第476話 サクラですが、パーティの雰囲気が最悪です

 レイが神の領域に導かれてから、五時間ほど経過した頃――

 サクラ、レベッカ、ベルフラウの三人は、レイが消息を絶った洞窟の中を捜索していた。

 彼女達は、洞窟の中を魔法の明かりで照らしながら、少しずつ奥へと進んでいく。


【視点:サクラ with ???】


「レイくん、一体何処に……」

 ベルフラウは彼の名前を呼びながら必死な様子でサクラの後ろを付いてきている。その様子は、傍から見れば必死さが伺え、彼女の心中は今にも泣き出しそうな状態にある。


「…………」

 一方でレベッカは無言のまま、周囲を警戒しながら先頭を歩いている。

 この中で最年少であるレベッカだが、自身が取り乱すと他の二人まで不安になるだろうと理解しているため、彼女は冷静さを保とうとしていた。


「(……2人とも、辛そう)」

 もう一方のサクラは、彼女達の心中が追い込まれていることを理解しており、下手な発言をして彼女達を追い詰めないように黙って、二人の間を歩いていた。


 今、この場においてはサクラがもっとも冷静に状況を見ている。仮に二人が早まった行動を起こした時の為に、サクラが間に入って彼女達を制止する役目だと自覚していた。


 それはそれとして――


「(うぅ、空気が重いよぉ……)」

 能天気な性格のサクラだが、この状況では大人しくせざるおえない。


 一言『大丈夫ですって、レイさんならきっと無事ですから!』

 ……と、言いたいところなのだが、根拠が乏しいため気休めにもならない。

 どころか、悲壮感を漂わせているベルフラウに怒られてしまうかもしれない。


「……」

 そんなこんなで、暫くの間、無言の状態が続いていたが、少し開けた空間に出たところで、先頭を歩いていたレベッカの肩が急にガクッと揺れ、彼女は足を止める。

 急に足を止めた彼女に驚いて、サクラは慌てて足を止めるが、軽く肩をぶつけてしまう。


「あ、ごめん、レベッカちゃん……じゃなかった、レベッカさん」


 サクラはそうレベッカに謝罪する。

 彼女は、ややあってからこちらを振り向き言った。


「………いえ、大丈夫でございます、サクラ様。

 それにわたくしの事は好きに呼んでいただいて構いませんよ」


「そ、そう? ……うん、ありがとう」

 気を使ってくれたレベッカに礼を言うが、

「サクラ様、この空間に出た瞬間、何か感じませんでしたか?」

 と、レベッカに質問される。


 しかし、サクラは特に何も感じない。

 サクラは正直にそう答えると、レベッカは残念そうな顔をして呟いた。


「そう、ですか……。申し訳ありません、わたくしとしたことが、何かカラクリがあった思い込もうとしているのかもしれません。

 だから多少の変化を理由にして、レイ様は此処にいないと自分に言い聞かせようとしているのでしょう……」


「……そっか」

「……はい」


 レベッカは、自分の心境を語り終えると、再び歩き出す。それから、しばらく三人共黙って奥へと進んでいくが、レイの姿はやはり見当たらない。


「……レイ、さま……」

 冷静に振る舞っていたレベッカも、声のトーンが下がって途切れ途切れの声になっている。

 時々、彼女の目から何かが滴り、その水滴の音が洞窟内に静かに響く。


 更に、サクラの後ろでは……。


「………レイくん……レイくん…レイくんレイくんレイくん」

 後ろを歩いているベルフラウに至っては、

 記録魔法をリピートした音声のようにひたすら彼の名前を繰り返している。


 怖い、怖すぎる。

 周囲が真っ暗で不気味な状態、背後から呟く声がずっと聞こえてくるのだ。

 下手な肝試しよりも恐怖を感じる状況である。

 間に挟まれているサクラの心境は色んな意味で限界寸前になっていた。


「(今、ここで私が大声出したら、少しは雰囲気変わるかなぁ……)」

 雰囲気は変わりそうだが、自分への目線が厳しいことになりそう。でもこのままじゃ、もっと精神的に追い詰められちゃうから、仕方がないよね……?


 サクラは、意を決して口を開こうとした時――


『――――!』

 突然、私達が入ってきた方角から女性の声が洞窟に反響して聴こえてきた。

 この声は―――?


「エミリアさん?」

「……そのようでございますね。わたくし達を追いかけてきたのでしょう」

 レベッカは涙目になっていた顔を拭い、

 なるべく平静を装った声で、サクラの呟きに答えた。


 丁度いいタイミングだ。

 一旦、エミリアさんと合流しよう。

 こんな暗い雰囲気では、レイさんを見つけるどころじゃない。

 下手するとわたし達の精神が先に限界が来る。


 そう思い、サクラは提案をする。


「二人とも、このままだと埒があきませんし、

 現状の報告を兼ねてエミリアさんと合流しませんか?」


「……そうでございますね」

「……えぇ……」

 二人から同意を得て、三人は来た道を引き返してエミリアとの合流を目指す。


 ◆


【視点:エミリア with ???】

 カレンの話を聞いてから、

 私は皆に遅れてレイが失踪したという洞窟に一人足を踏み込んでいた。


 既に外は夕刻を回り夜になっており、あと数時間もすれば深夜だ。レイの状態が不明だが、仮に怪我を負って動けなくなっていた場合を考慮して、無理してでも彼を探さないといけない。


「おーい、レイー!! それにみんなーーー!!!」

 私は、レイを含めた全員の名前を呼びながら洞窟内を進んでいく。

 こんな風に騒ぎながら進むと魔物達が襲ってくる可能性があるが、今はそれどころじゃない。むしろ気持ちがざわついているから魔物でもブチ○して気分を落ち着かせないと気が気じゃない。


 そんな物騒な事を考えながら進んでいると、少し開けた場所に出る。

 そしてそこには、レイを除く全員がこちらの方に戻ってくる途中だった。


「エミリア様……」

「あ、エミリアさん!」

 前を歩いていたレベッカとサクラが、私の姿を視界に捉えて叫ぶ。


「……! あぁ、良かった、無事だったんですね」

 彼女達なら大丈夫だと思っていたが、万一、レイと同じ目に遭っていた可能性も考えられた。

 最悪の自体にならずに済んで、私は少しだけホッとした。


 ……が、一人だけちょっと様子がおかしくなっていた。

 彼女達の後ろに付いてきていたベルフラウだ。


「レイくん、レイくん、レイくん、レイくん、レイくん………」

 彼女は、俯いてブツブツとレイの名前を連呼している。


「べ、ベルフラウさん? エミリアさんと合流できましたし、そろそろ……」

 サクラはその様子を見て、彼女の肩を揺する。

 すると、ベルフラウが肩をピクッと震わせて、ようやくこちらを見た。


「――あ、ええと………あら、エミリアちゃん、来てたのね?」


「ベルフラウ、重傷ですね……」

「はい……」


 私のため息交じりの言葉に、サクラが疲れたように同意する。

 サクラも相当気が滅入っていたみたいですね。


「あはは、そんなことないわよ?」

 そう言って、いつも通りの笑みを浮かべるベルフラウだったが、明らかに顔色が悪かった。目は充血していて赤く腫れており、声は枯れていて、笑顔も引き攣っている。ちょっと怖い。


「それで、エミリア様、用事とは一体何だったのですか?」

 私の傍まで歩いてきたレベッカは、少し落ち込んだ表情で私に質問してくる。 


「そうですね、説明します。

 その前に、三人共、ここで一旦、腰を下ろして休みましょう。

 長い捜索で疲れたでしょう?」


「はい、よっこいしょっと……」

「ですね……少々、足が痺れてきておりました」

「……」


 三人共、疲労のせいか素直に従ってくれました。私達は、近くの岩場に座り込み、杖に魔法で火を灯して足元の岩場の間に杖を挟み込んで灯りを固定する。


 そして、四人で話を始めた。

「で、エミリアさん、結局何処行ってたんです?」


 最初に私に質問したのはサクラ。

 私の気のせいかもしれませんが、若干の怒気を含んでいた気がした。


「(これは、もしかして怒っているのかも……?)」

 彼女から見ると、レイより優先して別件を優先したように見えたかもですし、ここは甘んじて受けましょうか。


「では、話を始めますが、先に謝っておきますね。レイの捜索を後回しにして、私が単独で行動したことをここに謝罪しておきます。……ごめんなさい」


 私は、目を瞑って軽く首を下に傾かせて謝罪をする。


 すると、サクラは慌てたような声で言った。


「あ……えっと、大丈夫です。

 ……ちょっと怒ったみたいな言い方してごめんなさい」

 サクラが、頭を下げている私を見て慌ててそう言った。


 続いて、レベッカが言った。


「エミリア様、それで結局、何を調べていたのですか?」


「ええ、気になることがあったので、カレンの所に寄ってました。

 彼女なら、私達が知らないことも詳しいと思いましたので」


「え、先輩に?」

 サクラが思いもしなかったという表情で言ったので、私はそれに頷く。


「はい、期待通りに興味深い話を聞くことが出来ました」

 私はそう切り出して、カレンから聞いた話をみんなに伝えることにしました。

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