第462話 お姉ちゃん、反省する
森から戻ってきた僕達は、
エミリアが調合の為に部屋に籠って薬を完成させている間、
カレンさんに見舞いの為に、病院を訪れていた。
そして、色々あったものの、目的のカレンさんの病室に辿り着く。
レベッカは、手を握るサクラちゃんに優し気な表情を向けて言った。
「着きましたよ、サクラ様」
「はーい、ママー」
どういうわけか正気を失ってるサクラちゃんは、手を引いて歩くレベッカの事をママと呼んでいた。もはや突っ込むまい。
レベッカは、カレンさんの病室のドアの前に立つ。
そして、トントンと控えめにドアをノックする。
すると、数秒後、女性の声で「どうぞ」と返事が返ってくた。
返事を聞いたレベッカは「失礼します」と言い、静かにドアを開ける。
そこには椅子から立ちあがり、こちらを向いてお辞儀をするリーサさんの姿と、美しい表情でベッドで眠りに付いているカレンさんの横顔があった。
僕達は部屋に通されると、真っ先にリーサさんが僕達に話しかけてきた。
「お帰りなさいませ。皆様、お嬢様のお見舞いに来て頂きありがとうございます」
「いえリーサさん。僕達こそ、急に大勢で押しかけてすみませんでした」
僕は謝罪の言葉と共に、リーサさんに笑顔を向ける。
リーサさんも僕の表情を見て、明るい表情で言葉を返す。
「いいえ、そんなことありません。
カレンお嬢様もきっと喜びになりますわ。……ささ、皆様こちらに」
と、リーサさんに歓迎されて僕達は、
カレンさんのベッドの横にある椅子の周りに集まる。
しかし、相変わらずサクラちゃんだけ変なテンションのままで、フラフラとカレンさんの寝ているベッドに腰掛けて「わー、先輩寝てるー、わたしもー」と、言いながら、サクラちゃんはカレンさんの寝ている布団をの中に潜っていく。
そして布団の中でカレンさんにギュッと抱き付いてご機嫌の様子だった。
「わーあったかーい、えへへ……」
その様子を見ていたリーサさんは困惑し、
「あ、あの、サクラ様?
いったい、どうされたのですか? まさか、壊れてしまったのですか!?」
と、随分な誤解をしてしまっている。
「え、壊れて!? いや、そういうわけじゃないんですが……」
僕は心配そうにしているリーサさんを落ち着かせるために、
手に持っていた荷物を棚に置き、リーサさんの手を握る。
「っていうか、姉さん? なんでサクラちゃんはこんな状態になってるの?」
僕は姉さんの方を向いて、ちょっと睨み付ける。
すると、姉さんとレベッカは僕の視線から目を背けて、小さな声で弁明を始めた。
「え、えっとねぇ……」
「サクラ様に、カレン様の事を色々お聞きしていたのですが、中々頑固でございまして……」
「はぁ……それで?」
二人の話を聞いて、僕は小さくため息を吐き、続きを促す。
「その後、ちょーっと素直になってもらおうと思って……」
「……思って?」
僕は嫌な予感を感じ取って、姉さんにさらに問い詰める。
「………ちょっと、ほんのちょっとだけ……お酒を、ね?」
「おいこら、姉さ……女神様、なんて事してんだよ!」
それを聞いて、つい僕は乱暴に怒鳴ってしまう。
「あはははははははははは、………はは…………ごめんなさい」
「はあ……」
姉さんは乾いた笑い声を上げて、僕から目を逸らす。
「あらまぁ……という事は、サクラ様はお酒のせいで、少々気が触れているという事でしょうか?」
「いえ、単に酔っているだけでございますから……」
リーサさんの言葉に、レベッカが冷や汗を掻きながらも冷静に返す。
「全く、サクラちゃんはまだ十四歳だよ。
お酒なんて飲ませちゃダメじゃないか!!」
「ご、ごめんなさい……」
姉さんはシュンとなって僕に謝る。
「大体、姉さんは女神だったくせに、色々とだらしなさすぎだよ! それでも年長者なの!?」
「ね、年長者!? 酷いよレイくん、私、まだ十七歳なのに……」
「自称でしょ、自称! 大体、僕が生まれた頃から女神様やってたくせに、
本当に十七歳なわけないでしょ!! 本当はもう百歳とかじゃないの!?」
「ひ、ひゃく!?」
「レイ様、そろそろその辺で……。それにお酒と言いましても、サクラ様が接種したのは一口でございますから……」
「え、そうなの?」
僕はレベッカの言葉を聞いて、サクラちゃんの方を見る。
「えへへへへへ~、せんぱぁぁぁぁぁい~」
「……」
サクラちゃんは、相変わらず正気を失ったような状態で、眠っているカレンさんの頭に頬ずりしていた。心なしか、眠っているカレンさんの表情がちょっと迷惑そうに見える。
「……あれで、一口?
「サクラ様が特別、
「うーん、どうなんだろ……」
僕は首を傾げる。
すると、僕達の傍で見守っていたリーサさんがクスリと笑って、
「ふふっ、でも皆様が楽しそうで何よりですわ」と、呟いていた。
それから僕達は、見舞いに持ってきた果物を病室に飾り、一緒に買ってきたケーキを置いてあったナイフで切り分けて、 皿の上に乗せて皆に配った。
その後、僕達はカレンさんの病室で静かに談笑していた。こうやって談笑していれば、カレンさんが目を醒ますかもと思い、わざと明るく声を出して話をしていた。
結局、カレンさんは目を醒まさなかったが、その表情は穏やかになっていた。
途中、酔っぱらったサクラちゃんが眠ってるカレンさんに、如何わしいことをしそうだったので、とりあえず僕が力づくで引き剥がした。
そして―――
「リーサさん、実は大切な話がありまして」
僕は、リーサさんに真剣な表情を向ける。
リーサさんも僕の表情を見て、何かを察したのか、表情を少し強張らせる。
「はい、どのような事でございましょうか?」
「えっとですね……」
リーサさんの言葉を聞いて、僕は少し言い淀む。
そして言った。
「……実は今、エミリアが、カレンさんの為に薬を調合してまして」
「まぁ……お嬢様の為に、ですか?」
「はい……実は、僕達が昨日出払っていたのは、
そのカレンさんの薬の為の材料を森に採りに行っていたのが理由です」
僕の言葉に、姉さんとレベッカも一緒に頷く。
ちなみに、サクラちゃんはベッドに顔面だけ突っ伏して爆睡していた。
今日、この子の美少女像が完全に崩壊したかもしれない。
「今は材料を持って帰って来ててエミリアが調合しています。
明日辺りには完成すると思いますから、それを飲めばカレンさんも元気になると思うんです」
「なるほど……そういうことでございましたか……」
リーサさんは僕の言葉を聞いて、納得してくれたようだ。
「皆様、カレンお嬢様の為に、本当に感謝の言葉もありませんわ」
リーサさんは僕達に感謝の礼を述べるが、
レベッカは穏やかな表情を向けながら首を横に振る。そして言った。
「リーサ様、感謝など不要でございます。
わたくし達も、リーサ様と同じ気持ちです。カレン様と寝食を共にし、時には命を掛けて戦場で背中を預け、命を救って貰ったこともあります。
そんなカレン様に、恩返しをしたいと思うのは当然なのですから」
リーサさんのお礼の言葉に、レベッカはそう言って微笑みながら返した。
「レベッカ様……」
姉さんはレベッカの言葉を聞いて目を瞑り、ふっと表情を緩める。
そして、今度は姉さんが、カレンさんとの思い出を語る。
「……そうですね。私も、カレンさんとは短い間だけど、共に過ごした仲間として思い入れがあります。時には、レイくんの姉として張り合ったこともありますが……」
そして、最後は僕だ。
「僕は……カレンさんの事、家族だと思っています。
カレンさんは僕の境遇に同情してくれて、『カレンお姉ちゃん』って呼んでほしいって言ってくれたんですよ。最初は驚きましたが、凄く嬉しかったです」
僕は目を瞑って当時の事を回想しながら語る。
「カレンお嬢様がそのような事を……」
「……僕は、大好きなカレンお姉ちゃんが以前のように笑ってくれるなら……その為なら、僕は命だって掛けるつもりです。ですから、リーサさん、そんな他人行儀なこと言わないでください」
僕は目を開き、リーサさんを見つめる。
リーサさんも僕の瞳をじっと見つめ返す。
「……レイ様、そこまでの覚悟を……」
リーサさんの目から涙が零れ落ちて、視点を下に向ける。
そして彼女は胸に手を当てて、口元を緩めて再び僕に視線を合わせる。
「……皆様の熱いお気持ち、このリーサに十二分に伝わりました。
カレンお嬢様の事、皆様に全て託します。どうかお願い致します」
リーサさんはそう言うと、深々と頭を下げた。
「任せて下さい」
「カレン様の事、必ず救ってみせます」
「ふふ、今頑張ってるのはエミリアちゃんだけどね……でも、私も同じ気持ち、必ずカレンさんを助けるわ」
僕達は、力強く返事をしてリーサさんの言葉に応える。
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