第447話 木っ端微塵

 基地を脱出した僕達だが、

 迎えの船が来たことに気付いて僕達は魔物を避けながら走り出す。

 しかし、大砲の音に引き寄せられた魔物はむしろ船の近くに集まっていた。


「うっわー」

 僕達が船の近くまで辿り着くと、周囲の地面が穴だらけになっており、魔物達が大砲によって飛ばされて倒れていた。


「おーい、こっちだー!!」

 武装船に乗っていた騎士団長のアルフォンスは僕達の姿を確認し手を振る。

 僕達は、皆で頷いて周囲の魔物を無視して武装船へ乗り込んだ。


 しかし僕達が通り過ぎようとすると気付いた魔物達が襲い掛かってくる。

 だが、自由騎士団の団員達が僕達を庇うように魔物に向かっていき、僕達は無事に船に乗りつくことが出来た。


 そして、出航の準備が出来たところで―――


「お前ら、船を出すぞおぉぉぉぉぉ!!」

 船長の野太い声が周囲に響く。


 魔物達を抑えていた騎士達は応じて魔物達と斬り飛ばし船へ戻る。

 追いかけてきた魔物は、甲板で待機していた僕達の魔法で撃破した。


 そして、そのまま船は孤島から離れていく。

 空を飛べる魔物は構わず追いかけてくるが僕達が迎撃することで対処出来た。


「はぁはぁ……ようやく休めるのぅ」


「ふふ、お疲れ様です♪」

 船の甲板でぐったりと膝を付いた老人を姉さんが労っていた。

 老人の疲労は限界だったようで、飲み物を受け取ると一気に飲み干していた。


 その後、老人はそのまま甲板に寝ころんだ。

 そんな老人を見て、僕とエミリア以外のメンバーは苦笑する。


 僕達が甲板で休んでいると様子を見に来たアルフォンス団長が、鎧をガシャガシャ響かせながら歩いてくる。


 そして、甲板で寝ころんでいる老人を一瞥して言った。


「……このジジイ、誰だ?」


「団長、この人は……」


 僕は老人の代わりに団長に答えようとしたのだが……。


「誰がジジイじゃ、年寄りを労わらんか、この若造が!!」


 寝ていたはずの老人が、いきなり起き上がって怒鳴った。

 さっきまでとは大違いの様子の老人に、僕達は唖然としていた。


 しかし、怒鳴られた団長は平気そうな顔をして言った。


「なんだ元気じゃねぇか」

「うるさいわい!」


 その言葉に、老人は反射的に怒鳴る。


「はぁ……」

 老人と団長のやり取りを見て、老人は溜息をつく。


「で、結局このジジイ……いや、このご年配の方は何者なんだ?」

「なんじゃ、その態度は――」


 僕は慌てて二人の間に割って入り、事情を説明する。


「あ、えっとですね、魔導研究所で無理矢理働かされていたらしいです」


「このジジイが? ……何の役にも立ちそうにないが」


「なんじゃとこの腐れ騎士風情が!!」


「ちょ、お爺さん。今は黙ってて……!!

 ええとですね、この方は記憶喪失らしくて、自分の名前も分からないみたいなんです。ですけど、どうも王都にゆかりのある人物らしく、このまま王都へ連れていこうかと思いまして……」


 アルフォンス団長は僕の説明を一通り聞いてから言った。


「……怪しいな、大丈夫なのか?

 また闘技大会の時みたいに魔物が人間に化けてるんじゃ……」


「いえ、レベッカによると、この老人は人間で間違いないみたいです」


 団長は甲板で女の子座りして水を飲んでいたレベッカに視線を移す。

 視線に気づいたレベッカは、団長の方を向いて言った。


「間違いございません」

 レベッカは表情を変えずに淡々と話す。


 その様子に、団長は頬を手で掻きながら言った。


「……まぁ、お前が言うなら間違いないか」


「ありがとうございます、アルフォンス様」


 団長の言葉を聞いて、レベッカは礼を言う。

 そして団長は僕達に向き直り、真面目な顔に切り替えて言った。


「で、お前ら、首尾はどうだった?」


「完璧です!」


「問題ありませんよ。魔法の弾は全部設置してきましたから」


「難易度高かったけどね~」


 団長の質問にサクラちゃん、エミリア、姉さんが順番に答える。

 団長はそれを聞いて表情を緩める。


「そうか、という事は無事任務完了だな」


 団長がそう言葉を締めると、僕が静止して言葉を止めていた老人はアルフォンス団長を睨み付け、その後僕の方を向いて言った。


「全く、ワシのどこが魔物に見えるんじゃ……。

 ……ところで、お主らは何故あの基地におったのじゃ?

 今しがた、そこの腐れ騎士が『任務完了』とかほざいておったが」


「誰が腐れ騎士だ、ジジイ」


「ふん、事実じゃろうが」


 老人と団長はお互いに悪態をつく。

 また僕が割って入ろうとしたところで別の人物が、こちらに歩いてきた。

 それは、通信魔法で僕達がやり取りしていたウィンドさんだった。


「あ、師匠」

 サクラちゃんが僕より早く反応して、ウィンドさんに言った。


「サクラ、それに皆さん。

 無事やり遂げることが出来たみたいですね、ご苦労様でした」


「お疲れ様です」

 任務を終えたことに安堵しているのか、彼女の表情は普段より柔らかい。

 いつもは何を考えているか分からないだけに、今は普通の美少女に見える。


「な、なんじゃ……この、見た目は若いのに、妖艶な雰囲気のするおなごは……」


 老人はウィンドさんを見てなんか言ってる。


「……言われてますよ」

「……聞かなかったことにします。

 それよりも、魔法の弾の爆破処置を始めるのでエミリアさん、手伝ってください」


「あ、私?」

 エミリアは気の抜けた声で、自分を指差しながら話す。


「ええ、魔法の扱いなら貴女が一番上手なので、お願いしたいのですが……」


「分かりました」

「では、行きましょうか」


 二人は甲板から降りていき、船内へと入って行った。

 二人の背中を見送った後、老人が僕達に話しかけてきた。


「……あの緑のおなご、今爆破処理とか言っておったの?」


「うん、言った」

「ああ、言ったな」

「うふふ、言ってたわね」

「仰っておりましたね」

「師匠、言ってましたねー」


「……皆、息ぴったりじゃのぅ……で、一体どういうことなんじゃ?」


「簡単に言えば、今までお爺さんが住んでた基地が木っ端微塵に吹き飛びます」


「……ん?」


 僕の言葉をすぐに呑み込めなかったのか、

 老人はしばらく考え込んでいたが、三十秒ほど経過してから、


「……………はぁ!?」と老人は大声で驚愕した。


「……反応遅いな、このジジイ」


「いや、だから、さっきまで僕達がいた場所が吹っ飛ぶんですよ」


「なんと……!! わ、ワシが二十年あまり幽閉されていた場所が消えてなくなるという事か!?」


「えっと、まぁ……」


 不味い、すっごいショック受けてる。

 ショック受けすぎて心臓止まったりしないか心配だ。


「ど、どういうことなんじゃ? 何故お主らはそんな非道なことを……!!」


「おいおい、ジジイ。相手は魔物の基地だぞ。しかも怪しい魔道具で魔物を人工的に製造してるって噂だし、そんなもん破壊するに決まってるじゃねーか」


「なっ……!!」

 団長の言葉に絶句する老人。


「し、しかし……!!」

 老人は団長に反論しようとするのだが……。


「……あ、みんな、見て!!」


 姉さんが何かに気付いたのか、さっきまで僕達がいた孤島の方角を指差す。

 船が出てから十分以上経過しており、孤島から距離が離れて小さくなっていた。


 しかし、その孤島の様子がおかしい。

 具体的には孤島の下にある海が光り輝いている。


「……ん? あれは、何が起きたんじゃ?」


「あ……皆様、耳を塞いだ方がよろしいかと存じます!」


 レベッカが忠告してくれる。

 僕達はレベッカの言う通りに耳を塞いだ。


 同様に、甲板に出ていた船員や騎士団の皆も耳を塞ぎその場でしゃがみ込む。


 直後、ドーンッ! という音が鳴り響き、一瞬遅れて衝撃波が来た。


 僕達がいる船の甲板もビリビリと振動する。


 そして、次の瞬間―――。


 今まで僕達がいた孤島がガラガラと物凄い音を立てて崩れていく。

 更に、その下の海からも水柱が上がり、津波となって孤島を飲み込んでいった。


「な、なんという……!!」

 老人はヘナヘナと腰を落として、その場に座り込んだ。


「おい、ジジイ、大丈夫か!?」

 団長は、老人の傍まで歩いていき、老人の肩に手を置いた。


「あ、ああ……」


「……こりゃあ駄目だな、随分ショック受けて足腰立たなくなってやがる。流石に、老人に今のは刺激が強すぎたみてぇだな」


 団長はそう言いながら、老人を無理矢理立たせてから自分の背中に背負った。


「お前ら、俺様はこのジジイを医務室に連れて行くぜ」


「お願いします」


「あとの事は俺ら自由騎士団に任せとけばいい。

 明日になれば港に戻れるはずだから、お前らももう休んで良いぜ」


「分かりました」


「お疲れ様ー、団長」


 僕とサクラちゃんは団長に返事をして、団長の後ろ姿を見送る。

 その後、クタクタになっていたため団長の言う通り、個室で休むことにした。

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