第452話 再会、しかし……

 苦戦したものの、僕は無事にユニコーンを討伐した。

 その後、素材になる額の角を剣を使ってのこぎりのように頭蓋から切除する。


 最後に僕は穴を掘ってユニコーンの身体を埋めて供養することにした。

 十字に近い形の枝を探し、死体が埋めた地面の上に刺す。


 そして、手を合わせて目を瞑る。


「僕の大事な人の為とはいえ、ごめんね……」

 最後に一言謝り、その場から離れた。


 ◆

 

 それから、僕は来た道を戻ると途中の道で僕を探してる皆と遭遇した。


「レイさーん!!」


「レイ様ー!」


「お姉ちゃんはここよー!」


「レイ、何処に……」


 仲間が僕を探していたので、僕は後ろから声を掛ける。


「ただいま」

「ひゃっ!?」


 急に声を掛けられて驚いたのか、

 エミリアは変な声を出してこっちを振り向く。


「れ、レイ、居るならいるって言ってくださいよ!」


「ごめんごめん」


「むむむ……」


 僕はエミリアに謝罪する。

 エミリアは、さっきの奇声を聞かれたのが恥ずかしかったのか、

 顔を少し赤らめて唸りながら何とも言えない表情をしていた。


 他の皆も僕に気付いてこちらに集まってきた。


「レイ様、ご無事でしたか」

「探したわよー」


 レベッカと姉さんは僕の姿を見て安心したような表情を浮かべていた。

 心配させちゃったみたいだ。


「レイさんってば、一人で行っちゃうんだもん。

 わたしも途中から追ったんだけど姿見失っちゃいました」


 そう言うサクラちゃんは、少し息を乱していた。


「ごめん、逃がしたらダメだと思って急いで……でも上手くいったよ、ほら」


 僕は鞄にしまったユニコーンの角を取り出す。


「これ……ユニコーンの角ですか?」

「うん、結構苦労したよ」


 サクラちゃんは、僕の取り出した角を手に取ってはしゃいでいる。


「うわー、凄い! これ普通に武器になりそうです!」


「かもね、ユニコーンが突進した時、大きな木がその角に貫かれて倒れてたもん」

 強度という意味では並の鉄の武器を上回るかもしれない。


「……それで、ユニコーンはどうなったのですか?」

「……あー」


 手加減出来る相手じゃなくて、結果殺してしまったとは言い辛い。


「……まぁ、凶暴な魔獣ですからね。

 民間人が襲われて被害に遭う事も多いですし、仕方なしですよ」


 僕が返答に困っていると、察してくれたのかエミリアがそう言った。

 その言葉を聞いて、僕はホッとする。


「それじゃあ帰りましょうか、早くお風呂に入って休みたいわー」


 姉さん一言に全員が噴き出す。


「……ふふふ」

「……ぷぷっ、ベルフラウさん、さっき水浴びしてたじゃないですかぁー」


 その光景を思い出したのか、サクラちゃんが笑う。

 その笑い声で、全員の顔が緩んでいく。


 結局、その後は笑いながら帰った。


 ◆


「おう、帰ったか」


 僕達が宿に戻ると、一階で自由騎士団の仲間達が屯していた。

 そして僕達の姿を見つけると団長のアルフォンスさんが話し掛けてきた。


「あ、団長」


「西の森に行くって報告は聞いていたが、面倒な依頼でも受けていたのか?」


「えっと、まぁ」


「そうか……てっきり、無許可で噂のユニコーンでも討伐しに行ったのかと思ったぜ」

「っ!?」


 僕の後ろで立っていたエミリアの肩がビクッと反応した。


「……ん、どうした?」

「なんでもないです、ちょっと散歩でも行ってきますね」


 エミリアは何でも無さそうな風を装いながらそのまま出ていこうとする。


「おい、待て」

 アルフォンス団長はエミリアの肩をガシッと手で掴む。


「ちょっ、いきなり何するんですか!?」

 エミリアにそう怒られて、団長はすぐエミリアの肩から手を離す。


「……すまん、肩掴んで悪かったな。詰め所で働いて捕まえた奴がお前みたいに怪しい動きをすることがあって、止める癖が付いちまってた。……で、なんで突然出ていこうとしたんだ?」


「いえ、だから散歩に」


「嘘だろ? 俺を撒けると思っているのか?」


「うぐ……」


「それに、その荷物はなんだ?」


 団長は僕の持っている鞄を指差した。


「僕達の私物とか、採取した薬草とか魔物の部位とかを仕舞っている鞄です」


「ほー……興味あるなぁ……特に『魔物の部位』というのが」


 ……しまった。


「これは騎士団として、しっかり調べないとだなぁ……えぇ!?」


 そう言いながら団長はエミリアの方を向く。


「……」

 エミリアは無言だが、汗水を垂らしていた。


「団長、言い過ぎです。わたし達も悪気はないんだから」


 サクラちゃんはエミリアを庇うように団長に言った。


「アルフォンス様、こちらにも不誠実な面もございましたが、少し話を聞いてくださいまし」

「む……」


 レベッカの言葉で、団長の怒気が薄れる。


「そうですよ、アルフォンスさん。私の顔を立ててくれないかしら?」

「うぐ……べ、ベルフラウさん」


 団長は、姉さんに言われて慄いている。

 どうも団長には姉さんに怒られているように見えたようだ。


「分かった……とりあえず、レイ。話を聞かせてもらうぞ」


「はい。……あんまり怒らないでくださいね?」


「……ベルフラウさんに睨みを利かされちゃあな……」


 団長は僕の後ろで満面の笑顔をしている姉さんを見る。

 怒ってはいない、怒ってはいないのだが、すっごい圧力を感じる笑みだった。


 そして、僕は包み隠さず事情を話した。最初はすぐに怒りだしそうだったが、それがカレンさんを治すためだという事を説明すると、団長も怒りの表情が消えていき、黙って聞いてくれた。


 そして、最後には、

「……今回の事は、王宮の直属の依頼という事にしといてやるよ」


 ……と、許してくれた。


「ありがとうございます」


「ああ、ただし、もし次に勝手な真似したら、覚悟しておけよ」


「分かりました」

 そうして、僕達は何とか罰を受けずに済んだ。


 ◆


 その日の夜。

 僕は一人部屋から出て、外を歩いていた。

 久しぶりの港町だ。明日には王都に帰ることになるし、もう少し観光してもいいだろう。


 夜の港を一人で歩く。

 夜空は星が煌めていていて、海は星空を反射して綺麗に光っていた。


 波は穏やかで静かだが、潮の香りが漂っている。

 以前に僕が暮らしていた環境では見られなかった光景だ。


「……」

 元の世界の僕の地元には海が無かった。

 いつもテレビの中や写真でしか見たことが無かった。

 折角だし、一度くらい思いっきり泳いでみたいものだ。


「……ん」

 僕が港を歩いていると、港の端の方に誰かがいることに気付いた。

 しかし、周囲が夜のためはっきりとは見えない。


 真っ黒いローブを着ているようだ。

 ただ、僕よりも背丈が低いことはは分かった。

 気になった僕は、そちらの方へと近づいてみる。


 すると、向こうも僕に気づいたようで、ゆっくりとこちらを振り向いた。


 その場で僕は立ち止まる。

 僕とその人物は、5メートルくらいの距離で向かい合わせで立っていた。


 その人物はフードを深く被っていて顔がよく分からない。


 その人物は僕を見て、若干、弾んだような声で言った。


「―――久しぶり、レイ」


「……え?」


 その声は女性のものだった。

 以前に、何処かで聞いたことのある声だ。


「―――覚えてないの?」


「ええと、ごめん……その声、何処かで聴き覚えはあるんだけど」


 僕は彼女?に謝罪する。


「――気にしないで、私も本当の貴方とは初対面だから」


「本当の……僕?」


「――うん、前に会った時、貴方は女の子の姿をしていたから」


「………あ」

 その言葉でようやく僕は思い出した。


 今は少し記憶が曖昧になってるけど、闘技大会の初日。

 少し背丈の低い少女を見掛けた。それが、僕の目の前に立っている人物だ。

 だけど、何故彼女がここに?


「思い出したよ。あの時は急に声を掛けてごめん」


「構わない。私も貴方に会いたくてあそこにいたから」


「……僕に?」


 変な話だ。僕と彼女は特に接点は無かったはず。


「そして、今日、改めて会いに来た」


「……何故、僕に? 僕は君の名前すら知らないのに」


 そう言うと、彼女は少し悲しそうな表情を浮かべた気がした。

 彼女の瞳が一瞬だけ、ほんの僅かに輝いていた。


 月明かりに照らされて、深紅に輝くその眼を僕は見た。


「……では、自己紹介を」

 そう言いながら、彼女は自信の頭にフードを取って顔を見せる。


「!!」

 僕はその姿を見て驚愕する。

 少しレベッカに似た端正な顔立ちの女の子だったが、

 僕が驚いた理由は、その少女の頭に小さなツノが生えていたからだ。


「―――私は、魔王軍の中で魔軍将という役割を負っている。

 ……名前はないが、貴方の仲間は私の事を【アカメ】と呼称していた」

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