……」

 カレンさんの言葉を聞いて、ラバンさんは黙ってしまった。


「さて、もう一度だけ確認します。

 今、王都で発生している失踪事件の解決の為に、冒険者ギルドの取り扱ってる情報が必須なのです。力を貸してくれませんか?

 ……もし、ここまで言っても、私達のお願いを断るというのであれば――」


 カレンさんは、最後に決定的な言葉を付け加えようとする。

 しかし、ラバンさんはそこで折れてしまい「……わ、分かりました」と渋々ながら答えた。


 そして、ため息を吐きながらラバンさんは言った。

「……貴女がギルドにおいて多大な貢献と援助をして頂いてるのは事実。

 もし貴女が冒険者ギルドからの除名措置を取るような事があれば、ギルドは多大な損失を被る事になるのは目に見えております。よって、今回の件に関しては特例として、ギルドマスター権限で、冒険者のパーソナルデータを閲覧する事を許可します」


 その言葉を聞いたカレンさんは「賢明なご判断、感謝しますわ」と、さっきまでの剣幕とは裏腹に穏やかな笑みと、いつもの透き通るような声でラバンさんに言った。


 カレンさんのお陰で、ラバンさんを説得することが出来た。


 ……さすがカレンさん。

 僕ではこんなに上手く話を持っていけなかっただろう。

 彼女が本気で権力を行使すると、ここまでの事が出来るのか。


 その後、ラバンさんは冒険者達の情報を紙に纏めて渡してくれた。 最後に一言、ラバンさんから「くれぐれも他の方にその情報は漏らさないようにお願い致します」と念押しされた。


 僕達は、ラバンさんのその言葉に頷いてから部屋を出て、

 受付のお姉さんにお礼を言ってから、冒険者ギルドを後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る