第485話 ネルソンという男の結末1
次の日、約束通り朝から王宮の前の広場に集まっていた。僕とカレンさんとエミリアは三人で合流してから、王宮の陛下の元へと向かった。
「やぁ、待っていたよ」
玉座の間に向かうと、そこにはグラン陛下と陛下の護衛の騎士達、
アルフォンス団長とサクラちゃんのお父さんのアザレアさん。
それに――
「………」
牢屋の中に入っていたはずのネルソンさんが、手錠を付けられた状態で、
数人の兵士に囲まれて待っていた。
「……ネルソンさん」
「……来たか」
ネルソンさんは僕が呼びかけると振り向いて、無表情に返事をした。しかし、その右腕は以前と違い、腕の形をした機械仕掛けのような黒い義手がはめ込まれていた。
「義手の調子どうですか?」
「これか……」
ネルソンさんは、自分の右腕に嵌め込まれている義手を触りながら、少しだけ目を細める。
「悪くはない。……だが、もう少し馴染むまでは時間がかかりそうだ」
「……そうですか、剣の方は扱えそうですか?」
僕がそう質問すると、ネルソンさんは僅かに口元を歪めてニヒルに笑った。
そして、「さぁな」と答えた。
「――話はもういいだろうか」
僕達が話していると、正面から凛々しい声が響く。
グラン陛下だ。僕達はその場に跪いて、陛下の次の言葉を待つ。
「キミとネルソン君の決闘の申し出、この私が直々に審判を務めよう。
お互い、悔いの残らぬよう力を出し切ると良い」
「はい!」
「……了解」
陛下は僕達の返事を聞いてから頷く。
「うむ、……では始めようか。
闘技場でも構わんが、たまには御前試合というのも悪くないだろう」
陛下はそう言うと、玉座から立ちあがり、
自身の玉座の隣に置いてあった剣に手を掛ける。
「陛下、何を?」
「玉座の間を傷付けないための配慮さ。――<結界・静寂>」
直後、剣を抜いた瞬間に周囲に淡い光が溢れ出し、それは一瞬にしてこの部屋全体を包み込む。
「これで、この部屋の中であれば、どんなに暴れても外に影響は出ない。存分にやり合えるだろう」
「ありがとうございます、陛下」
「礼など不要だよ。これは私なりの余興みたいなものだ」
「いえ、それでも感謝します」
僕はもう一度頭を下げる。
「では、ネルソン君の手錠を外してやれ」
「ハッ!」
兵士達はネルソンさんの拘束を解く。
彼は自由になった両手を見つめた後、剣を抜いて刃の状態を確かめる。
「問題ないようだ」
「うむ、それでは二人とも準備は良いかい?」
僕とネルソンさんは同時に武器を構え、
玉座の間の真ん中付近で距離を取って向かい合う。
「……レイ、戦う前に聞きたいことがある」
「なんですか?」
「……お前は、本当に俺を恨んでいないのか?」
「特に恨んでないですが」
「……」
ネルソンさんは僕の返答を聞いて、黙って俯く。
「……そうか」
「? それだけですか? もっと他に言いたい事があるんじゃ……」
「無い」
ネルソンさんは顔を上げる。
その瞳には、既に迷いは無かった。
「では――――始めっ!!」
◆
「うおおおおっ!!」
陛下の始まりの合図と共に、ネルソンさんは剣を構えて叫びながら向かってくる。右腕の義手が不慣れなせいか、剣の構えはやや不自然ではあるが、彼にしては半ば必死の形相だ。
「ふッ!」
僕は、そんな彼の剣撃を聖剣で受け止める。
彼の剣を受け止めた衝撃で、剣同士がぶつかり合った部分が鈍い音を立てる。
「ぐぅ!」
「……!」
彼は右腕が義手なので力が入らないだろうと予想していたが、想像以上にパワーを感じた。よく見ると、魔法を使用し自身の身体能力を高めているようだ。
「(強化魔法か……!!)」
「おぉぉ!!」
彼は、僕が少し力を入れただけで体勢を崩したのを見て、 ここぞとばかりに追撃を仕掛けてくる。
「――はぁぁぁぁ!!!」
僕はその攻撃を捌き続けて隙を伺う。しかし、次第に高まるネルソンさんの攻撃に、僕も少しずつ熱を入れ始め反撃を繰り返す。
そして、彼の動きに疲労が見え始めて、隙が見えた瞬間―――
「――そこっ!!」
「!?」
僕は彼の攻撃を押し返し、彼の無防備だった左半身に攻撃を加える。
「……ぐっ!!」
ネルソンさんは間一髪、剣で防御し、後ろに下がって僕から距離を取る。
僕は追い打ちを掛けずに、剣を構えたまま出方を見る。
「……やはり、力の差があるな」
ネルソンさんは自嘲するように笑う。
「……だが、俺にも意地がある」
彼はそう呟くと、目を閉じて、マナを集中させる。魔法を使う気だろうか。だが彼は、僕に対してではなく義手に得意の雷魔法を流し込み始めた。
すると、義手に魔力が伝わったせいか、義手と、彼の持つ剣スパークが奔り始める。
「それって―――」
「……行くぞ、受け取れ」
ネルソンさんは、そう言いながら一気にこちらに詰め寄る。
今までよりも動きが格段に速い。強化魔法のみならず、義手に搭載された魔道具としての性能が彼の身体能力を大きく引き上げているのだろう。
そして、僕に一気に詰め寄り、スパークが迸る剣を頭上に振り上げる。
「っ!!」
彼のその技の威力を察して即座に後ろに退避する。
次の瞬間、僕が0.1秒前に立っていた場所に、雷鳴と轟音が走る。
攻撃の回避に成功した僕は無傷だったが、彼の攻撃が届いた床とその周囲は焼き焦げて溶解していた。その破壊力に周囲は騒然としていた。
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