第461話 考えて発言しないサクラちゃん

 森を出てから馬車の近くで野営をして過ごし、

 早朝になって僕達は王都へ馬車で帰還することにした。

 結局、王都に帰還したのは昼前頃まで掛かってしまい、すぐに宿に戻った。


 宿に戻るとエミリアは真面目な表情で言った。


「私はすぐに調合に掛かります。

 多分、一日掛かると思うので、皆はゆっくり休んでてください」


 彼女はそう言うと、階段を上がって自分の部屋に向かっていった。

 続いてサクラちゃんが言った。


「私も手伝います、エミリアさん!!」

「あっ」


 僕が止める前に、サクラちゃんがエミリアの部屋に向かっていくが……。


 ―――1分後。


「うえーん、追い返されちゃいましたぁ~!」

 サクラちゃんが泣き顔で戻って来た。


「だろうね」


 調合初心者のサクラちゃんに手伝えることといえば力仕事くらいだ。

 だけど、そういった段階の仕事は既に昨日の時点で終わっている。


「うう、先輩の役に立ちたかったのに……!」


 サクラちゃんがそう言いながらわんわん泣いていると、姉さんが慰めるように言った。


「まぁまぁサクラちゃん。貴女の想いはカレンさんに十分伝わってると思うわ。今はエミリアちゃんが無事に薬を作ってくれることを期待して待ちましょ?」


「ふふ、そうでございますね……。

 “果報は寝て待て”という言葉がございます。

 サクラ様はお疲れでしょうから、今日はゆっくりと休みましょう」


 レベッカが微笑みながら、優しく諭すようにサクラちゃんに語り掛ける。


「うう……わかりました……でも、私も何か先輩の役に立てるようなことがしたいです……」


「じゃあ、僕と一緒に町に出て病院に行こう。

 カレンさんの顔を見たいし、お世話をしているリーサさんにもこの事を伝えておかないと」


「はっ! その通りですね!」


 僕の言葉でサクラちゃんは涙を拭い、元気になる。

 そして、僕とサクラちゃんが病院に行こうと宿を出ようとすると、

 姉さんとレベッカに話しかけられる。


「おや、病院に行かれるのですか?」


「なら私達も一緒に行くわ」


「分かった」


 僕は二人の同行を受け入れて四人で宿を出る。


 ◆


 折角時間が出来て四人で病院に向かうという事で、

 僕達は病院に寄る前に、カレンさんへの見舞いの品を用意してから行こうという話になった。


「そうだ、サクラちゃん。カレンさんの好きな物って何か分かる?」


 カレンさんと一番付き合いの長いのは、幼少から仲が良かったサクラちゃんだ。彼女ならカレンさんの好きな食べ物やお菓子などを知っているだろう。


 そう思い、僕はサクラちゃんに質問したのだが……。


「え、好きなの? ……えっと、レイさんとか?」

「なぜに」


 食べ物の話を振ったつもりなのに、何故か僕の名前が返ってきた。


「だって、前に先輩に男の人の話をしたら……って、しまった、これ多分言っちゃいけないやつだ!!」


 サクラちゃんは、そう言いながら自分の手で自分の口を塞ぐ。

 しかし、時すでに遅し。


「ほう、興味深い話でございますね」


「これは是非とも聞きたいところね」


 一緒に歩いていたレベッカと姉さんが反応を示してしまった。


「あ、えっと……」

 何か言い訳をしようとするサクラちゃんだが、すぐに二人が彼女の両脇を取り囲む。


 そして、二人は楽しそうに彼女にこう言った。


「サクラ様、少しお話宜しいですか? さきほどのお話、興味がございます」


「うふふ、サクラちゃん。ちょっとガールズトークと洒落込みましょうか♪」


 二人はそれぞれサクラちゃんの右腕と左腕をガシッと掴み、

 そのまま近くの喫茶店へと連行していく。


「あああ~~~!?」

 サクラちゃんの悲鳴が聞こえなくなるまで、そう時間は掛らなかった。


「………」

 一人取り残されてしまった僕は、適当なお店でカレンさんが好きそうな果物や甘味を購入してから病院へ向かうことにした。



 それから、僕達は病院へやって来た。僕は見舞いのケーキと果物を抱えて病院に入り、その後ろを三人が付いてくる。サクラちゃんは二人に随分と質問責めにされたようで、買い物前の時より疲れた顔をしていた。


 病院に入ると、サクラちゃんが周囲を見渡して、「せんぱーい、どこー」と、何度も訪れたはずなのに、サクラちゃんは眠そうな表情で病院の廊下をウロウロし始める。


 そして、女の人が通りかかると……。

「あー、せんぱーい、探しましたよー」

「へっ!?」


 通りがかりの女の人が全部カレンさんに見えちゃってるようで、レベッカがすぐに静止して引き下がらせる。


「申し訳ございません! ほら、サクラ様も!」


 レベッカはサクラちゃんの代わりにペコペコ頭を下げて、サクラちゃんにも促す。


「ごめんなさーい」

 ……という事を病室に向かうまで何度も繰り返す。


 僕はため息を吐きながら言った。


「サクラちゃん、病院の人に超迷惑だから、てか周りの視線が痛いから自重して」


「うう、ごめんなさいー」


「大丈夫よ、レイくん。今のサクラちゃんは可愛い女の子にしか見えないから」


 姉さんがフォローを入れてくれるが、


「いや、可愛いは可愛いけど、明らかに不思議ちゃん系の子になってるから。普段の熱血要素抜けて、変なオーラ出てるよ」


「うーん、確かに」


「そんなぁー」


 僕と姉さんが会話していると、サクラちゃんが泣きそうになりながら呟く。


「サクラ様、もうすぐカレン様のお部屋でございます。

 それまでレベッカとおてて繋いで歩きましょう?」


「はーい、ママぁー」


 レベッカがサクラちゃんを宥めながら手を繋ぎ、サクラちゃんがレベッカの手を引いて歩く。

 僕と姉さんも二人に続いて、一緒にカレンさんの部屋へと向かう。

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