第483話 レイくんを称えよう!

 これまでのあらすじ。

 レイはミリクとの戦いに勝利した!!


『――――勝者、レイ!!』

 イリスティリア様の高らかな声が空間に響き渡る。

 それと同時に、仲間達の歓声が飛び交う。


「よっしゃー!! よくやりました、レイ!!」


「レイさんすごーい、神様に勝っちゃった!!」


「ふふ、私の弟だもの、当然ね♪」


「レイ様、お見事でございます!

 ……それはそれとして、ミリク様は大丈夫でしょうか……」


 仲間達は僕の勝利を喜び、観客席を飛び出して僕の元に走ってきた。



 僕は、振り向いて笑顔で手を振る……が、


「………うぅ」

 僕は力尽きて、その場に座り込む。そして、緊張の糸が切れて安心したせいか、それまで自動回復で誤魔化していた全身の激痛が襲い掛かってくる。


「レイくん、大丈夫!?」

 僕が突然辛そうに顔を顰めたのを見て、姉さんが慌てて駆け寄ってきた。

 他の皆も心配そうに、少し遅れて走ってくる。


「心配し過ぎだよ姉さん。ちょっと無茶しただけだから……」

「でも……」


 僕は、安心させようと立ち上がるのだが、

 足腰に電流が走ったかのようにビクンッ! っと身体を跳ねさせる。


「くっ!!」

 あまりの痛みで、僕は再びその場で倒れそうになるが、

 慌てて走ってきたエミリアと姉さんの二人に支えられて倒れずに済んだ。


「無理したら駄目ですよ!!」

「今、治療するからレイくんは大人しく座ってて!」

「……ごめん」

 二人に怒られて僕は一言謝ってから、その場に再び腰を下ろす。


 僕達の様子を見ていたイリスティリア様は、こちらに背を向けて歩き出す。


『余はミリクの様子を見てこよう。

 其方はそこで仲間の治療を受けていると良い、無茶をせんようにな』


「はい、お願いします」

 僕はイリスティリア様に返事をしてから、姉さんに回復魔法で治療を始めてもらった。僕が治療を受けていると、レベッカが僕の隣に腰を下ろして言った。


「レイ様、かなり無茶をされましたね。

 わたくしに一言声を掛けて下さればレイ様に強化魔法を掛けたのですが……」


「ごめんね、今回は僕一人の力で勝ちたかったから……。

 前回と比べて少しは成長したかな……って、まぁ結局アレだったけど」


「十分成長なさってるではありませんか。

 誰の力も借りずに、あの女神ミリク様相手に勝利を収めてしまいました。

 わたくし達では到底不可能でございましたよ」


「そうそう、レイくんはすごく強くなってるよ」


「ええ、それに最後の一撃も凄かったですね」

 僕の言葉を聞いて、仲間たちが次々と賛辞を送ってくれる。


 それは素直に嬉しい。だけど……。


「……レイさん、もしかして完全に勝てたとは思ってないです?」

「え?」

 サクラちゃんが僕の背後からそう話しかけてきた。


「サクラちゃん、どういうこと?」

「レイさんは、勝てた理由を実力じゃなくて外的要因のせいにしてるんです。例えば、『ミリク様が手加減してくれたから』とか『運が良かったから』とか、思ってませんか?」


「ああ、なるほどねー、レイくんらしいわ」

 姉さんにまで納得されてしまった。


「よく分かったね……」

 正にサクラちゃんの推測通りだ。

 例えば、僕が蹴り飛ばされた時、柱にぶつからなければ場外に落ちて負けだったし、最後の一撃の時は、僕が全力開放する直前までミリク様は待っていてくれたように見えた。ミリク様ならあの状況でも反撃出来たはずだ。


「いつもの癖ですね。

 そろそろレイも自分の実力を自覚した方がいいです」


「エミリア様の仰る通りですね……。

 レイ様は自身を過小評価し過ぎです。わたくしの目線で判断させていただくと、ミリク様は卑怯な手は使わず正面から戦ってくださりましたが、手加減していたようには思えませんでしたよ。特に最後のレイ様の怒涛の攻めは素晴らしいものでございました」


「うん、レイくん本当に格好よかったよ」

「……」


 レベッカや姉さん達に言われて、僕はちょっぴり反省する。別に謙遜のつもりはないんだけど、僕は自分に自信が無さ過ぎだって団長にも言われてたっけ。


 

「……僕、もうちょっと自信を持っていいのかな?」


 僕は、そう呟く。

 すると、皆、驚いた顔をしたと思えば、すぐ笑顔に戻り――


「はい♪ レイさんもすごーく強い勇者さんなんだから、もっともっと誇ってもいいと思いますよ♪」


「ふふ、そうだね。レイくんは私の弟で、魔軍将の一人を倒した実績もあるんだもんね」


「そろそろ自分で勇者を名乗ってもいいくらいです」


「ふふ、レイ様はもう立派な勇者さまでございますよ、エミリア様」


「……ありがとう、皆」

 皆にそう言って貰えて、僕は少しだけ気が楽になった。




 ――一方その頃、イリスティリア様とミリク様は……。



『あああああああああああ!!! 負けてしまったああああああ!!!』

 僕の見てないところで、ミリク様は物凄く悔しがっていた。


『文句のつけようがないほど完敗であったな……』


『ぐわぁぁぁぁ!! レイに儂の凛々しい姿を見せつけて、虜にしようと画策していたというのにぃぃぃぃ!!』


『そんな事を考えておったのか……』


『くぅぅぅ、神器さえ使えれば……神器さえ………!』


『止めておけ、十全の力を発揮できぬ状態で神器を使用しても力を発揮できぬわ。しかし、良かったではないか、お主の勇者であるレイは、お主の予想を超えた成長を遂げていたということだ。素直に褒めてやっても良いのではないかえ?』


『むうう、確かにそうなのだが……。

 だがしかし! この敗北で儂はレイに惚れられるどころか、

 嫌われてしまうかもしれんのだぞ!?』


『安心せい、それは無い』


『何故そんなことが分かるのじゃ!?』


『ミリクよ……お前の選んだ勇者は、

 一度二度失敗した相手を見下すほど心の狭い人間だと思うておるのか?』


 イリスティリアの言葉を聞いて、ミリクは静かに頷いた。


『……お主の言う通りじゃな。

 ……仕方ない、レイには今回の件を謝っておくとしようかの』


『それが良かろう。……さて、彼奴等きゃつらの時間を奪い過ぎたようだ。そろそろ帰してやるとしようぞ』


『うむ……少々遊び足りぬが、仕方あるまい』



 それから、ミリク様達は僕達の元に戻ってきた。

 ミリク様は、我儘を言ったことを反省して、頭を下げながら謝ってくれた。



『レイよ………すまぬ!!』

『おい、簡潔だな』

『こういう時は、ダラダラと言わずスパッと謝った方が良いのじゃ!!!』


 ミリク様はイリスティリア様の突っ込みに一喝する。

 イリスティリア様は、はぁ~とため息を吐いて、僕達の方に向き直る。


『すまんかったのぅ、余が気まぐれでお主を連れてきてしまったせいで迷惑を掛けてしまった』

「いえ、そんな……!!」


 僕は、誠実に謝罪をしてくれたイリスティリア様に対して慌てて返事をする。


『お主たちが通ってきた次元の門はそのままにしておく。

 我らに会いたくなったら再び訪れると良いぞ、歓迎してここに導いてやろう』


「はい、ありがとうございます」


『ではさらばだ』

『また会おうぞ、勇者たちよ!!』


 そして僕達は神様二人に下界に送り届けてもらえた。

 下界に戻ると、朝日が差しており、僕達は急いで王都に戻ることにした。

 王都に戻った時、何故か行方不明扱いになっていた。


 理由と聞くと、どうやら僕達が領域に導かれている間、

 既に一週間以上経過しており、捜索隊が組まれていたみたいだった。

 お陰で、僕達を夜通し捜索していた騎士団に凄く怒られてしまった。


「イリスティリア様、話が違うよ……」


 どうやら、神様にとって一週間程度の時間のズレは誤差の範囲らしい。


 僕達は陛下へ事情を話し終えた後、

 疲労困憊の状態だったため、宿に戻ってすぐに休むことにした。

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