第486話 ネルソンという男の結末2
レイとネルソンの二人の決闘の最中、
戦いはレイの優勢に進んでいたが、本気を出したネルソンの一撃により、
周囲に雷鳴と轟音が鳴り響き、その威力に周囲は動揺してしまう。
【視点:エミリア】
「……今のは」
見学していた私はボソッと呟く。
今のネルソンの一撃、あれは何処かで見覚えがある。
「(魔法剣……)」
ネルソンの技は自身の剣技に雷魔法の威力を加算して放ったように見えた。
それは、レイの得意とする魔法剣と原理が全く同じだ。
その私の呟きに、隣で見学していたカレンは言った。
「ええ、レイ君の技に確かに似ているけど……。多分、あの義手のお陰かしらね。魔道具に使われている技術だと思う……ね、おじ様?」
カレンは団長の隣で試合を見学していたアザレアさんに声を掛ける。自分が呼ばれていることに気付いたアザレアは、眼鏡を外してカレンの方を向く。
「ふふ、少し気合い入れて作らせてもらったよ。
彼の腕の骨格部分を元にして、肉体に馴染むように改良して、 次に彼の魔力を増幅させる回路を組み込み、最後に剣を振るう際に、その力を更に増強できるように調整を加えたんだ」
「それはもはや、義手というより兵器ですわ、アザレアおじ様」
「うん、実は義手というより試作兵器として作ったものなんだ。今回は義手の形だけど、上手く開発が成功すれば、国の兵士に持たせて戦力を増強することも可能だ。
まあ、その辺は今後の課題かな。今回はそれのお披露目というわけさ。陛下の目に留まれば、更に予算を増やしてもらえるかもしれない」
アザレアの密かな企みを聞いて、カレンと私は苦笑してしまう。
「それで、今回はそれの第一歩だと?」と私は質問する。
「そうだね、調整段階だけど、この決闘を機に完成品を作れるかもって思うとワクワクしちゃうよね」
アザレアは眼鏡を付けなおし、二人の戦いに目を向けてブツブツと呟き始めた。
「……そうですか」
この人、見た目によらずマッドサイエンティスト気質がありますね……。
そんなことを思いつつ、私は目の前にいるネルソンの方に視線を向ける。
◆
【視点:桜井鈴】
周囲が騒いでいる中、僕とネルソンさんは距離を置いて睨み合っていた。
「(さっきの技……)」
おそらく、アレが彼の今の技だろう。
正面からだと防御の上から貫通されてしまいそうな破壊力があった。義手があって初めて使える技みたいけど、1週間程度しか訓練期間が無かっただろうに、凄い威力だった。
「(こっちも魔法で対抗した方が良いだろうか……)」
彼も僕と同じ魔法剣士タイプだ。その場合、大技さえ喰らわなければ、純粋な魔力の総量と身体能力で勝るこちらが上回る。さっきの一撃を回避しながら魔法で立ち回り、彼の雷魔法に注意して戦えば堅実に勝利が出来るだろう。
「……どうした、戦いの途中で考え事か?」
「……!」
僕がどう出るか思考していると、あちらの方から話しかけてきた。
「……すみません。ネルソンさんの技が凄くて出方を窺ってました」
「何を言う。お前がその気になれば俺など一蹴出来るだろう。予選でも準決勝でも、お前が初めから本気だったなら俺はあっさり負けていたはずだ」
「……」
……彼の言葉は、今思えば事実かもしれない。
予選の時の彼は、今の彼と比較して、軽薄で人柄も悪く、実力も無かった。準決勝の時は事情が変わるけど、対話せずに始めから彼を仕留めに行けば結果も違っただろう。
「……今のネルソンさんに聞きたいことがあるんですが」
「……何だ?」
「ネルソンさんは、この勝負に勝ったらどうするつもりですか?」
「……そうだな。俺は、この国で大罪を犯した。
これ以上、生き恥を晒すつもりはない。何処かの国で傭兵でもやって、戦場で死ぬつもりだ」
「そんなに自分が許せませんか?」
「……大した実力もないのに、過去の栄光にすがって強者のフリをしていた。挙句、自身の実力の無さを露呈させ、復讐の為に、魔王軍に良いように操られてしまった。これでは、生きている価値がない」
「……そうですか」
彼は自分の罪の重さに耐えられず、自ら死地に向かおうとしている。
そんな彼に、今の僕は、明確な怒りを抱いていた。それは、彼の境遇や心情ではなく、彼が自分自身の罪を清算しようとせず、死のうと考えているからだ。
「……なら、僕は貴方に負けるわけにはいきません。
今の貴方は、耐えられない現実から逃げようとしているだけだ。そして、その先に待っているのは確実な破滅です。そんなものは、僕も、僕以外の誰も望んでいない」
「……俺自身が『死』を望んでいるんだ。何がいけない?」
「なら、僕はこの決闘に勝って、貴方から『死』という逃げ道を奪います」
「…………」
僕の宣言を聞いて、ネルソンさんは無言になる。
「あなたが本当に死にたいのであれば、僕をこの場で殺して国を去ればいい。
でも、そんなことはさせませんよ、僕は――――」
僕はそこで、一呼吸おいて、この玉座の間に響き渡る大きな声で叫ぶ。
「僕は、あなたよりずっと強いですから!!!」
「……っ」
僕の言葉を聞いたネルソンさんは、驚いた表情を浮かべている。
それは、周りの見物していた人達も同じようで、皆が驚いている様子だった。
「……はっ、言うじゃねえか、レイ」
僕達の戦いを観戦していたアルフォンス団長はニヤリと笑う。
「ふむ」
玉座で戦いを見守っていたグラン陛下は、興味深そうな表情を浮かべた。
「(……どうやら、私が知らない間に、彼は成長したようだな)」
カレンさんは目を丸くして、隣にいるエミリアにコソコソと話しかける。
「彼にしては珍しく強気な発言ね、何かあったの?」
「……あー、神の領域でちょっと。
自分に『自信を持て』って皆で説教したのが効いたのかもですね……」
「そんなことしてたんだ……」
「まあ、効果はありましたけど、ここまで吹っ切れるとは予想外でしたね」
と、二人は小声で話していたが、僕達の耳には届いていた。
「……面白い、そこまで言われては俺も黙ってるわけにはいかん」
ネルソンさんは、剣を構えて僕を見据える。
「レイ、お前をここで打ち倒させてもらう」
「……どうぞ、僕もここからは手加減せず戦いますから」
僕はそう返事をして、彼はこちらに向かって駆け出す。先程よりも速い動きで距離を詰めてくる。そして、ネルソンさんは再び義手に雷の魔法を込め始める。
「(さっきの技が来る!)」
さきほど、僕が防御不可能と感じた高威力の大技だ。一度目よりも感じるマナの集束量が膨大だ。おそらく、次こそ彼は全力で僕を仕留めるつもりでいる。
堅実に勝つのであれば、この一撃は回避に専念すべきだ。
彼の最大の一撃を凌ぎ、彼が疲弊して動きが鈍った瞬間、決着をつける。
それが、<心眼看破>の技能で導き出したこの決闘の勝利への最善策。
「(だけど、僕は……!!)」
しかし、僕はネルソンさんの技を真正面から受けることにした。
この戦いは、僕が騎士として、彼は戦士としてのプライドを掛けた決闘だ。
僕は勝者の権利として、彼の意思を奪う。
なら小細工せず彼の攻撃を受け止めて、完全勝利しなければならない。
彼から、一つの意思を奪うのであれば、それだけの覚悟を僕も背負うべきだ。
「喰らえッ!」
ネルソンさんは、僕に狙いを定めて剣を振りかぶる。
そこには彼の今の全魔力が込められている。彼に一切の容赦はない。
僕は、剣を振りかぶる彼の姿を捉えてポツリと言った。
「――――雷鳴よ、轟け」
その言葉を発した瞬間、僕の頭上に雷鳴が轟く。
「っ!!」
突然の雷鳴に、ネルソンさんは攻撃を中断し僕から距離を取る。
そして、次の瞬間には雷鳴が僕の身体に降り注ぎ、そこに流れた魔力が僕の剣に全て集約していく。
「……なんだ、それは……まるで、俺の……」
彼は目の前で起きた光景を見て驚愕している。僕の今の状態は、義手を通じて剣に雷の力を付与させた自分の技にそっくりだったからだろう。
「……遠慮なくどうぞ、ネルソンさん」
「っ!?」
僕は、彼に対して挑発的な態度をとる。
「――っ!! 舐めるなっ!!!」
彼は激高し、中断した技を再び繰り出そうと試みる。
そして、彼は僕に剣を振り下ろし、僕はそれを自身の剣で受け止める。
――ガキンッ!!
――ドッガアアアアアアアアアアアアアアン!!!
剣と剣がぶつかり合う衝撃と同時に、雷が落ちたような音が鳴り響く。
凄まじい衝撃が僕の剣を通じて全身に伝わってくる。
しかし、僕は完全に衝撃を受け止めて、なお無傷だった。
「……な、何故?」
「……次はこっちから行きますよ」
僕は宣言してから、剣に込めた魔力を解放する。
「ぐっ!!」
その瞬間、巨大な雷撃を伴う剣の一撃を解き放つ。その一撃は、ネルソンさんの武器を容易に砕き、衝撃をまともに受けたネルソンさんは、大きく吹き飛ばされ壁に激突する。
「がっ!!!」
ネルソンさんは、その衝撃で意識を手放し、倒れた。
「――――勝者、サクライ・レイ!!」
グラン陛下の声が玉座の間に響き渡り、周囲から歓声が上げる。
僕はネルソンさんとの決闘に勝利できたのだ。
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