第465話 いきなりハプニング

 次の日―――

 僕とサクラちゃんは、カレンさんの報告の為に玉座の間に訪れていた。


「―――そうか、カレン君がようやく目を醒ましたか」

 グラン陛下はホッとした様子でそう呟いた。


「はい、ですがしばらくは療養が必要だと思います」


「そうか……まあ、あの時の戦いを考えれば仕方がないな。そして、彼女の要望で、君達を自分の代わりに副団長として雇用してくれと……ふむ」


 陛下は、僕達二人をジッと見る。

 ……もしかして、頼りないと思われているのだろうか?


「あ、あの無理に、とは……」

「ええと、先輩にはああ言われましたけど、わたしもちょっと自信ないかなーって……」


 サクラちゃんは頬を手で掻きながら言った。

 彼女と同じく、僕も全然自信が無い。


「……ん? いや、君達に不満があるというわけじゃない。私としても副団長に君達のような優秀な若者が就いてくれる事は頼もしく思うよ。むしろ、良い機会だと思っているくらいだ。

 これを機に君達二人は街の人達と交流を深める機会もあろう。副団長としての地味な仕事は、しばらくカレン君に任せれば大丈夫だろうし、目立つ部分だけ君達二人にやってくれればいい」


「そうですか……良かった」

「えへへー、良かったねー、レイさん」

 サクラちゃんは僕に自分の掌を見せる。僕は彼女の掌に自分の掌を合わせて、パチンとハイタッチをする。


「さて、一時的とはいえ就任式くらいはしないといけないな。

 今から主要の人物を何人か集めることとしよう。……キミ、お願いしても良いか?」

 グラン陛下は後ろに控えていた騎士の一人に声を掛ける。


「……仰せのままに。王宮騎士団の面々はどうしましょうか?」


「彼らは今、街に警護に忙しいだろう。ダガール団長の方には私から通しておく。

 君は、詰所に待機している自由騎士団員に声を掛けてきてくれ」


「承知しました」

 その騎士は一礼すると、そのまま部屋を出て行く。


「それでは、準備が整うまでここでゆっくりしていてくれたまえ」


「はいっ」

「分かりました」

 僕とサクラちゃんはその言葉に返事をして、部屋の中にあったソファに座る。


 すると、陛下は言った。


「……そうそう、就任の際の簡単な挨拶くらいは考えておいてくれ。一応、それなりの立場の人間になるわけだからな。君達はまだ子供とはいえ、形式だけでも済ませておく必要がある」


「は、はい……」

「挨拶かぁ……どんなのが良いかなぁ……」


 僕は、どんな事を言えばいいのか少し悩んだ後、サクラちゃんと二人で相談して考えた。


 ◆


 それからしばらくして、

 僕達は、玉座の間に集まった皆の前で、それぞれ演説を行った。


 内容は事前にサクラちゃんと考えたもので、

『皆と仲良くしていきたい』とか、『困った事があれば何でも言って欲しい』、『皆の力になりたい』と言った内容だった。最後にサクラちゃんと一緒に立って頭を下げた。


「これから短い間だけど、よろしくお願いします!!」


「皆さんの足手まといにならないように全力で頑張ります!!」


 僕とサクラちゃんの挨拶で、一応は受け入れられたようで拍手が送られた。


 その後、手続きはトントン拍子に進んで、自由騎士団の面々の中で改めて紹介されることとなった。


 ―――場所は移り、ここは王都にある自由騎士団の詰め所。


 現在、集まってるメンバーは、団長であるアルフォンスさんとジュンさんも含む団員十六名と、僕とサクラちゃんの合計十八人だ。先の魔王軍との戦いで、活躍した猛者たちが数名志願し、当時よりも人が増えていた。


 アルフォンス団長は並んで待機してる僕達を見ながら言った。


「……さて、聞いてると思うが、自由騎士副団長のカレンが復帰するまで、団員のレイとサクラが一時的に副団長のポストに就くことになった。

 これは副団長のカレンの要望でもある。誰か文句がある奴はいるか?」


 団長は僕とサクラちゃんと前に出させて、周囲の反応を伺う。


「いえ、別にありませんぜ」


「レイの出世が早すぎるのがちょっとアレだが、副団長が推薦したんなら文句ねぇわな」


「何だかんだで実力あるしなぁ、この二人」


 ……と、古参の団員からはさほど文句は出なかった。

 ただ、先の魔王軍との戦いの後に加入したメンバーの中には異を唱えるものが何人か居た。

 数人は闘技大会に出場していた人達だ。


 そのうちの一人が、怒った形相で前に出る。 


 茶髪で耳にピアスを付けた青年だ。

 腰に鞘を付けているところを見ると剣士だろうか。

 長身で身長は190センチくらいある。


 名前は……覚えていない。

 本戦に出ていた筈なのだけど、対戦する機会はなかった。

 一応、名前は売れてたのだけど、あの時の僕は女性の姿だった。

 同名の名前だとしても僕とは結び付かないだろう。


 彼は言った。


「俺は反対だ。いくら副団長の推薦があったとしても、こんなガキがいきなり副団長なんて納得できねぇよ!」


「ほー、ならお前はどうすれば納得するんだ?」


 団長はそう聞き返す。すると、彼はニヤリと笑って言った。


「俺は腕っぷしの強さを買われてこの騎士団に入った。という事は、この騎士団は実力主義ってことですよね? 

 仮にも、あの<蒼の剣姫>と呼ばれた英雄、カレン・ルミナリアの後任だ。もし、ここで俺と一騎打ちして負けるような事があれば、ここにいる誰も納得しないんじゃないですかね?」


 彼は、僕とサクラちゃんを睨み付けて言った。

 そして、彼の言葉に賛同する様に数人が「そうだそうだ」とはやし立てる。


「(えぇ……?)」


 心の中で凄く面倒な事が起こりそうな予感を感じて思わず呟いた。彼の言葉を聞いて、団長がニヤニヤした顔でこちらを向いて僕にだけ聞こえる声で言った。


「……だそうだぞ、レイ? 闘技大会で姿を変えてたことが裏目に出ちまったなぁ?」

「面白がらないでくださいよ、団長……はぁ」

 思わずため息をつく。


 その様子を見て、更に彼は言った。

「あと、そっちの女、確か闘技大会の実況やってた気がするんだが……。まぁそいつは後で良いとして………団長、こいつを試させてくださいよ」


 彼はそう言いながら、鞘から剣を抜く。

 その目線はどうみても僕の方を向いている。要するに、これは……。


「……なるほど、流れで読めてたが、こいつに決闘を申し込むという事か」

 団長の言葉に、彼を含めた数人のメンバーが首を縦に振る。


「……レイ。お前はどうしたいんだ?」

 団長は小声でそう聞いてきた。


「いやその、僕は……」


 正直、あまり戦う意味を見出せない。

 初対面とはいえ、同じ騎士団の団員、つまりこれからは仲間だ。

 敵でもない相手に理由もなく剣を交える気分にならない。


 僕の弱腰な発言に、彼は言った。


「おいおい、逃げる気か?

 副団長代理は随分と気弱なお方のようだ。やっぱ見た目通り貧弱か。どうせカレン副団長のお気に入りとかそんな理由なんだろ?

 ハッキリ言ってやる! 弱い奴が上に立つと迷惑だってんだよ!!」


 その言葉を皮切りにして、周囲がざわつき始める。

 が、僕を庇うような発言をする人達もいる。元々居た団員の人達だ。


「あいつ調子に乗ってんなー」


「おいおい、レイ、言い返してやれよ」


「はははっ、まぁ見た目弱そうなのは確かだからなー」


「サクラちゃんも見た目だけならただの可愛い女の子だし、まぁ勘違いしてもしゃーねーわ」


「ははは、違いねぇ!」……と、彼らは笑いながら言う。


 ……あれ?僕フォローされてるんだよね?


「って話ですけど、言わせておいて良いんです、レイさん?」


 僕の隣で苦笑していたサクラちゃんが、僕にそう質問する。


「戦う理由がないし……」

「えー、でもあの人滅茶苦茶調子に乗ってますよ? 

 私だったらとりあえず拳骨一発入れるかなぁってくらい」


「サクラちゃん、実は結構手が出るタイプだったりする?」

 ここ最近、彼女のイメージが180度変わった気がする。


 話を聞いていた団長は、呆れた様子で言った。


「はぁ……仕方ねぇなぁ……。

 おい、レイ。お前、今『戦う理由が無い』と言ってたな。だが、その考えはお前の大切な仲間であるカレンを侮辱してるようなもんだぞ、分かってるか?」


「えっと、それって……」


「カレンはお前を信じて自分の代理に任命した。

 だが、あいつはお前の事を過小評価していて、副団長になる事に納得していない連中がいる。お前がここで剣を取って奴らを納得させないと、お前を信じたカレンの意思を無駄にすることになる」


「っ……!」


 言われてみれば、そういう事だ。

 僕自身、別に副団長に地位に拘るつもりはないし、別に弱く見られても問題ないって考えだったけど、 それはあくまで僕個人の問題だ。


 それが、カレンさんの期待を無下にする事になるのであれば話は別だ。


「……分かりました」


 流石に、カレンさんの期待を裏切るわけにはいかない。

 彼と剣を交える理由はそれでいいだろう。


「……よし、決まりだな」


 団長は言った。


「今からこの二人の決闘を行う。場所を変えるぞ、付いて来い!!」

 そうして、僕と彼は決闘をする事になった。

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