第489話 意味深
陛下に誘拐事件の調査を依頼された僕達一党。
僕は、カレンの協力を得るべく、彼女の家を訪れた。
僕が彼女の家に行くと、カレンさんとサクラちゃんがお菓子を焼いており、僕は誘われるがままご相伴にあずかることに。そして食べ終わって、サクラちゃんが片付けに向かったタイミングで、僕は本題を切り出すことにした。
「カレンさん、早速相談があるんだけど」
「うん、何かしら?」
「実は、今日ね……」
僕は明日、陛下に依頼された件で調査を行う旨を伝えた。
「……王都内で子供たち数人が失踪……。
同時に一部の冒険者が行方をくらませていると……怪しいわね」
「うん、そういうことなんだ。それで……」
「分かったわ、私も協力する。
ギルドで情報を開示してもらえば、犯人たちの素性も分かるでしょう。
この後、私と一緒にギルドに行きましょうか」
「ありがとう、助かるよ」
「良いのよ、今の私じゃ戦いの役に立たないからこれくらいはさせて?」
カレンさんは申し訳なさそうに言う。僕とカレンさんが真剣に話し合っていると、片付けを終えたサクラちゃんが戻ってきて席に着く。
「あ、丁度良かったサクラ。
今から私とレイ君はギルドの方で用事を済ませてくるわ。
サクラはここで留守番お願いね」
「はーい、分かりました」
「すぐに戻るわね」
「はーい、行ってらっしゃーい」
僕とカレンさんは二人で家を出て、ギルドへ向かった。
◆
冒険者ギルドにて――
僕とカレンさんは調査の為に、冒険者ギルドに足を運んだ。エミリアやレベッカはよくギルドに顔を出してるみたいだけど、僕は王都のギルドに足を踏み入れるのは初めてだったりする。
僕は冒険者ギルドの外観を外から見て思ったことを呟く。
「思ったより大きくないんだね」
「あら、レイ君、もしかして王都のギルドは初めてなの?」
カレンさんは意外そうな顔をして僕に言った。
「うん、エミリア達はよく来てるみたいなんだけど、僕は王都に来てからすぐに自由騎士団に加入して、冒険者として活動する機会が無くなっちゃったんだよね」
「あー、確かにそうだったわね。
レイ君達を連れてきた時に、案内はしたけどここには寄らなかったし。
それならレイ君も顔を覚えてもらう絶好の機会かもね」
カレンさんは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「ところでさっき大きくないって言ってたけど、何処と比べたの?」
「ゼロタウンだよ」
「ゼロエンドの首都ね、あそこは冒険者ギルドの総本山だもの」
そんな話、随分前に聞いたような気がする。
「王都の冒険者ギルドは、今はあんまり活発に活動してるわけじゃないの。王都を訪れた冒険者達が、一時的に滞在する場所として使われてる感じかしらね。今は闘技大会の直後だからまだ賑わってるけど、本来なら今よりも少ないくらいなのよ」
「そうなの?」
「ええ……さて、入り口に立ち往生しているのもアレだし、入りましょうか」
僕達二人はギルドの入り口の扉の前に立ち、カレンさんが扉に手を掛けたところで、何故か顔を赤らめてこちらをチラッと見て言った。
「えっとね……レイ君、この後、色んな意味で迷惑掛けちゃうかも……?」
「え……?」
その言葉の意味は分からなかったけど、カレンさんは顔を赤らめたまま僕から視線を逸らして扉を開けて中に入っていく。僕も後を追ってすぐに建物の中に入っていった。
◆
建物の中に入ると、正面には大きめのクエストボードが置かれていた。
そこには様々な依頼書が貼られていて、何人かの冒険者がクエストボードの前で、依頼の内容を細かく確認していた。どうやら、どの依頼を受けるか決めかねているようだ。
やはりと言うべきか、想像していたよりは冒険者の数は少ない。中の設備は入り口の左側はテーブルと椅子がいくつか並んでいて左奥でお酒や食事を注文できる施設がある。昼間からお酒を飲んでいる飲んだくれの冒険者達が騒いでいた。
右側は依頼受付のカウンターで、受付のお姉さんが冒険者から依頼の話を聞いているようだった。しかし、こちらは人があまり多くない。
カレンさんが言っていたように、普段は賑わっていないようだ。
「……空いているわね、今のうちに受付に行きましょう」
「え、あ、そうですね……って」
カレンさんは僕の返事を最後まで聞かずに、僕の手を取って、僕を引っ張る形で受付に向かっていく。何故だかカレンさんは慌てているように見えた。
受付の前に行くと、受付のお姉さんが僕達に気付き、事務的なスマイルで「いらっしゃいませ」と挨拶をする。しかし、受付のお姉さんは、カレンさんの顔をじっと見始める。
そして何故か驚いた顔をして、やや大げさに叫んだ。
「ま、まさか、英雄カレン・ルミナリア様!?」
「……あっちゃあ……」
カレンさんは、頭を抱えて悩み始めた。
「? カレンさん、どうかしたの?」
「えっとね……私、こういう場所だと有名人扱いなの……。
だから、こうやってたまに来ると大げさに反応されて、それで……」
と、カレンさんは何か言い掛けようとするのだが……。
「か、カレンだって?」
「蒼の剣姫の、カレンさんか!?」
「冒険者のアイドルのカレン様だってぇぇぇ!?」
僕達の後方、具体的にはクエストボードが置かれている場所から声が上がる。振り返ると、数人の冒険者達が僕達を見ていた。その冒険者達は、僕達が振り向いたのを確認すると、一斉に駆け寄ってくる。
しかも、全員が屈強な男達。
「おい、カレン! お前の武勇伝は俺達も知ってるぞ!」
「やっぱり、王都に戻ってきてたんだな!!」
「サインしてくれよ、カレンちゃん!!」
「握手してください、カレンさまぁぁ!!」
「俺と結婚してくれぇぇぇぇ!!!」
あっという間に、カレンさんは冒険者に囲まれてしまう。
彼等は口々にカレンさんの名前を叫びながら興奮している様子だった。
「ちょっ、ちょっと、皆落ち着いて」
カレンさんは、困った表情をしながら言う。
なるほど。
カレンさんがギルドに入ってから慌ててた理由が分かった。
自分の姿が他の冒険者に気付かれてしまうと、すぐに騒ぎになってしまう。だから急いで受付に向かおうとしたのだろう。受付さんに叫ばれてしまったから台無しになったけど。
このままだとカレンさんのファンたちに囲まれて僕達は身動きを取れずに、目的も果たせなくなる。ここは僕が仲裁してカレンさんを助けないと……。
そう思い、僕はカレンさんを囲む輪の中に強引に入る。
そしてカレンさんの前に立って彼女を庇う。
「皆さん、落ち着いてください」
僕は出来るだけ落ち着いた声でそう言った。
「あぁん?」
「なんだてめえ?」
「邪魔すんじゃねえよ」
ガラ悪っ!!
見た目通りの屈強な人達のようだが、性格は紳士的ではないらしい。
僕は気圧されない様に、背筋をしっかり伸ばして言った。
「こほん……カレンさん、困ってるじゃないですか。
こんな大勢で一人の女性を取り囲むなんて酷いですよ。出会い頭にいきなり結婚申し込むのもどうかしてますし、ちょっと冷静になりましょう、ね?」
なるべく事を荒立てたくはない。
僕はなるべく温和な笑顔を浮かべて、彼らを諭すように言った。
しかし、彼らは僕の言葉を無視して、今度は僕を睨みつける。
「てめえ、何勝手にカレンの隣に立ってんだよ」
「そうだぜ、そこをどきやがれ」
「俺達は冒険者のアイドルと、幸せな時間を過ごしたいんだよ!」
「っていうか、お前、なんでカレンさんの横に立ってんだよ!!」
「むしろお前がカレンの何なんだ!?」
あ、僕が敵視される流れになってる。背後を見ると、うっかり声を出してしまった受付のお姉さんが、申し訳なさそうな顔をして、僕の方を見ながら頭を何度も下げていた。
ただ、屈強な彼らに対しては怖くて何も言えないようだ。
「(……まぁ、この圧力だもんなぁ……)」
どの人も、僕よりもよっぽど体格があって強そうに見える。彼らの熱い視線を注がれてる僕も、以前であれば怯え腰になっていたところだ。
しかし、ここからどうするか。
「(騒ぎを収めるとはいえ、武力制圧をするのも……)」
最近、それなりに自分の強さを自覚出来た僕としては、この状況下でも、物怖じせずに立ち向かえる勇気くらいはある。しかし、暴力沙汰は避けたい。
……でも、これじゃあ収拾がつかない。
僕はそう考えて困っていると、不意に僕の背中に柔らかい感触が当たる。
カレンさんだ。
「レイ君、大丈夫よ」
「カレンさん……でも、この状況だと……」
しかし、カレンさんはここで意外な行動に出た。僕の前に立ち、屈強な彼らを睨み付けながら、何故か、カレンさんは僕に抱き付く。
「カレンさんっ!?」
「……」
突然の事で僕はカレンさんの名前を呼ぶが、
彼女は僕を抱きしめたまま頬を赤く染めて、屈強な男達を睨み付けている。
「どういうことだ!?」
「か、カレン様が!?」
「な、なにしてんだ、あいつ!?」
「ふぉおおお! 英雄カレン様とハグしてるぞ!?」
「羨ましいぃいい! 俺と代わってくれぇぇえええ!!!」
周囲は騒然とした空気に包まれた。
酒場で飲んだくれてる冒険者達もこっちに注目している。
そして、僕を含めて彼らが動揺していると、
カレンさんは僕の耳元でボソッと「レイ君、ゴメンね」と言った。
僕は、何故謝られたのか訊き返そうとするのだが、
その前にカレンさんは、屈強な彼らに向かって毅然した態度で叫んだ。
「聞いて!! この人はね、私の婚約者なの!!!」
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