第482話 決着
これまでのあらすじ。
ミリク様の我儘のせいで何故か僕一人でミリク様と戦う羽目になった。
戦いは今のところ互角といったところ。
しかし、ミリク様は『神器』という神様専用を武器を封印した状態で戦っており、本気で振るえば大地を作り出すほどの常識外の力を持つ。ただし、信仰が弱まってる今のミリク様に、そこまでの力は無いとイリスティリア様は語る。
しかし、ミリク様がそこまで凄い人とは思わなかった。
僕はミリク様とコロシアムで向かい合いながら、彼女に話しかける。
「ミリク様、本当は凄いんですね……」
『ははは、そうじゃろう!! ……って、儂はいつも凄い神様じゃぞ!! お主、敬意が足りておらんな!!』
素直な感想を言ったつもりなのに、逆に怒られてしまった。
「あ、すいません」
『謝らなくてもよいが……なんか釈然とせんのう』
ミリク様は腕を組んで首を傾げる。
『だが、儂がすごい存在であるということが分かったじゃろう!!
イリスティリアは知恵の神などと言われるが、儂はかつては創造の神と呼ばれておったものよ。その名に恥じん行いをしておるからこそ、崇められ、讃えられておるのじゃ!』
……で、今は大して崇められていないから信仰の力が落ちていると。
「はい、分かりました。それで、続きをやりましょうか」
僕はそう言って、聖剣を構える。
『ぐ、ぐぬぬ……。真面目に聞いてもらえぬ……』
凄い神様だってのは分かったけど、それとこれと話は別だ。
昔はどうあれ、今はわがままで僕達を振り回す困った神様でしかない。
『こうなったら、儂が勝ったら数日は儂の話を聞いてもらうからな!』
「ミリク様が負けた時はちゃんと帰してくださいね……」
『ふん、言うではないか。だが、お主に勝ち目はない。ここまでの戦いぶりで、お主が数段成長していることは十分理解できたが、まだひよっこ同然よ。これは儂がしっかり面倒見て指導してやらねばな!! そうすれば立派な勇者になれるぞ!!』
「……あ、はい」
さっき感じた敬意が、話すたびにどんどん薄れていく。
『では勝負の続きじゃ、行くぞ!!』
ミリク様はそう宣言すると、全身に膨大な魔力を放出させてキラキラとしたオーラを纏わせる。そして、一気に距離を詰めてくる。
「ッ!!」
『むぅん!!!』
僕はそれを迎撃すべく剣を振るう。僕の聖剣とミリク様の拳がぶつかり合う。
その瞬間、コロシアム全体に凄まじい轟音と衝撃が迸る。
「くっ……!」
しかし、その衝撃に耐え切れずに僕だけ、一方的に吹っ飛ばされてしまう。危うくリングアウトする所だったが、足に力を込めてギリギリ踏み止まる。
『ほほう、今の一撃に耐えるとは、成長したのう。以前なら、儂の攻撃を正面から受けてしまえばお主は一撃で終わっていただろうに』
「あ、ありがとうございます……」
ミリク様の褒め言葉は素直に受け取るが、今の一撃で手が痺れてしまった。次にすぐ攻め込まれたら剣での防御は出来ないだろう。
『だが、いつまでも耐えきれるものでもないぞ』
ミリク様はそう言いながら、すぐさまこっちに向かってくる。
「くっ!!」
ミリク様の次の攻撃は回避するも、ミリク様の攻撃の余波を受けてバランスを崩す。
『ほらほら! 動きが鈍くなっておるぞ!!
やはり正面から戦えば、単純な力差で押し込めてしまうのぅ!!』
ミリク様の言う通りだ。リーチの差や聖剣による付与効果で誤魔化していたけど、いざ武器が使えなくなると単純な能力差がモロに出てしまう。
『これでトドメじゃ!!』
ミリク様は僕が回避しようと横に跳ぼうとした瞬間、
今まで拳の攻撃のみしか使わなかったのに、脚を使って蹴りを放ってきた。
「な!?」
完全に意表を突かれた僕は、咄嵯の判断で聖剣でガードを試みるが、痺れた手では攻撃を防ぎきれず脇腹に直撃を受けてしまい、吹き飛んでコロシアムのリングの端にある柱にぶつかってしまう。
「くぅぅ……」
柱にぶつかったおかげでリングアウトこそしなかったものの、ミリク様の攻撃と背中への激突のダメージで僕はその場で
「レイさん!! 大丈夫ですか!!」
観客席からサクラちゃんの心配する声が飛んでくる。
『これは、勝負あったか……?』
イリスティリア様も決着が近いと感じたのか、そう呟いていた。
『ありゃりゃ……柱に激突しなければ今ので終わっていたのじゃが……おーい、レイ、降参するか?』
ミリク様は気遣うように、優しい声で僕に降参を促す。
「………ま、まだ……です……」
僕は脇腹の痛みを抑えながら、剣を杖代わりにしてその場から立ちあがる。
『……ナイスファイトじゃのう。お主も立派な男の子じゃよ』
ミリク様はそう言って笑みを浮かべていた。戦闘面でも精神面でも子供扱いされているのはちょっと気に入らないけど、純粋に褒めてくれているようだ。
僕は剣のグリップを握る手の感覚を確かめる。
「(お腹と背中は痛いけど……手の痺れは治ってきたかな……)」
これなら、さっきのように防戦一方にはならないだろう。
「……
僕は一度深呼吸をしてから、魔法を行使する。発動させた魔法は、僕が使用できる回復系で最も効果の強い魔法だ。
名前に反して完全回復するかどうかは使用者依存だが、今くらいのダメージを回復させるには十分な効果がある。僕の身体に回復エネルギーの光が包み込むと、体の傷が瞬く間に癒えていく。
『剣だけでなく魔法面も以前とは比較にならぬ……。
攻撃魔法といい回復魔法といい、バランス良い成長を遂げたの』
僕はゆっくり立ち上がりながら時間を稼ぐように言葉を口にする。
「皆のお陰です。回復魔法は姉さん、攻撃魔法はエミリア、武器と魔法の使い分けはレベッカに教わりました。他にも、色々な人に教わって支えられて少しずつ強くなれました」
「レイさーん、私だけ名前が出てないんですけどー」
「……」
観客席を見ると、サクラちゃんと頬を膨らませながら見つめていた。
結構良いこと言ったと思うんだけど、台無しだ。
『ふむ、勇者らしい成長の仕方じゃの。……しかしまだ勝負を続ける気かの?』
「はい」
『即答か……。よかろう、次はきっちりリングアウトさせてやろう』
ミリク様はそう言うと、再び構えを取る。
「(……問題はここから)」
僕は<心眼看破>の技能を駆使して、自身と相手の実力差を考える。
接近戦での戦闘力差………攻撃力と速度の差で、ミリク様が一段上回る。
中距離での戦闘力差………リーチの差でこちらが有利、しかし速度ではミリク様が一段上回るため、距離の維持が難しい。
遠距離での戦闘力差………単純な魔力の差で僕はミリク様の足元にも及ばない。長期戦で撃ち合えば、こちらが圧倒的に不利。
総合能力での戦力差………ほぼ全ての面でミリク様の方が圧倒的に上回る。
序盤、押していたのは、彼女が僕の能力を把握し切れていなかったため。
だから能力を把握されてからは、中距離での戦いに持ち込むことが出来ず、常に間合いを詰められるか吹っ飛ばされていた。
そこから僕は考える。
今、劣勢を覆すために必要な行動は一つしかない。
即ち、今まで使わなかった技で見切られる前に勝負を決めること。
「ッ!!」
『ぬっ!?』
僕は思考を終えると同時に、一気に駆け出す。ミリク様はいきなり仕掛けてきた僕に対して驚いた様子だったが、すぐに迎撃態勢に入る。
僕が間合いに入るとミリク様の拳が飛んでくるが、それをギリギリまで引き付けて回避する。ミリク様の拳が僕の頭に髪の毛に触れて数本抜けるが、気にせずそのまま懐に飛び込む。
「せやあぁああ!!!!」
そして、剣を振り上げるとミリク様の肩目掛けて振り下ろす。
『甘いぞ、レイ!!』
ミリク様は、僕の攻撃を見極めて、オーラで固めた拳で受け止める。
しかし、その瞬間を待っていた!!
「――秘技、<疾風斬撃>!!」
僕は、技の宣言と同時に魔法を剣に付与させ発動する。
『なにっ!』
次の瞬間、聖剣から風圧が放たれミリク様は僅かに態勢を崩す。
『だが、この程度の風圧で―――』
「これで終わりじゃない!」
僕の言葉通り、最初の風圧はあくまで発動動作でしかない。
風圧が放たれた瞬間、ミリク様と同様に僕の剣も僅かにこちらに押し戻されるが、その風の流れに逆らわない様に剣の流れを誘導し、二撃目を振りかぶる。
その一撃は初撃よりも遥かに剣速が上がっており、ミリク様も対応しきれずに腕に直撃し、ミリク様の纏うオーラを吹き飛ばす。
『ぐぅ……まさか、こんな隠し玉を――!!』
更に、ミリク様が言葉を言い終わる前に、僕は追撃を行う。
「――秘技、<雷光三連斬>」
僕の手から剣にスパークが走る。
自身に
『くそ、<土龍撃>!!』
ミリク様は、魔法で身体能力を強化し、僕めがけて渾身の右ストレートを放つ。ミリク様の右腕が発光するほどの魔力が込められているが、それでも今の僕の剣速よりは遅い。
ミリク様の右ストレートが届く前に、その拳に音速を超えた光の速度で突きを入れる。それによりミリク様の拳は弾かれ、ミリク様はバランスを崩す。
次に左手の追撃を防ぐために、剣を両手持ちして突きの状態からミリク様の左手の肘辺りを狙って斬り上げの動作を行う。
僕の剣は彼女の左腕を弾き、この瞬間、彼女は完全に無防備になる。
最後に彼女の左胴体を狙って、剣を横に薙ぐ。
『ぐああああっ!!!』
神様とはいえ、電撃を伴った一撃を受けるのは耐えがたい苦痛なのだろう。僕の三連撃の最後の一撃を無防備に受けたミリク様は、左胴体が真っ赤に染まり、苦悶の表情を浮かべている。
……が、ここで僕自身も限界を迎える。
「―――っ!!」
筋肉が痙攣し、神経が焼き焦げるほどの電撃を自身に流し込んだのだ。反動で全身が激しく震え、僅かに身体を動かすだけでも全身に激痛が走るほどの衝撃を受ける。
まるで神経が全て丸裸にされたような、今までに感じた事のない痛みだ。
しかし、それでもまだ勝負は終わっていない。ミリク様は大ダメージこそ受けているが、しっかり両脚で立っており、弾かれたとはいえ両腕も健在だ。
もし僕が自傷ダメージで行動不能になってしまえば、ミリク様も態勢を立て直し反撃してくるだろう。
だから、ここは強引にでも行動を起こす。
「――
震える手で僕は剣を伝って、爆風の魔法を発動させる。この魔法は、威力は殆ど無い。代わりに、突風を超える風速を一瞬だけ発生させ、爆発的な推進力を生み出す。
剣先がミリク様に触れた状態で使用する事で、
彼女を強制的に爆風で大きく吹き飛ばし、距離と時間を稼ぐ。
『ぬ、ぬおおぉぉぉぉぉ!!!!!!』
ミリク様も抗おうとするが、脇腹のダメージが大きかったのか、踏ん張りが利かずに吹っ飛ぶ。同時に、もう一つ発動させた自動回復を僕を対象に発動させる。
この魔法は瞬間的な効果は薄いが、
今、全身に流れている激痛を少しでも和らげるためだ。
そして、ミリク様を吹き飛ばしたのは理由。
それは距離を稼ぎ、本命の一撃を叩き込むための布石。
「
『―――了解』
剣が僕の意思に応えて、形状を通常の片手剣から両手剣に変化させる。そして、今まで以上に蒼い美しい光を解き放ち、僕の身体能力を大幅に底上げされていく。
「ミリク様、受け取ってください、今の僕の最大の一撃です!!」
そう宣言し、僕は地面を思いっきり踏みつけながら駆け出す。
同時に、剣を後ろに引き、振り上げる構えを取る。
そして自身のありったけの魔力をかき集めて、技を発動させる。
「聖剣技、
発動と同時に、剣大きく振り下ろす。瞬間、剣から蒼い光の奔流が迸り、吹き飛んだミリク様に向かって膨大なエネルギーが襲う。
『な、なんだこれは!?』
突然の攻撃に、ミリク様も驚きの声を上げるが、それでも瞬時に対応し、オーラで固めた右腕でガードするが、
『ぐああああああ!!』
その光のエネルギーはミリク様でも為す術がなく、ミリク様の身体が遥か上空に撃ち上げられる。
……その後、数秒の間を置いてから、ミリク様は、遥か後方の、姉さん達が見学している反対側の観客席に墜落した。
『――――勝者、レイ!!』
イリスティリア様の高らかな声が空間に響き渡る。
こうして、僕のミリク様との戦いはギリギリの勝利で終わった。
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