第466話 静かにキレるレイくん
決闘の舞台に選ばれたのは、訓練場の一角だ。
そこの開いてる広い場所で僕達は決闘をすることになった。
周囲には、他の団員が見物として邪魔にならないよう見守っている。
僕と彼は、互いに5メートルほどの距離を開けて向き合う。
しかし、今から剣を交えるというのに、僕は彼の名前を知らない。
「……すいません、名前を教えてもらっていいですか?」
「ああ!? 何でテメェみたいなガキに名乗る必要があるんだ?」
「……あ、はい」
流石にちょっとイラッときた。
っていうか、さっきまでと口調が変わって凄く怖い。不良かな?
「……僕はレイと言います。
僕が勝ったらさっきまでの発言取り消してくださいね」
「ああん、上等だ!」
そう言いながら彼は、鞘から剣を取り出す。
「(鋼の剣か……)」
王都で売られてる標準的な剣だ。
他の街で売られているものよりも質がよく丈夫な武器と言える。
ただ、自分の所持してる聖剣と比較すると、どうしても見劣りしてしまう。
「(後で、武器のせいで負けたと言われても困るなぁ……)」
さっきからの口調を見るに、彼は完全に僕を見下してる。
流石に僕も彼の事が嫌いになってきたし、何度も因縁を付けられても困る。
なので僕は団長に向かって言った。
「団長、彼と同じくらいの武器ありますか?」
「ん? お前の持ってる武器じゃダメなのか?」
団長は、僕の腰に掛けてある鞘を見ながら言った。
「はい、同じ武器じゃないと不公平だと思いますから……」
「……まぁいいけどよ。おい、ジュン、お前の剣を貸してやれ!」
団長はそう言いながら、見物してるジュンさんに声を掛ける。
ジュンさんは頷き、鞘ごと剣をこちらに投げる。
「受け取れ、レイ!」
「っと! ありがとうございます、ジュンさん」
僕はそれを両手で受け取ってお礼を言う。
ジュンさんはこちらに向かって大声で言った。
「レイ、お前が温厚な性格なのは知ってるが、
今回は他の奴が文句言わないようにそいつを徹底的にボコってやれ!!」
「あはは、まぁやってみます……」
そう言って僕は彼に向き直った。
「……ふん、舐めやがって……じゃあ行くぞ、ガキ!!」
彼はそう言って、一気に踏み込んできた。
そしてそのまま剣を振り下ろす。
「っ!?」
想像よりも動きが全然早い。
僕は反射的にその攻撃をジュンさんから受け取った剣で防御する。
ギンッ!!という音と共に火花が散る。
重い一撃だった。
並の剣だったら折れていたかもしれない程の威力だ。
僕と彼は互いに押し合うが、彼の方が背丈も高く重さでは敵わない。その為、力で押し合うのは止めて、すぐに後ろに跳んで距離を取る。
そんな僕の様子を見て、彼は挑発する様に言った。
「大したことないな、カレン副団長も病み上がりで頭が鈍ったか?」
「……は? 今、なんて言った?」
僕は思わず、怒りで顔を引きつらせた。
「あん、聞こえなかったのか? ならもう一度だけ言ってやる。カレン副団長は、俺達より弱い奴に副団長を任せるつもりだったのかよって言ったんだよ!」
「この……!!」
危うく冷静さを欠いてブチギレそうになるが、
何とか感情をギリギリで押し留めて、無言で剣を構える。
「(……もういいかな)」
僕は激情を抑えつつ、目の前の相手の認識を悪い意味で改める。
本当はある程度打ち合って、実力を認識出来たところで、軽く一発当てるつもりだったけど、ここまで言われたらそれだけでは気が収まらない。
「……もう一回、名前を聞いていいですか?」
「そんなに俺の名前を知りたいのか?
まぁ名も無い相手に惨敗して泣き寝入りも可哀想だから、教えてやるよ。
俺は、『リョウフ』だ」
「……そうですか」
僕はそう呟くと、感情をなるべく出さずに言った。
「リョウフさん、今の攻めは見事でした」
「はっ、俺の実力を知って、副団長の座を辞退する気になったか?
俺も鬼じゃないから、この場で土下座して謝るなら勘弁してやるよ」
リョウフさんはこちらを見下すように笑う。
「ええ、お気遣いありがとうございます。ですが遠慮しておきます。
一応僕はカレンさんの代理なので、
「……は?」
彼は一瞬何を言われたか分からないといった表情を浮かべる。
僕は、怒りを押し込めるように、笑顔の仮面を作って彼にこう言った。
「ここからはジュンさんが言った通り、貴方をボコボコにさせてもらいます。痛くて我慢できなくなったら意地を張らずに降参してくださいね」
「……テメェ、さっきの俺の言葉聞いて無かったのか? それとも、バカなのか? どっちにしても、俺の事を怒らせるには十分過ぎるぜ!!」
彼は叫ぶと同時に斬りかかってくる。しかし、今度は行動が読めていたため、彼の剣の一撃の威力がピークに達する手前で、僕の剣を彼の剣にぶつけて勢いを削ぐ。
「なっ!?」
自分の一撃が簡単に防がれたことに彼は驚きの声を上げるが、そのまま彼の右手に持つ剣を僕の剣で思いっきり叩きつける。
「ぐっ……!」
腕が痺れた彼は、剣を落としてしまい隙を晒す。そのまま返す刀で彼の胴体に横薙ぎに一閃を入れる。当然、そのまま斬ってしまえば殺してしまうため、剣の刃先を使わず水平にして叩く。
それでも、彼の身体を吹っ飛ばすのには十分な威力だ。
「ぐはっ!!」
彼は悲鳴を上げ、地面に倒れ込む。
しかし、彼は諦めずに立ちあがり転がった自分の剣を構える。
……が、遠慮しない。
彼がへっぴり腰で立ち上がったところで僕は詰め寄って、
彼の剣を再び弾き飛ばして、彼の胴を蹴って軽く吹き飛ばす。
「があっ!」
再び地面を転がり、苦しそうに声を上げた。
「もう終わりですか? あれだけ威張っておいて大した実力ですね」
「てめぇ……」
彼は、痛みを堪えながら何とか立ち上がる。
しかし、彼は怒りで頭が働いてないのか見当外れな事で憤慨する。
「卑怯な真似しやがって……!!」
「卑怯?」
何のことか分からず、僕は聞き返す。
「てめぇ、魔法を使っただろ!?
最初は俺の力に全然敵わなかったのに、二撃目で急に強くなったじゃねぇか!
どうせ、強化魔法か何かを使ってインチキしたんだろ!?」
彼のその発言に僕は理解が及ばず、思わず仲間達に視線を向ける。
「あははー、面白ーい」
サクラちゃんは彼の発言を聞いて笑い出す。
団長に視線を向けると、「やれやれ……」と呆れていた。
ジュンさんに至っては腹を抱えて爆笑している。
それを見て、ようやく彼が何を言いたかったのか分かった。
「僕は魔法とか使ってませんよ?」
「んなわけあるか!! お前みたいなガキが俺の攻撃をあっさり受け止められるわけないだろうが!!」
……ああ、そういう事か。
「リョウフさんの最初の一撃は確かに悪くはなかった。
勢いのある貴方の攻撃を正面から防御すると大体の人は押し負けるでしょう。
ですが、一度リーチと攻撃のタイミングを見切ってしまえば―――」
僕はそう言いながら剣を構える。
「……試しに、向かってきてください。そうすれば語るより早いでしょう」
そう僕があえて挑発すると、彼は焦った表情を浮かべたが、すぐ短絡的にこちらに突っ込んできた。
「うおおおっ!」
雄叫びと共に剣を振り下ろすが、僕は自身の剣を使って彼の一撃を横に受け流す。
そして、そのまま懐に入って剣の柄で彼の胸元を殴り飛ばす。
「ぐふっ!」
リョウフさんは、そのまま崩れ落ちた。
胸を強打されたため、彼はしばらく息が出来ずにその場で膝を付く。
「今ので分かったかもしれませんが、貴方は勢いがあるだけです。その恵まれた体躯と力だけでも並の魔物なら勝てるでしょう。けど、そんな戦い方、剣術を学んだ相手には―――」
「う……うるせぇ!! 黙れっ!!」
「……!」
僕は何故捌けたのか説明しようとしたのだが、激怒した彼に遮られる。
そして、憎しみの目で僕を見る彼は再び立ち上がろうとするのだが……。
……これは、もう言っても無駄かな。
「……もう終わりにしましょう」
「なんだと……?」
「これ以上、貴方と戦っても、僕は得るものがありません」
僕はリョウフさんを一瞥して、剣を鞘に納める。
そして、審判の為に近くで僕達の決闘を見ていた団長に剣を渡す。
「これをジュンさんに返してもらえますか」
「おう」
団長は僕から剣を受け取り、ジュンさんに返却する。
剣を受け取ったジュンさんは僕に向かって言った。
「良いのか? もっとボッコボコにしてやっても良かったんだぜ?」
「いやいや、もう十分ですから……」
と、僕は苦笑しながら返す。
これ以上彼を無意味に痛めつけても仕方ない。
反省してくれなかったのは残念だけど、それでも人を傷つけるのは嫌いだ。
と、僕は考えていたのだが、背後の彼が突然大声で叫び出す。
「うるせえっ! まだ俺は負けた訳じゃねえ!!」
「――!?」
僕は咄嗟に振り向く。
すると彼は剣を振りかぶりながら僕に向かって襲い掛かってくる。
「ちょっ!?」
まさか、ここに来て不意打ち!?
「しねええええ!!」
明らかに殺意の籠った発言をしながら斬り掛かってきた。
「(――仕方ない)」
僕は即座に元々持っていた剣を鞘から抜き、彼の剣に向かって一閃する。
僕の一閃は青色の弧を描いて、
僕に直撃する一秒手前だった彼の刀身を通過していく。
「なっ!?」
すると、彼の手に握られていた剣は綺麗に切断された。
「な、なんだよこれ……?」
彼は、自分の手元に残った剣の残骸を見ながら、唖然とした表情で呟いた。
「最初に言ったじゃないですか。『同じ武器じゃないと不公平』だって……」
僕はため息を付きながら言った。
僕の抜いた剣は、その刀身が眩く青い光を放っていた。
「ま、まさか、聖剣………!?」
どうやら、彼は聖剣の存在を知ってたらしい。
「初めからこの剣を使うと、勝負にならなかったので武器を借りたんですよ」
「……は? 聖剣って選ばれた者しか使えないんじゃ……?」
ふむ?それは僕も初耳だけど……。
「少なくとも、カレンさんや僕は聖剣を扱えてますよ。それに……」
僕は、団長に視線を向ける。
団長は、「やべ、バレた」と言いたげに慌てて僕から視線を逸らす。
僕はその様子に苦笑し、再びリョウフさんに視線を戻す。
「……どうします、負けを認めますか?」
聖剣で加減するのは難しいから出来れば早いところ降参してほしい。
しかし、リョウフさんは、それでも納得しなかった。
「ふ、ふざけるな!! 魔法の次は聖剣だと!?
インチキもいい加減にしやがれ、まともに勝負する気無いのか!!」
「……ああ、もう」
僕は面倒になって、彼に近づき、彼の首筋に剣を突きつける。
「ぐ……っ!」
「……いい加減しつこい!!
負けを認めなくても良いけど、さっき背後から僕に斬り掛かりましたね?」
僕は彼に剣を突きつけたまま団長に声を掛ける。
「団長、騎士道五か条の一つにありましたよね。『騎士たるもの、決闘を行い負けた者は潔く引くべし。ただし、卑怯な手段を用いての勝敗は敗北と見なす』って」
「……ん?」
団長は一瞬何を言ってるのか、わからないという顔だったが……。
すぐに意図を理解したのか、団長はニヤリと笑って言った。
「あー、うん、そんな感じだった気がするなぁ……うんうん」
「では、団長から見て、今の行いはどう判断しますか?」
「……騎士道に反する行いだな。
この場でお前が切り捨てて処断した方が後腐れが無くていいかも知れん」
団長は、これ以上文句いう奴を黙らせられるだろうしな、と、他の団員達を睨み付けながら言う。
「うっ!?」
流石にリョウフさんも焦った声を上げるが無視する。
「そうですか、では――」
僕はそう言いながら剣を握る手に力を込める。
「待ってくれ! 俺の負けだ!!!」
リョウフさんは、慌てて手に持った折れた剣をその場に捨てて土下座する。
「許します」
「へっ?」
僕は困惑する彼をスルーして、聖剣を鞘に納める。
「団長、こんな感じで良いでしょうか?」
「ああ、いいと思うぜ」
団長は僕の質問に頷き、ニヤリと笑った。
「な……ど、どういう事だ!?」
「リョウフ……お前、騎士道五か条って知ってるか?」
「……いや、知らない」
「だろうな、俺もそんなもの知らねえよ。今、俺とレイが話していたのは、単なる出任せだ。お前がいつまでも降参しないから一芝居打っただけだ」
「……なっ!?」
団長の言葉に、リョウフさんは驚愕するが、見ていたギャラリーは笑い出す。
「ははははははっ!! 団長、今のは面白かったぜ!!」
「レイが突然変なこと言い出すから、思わず吹き出す所だった……あー、腹いてぇぇ……」
「おいおい、お前ら失礼だぞ! 折角リョウフ君が素直に負けを認めたんだから、笑ってやるなって」
……と、まぁ周りが爆笑の渦に巻き込まれ始め、
それを聞いていたリョウフさんは肩をプルプル震わせて……。
「ち、ちくしょうーー!!!!」
と言いながら、訓練場から走って逃げていった。
僕と団長は、それを見て互いに目を合わせて苦笑した。
「さて、奴は置いとくとして……」
団長は、副団長になることを反対してた他の人達に視線を向ける。
「まだ文句のある奴はいるか? 今の間に言っておいた方がいいぞ」
団長はそう言って僕に目配せする。僕はそれに応じて、再び聖剣を抜く。
「……異論がある方はどうぞ。
次からはこの聖剣を以って、全力でお応えしますよ」
僕は聖剣を軽く振り回しながら、軽く殺気を込めて言う。
「ひぃ……っ!」
すると、先程まで反対していた人達は、全員顔を青ざめて一歩後退する。
団長はそれを見て、フッと笑みをこぼしてから、表情をキリッと改めて、声を上げて言った。
「ではこれより、レイ及びサクラの二名は、『副団長代理』として扱う。騎士としての誇りを以って、その職務を全うするよう心掛けろ!!」
「はい!」
「頑張ります!」
こうして、僕達は彼らに認めてもらえることが出来た。
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