第449話 薬の材料を求めて

 ―――時刻は昼を少し過ぎた頃。


 昼食を食べ終えた僕達は、疲れを癒すようにのんびりとしていた。

 テーブルを囲んで椅子に座り、五人で食後のデザートを食べながら話し合う。


「それで、三人は朝何処におられたのですか?」


「あ、うん、それなんだけどね……」


 僕は、レベッカと姉さんに、魔力の結晶体について説明をした。

 この結晶体を粉末にして調合素材にすると、カレンさんを治せるかもしれないのだ。


「……なるほど、それでエミリア様は回収を求めておられたのですね」


「ええ、可能性に賭けた形ではありましたが」


 レベッカの言葉にエミリアは頷く。

 姉さんは僕とサクラちゃんを交互に見ながら言った。


「……で、レイ君達は朝から頑張ってたんだね」


「うん、腕がパンパンだよ」


「明日になったら筋肉痛ですねー。

 それ以上に下手に筋肉とか付けたくないんだけど……」


 サクラちゃんは自分の腕を見ながら呟く。


「あんなに凄い力あるのに腕細いわよね、サクラちゃん」


「あの力は勇者になった弊害と言いますか……」


 サクラちゃんは頬を掻きながら苦笑して姉さんの質問に答える。


 エミリアは彼女の言葉を聞くと、僕の方を向いて見つめてきた。


「……何か言いたい事でもあるの?」


 僕はエミリアに目線を合わせてジト目で言った。


「いえ、うちの勇者レイは大して目立つ能力無いのにって思いまして」

「うぐっ!?」

 エミリアの言葉が胸に刺さる。


「あ、あるから!! ほら、魔法剣とか!!」


「……まー、言われてみれば」


 エミリアは今思い出したかのように言う。


「ふふ、レイ様は『勇者』に相応しい方でございますよ、エミリア様」


 レベッカは穏やかに笑いながら言う。


「そうですか?」


「ええ、お優しく、強く、凛々しく、弱い者を助けて悪を討つ。まさに絵本で見たような勇者さまに思えます」


 レベッカはキラキラしたような目で僕を見る。

 そんな期待の目で見ないでほしい。


「……だって、レイくん?」


「……絵本で見たような勇者さまだそうですよ? レイ」


 姉さんとエミリアが生暖かい目で僕を見てくる。


「あー、はいはい……どうせ僕は『勇者』には程遠いですよーだ……」


 若干の自虐を挟んで、手元に残っていたグラスのジュースをごくりと飲み干す。すると、向かいに座っていたサクラちゃんがグッと前に乗り出してテーブルの上に置いていた僕の左手を両手で掴む。


「な、何?」


「大丈夫です! 今から目指せばいいんですよ!

 わたしと一緒に目指しましょう! 史上最強の勇者を!!」


「そ、それはちょっとハードルが高いかなぁ」


「そんなことないですよ!」


「いや、でもね」


「いけますって!」


「あ、あの……」


「最強の勇者になりましょう!!」


「いや、僕としてはちょっと強い冒険者とかで……」


「ええー!?」


 お互い勇者なのに彼女と僕は目指すものに随分差があるようだ。


「……まぁ私が言うのもなんだけど、

 『勇者』って神様に選定された人間って事でしょ?

 特別な使命はあるけど、別段最強にならなくてもいいんじゃないかしら?」


 姉さんはそう言いながら、左手で紅茶の入ったコップを口に運ぶ。


「むー……それをベルフラウさんが言いますぅ?」


「私だからこういう事が言えるのよ。

 神様だってスタンスがそれぞれ違うんだから人間だって一緒でしょ?

 この世界のもう片方の女神にはまだ会ってないけど」


「それもそうですね」

 サクラちゃんは納得して手を離す。


「本当の事を言うと、わたしは『勇者』というより、皆のヒーローになりたいと思っていたりします」


「ヒーロー?」

 僕はサクラちゃんに聞き返す。


「はい。……『弱きを助け、強きを挫く、泣いてる人が居れば親身になって寄り添い、困っている人がいれば喜んで助けに行く』

 ……私の両親、特にお母さんは冒険者の時にいつもそうしていたらしいです。私はそんなお母さんと、カレン先輩に憧れて冒険者になったんです」


 そこで、サクラちゃんは一度言葉を区切る。


「……だから、わたしは『ヒーロー』になりたいんです」


「…………」


 サクラちゃんの言葉に全員が黙り込む。

 そして、レベッカは言った。


「……なんというか、申し訳ありませんでした」


「えっ、なんで謝るんですか!?」


「だって……サクラちゃんがそこまで正義の人だと思ってなかったから」


「うん、僕ももっと普通の女の子だと思ってた」


 僕と姉さんは頷きながら言った。


「うう……酷いです。これでも結構頑張ってるつもりなんですよぉ~」


 サクラちゃんは泣きそうな顔で言う。


「……あー、ごめんね。別に悪い意味で言ったんじゃなくてね……」


「なーんて、うそうそ! 泣いてませんよー。

 今がそうじゃないなら時間を掛けて目指せばいいだけですから!」


 サクラちゃんは笑顔で答える。

 エミリアは、そんなエミリアを羨ましそうに見ながらため息を吐く。


「……エミリア?」


「……話を戻しますが、カレンを助けるための素材は他にも必要です。

 時間もあるみたいですし、今から採取しに行きたいんですが、構いませんか?」


 エミリアは、僕達の顔を見ながら言った。


「うん、いいと思う」


「カレン様を助けるためというのであれば、火の中、水の中でございます」


「先輩とまた一緒に過ごせるなら!!」


 僕達はそれに即答する。


「じゃあ、準備したら行きましょうか。何処か心当たりあるの?」

 姉さんが聞く。


「いくつかあります。ここからだと、近隣の森の奥地にある湖が一番近いと思います。そこに、不思議な魔獣が出現するらしくて、そいつの角が万病に効くとか言われてますね」


「へぇ、なんていう名前なの?」


「一角獣……ユニコーンという別称もあるそうですが」


 ユニコーンっていうと、創作ではそれなりに有名な獣だった気がする。

 確か、清らかな女性にしか懐かないとかなんとか……。


「その魔獣って女性しか会えないとか?」


「??? ……いえ、普通に滅茶苦茶凶暴な魔獣ですよ。そもそも、性別関係ないはずですが」


「あ、そうなんだ」


「では、食事も終えたことですし、早速参りましょうか」


 レベッカが立ち上がる。

 僕達は会計を済まして、外に出る。


 そして、途中で自由騎士団の団員の一人を見掛けたため僕が駆け寄って伝言を残すことにした。


「すみません、僕達ちょっと近隣の森まで行ってきます。

 夜までには戻るつもりなので、アルフォンス団長に伝えてもらえますか?」


「レイ……分かった、団長に伝えとくよ」


「ありがとうございます」


 僕は礼を言ってから団員さんと別れた。

 その後、僕達は港町を離れてから街から数キロ離れた西の森に向かった。

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