第484話 時間が無い

 僕達が無事に、下界に帰還した翌日の話。

 今日は、体調回復の為という理由で騎士の仕事を休ませてもらい、

 エミリアと二人で療養中のカレンさんに会いに来ていた。

 

「もう、なんで私に真っ先に会いに来ないのよっ!」

「ごめん、昨日帰った時は疲れてて……」

「レイ君だけじゃなくて、エミリア達まで行方不明になって、何日も帰ってこなく本当に心配したんだからね!!」

 どうも凄く心配させてしまったらしい。

 最近カレンさんはこうして感情を露わにすることが多くなった気がする。


 僕とエミリアがカレンさん怒られていると、

 リーサさんが見かねたのか、カレンさんを優しく諭す。

「まぁまぁ、カレンお嬢様。レイ様達も昨日ようやく帰還出来たばかりですし……」

 お世話係のリーサさんは、優し気な笑みを湛えて僕達にお茶を出してくれる。


「そ、それはそうね……ごめんなさい……」

 カレンさんはリーサさんに諫められて恥ずかしくなったのか、

 モジモジしながら顔を赤らめる。


「ところでレイ様達はどうやってその空間から帰ってこられたのですか?

 カレンお嬢様のお話だと、一度『次元の門』とやらを通過してしまうと簡単には帰ってこれないと聞き及んでおりますが……」


 リーサさんは僕達にそう質問をする。

 質問に答えたのは、僕と一緒に来ていたエミリアだ。


「神様に直談判しまして……」

「ええ!? 神様に!?」


 リーサさんは、口元を手で押さえながら驚く。

 エミリアは頷いて、ベッドに腰掛けてるカレンさんに視線を移す。


「それしか方法はありませんでしたからね。

 今回の件、カレンから色々情報を聞けたお陰でスムーズに解決できましたよ」


 エミリアは僕が行方不明になってカレンさんに相談を持ち掛けたそうだ。

 カレンさんも最初戸惑ってたみたいだけど、話を聞いて【次元の門】から【神の領域】へ転移させられたんじゃないか?とアドバイスを貰ったとか。


「私もエミリアに相談に来てもらえて良かったわ。それでも【神隠し】はすぐに帰してもらえないケースが多くて、いつ帰ってくるか、私、本当に不安で……」


「心配かけてごめんね、カレンお姉ちゃん」

 僕はそう声を掛けながら、カレンさんの手を握る。


「う、うん……」

 カレンさんは、何故か更に顔を赤くした。


「それで、その神様は、どういう方だったのですか?」

 リーサさんは僕にそう質問する。


「えっと、風の女神のイリスティリア様でした。その後、僕がお世話になったミリク様が会いに来ましたけど、一悶着ひともんちゃくあってようやく戻してもらえた感じです」


「何があったの?」

 僕は、神様二人との会話を掻い摘んで説明する。


 すると、話を聞いた二人は……。


「まぁ……大地の女神ミリク様がそのような事を……」

「レイくん、そのミリク様を倒しちゃったの!? 凄いわね……」


 二人とも、呆れたような、感心したような複雑な表情をしていた。


「それで、結局、レイくんはなんで【神の領域】に招待されたのかしら?」

「僕と顔合わせしたかった……って言ってたんだけど……」


 これは僕の予想だけど、イリスティリア様はミリク様の為に、僕を領域に連れてきたのかもしれない。仲悪そうに見えたけど、言葉の所々で、イリスティリア様はミリク様の事を気遣っていたように見えた。


「え、それだけなの?

 特別な使命を承ったとか『新たな力を授けよう~』とかそういうのじゃなくて?」


「ううん、全然」

 正直、僕も少しくらいそういう流れを期待してた。

 実際は、神様と色々話して最後に戦って終わった感じだ。


「でも、色々話を聞けたから、無駄では無かったかな……」

 魔王の事とか、神様の事とか……他にもあるけど……。


「でも、神様とバトルしたってのは予想外。レイ君、よく勝てたわね……」


 カレンさんの言葉に、エミリアも頷く。


「私も同意です。というか、レイは最後に聖剣技使ってましたよね?」

「え、聖剣技って、私の?」と、カレンさんは自分を指差す。

「うん」


 僕がそう頷くと、カレンは驚いた様子でポカンと口を開けて言った。


「凄いわね、私なんか聖剣の方を弄らないと使えなかったのに、レイ君は素で使えちゃうんだ……。これが勇者の能力ってやつかしら?」

「あはは、ちょっと照れる」

 聖剣技は蒼い星のサポートのお陰だし、ミリク様に勝てたのも運が良かったのも理由だと思うけど、皆に言われたし自分の実力が上がったって思う事にしよう。


「けど、そんなに強いなら決闘の方も問題なさそうね」

「決闘?」

「なんですかそれ?」


 僕とエミリアは首を傾げる。

 その様子を見て、カレンさんは呆れたように言った。


「エミリアはともかく、レイ君忘れたの? ネルソン・ダークとの決闘の事よ。

 彼、もう義手も完成して、既に剣の稽古を始めてるわよ」

 …………?


「初耳ですね、レイ。どういう事です?」

「………あ」

「……レイ君、もしかして完全に忘れてた?」

「うん……」


 僕は彼に申し訳なく思いながらも、正直に答える。


「……決闘の日は明日よ、大丈夫?」

「嘘っ!?」


 僕は慌てて立ち上がると、カレンさんに詰め寄る。


「ど、どうしたらいいかな? カレンさん!」


「落ち着きなさい、レイ君。貴方の実力なら普段通りで問題ないはずよ。

 ただ彼も失った右腕の分を取り戻そうと必死に訓練してる。だから、いい加減な気持ちで彼に相対してはいけないわ。万全の状態で戦いに臨みましょう。

 その為に今日はしっかり休んで、明日の朝一番に私達と一緒に彼の所に行きましょ。あ、それとエミリアは、ちゃんとその時に応援に来ること! 良いわね?」

「わかった」

「何かよく分かりませんが、応援に来いというなら行きますよ」

 エミリアには後でちゃんと説明しておこう。

 

「……よし、じゃあ明日は三人で王宮に向かいましょうか」

 こうして僕達は、翌日、彼の元へ向かう約束をした。

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