第473話 失踪

 翌日、僕とサクラちゃんは王都の外へ調査に来ていた。

 サクラちゃんが昨日、外の調査をしたところ、以前の戦いの影響で一部の外壁に地割れが起きており、その亀裂の中に魔物が住み着いているようだったので、討伐を命じられたのだ。


「魔物の巣はここら辺だったと思いますよ」

「えっと……」


 僕とサクラちゃんは、王都の外の平原で地図を見ながら話す。

 王都から東の方向に約5キロ離れた場所が目的地だ。

 地図のその場所にサクラちゃんが付けたバッテンが記されている。


 僕は地図と照らし合わせて、目的の場所の高台の下部に視線を向ける。すると、確かに一か所、亀裂と思われる場所があり、そこから暗い影が見えている。亀裂の大きさは大体横3メートルくらいか。生物が中に潜んでいてもおかしくない広さだ。


「王都の近くにこんな場所が出来ていたなんて……」


「魔法の力とはいえ、隕石が落ちてきましたからねぇ。

 王都の方の復旧で今まで忙しかったし、手が回らないのは仕方ないですよ」


「まあね、相手が相手だし、レベッカも加減が出来なかったと思う」

 隕石が落ちた理由はレベッカの魔法によるものだ。当然、理由なくそんな大魔法を使うわけもなく、強大な魔物を倒すための切り札であったことはエミリアから聞いている。


「ひとまず入ってみましょうか」


「あ、待って、サクラちゃん」

 僕はいきなり入ろうとするサクラちゃんを静止する。


「なんですか?」


「何があるか分からないし、僕が入るから、サクラちゃんは少しだけ待機してて」


「えー、どうしてですかー」


「地盤が緩んでていつ崩れるか分からないし、仮に中から崩れた時、二人だと助けを呼びに行けなくなる。だから、僕一人で行くよ。安全確認出来たら呼びに戻るから」


「えぇー? じゃあ私が行きます!」

 危険な任務を引き受けると言ったのに、何故か不満顔をされてしまった。


「……そんなに行きたいの?」

「中に宝箱があるかもしれませんし」

「いや、無いから!」


 誰か人が作ったダンジョンならまだしも、

 ごく最近自然に出来た洞窟にお宝があるわけがない。


「ぶぅ……分かりましたよぉ」

 彼女は渋々了承してくれた。

 そして、僕は剣を抜いて、亀裂の中へと入る。


 ◆


 亀裂は地下に続く洞窟になっていた。


「(暗くてよく見えないなぁ)」


 僕は、点火ライトの魔法を使って周囲を確認する。見た感じ、やはり自然に出来た洞窟のようで誰かが住んでいるような様子はない。

 

 途中、予想通り魔物が現れるが、苦も無く倒していく。

 報告にあった魔物たちはこいつらだろうか、一応最奥まで調査が必要だろう。


 しかし――


「(……おかしい)」


 何か違和感を感じる。

 降りていくほど現実から乖離していくように、自分の意識が薄れていく。

 もしかして地底に近付くほどに、身体に影響を及ぼす様なガスが漏れているのか?

 そうであれば、ここは危険だ、すぐに戻ってこの入り口を塞がないといけない。


 ただ、その割に息が苦しいとかそういう感じはしない。

 この感覚、毒というよりは……。


「(まるで、姉さんに空間転移してもらったような……)」

 ……もしや、ここの奥は、別の空間に転移するような仕組みになっているのか?


「(だとしたら、ここに長居するのはマズイかもしれない)」

 僕は後ろを振り返り、戻ろうとしたその時――


「――!?」

 突然、身体が光り始め、自身の身体が薄れていく。


「や、やばっ、これ間違いなく――――」


 間違いなく、空間転移だ―――!!

 ……と最後まで口にすることなく、僕の身体が暗闇に溶けていった。




 ◆




【視点:サクラ】


「レイさん、遅いなぁ……」

 わたしは入口で待つこと数分、未だにレイさんが戻ってこない事に不安を抱いていた。


「もしかして、魔物に……?

 いや……レイさんなら並の魔物に負けるわけないし……」


 どうしようかな……あれから一時間くらい経つのに、まだ戻ってこない……。

 レイさんの話だと、万が一、生き埋めになった時の為に、一人待機した方が良いって言ってたし……。


「……もしかして、本当に出れなくなってる……?」

 だとしたら、すぐにでも王都に戻って、人を呼んでこないと………!!


「よし、待っててね、レイさん!!!」

 そう決心すると、わたしは王都の方へ走り出した。



 ◆



 それからしばらくして、王都に着いたわたしは、

 門番の衛兵さん達に事情を説明して助けを呼びに行った。

 すると、すぐに冒険者ギルドの人達が集まってきて捜索隊が結成され、調査に向かった。

 

 わたしも彼ら同行し、洞窟の前で待機して彼らだけ中に入る。

 しかし、彼らが捜索を終えて戻ってくると信じられない事を言われた。


「え……誰も発見できなかった……?」

 わたしが唖然として、何度も聞き返すと、捜索隊の人は困ったように言った。


「ああ、洞窟の中を隅々まで捜索したんだが、特に崩れた様子もなく、見たのは、洞窟を住処にしてたゴブリンや魔獣くらいのもんですわ。

 万一、そいつにやられた可能性も考えて、彼の所持品を探してたんだが、それも見当たらなかった」


「じゃあ、レイさんは……!?」


「正直、分からねぇ。新副団長さんがあんな雑魚モンスターに殺されるとは思えんし、かといってアンタは彼が洞窟の中に入ってから、出たところを見てないんだろ? ……はっきり言って、手詰まりってやつさ」


「そ、そんなぁ……」

 彼らの見解に、わたしは途方に暮れる。

 それからわたし達は、意気消沈した雰囲気で一旦、王都へ帰還した。


 ◆


 しばらくしてわたし達は王都に戻った。

 捜索隊の面々に、今回の件をグラン陛下に事の説明をお願いした。

 わたしは、彼のお姉さんであるベルフラウさんにすぐに報告する。


「れ、レイくんが行方不明……!?」

 わたしの報告を聞くと、ベルフラウさんは酷くショックを受けた様子で、その場に崩れ落ちた。


「あ、あの、大丈夫ですか……?」


「ええ……ありがとう……ごめんなさい、取り乱してしまって」

 彼女は少しだけ落ち着きを取り戻して、ゆっくりと立ち上がった。


「詳しい話を聞かせて……?

 今の私、ちょっと冷静さを欠こうとしてるわ……。

 話を聞いてから皆と相談しないと……」


「わ、わかりました……。

 じゃあ、エミリアさん達の待機してる宿に戻ってから説明します」


「お願いね……」

 わたしは、顔を青くしているベルフラウさんを気遣いながら、彼が寝泊まりしていた宿に向かった。


 ◆


「レイ様が……」

「行方不明……ですか?」


 わたしが宿に向かうと、一階のロビーでお茶をしていたエミリアさんと、レベッカさんを見つけて、事情をすぐに説明する。


 二人とも、同じくショックを受けていたが、すぐに気持ちを持ち直してくれた。しかし、比較的冷静な二人と比較してベルフラウさんは、未だに動揺を隠しきれてない様子だった。


「私達もその洞窟に行きましょう。

 もしかしたら捜索隊の人が見つけられなかっただけかもしれないし……」


「ええ、わたくしもそのつもりでした」

 ベルフラウさんの提案にレベッカさんはすぐに同意する。当然、わたしも彼女達に付いていくつもりだ。お世話になったレイさんを助けたいのは私も一緒なんだから!


 ただ、エミリアさんは彼女らと比較して、冷静過ぎるというか……。

 ずっと思案してる様子ではあるのだけど、そこまで焦っている感じがない。


 そうわたしが考えていると、エミリアさんは言った。


「……三人共、レイの捜索を先に任せていいですか?」


「エミリアさんは行かないんですか?」


「私はちょっと用事があるので少し後で向かいます」


 別の用事……一体何があるんだろう?

 わたしは、大事な仲間であるレイさんの一大事なのに、

 妙に冷静なエミリアさんに少し反感を感じていた。


 でも、レベッカさんはそう思わなかったようで、彼女にこう言った。


「では、まずわたくし達で、レイ様が行方不明となった洞窟に向かいます。

 わたくし達はサクラ様に案内して頂きますが、エミリア様はどうされますか?」


「守衛にでも尋ねますよ。

 私も要件が済んだら、すぐに目的の場所に向かいます」


「分かりました。それでは――」


 こうして、わたし達はレイさんの再捜索に向かう事になった。

 待っててね、レイさん!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る