第448話 すり潰す
次の日の朝―――
「ふわぁ………」
僕は目が醒めて、大きなあくびをする。
昨日は本当に色々あったなぁ。でも、ようやく港町に帰れるんだよね。
行きの時は港町をゆっくり観光出来なかったし、皆で回りたいなぁ……。
「(……まぁ、帰るまでが任務だから難しいかもだけど)」
団長に報告だけ頼んで僕達は遊びに行けないだろうか。
そんなことを考えていると、コンコン、とドアがノックされた。
「どうぞ」
僕が答えると、ガチャリと扉が開く。
部屋に入ってきたのは、
「失礼します」
「おっはよーです!!」
エミリアとサクラちゃんだった。
何故かサクラちゃんは朝から異様にテンションが高い。
「おはよう、二人ともどうしたの?」
僕がそう聞くと、サクラちゃんは嬉しそうな顔で言った。
「朗報です、レイさん!
先輩が……カレンお姉ちゃんが目を醒ますかもなんですっ!!」
「……えっ!?」
サクラちゃんの言葉を聞いて、さっきまでの眠気が消し飛んでしまった。
◆
「どういう事、それ?」
今も王都の病院で眠り続けているカレンさんの事を想いながらサクラちゃんに問う。
「それはですねぇ―――」
「……サクラ、ここからは私が説明します」
サクラちゃんが何か言おうとしたところで、隣にいたエミリアが言った。
「今回の任務で魔力の核となった結晶体、
それをレイ達に回収してもらったのを覚えてますか?」
「……確か、牢獄に閉じ込められていた人達を助けた時?」
「そうです。その時に回収してもらったこの結晶体ですが……」
エミリアは回収していた結晶体の最も小さな欠片を懐から取り出す。
その結晶体は、紫色に怪しく光り輝いていた。
「それがどうしたの?」
「鑑定の魔法で調べてみたのですが、これはただの魔力の塊ではなく、マナを固めたもののようなんです。これを使って薬を作ってカレンに飲ませれば……」
その言葉を聞いて、僕とサクラちゃんは互いに目を合わせて、
「「もしかしたらカレンさん(先輩)が目覚めるかも!?」」
と声を合わせてほぼ同じ言葉を叫ぶ。
その様子に、エミリアはフフッと笑いながら言った。
「ええ、体内が活性化してカレン自身のマナが回復するかもしれません」
「そっか……!! じゃあ、早くその薬を作ってあげれば……!!」
「はい、そこでレイとサクラの協力を仰ぎたいのです」
協力……というと、素材集めとかだろうか?
まさか、僕達に調合してくれとかいうわけじゃないだろうし……。
サクラちゃんもそれを思ったのだろう。
不安そうにエミリアに質問をする。
「でも、エミリアさん。わたしは調合に向かないって……?」
その言葉を想定していたのか、エミリアは苦笑して首を横に振る。
「二人に調合しろとは言いませんよ。言ってませんでしたが、この水晶の取り扱いは相当難しいんです。調合初心者にやらせてしまうと結晶化したマナを浄化してしまい、効果を失う可能性もありますので……」
「じゃあ、やっぱり採取?」
「それもありますが、今は船の中ですから取りに行けません。
そっちは後で頼むとして、二人にはやって頂きたい事があるんです」
「というと……?」
サクラちゃんは、頭にクエスチョンマークを浮かべながら質問する。
「はい、この結晶、魔法使いの私が砕こうとすると相当力が要るんです。
なので二人には……」
「「二人には?」」
「……研磨剤で細かくすり潰してほしいんです。
特にサクラは馬鹿力なので効率良さそうだと思いまして」
地味に酷いこと言ってるエミリア。
「うん、分かったよ! ……エミリアさん、それ褒めてる?」
「……まぁ、僕はカレンさんを治せるならなんでもするよ」
こうして、僕とサクラちゃんはエミリアの指示の元、
カレンさんを治せるかもしれない薬を作るための準備を始めた。
◆
その後、僕達三人は、朝食も食べずにエミリア指導の下で水晶の欠片を細かくすり潰して、粉末になるまで必死に作業を続けた。
―――それから数時間後。
「―――良し、これだけあれば十分でしょう。二人とも、お疲れです」
エミリアにようやくOKを貰えて僕達は解散となった。
「あいたたたた………手が痛くて……」
「わたしも、ちょっと手がびりびりしますぅ」
サクラちゃんは白い手をプラプラさせながら言う。
小さい欠片とはいえ、数百回は研磨剤で擦ったからなぁ。異世界に来て僕は相当握力が強くなってた筈なのに、僅かに削るだけでも相当の時間を要してしまった。
しかし、時間を掛けたお陰か、
終わったタイミング良く船は航海を終えて港町に辿り着いていた。
僕達が帰りの準備を終えて甲板に向かうと、姉さんやレベッカ、それに自由騎士団員達が入港の準備をしている最中だった。
僕達は仲間の元に向かって合流する。
すると、レベッカがこちらが来たことに気付き振り向く。
「おや、レイ様、それにエミリア様とサクラ様までおそろいで」
「レイくん達おそーい!」
レベッカが気付いたことで、姉さんも気付いてこちらに振り向き声を掛けてくる。
「あっ、レベッカさんだー!」
「サクラ様、おはようございます。朝食を誘いに朝部屋に向かったのですが、三人共、もぬけの殻でございました。今日はどちらに行かれていたのですか?」
「あー、ちょっと色々あってね」
誤魔化すわけじゃないけど、今から船を降りるところだ。
港町で食事でもしながら話すことにしよう。
僕達は歩き出して騎士団長のアルフォンスさんの元へ向かう。
自由騎士の面々は、入港の準備の為に港へ降りて行ったようだ。
「団長、僕達も手伝った方が良いですか?」
僕はそうやって声を掛ける。
すると、団長は声に気付いてこちらを振り向く。
「ん? おう、レイか。いや、こっちは間に合ってるな。
お前たちは先に船を降りていいぞ。丁度昼を過ぎた頃だし食事処が空いてるはずだ。明日の朝に港を発って王都に帰還する予定だから、それまで自由時間な」
「了解」
「ではお先に」
「じゃあ、ゆっくりご飯食べてきますねっ」
「ああ、ゆっくりしてこい。俺はもう少しだけ残っていく。
……ああ、そうだ。あのジジイはひとまず監視がてら俺たちの傍に置いとわ」
「大丈夫ですか? あんまり仲良く無さそうでしたけど……」
「問題ねえさ、相当疲れてたんだろう。
昨日部屋に連れてったら大人しく寝てたからな。あとで俺が宿に運んどく。
そうそう、宿はもう決まってるからメモを渡しとくぜ」
そう言う団長から紙切れを渡される。
「そこに簡単な地図が書かれてる。俺の名前を出せば、すぐに対応してくれるはずだ」
「分かりました」
そして、僕達は団長よりも先に船を降りる。僕達はそのまま地図に書かれていた宿に向かい、受付を済ませて荷物を置いてから再び宿の外に集まった。
「じゃあ食事に向かおう」
こうして、僕達は港町の食事を堪能することにした。
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