第468話 現状
【視点:エミリア】
そして次の日の早朝。
私、エミリアは、一人でカレンの病室に訪れていました。
「カレン、起きてますかー」
私はドアをノックしながら声を掛ける。カレンの病室は個室なので、こうやって声を掛けても他の患者さんの迷惑にならないので助かりますね。
「え、エミリア!?」
「起きてるみたいですね、入りますよっ」
「ちょっ、まっ!」
私は何故か焦ったカレンの声をスルーしてドアを開ける。
するとそこには……。
「……」「……」
ベッドの上で上半身を起こした状態で下着姿のカレンと、その
「……あら、エミリア様、ご機嫌麗しゅうございます」
私達二人はフリーズしていたが、リーサさんは私を見てお辞儀をする。
そして、硬直から解けた私は言った。
「……あ、ごめんなさい、着替え中でしたか」
カレンは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「いいから、早くドア閉めて!!」
「はいはい」
私はカレンに急かされてドアをすぐに閉める。
振り向くとカレンは大きな胸元を腕で隠して真っ赤になっていた。
リーサさんはその様子を穏やかな表情で見つけている。
「エミリアだけよね? れ、レイ君は来てないわよね!?」
「私一人ですよ」
「そ、そう……」
カレンはホッとしたような、残念そうな顔をしながら息を小さく吐く。
「レイに見られたらマズかったんですか?」
「マズいに決まってるでしょ! 下着姿なんだからねっ!」
「てっきりレイの事は弟扱いで、男として見てないのかと思いました」
「そんなわけないでしょっ!!」
顔を赤くしながら怒っているカレンはとても可愛らしいですね。
「カレンお嬢様、そんなに怒るとまたフラついてしまわれますよ」
「で、でもぉ……」
カレンは反論しながらもリーサさんになだめられて落ち着かせる。私は彼女が真新しい新品のパジャマに着替え終わってからベッド隣の椅子に座ります。
そして、カレンは少し拗ねた表情でこちらを睨みながら言いました。
「……それでエミリア、なんでアンタだけ来たの?」
「レイ達に聞かれると不味い話だったので、
改めてカレンに聞きたいことがありまして……」
私は、そう前置きをしてから言った。
「何、聞きたい事って?」
「……カレン、貴女の今の本当の状態を教えてください」
「………」
私の質問に、彼女は無言のまま何も答えませんでした。
「エミリア様、それは一体どういう……?」
カレンが黙っていると、私の発言に引っ掛かりを覚えたような表情でリーサさんが言った。
……この反応、どうやら
「カレン」
私は催促する様に
「…………なんで、気付いたの?」
「昨日、カレン達が話している間、ずっと観察していました。
本当は動くのも辛い状態なのに、無理して明るく振る舞っていたでしょう?
リーサさんやレイ達に心配掛けたくないから……」
「……正解」
「やはり、そうでしたか」
良かった。彼女はちゃんと私には本音を語ってくれましたか。
「カレンお嬢様……一体、どういう事なのでしょうか?」
「……彼女の言う通りよ。目覚めたは良いけど、魔力が底をついた状態から一向に回復する気配が無い。今はベッドの上だから会話くらいなら問題ないけど、歩き回ったりすると体に力が入らなかったり、酷い時は目眩を起こして倒れちゃうくらい衰弱してるわ」
「そ、それは……大丈夫なのですか?」
「大丈夫……って言いたいところだけど分からないわね。もし、このまま魔力が回復しないなら、あらゆる雑菌や病原体に対しての免疫力が失われてしまうかもしれない。そうなると、日常生活もままならないかもね……」
「そ、そんな……」
本当の事を聞いたリーサさんはショックで顔を伏せる。
「原因は何だと思いますか?」
「……多分、私が攻撃された時に『呪い』か何かを受けてしまったのだと思う。
……陛下に聞いたことあるの、陛下も自分が命を賭して魔王を討った際に、魔王から『呪い』を受けてしまったって。
その時に陛下は、身体が崩壊寸前まで魔力を削られて、ギリギリのところで女神様の力によって生還出来たと言っていたわ。だから今の私もその状態に近いのだと思う」
「では、今の状態で魔法を使ったりしたら?」
「下手すると私は死ぬわね……。
仮に死ななくても、意識を失ってまた目覚めないかもしれない」
「なっ!?」
カレンの言葉にリーサさんが驚いて声を上げる。
「(……なるほど)」
私は彼女の言葉を聞いて考え込む。
「……ねぇエミリア、お願いがあるんだけど、良い?」
カレンの私を気遣うような表情を見て、何となくそのお願いを察する。
「……大体予想は付いてますが、聞きましょうか」
「この事はレイ君やサクラには伏せておいてほしいの。出来れば、他の皆にも……心配を掛けてしまうわ」
「……はぁ、貴女って人は」
私は彼女に対して呆れ果てる。
「……貴女の気持ちは分かりました。ですが、私から条件を付けさせてもらいます」
「……分かったわ。それで構わないから教えてくれる?」
「まず、絶対に無理はしないこと。当然ですが戦闘を行ってはいけません。貴女は普通の戦士と違って膨大な魔力を放出しながら戦うスタイルでした。
そんな貴女がうっかり剣を握ろうとすれば、いつもの癖で魔力を使い果たしてしまうかもしれません」
「う……分かってるわよ、前みたいに戦えないってことは」
「次に、これは絶対ですよ。私が今から渡す薬を必ず毎日食後に3回飲むように。えっと……はい、これをどうぞ」
私は太ももに忍ばせていた黒い錠剤を詰めた瓶をカレンに渡す。
「え、なにこれ?」
そう言いながらカレンは渡した小瓶を不思議そうに眺めている。
「……あの、エミリア様、この怪しい色の錠剤が入った小瓶は何ですか?」
「最初にカレンに飲ませた液体を固めて錠剤にしたものですよ。
これを毎日欠かさずに飲めば、日常生活を送るくらいなら問題なくなるはず。
今、カレンが感じてる体の負荷や立ち眩みも消えるかと」
「へー、凄いわね……」
カレンは瓶の木栓を抜いて、一錠だけ取り出してまじまじと見る。
「これ、今飲んでも大丈夫?」
「ええ、リーサさん、お水用意してもらえますか?」
「はい、只今お持ちします」
リーサさんは病室内にある簡易的な台所に向かい、
氷魔法で冷やしてある水をコップに注いで持ってくる。
「どうぞ、お嬢様」
「ん、ありがと」
カレンはリーサからコップを受け取り、
口の中に錠剤を入れてから水で流し込んで飲み込む。
すると……。
「うえっ! 苦い、なにこれっ……」
カレンは飲み込んでから苦虫を噛み潰したような表情をして舌をべぇと出す。
「我慢してください。その薬は貴女の体に掛かった呪いを一時的に打ち消し、魔力を通常通り循環させるものです。味はともかく効果は保証できますよ」
「そう言われてもね……あ、でもなんか体が軽くなった気がするわ」
カレンはベッドから立ちあがって病室を歩き回る。
「おおー、凄い、圧し掛かるような体の重みも消え去ったわ!」
「良かったですねお嬢様」
嬉しそうな笑顔を浮かべる彼女に、リーサさんは優しく微笑む。
「食後に必ず飲んでくださいね。少なくなったらすぐに私に言ってください」
「何から何まで……ありがとう、エミリア。
それにしても凄いわね、そんなに調合得意だったの?」
「いえ……最近までサボっていたのですが、周りが無茶するから勉強しなおしてたんです。昔、セレナ姉さんに基礎だけ教わってたのですが、私としては魔法の勉強ばっかりしていたので、 あまり興味がなかったんですよ。なので、今までの分を取り戻す為に、ここ最近はずっと頑張ってました」
「そうだったのね。調合の事は分からないけど、ここまで出来るなんてエミリア凄いんじゃない?」
カレンは軽くなった身体が嬉しいのか、声のトーンも表情も明るくなっていた。
「あんまり無理しないでくださいね。
薬を飲んでいたとしても戦闘は控えてください、魔法も使っちゃダメですよ」
「分かってるわよ、すごく感謝してるわ」
「それで最後ですが………。もし、何かあったら私達に頼ってください。
特にレイは何かあれば必ず貴女の力になろうとするはずです。ですが、彼にも限界がある。その時は逆に、貴女が彼の精神的な支えになってください」
「それは勿論だけど……何をしてあげればいいのかしら?」
「特別何かしろってわけじゃないですよ。
昨日のように彼を労ってあげてれば十分です。レイは以前よりも全然大人びてきましたが、カレンには相変わらず甘えてる気がします。だから、彼が弱音を吐ける存在で居てあげて下さい」
「……分かったわ。約束する」
「お願いしますね……もし、彼が望むなら恋仲になっても構いませんよ。その場合、私は大人しく身を引いてあげますから」
「えっ!?」
私の言葉に、彼女は頬を赤らめて動揺した様子を見せる。
「冗談です」
「……もうっ、本当に意地悪なんだから」
カレンは再びベッドに潜り込んで、中でモジモジし始める。
そんな彼女に私は笑いかけながら席を立つ。
「じゃあ、今日は帰りますね」
「ええ、また明日」
「エミリア様、お気をつけて」
私は二人に見送られながら病室を出る。
そして、扉を閉めたところで……。
「ふぅー……」
大きく息を吐き出す。
「(……これでしばらくは大丈夫)」
私はカレンの様子を確認してホッと胸を撫で下ろす。
あの薬を生産するだけの材料はまだ少し残ってるため、数ヶ月は持つだろう。
問題はその後だ。
特に、敵基地で採取した魔力の核は限りがある。
入手も難しいし代用できる品を見つけるか、何処かで採取する必要がある。
「(カレンの掛かった呪いさえ解呪出来れば全部解決なのですが……)」
しかし、元女神であるベルフラウの回復魔法ですら解呪しきれないほどの凶悪な呪いだ。攻撃魔法に特化し過ぎている私がどうにか出来るとは思えないし、レベッカも難しいだろう。
「……となると、やはりグラン陛下に聞いてみるしか無さそうですね」
グラン陛下はカレンと同じく、あの化け物から呪いを受けてなお生存している。
彼の話を聞く価値は十分にある。何かヒントが得られるかもしれない。
「といっても、騎士じゃない私では……」
レイやサクラの力を借りれば謁見は難しくないが、彼らに事情を話すことになってしまう。それではカレンとの約束を違えることになる。
「どうしましょうかねぇ……?」
独り言を呟きながら、私は病院を後にした。
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