第470話 助けて、カレンお姉ちゃん!
牢獄で無気力になっていたネルソンさん
僕はネルソンさんを説得しようとしたのだが、聞き入れてくれず、
結局、何の成果も出せずに玉座の間に戻ってきた。
「……やはり無理だったか」
グラン陛下は分かっていたかのように僕達に声を掛ける。
「ごめんなさい……」
僕は説得できなかった自分の無力さで、立場も考えずに素の態度で謝ってしまう。
「気にするな。私の国王という立場を使っても説得に応じなかった男だぞ。
世捨て人のような風貌と態度になっているが、意志力の強さは以前と変わらん。
罪は償ってもらうが、あれほどの男を死なせるのは惜しい」
「陛下、どうなさるおつもりです?」
「しばらくは私の方から説得してみるつもりだ。下手に牢から出してしまえば、本当に死地に行きかねんから独房に住んでもらう事になるが」
「説得……」
……彼に説得が通じるのだろうか。
今のネルソンさんは完全に心を閉ざしてしまっている。その原因は当然、彼自身の行いもあるのだろうけど、腕を失ったことで自分の価値を失ったと考えていたとしたら……?
彼は歴戦の冒険者であり優秀な戦士だったと評判だ。腕を失ったことで自分に戦士としての価値を見出せずに自暴自棄になってるのかもしれない。
「あの、提案なんですが、彼に義手を作ってあげるのはどうでしょうか?」
「義手を?……しかし、彼はそれを望まぬのではないか? それに、たとえ作れたとしても、生身の腕と同じように動くようにするのは至難の業だと思うが……」
「望んでいないかもしれません。
ですが、失った右腕を見るたびに、犯した罪を思い出して苦しんでいるのかもと……だから、それを忘れさせてあげられるような、腕を作ってあげてほしいのです。
……僕が切り落としておいて言えた義理ではありませんが……」
「ふむ……」
陛下は難しい顔をするが、すぐに僕の目を見て言った。
「分かった。君の言う通りにしよう。しかし、ただの義手では以前のように剣を扱えまい。……サクラ君の父上の部署に頼ってみるか……」
「サクラちゃんの……それって、<魔道具開発部門>ですか?」
「うむ、よく知っていたな。当時、まともな生活すら困難だった王都の生活水準を上げるために、私が国王に就任してから立ち上げた部署だ。
以前、君達が使用した『潜水艦』もそこで作られた。改良点は多いが、中々良く出来ていただろう?」
「え……えっと……」
短い航行距離だったのにロクに往復できる酸素もなく、内部も狭くて正直居心地が悪かった。潜水艦なんてそんなものだろう、と言われたら知識の無い僕は何も言えないけど。
「はっはっは。まぁ細かい事は良いではないか」
陛下は笑っていた。
「……さて、今日の所はこの辺にしよう。
君達は通常通り、騎士としての役割に戻ってくれたまえ。
義手の事は私の方から言っておく」
そうして、僕達の一度目の説得は失敗に終わることとなった。
◆
僕達がネルソンさんの説得に失敗した日の夜―――
僕は、いつもの日課の如く、カレンさんの病室に訪れていた。
「……そう、そんな事があったのね」
「陛下に頼まれたのに、全然説得できなくて……」
「なるほどねぇ……。それにしても彼、そこまで落ち込んでいたんだ……まぁ、腕を失ったこともショックだったんでしょう……」
「………」
カレンさんの言葉に、僕は俯く。
「レイ君は全然悪くないのよ?
彼の右腕を切り落とさなければ、最悪殺されていたかもしれない。そうなれば観客の人達に彼は攻撃を行い被害がより甚大になってしまった可能性だってあるの。
結果的に、あなたの判断は正解だった……だから、顔を上げて?」
「はい……」
カレンさんに言われて、僕はようやく顔を上げた。
「それで、あなたはこれからどうするつもりなの?
まさかとは思うけど、彼をこのまま放って置くわけじゃないわよね?」
「……勿論だけど、どういえばいいのか分からなくて……」
「それで私に相談に来たってわけか……うーん、そうねぇ……」
カレンさんは、病室の窓を見上げて何かを考える。
「(……やっぱり、カレンさん綺麗だなぁ……)」
こうやって、真剣に考えている横顔もすごく絵になる。
「……そうね、このやり方が一番良いかもしれない。
レイ君、あなたは陛下に彼の義手を作ってもらう事を頼んだのよね?」
「え? あ、うん……まぁ、意味ないかもだけど……」
正直、効果は期待できないと思ってる。
義手があったところで、腕を失った事実は変わらないし、きっと慰め程度の意味しかないだろう。
それでも、少しでも立ち直るきっかけになれば……。
「……いいえ、意味はあるわよ。
彼は戦士だもの、作り物であっても戦えるようになるわ。
戦いの中で、彼は本当の意味で自分と向き合えるんじゃないかしら」
「自分と……?」
「彼は自分の犯した罪に押し潰されそうになっている。それは彼自身の問題であって、私達がいくら言葉を掛けても届かない。だから、戦いの中で自身を取り戻して、再び生きる意味を与えてあげるのよ」
「でも、どうやって……?」
そこで僕が質問すると、カレンさんはニコッと笑って僕の両肩をポンと叩く。
「あなたが、彼を戦士に戻してあげるのよ」
「……へ?」
僕は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
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